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5話〜ハデス〜
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5話~ハデス~
目が覚めたとき、俺はなぜか裸で寝ていた。部屋には誰もいない。
二日酔いなどいつ以来だろう。頭がズキズキと痛む。あまりにも嬉しくてつい飲みすぎてしまった。
今日は愛しい彼女との結婚式。喜ばずにはいられない。
鏡に映るのはひどく顔色の悪い朝黒い顔と目つきの悪い黒い瞳。黒い髪はあちこち跳ねていて、整えるのが大変だ。
『ふふふ、また寝癖がついていますわ。』
そう言って笑いながら俺の髪を直してくれる彼女。明日からは毎日彼女になおしてもらおう。
痛む頭を押さえながら、なんとか身支度を整えた。部屋のドアを開けた瞬間、部下たちの大きな声が響いていた。
「そちらにいらっしゃるか?」
「いいえ、おりません!」
「…あぁ一体どこへ?」
バタバタと走る足音さえ頭にズキズキと刺さる。
「おい!一体何事だ?」
俺の姿に気づいた部下たちが何故かひどく冷たい視線を向けてくる。一番近くにいたリザードマンに問いかけた。
「おい?聞こえないのか?」
赤い鱗のリザードマンは何故か俺と目も合わせない。
「…メ…メリンダ様が…、」
「!?メリンダに何かあったのか?」
周りの部下たちはとても冷ややかにこちらの様子をうかがっている。
「…ハデス様…なにも覚えておられないのですか?」
「…?一体何の話をしている?」
そのとき、バタバタと走る音が聞こえてきた。
「手紙が…!置き手紙がございました!」
メリンダの侍女を任せていたエルフだ。その手に一通の手紙を握りしめている。
「…ハデス様!」
「一体何の騒ぎだ?その手紙は?」
侍女から手紙を受け取ると、そこには愛しい彼女の文字でハデスへと書かれている。
『ハデスへ
こんな裏切りってないわ。ずっと貴方を信じていたのに。今までの言葉は嘘だったの?私のことを世界で一番愛していると言ってくれたのに。
結婚式はできません。いまの貴方と結婚するなんて無理だわ。
探さないでください。メリンダ』
裏切り?嘘?一体なんの話だ?それよりも彼女の言葉。
結婚式はできない。結婚なんて無理。
どうして?あんなに嬉しいと笑ってくれたじゃないか?今日のために沢山準備してきたのに!
「なんなんだこれは?!メリンダはどこにいる?」
俺の問いに誰も答えない。さっきから一体なんなんだ?
「答えろ!メリンダはどこだ!」
さっき走ってきた侍女が恐る恐る口を開いた。
「メリンダ様は…いらっしゃいません。どこにも。城中を探しましたが、見つからないのです。」
「なんだと?!」
しかし、驚く俺への視線はひどくよそよそしい。まるでメリンダがいないのが当然のことのように。
「お前らさっきから一体なんなんだ?言いたいことがあるならハッキリ言え!」
すると部下たちが俺を取り囲み。口々に声をあげた。
「ハデス様!?覚えていらっしゃらないのですか?」
「メリンダ様のお気持ちを考えたら…。」
「なんであんなことしたのですか!?」
部下たちの勢いに押され圧倒された。
「なんなんだ?何を言っているのかサッパリ分からない。」
その瞬間、部下たちが言葉を失った。
「まさか…そんな?本当に覚えていないのですか?」
「だから、そう言っているだろう!」
ヒソヒソと話し始める部下たち。さらに冷たい視線が突き刺さる。
昨日のことを思い出そうとしても、頭痛が邪魔をしてまったく思い出せない。
「ハッキリ言ってくれ!俺は何をしたんだ?」
静寂。部下たちは誰か話すのか話し合い始める。
「では、私が申し上げましょう。」
メリンダの侍女が一歩前に出た。
「ハデス様は昨夜大量のお酒を飲まれ、ご自分の部屋に戻られました。その後メリンダ様が様子を見に部屋にいらっしゃったのは覚えていらっしゃいますか?」
まったく覚えていない。わざわざ彼女は心配してくれたのか。やはり彼女は優しい。
「その際、私も一緒にこちらのお部屋まで参りました。ノックしても返事がないため、メリンダ様が部屋を覗き込みますと………。」
侍女はそこで言い淀んだ。
「なんだ?それでどうした?」
「ハデス様は…裸で女性と寝ておられました。」
・・・・・・・・!?
「メリンダ様は泣きながら部屋に戻られ、朝になった時にはどこにもいらっしゃいませんでした。それでその手紙を見つけた次第でございます。」
まて、ちょっと待ってくれ。
女と寝ていた?俺が?裸で?それではまるで俺が浮気をしてるみたいじゃないか?
「部屋には…誰も居なかったが……。」
「私もたしかにこの目で見ました。」
すると次々と声が上がる。
「僕も見ました。ハデス様が女性とお部屋に入っていくのを!」
「派手なピンクの髪の女でした!」
「メリンダ様が可哀想……。」
俺は一体なにをしたんだ?考えても考えても頭痛がひどくなるだけ。
「メリンダ…?メリンダは…。」
彼女からの手紙を読み直す。裏切り、嘘、結婚できないという拒絶の言葉。
待ってくれ。俺はずっと、ずっとこの日を待っていたんだ。彼女と結ばれるこの日を。彼女に触れられる今日を。
「彼女が生まれたときから、ずっと待っていたんだ。」
目が覚めたとき、俺はなぜか裸で寝ていた。部屋には誰もいない。
二日酔いなどいつ以来だろう。頭がズキズキと痛む。あまりにも嬉しくてつい飲みすぎてしまった。
今日は愛しい彼女との結婚式。喜ばずにはいられない。
鏡に映るのはひどく顔色の悪い朝黒い顔と目つきの悪い黒い瞳。黒い髪はあちこち跳ねていて、整えるのが大変だ。
『ふふふ、また寝癖がついていますわ。』
そう言って笑いながら俺の髪を直してくれる彼女。明日からは毎日彼女になおしてもらおう。
痛む頭を押さえながら、なんとか身支度を整えた。部屋のドアを開けた瞬間、部下たちの大きな声が響いていた。
「そちらにいらっしゃるか?」
「いいえ、おりません!」
「…あぁ一体どこへ?」
バタバタと走る足音さえ頭にズキズキと刺さる。
「おい!一体何事だ?」
俺の姿に気づいた部下たちが何故かひどく冷たい視線を向けてくる。一番近くにいたリザードマンに問いかけた。
「おい?聞こえないのか?」
赤い鱗のリザードマンは何故か俺と目も合わせない。
「…メ…メリンダ様が…、」
「!?メリンダに何かあったのか?」
周りの部下たちはとても冷ややかにこちらの様子をうかがっている。
「…ハデス様…なにも覚えておられないのですか?」
「…?一体何の話をしている?」
そのとき、バタバタと走る音が聞こえてきた。
「手紙が…!置き手紙がございました!」
メリンダの侍女を任せていたエルフだ。その手に一通の手紙を握りしめている。
「…ハデス様!」
「一体何の騒ぎだ?その手紙は?」
侍女から手紙を受け取ると、そこには愛しい彼女の文字でハデスへと書かれている。
『ハデスへ
こんな裏切りってないわ。ずっと貴方を信じていたのに。今までの言葉は嘘だったの?私のことを世界で一番愛していると言ってくれたのに。
結婚式はできません。いまの貴方と結婚するなんて無理だわ。
探さないでください。メリンダ』
裏切り?嘘?一体なんの話だ?それよりも彼女の言葉。
結婚式はできない。結婚なんて無理。
どうして?あんなに嬉しいと笑ってくれたじゃないか?今日のために沢山準備してきたのに!
「なんなんだこれは?!メリンダはどこにいる?」
俺の問いに誰も答えない。さっきから一体なんなんだ?
「答えろ!メリンダはどこだ!」
さっき走ってきた侍女が恐る恐る口を開いた。
「メリンダ様は…いらっしゃいません。どこにも。城中を探しましたが、見つからないのです。」
「なんだと?!」
しかし、驚く俺への視線はひどくよそよそしい。まるでメリンダがいないのが当然のことのように。
「お前らさっきから一体なんなんだ?言いたいことがあるならハッキリ言え!」
すると部下たちが俺を取り囲み。口々に声をあげた。
「ハデス様!?覚えていらっしゃらないのですか?」
「メリンダ様のお気持ちを考えたら…。」
「なんであんなことしたのですか!?」
部下たちの勢いに押され圧倒された。
「なんなんだ?何を言っているのかサッパリ分からない。」
その瞬間、部下たちが言葉を失った。
「まさか…そんな?本当に覚えていないのですか?」
「だから、そう言っているだろう!」
ヒソヒソと話し始める部下たち。さらに冷たい視線が突き刺さる。
昨日のことを思い出そうとしても、頭痛が邪魔をしてまったく思い出せない。
「ハッキリ言ってくれ!俺は何をしたんだ?」
静寂。部下たちは誰か話すのか話し合い始める。
「では、私が申し上げましょう。」
メリンダの侍女が一歩前に出た。
「ハデス様は昨夜大量のお酒を飲まれ、ご自分の部屋に戻られました。その後メリンダ様が様子を見に部屋にいらっしゃったのは覚えていらっしゃいますか?」
まったく覚えていない。わざわざ彼女は心配してくれたのか。やはり彼女は優しい。
「その際、私も一緒にこちらのお部屋まで参りました。ノックしても返事がないため、メリンダ様が部屋を覗き込みますと………。」
侍女はそこで言い淀んだ。
「なんだ?それでどうした?」
「ハデス様は…裸で女性と寝ておられました。」
・・・・・・・・!?
「メリンダ様は泣きながら部屋に戻られ、朝になった時にはどこにもいらっしゃいませんでした。それでその手紙を見つけた次第でございます。」
まて、ちょっと待ってくれ。
女と寝ていた?俺が?裸で?それではまるで俺が浮気をしてるみたいじゃないか?
「部屋には…誰も居なかったが……。」
「私もたしかにこの目で見ました。」
すると次々と声が上がる。
「僕も見ました。ハデス様が女性とお部屋に入っていくのを!」
「派手なピンクの髪の女でした!」
「メリンダ様が可哀想……。」
俺は一体なにをしたんだ?考えても考えても頭痛がひどくなるだけ。
「メリンダ…?メリンダは…。」
彼女からの手紙を読み直す。裏切り、嘘、結婚できないという拒絶の言葉。
待ってくれ。俺はずっと、ずっとこの日を待っていたんだ。彼女と結ばれるこの日を。彼女に触れられる今日を。
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