2 / 9
2話 母の思い出
しおりを挟む
2話 母の思い出
わたくし、フェアリーデ・ロックスフォード。旧姓フェアリーデ・アーランドはこのランディオール王国の北部。雪深いサーシェルという都市の貧乏貴族の三女として生まれました。
茶色くふわふわと癖のある髪と同じ色の瞳と垂れた耳。童顔で背が小さく子どもっぽい見た目以外は平凡な容姿。しかしそれを不満に思ったことはありませんでした。
姉弟は全部で五人。姉、姉、私、妹、そしてやっと生まれた男の子である弟。兎の獣人である両親。私たち兎の姉弟は毎日の食べるものにも苦労するような家でなんとか暮らしていたのです。
代々受け継いできた家は大きいだけで、すきま風が吹き込むボロ屋敷。冬になると室内でも息が白くなるほどで、姉弟で毛布にくるまって冬を越しました。
姉2人は同じ都市の貴族に嫁ぎ、彼女たちの仕送りと小さな領地の作物でなんとか生活をしていました。
それが起こったのは例年よりも雪の多い冬の朝。
地鳴りのような轟音とともに、地面の揺れる感覚。のちにサーシェルの大雪崩と呼ばれる災害が起きたとき、私は18歳になったばかりでした。
* * *
「リーデ!聞いた?!王子様がサーシェルに視察にいらっしゃるんだって!」
同じような貧乏貴族で仲の良い友人のサリーは可愛らしい猫耳をピコピコ動かしながらやってきました。屋敷の裏山で山菜を探していた私はその声に腰を伸ばしました。
「王子様って、アーカス様がいらっしゃるってこと?」
ランディオール王国の第一王子であるアーカス様は、次期国王としてその手腕を発揮し様々な事業に力を入れています。災害支援もそのひとつ。
「雪崩の支援のためにわざわざ王子様がいらっしゃるなんて優しいわよね!」
会ったこともない王子を想像してサリーは頬を赤らめていました。
私は正直それどころではありません。このままではいつ食べる物がなくなってもおかしくない状況だったのです。
昨年の冬に起こった大雪崩はサーシェルの都市部からは離れていましたが、都市の重要な畑や領地を飲み込んでいきました。その中には私たちの家の領土も含まれていて、春になった今も畑には種が植えられず作物が育たないままです。
このままでは今年の冬を越すことができません。まだ幼い妹と弟のためになんとかしなければ。
「リーデ、聞いてる?いいよねぇ、もう婚約者が決まってる人は。」
「まだ決まったわけじゃないよ。縁談がきてるってだけ。」
サーシェルの有力貴族であるカザック家からの縁談が来たのはつい先日のこと。カザック家の次男デュークとは幼い頃から知り合いです。犬の獣人である彼はその家名を振りかざし、弱い者いじめを繰り返している嫌な男でした。
正直まったく好きではありません。むしろ大嫌いです。しかし、なぜか向こうからは好かれているらしく、いつもちょっかいをかけられます。
私が18歳になってすぐ、そのデュークとの縁談が持ち上がりました。
両親は良縁だと喜んでいました。幼い妹と弟のためにも、この縁談は必要なもの。カザック家に嫁げば実家に仕送りをすることができるし、この冬の心配もなくなるでしょう。
分かってはいても、素直に喜ぶことはできませんでした。
「まぁあのデュークが相手じゃ喜べないよね。」
好きになった人と結婚したいなんて、子どものようなことを言うつもりはありません。両親のため、私たちのために嫁いでいった姉たちを見ていれば自分のやるべきことはよく分かっています。
しかしデュークの悪行を知らない人はいません。私は町の人から向けられる憐れみの視線が堪らなく嫌でした。
「しばらくは結婚なんてできないよ。持参金もないし、できるだけ引き延ばすつもり。」
貴族との結婚の場合、嫁ぐ側は持参金を持って相手の家に入ります。我が家にはもちろんそんなお金はありません。今のところ借りる先も決まっていないはずです。
「それもそっか。カザックってケチで有名だもんねぇ。」
大貴族にも関わらず、カザックは倹約家で有名。婚姻のための持参金を安くしてくれるとは思えません。
「今はそのおかげで助かったわ。ギリギリまで引き延ばしてやる。」
憂鬱な気持ちを吹き飛ばすように、友人と声をあげて笑いました。
わたくし、フェアリーデ・ロックスフォード。旧姓フェアリーデ・アーランドはこのランディオール王国の北部。雪深いサーシェルという都市の貧乏貴族の三女として生まれました。
茶色くふわふわと癖のある髪と同じ色の瞳と垂れた耳。童顔で背が小さく子どもっぽい見た目以外は平凡な容姿。しかしそれを不満に思ったことはありませんでした。
姉弟は全部で五人。姉、姉、私、妹、そしてやっと生まれた男の子である弟。兎の獣人である両親。私たち兎の姉弟は毎日の食べるものにも苦労するような家でなんとか暮らしていたのです。
代々受け継いできた家は大きいだけで、すきま風が吹き込むボロ屋敷。冬になると室内でも息が白くなるほどで、姉弟で毛布にくるまって冬を越しました。
姉2人は同じ都市の貴族に嫁ぎ、彼女たちの仕送りと小さな領地の作物でなんとか生活をしていました。
それが起こったのは例年よりも雪の多い冬の朝。
地鳴りのような轟音とともに、地面の揺れる感覚。のちにサーシェルの大雪崩と呼ばれる災害が起きたとき、私は18歳になったばかりでした。
* * *
「リーデ!聞いた?!王子様がサーシェルに視察にいらっしゃるんだって!」
同じような貧乏貴族で仲の良い友人のサリーは可愛らしい猫耳をピコピコ動かしながらやってきました。屋敷の裏山で山菜を探していた私はその声に腰を伸ばしました。
「王子様って、アーカス様がいらっしゃるってこと?」
ランディオール王国の第一王子であるアーカス様は、次期国王としてその手腕を発揮し様々な事業に力を入れています。災害支援もそのひとつ。
「雪崩の支援のためにわざわざ王子様がいらっしゃるなんて優しいわよね!」
会ったこともない王子を想像してサリーは頬を赤らめていました。
私は正直それどころではありません。このままではいつ食べる物がなくなってもおかしくない状況だったのです。
昨年の冬に起こった大雪崩はサーシェルの都市部からは離れていましたが、都市の重要な畑や領地を飲み込んでいきました。その中には私たちの家の領土も含まれていて、春になった今も畑には種が植えられず作物が育たないままです。
このままでは今年の冬を越すことができません。まだ幼い妹と弟のためになんとかしなければ。
「リーデ、聞いてる?いいよねぇ、もう婚約者が決まってる人は。」
「まだ決まったわけじゃないよ。縁談がきてるってだけ。」
サーシェルの有力貴族であるカザック家からの縁談が来たのはつい先日のこと。カザック家の次男デュークとは幼い頃から知り合いです。犬の獣人である彼はその家名を振りかざし、弱い者いじめを繰り返している嫌な男でした。
正直まったく好きではありません。むしろ大嫌いです。しかし、なぜか向こうからは好かれているらしく、いつもちょっかいをかけられます。
私が18歳になってすぐ、そのデュークとの縁談が持ち上がりました。
両親は良縁だと喜んでいました。幼い妹と弟のためにも、この縁談は必要なもの。カザック家に嫁げば実家に仕送りをすることができるし、この冬の心配もなくなるでしょう。
分かってはいても、素直に喜ぶことはできませんでした。
「まぁあのデュークが相手じゃ喜べないよね。」
好きになった人と結婚したいなんて、子どものようなことを言うつもりはありません。両親のため、私たちのために嫁いでいった姉たちを見ていれば自分のやるべきことはよく分かっています。
しかしデュークの悪行を知らない人はいません。私は町の人から向けられる憐れみの視線が堪らなく嫌でした。
「しばらくは結婚なんてできないよ。持参金もないし、できるだけ引き延ばすつもり。」
貴族との結婚の場合、嫁ぐ側は持参金を持って相手の家に入ります。我が家にはもちろんそんなお金はありません。今のところ借りる先も決まっていないはずです。
「それもそっか。カザックってケチで有名だもんねぇ。」
大貴族にも関わらず、カザックは倹約家で有名。婚姻のための持参金を安くしてくれるとは思えません。
「今はそのおかげで助かったわ。ギリギリまで引き延ばしてやる。」
憂鬱な気持ちを吹き飛ばすように、友人と声をあげて笑いました。
2
あなたにおすすめの小説
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
番が逃げました、ただ今修羅場中〜羊獣人リノの執着と婚約破壊劇〜
く〜いっ
恋愛
「私の本当の番は、 君だ!」 今まさに、 結婚式が始まろうとしていた
静まり返った会場に響くフォン・ガラッド・ミナ公爵令息の宣言。
壇上から真っ直ぐ指差す先にいたのは、わたくしの義弟リノ。
「わたくし、結婚式の直前で振られたの?」
番の勘違いから始まった甘く狂気が混じる物語り。でもギャグ強め。
狼獣人の令嬢クラリーチェは、幼い頃に家族から捨てられた羊獣人の
少年リノを弟として家に連れ帰る。
天然でツンデレなクラリーチェと、こじらせヤンデレなリノ。
夢見がち勘違い男のガラッド(当て馬)が主な登場人物。
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる