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8話
バーランシー王国。この世界で最大の領土を誇り、300年もの間続く平和な時代を築き上げた大国。聖女メリンダと魔王ハデスの伝説が生まれた国として、他国からも一目置かれていることは間違いない。
「まぁ♡メリンダちゃん、本当に帰ってきたのねぇ♡会いたかったわぁ!!」
王城の謁見の間。見上げるほどの天井の高さ。大広間にいるのは僕とメリンダ、そして国王のみ。
その大国の国王が目の前で語尾にハートマークを付けながら話し始めた。
「お久しぶりですわ。国王陛下、いまはそのお姿なのですね。」
ダリオ・バーランシー。18歳という若さで王位を継ぎ、その素晴らしい手腕と頭脳で国をまとめあげる賢王。茶色の髪をオールバックにし、鋭い視線で家臣たちを威圧する。
死んだ父と同い年だったはずだから、今年で45歳か?
言わずとも分かると思うが、性別は男だ。
「そ~なのよぉ、こんなゴリゴリのおじさんでごめんなさいねぇ♡」
僕は何度か陛下に謁見したことがある。その時はもちろんこんな方ではなかった。威厳ある素晴らしい方だった…はずだ。
「あっ、イーサン君はこのことは秘密にしといてね?」
バチンとウィンクが飛んできた。笑顔が引きつる。
「メリンダ…?これは一体…?」
「さっきイーサンが言ってたじゃないの。国王陛下には噂があるのではなくて?」
バーランシー王家にはいつの時代も囁かれる噂がある。国王は体を乗り換え、永遠に生き続けている。そのために生贄を捧げているらしい。
「生贄なんて必要ないわよぉ。大事なのは魂だけ♡」
「私の時代は女王陛下だったから大丈夫でしたけど、その見た目は違和感がありますわね。」
噂は本当だと言うのか?国王はずっと体を乗り換え、永遠にこの国を統治し続けている?
「聞いたわぁ。魔王様と喧嘩したってぇ。」
「喧嘩じゃありませんわ。もうあんな方知りませんの。」
玉座に頬杖をつき、国王陛下は脚を組み替えた。その完璧な女性の仕草に戸惑いを隠せない。
「そのことでちょっと心配な話があってねぇ。だから今日ここに来てもらったってわけよぉ。」
ダリオ陛下の言葉にメリンダは首を傾げる。
「一体なんの話ですの?」
「私達のなかに二人の結婚をよく思っていない者がいるみたいなのよ。もしかしたら、浮気に見せかけて邪魔してるのかもしれないわ。」
人間の中に、裏切り者がいる?わざわざメリンダと魔王の仲を引き裂いてまで一体何がしたいというんだ?
「そんなこと知りませんわ。ハデスが女の子と寝てたのは事実ですもの。」
「ふふふ♡メリンダは魔王様が大好きなのね?」
陛下の言葉に顔を真っ赤にして頬を膨らませるメリンダ。
「人間と魔族はもう戦争をしていたことも忘れるくらい長い間ともに暮らしてきたわ。いまさら戦争だなんて馬鹿げたこと絶対させない。
でも聖女と魔王が破局したとなれば国民に与える影響は大きいわ。不安に思う者も出てくるでしょう。」
ふいに真顔になった国王は僕が知る威厳溢れる賢王だ。
「もうちょっと魔王様を信じてあげなさいな。素直にならないと後悔するかもしれないわよ?」
陛下の言葉が本当なら魔王ハデスは濡れ衣を着せられたことになる。浮気をでっち上げられる魔王というのも間抜けだが…本当に浮気をしているよりはずっとマシだ。
「人間の中に裏切り者がいるとして、そんなことをするメリットはあるのですか?」
僕は素朴に疑問だった。また戦争になるかもしれないのに、そこまでして得たいものとは何だ?
「正直…私もよく分からないのよねぇ。ひとつ言えるとすれば、今だに魔族と一緒に生きる世界を良く思ってない人間がいるってことかしら。」
なんと時代遅れな。我々の世界に魔族たちは欠かせない存在になっている。
「魔族の方々は我々人間と変わらない生活をしていますわ。魔界に行って、暮らしてみてよく分かりました。戦争なんて絶対させません。」
力強く語るメリンダは美しい聖女の顔をしていた。
「だったら、早く仲直りしなさいな。夫婦喧嘩は犬も食わないって言うじゃないの!」
そこで初めてメリンダと魔王の状況を説明した。今だに結婚すらしていないという事態に国王陛下は目を見開いた。
「はぁ!?300年の間何してたのよ?!さっさとしなさいよ!もぉ、奥手なの?二人揃って奥手なわけ?」
陛下の言葉にメリンダはまた顔を真っ赤にして俯いた。
* * *
「何故だ!なぜ見つからない?」
魔王城に響き渡る大きな声。魔王ハデスは苛立っていた。
「ピンクの髪の女など、そうそう多くいるわけではないだろう!なぜ見つからないんだ!」
俺の隣で寝ていたというピンクの髪の女。俺の無実を証明するには、その女を見つけるしかない。
しかし、城の周辺はおろか魔界中を探させても見つからないとはどういうことだ?
「必ず見つけてやる。」
諦めるものか。
メリンダの涙を思い出すだけで胸が締め付けられる。彼女を失ったら…そう考えただけでどうにかなりそうだ。
「もういい、見つからないなら俺が探しに行く。」
魔王ハデスは大きな翼を広げ、城を飛び立った。
バーランシー王国。この世界で最大の領土を誇り、300年もの間続く平和な時代を築き上げた大国。聖女メリンダと魔王ハデスの伝説が生まれた国として、他国からも一目置かれていることは間違いない。
「まぁ♡メリンダちゃん、本当に帰ってきたのねぇ♡会いたかったわぁ!!」
王城の謁見の間。見上げるほどの天井の高さ。大広間にいるのは僕とメリンダ、そして国王のみ。
その大国の国王が目の前で語尾にハートマークを付けながら話し始めた。
「お久しぶりですわ。国王陛下、いまはそのお姿なのですね。」
ダリオ・バーランシー。18歳という若さで王位を継ぎ、その素晴らしい手腕と頭脳で国をまとめあげる賢王。茶色の髪をオールバックにし、鋭い視線で家臣たちを威圧する。
死んだ父と同い年だったはずだから、今年で45歳か?
言わずとも分かると思うが、性別は男だ。
「そ~なのよぉ、こんなゴリゴリのおじさんでごめんなさいねぇ♡」
僕は何度か陛下に謁見したことがある。その時はもちろんこんな方ではなかった。威厳ある素晴らしい方だった…はずだ。
「あっ、イーサン君はこのことは秘密にしといてね?」
バチンとウィンクが飛んできた。笑顔が引きつる。
「メリンダ…?これは一体…?」
「さっきイーサンが言ってたじゃないの。国王陛下には噂があるのではなくて?」
バーランシー王家にはいつの時代も囁かれる噂がある。国王は体を乗り換え、永遠に生き続けている。そのために生贄を捧げているらしい。
「生贄なんて必要ないわよぉ。大事なのは魂だけ♡」
「私の時代は女王陛下だったから大丈夫でしたけど、その見た目は違和感がありますわね。」
噂は本当だと言うのか?国王はずっと体を乗り換え、永遠にこの国を統治し続けている?
「聞いたわぁ。魔王様と喧嘩したってぇ。」
「喧嘩じゃありませんわ。もうあんな方知りませんの。」
玉座に頬杖をつき、国王陛下は脚を組み替えた。その完璧な女性の仕草に戸惑いを隠せない。
「そのことでちょっと心配な話があってねぇ。だから今日ここに来てもらったってわけよぉ。」
ダリオ陛下の言葉にメリンダは首を傾げる。
「一体なんの話ですの?」
「私達のなかに二人の結婚をよく思っていない者がいるみたいなのよ。もしかしたら、浮気に見せかけて邪魔してるのかもしれないわ。」
人間の中に、裏切り者がいる?わざわざメリンダと魔王の仲を引き裂いてまで一体何がしたいというんだ?
「そんなこと知りませんわ。ハデスが女の子と寝てたのは事実ですもの。」
「ふふふ♡メリンダは魔王様が大好きなのね?」
陛下の言葉に顔を真っ赤にして頬を膨らませるメリンダ。
「人間と魔族はもう戦争をしていたことも忘れるくらい長い間ともに暮らしてきたわ。いまさら戦争だなんて馬鹿げたこと絶対させない。
でも聖女と魔王が破局したとなれば国民に与える影響は大きいわ。不安に思う者も出てくるでしょう。」
ふいに真顔になった国王は僕が知る威厳溢れる賢王だ。
「もうちょっと魔王様を信じてあげなさいな。素直にならないと後悔するかもしれないわよ?」
陛下の言葉が本当なら魔王ハデスは濡れ衣を着せられたことになる。浮気をでっち上げられる魔王というのも間抜けだが…本当に浮気をしているよりはずっとマシだ。
「人間の中に裏切り者がいるとして、そんなことをするメリットはあるのですか?」
僕は素朴に疑問だった。また戦争になるかもしれないのに、そこまでして得たいものとは何だ?
「正直…私もよく分からないのよねぇ。ひとつ言えるとすれば、今だに魔族と一緒に生きる世界を良く思ってない人間がいるってことかしら。」
なんと時代遅れな。我々の世界に魔族たちは欠かせない存在になっている。
「魔族の方々は我々人間と変わらない生活をしていますわ。魔界に行って、暮らしてみてよく分かりました。戦争なんて絶対させません。」
力強く語るメリンダは美しい聖女の顔をしていた。
「だったら、早く仲直りしなさいな。夫婦喧嘩は犬も食わないって言うじゃないの!」
そこで初めてメリンダと魔王の状況を説明した。今だに結婚すらしていないという事態に国王陛下は目を見開いた。
「はぁ!?300年の間何してたのよ?!さっさとしなさいよ!もぉ、奥手なの?二人揃って奥手なわけ?」
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* * *
「何故だ!なぜ見つからない?」
魔王城に響き渡る大きな声。魔王ハデスは苛立っていた。
「ピンクの髪の女など、そうそう多くいるわけではないだろう!なぜ見つからないんだ!」
俺の隣で寝ていたというピンクの髪の女。俺の無実を証明するには、その女を見つけるしかない。
しかし、城の周辺はおろか魔界中を探させても見つからないとはどういうことだ?
「必ず見つけてやる。」
諦めるものか。
メリンダの涙を思い出すだけで胸が締め付けられる。彼女を失ったら…そう考えただけでどうにかなりそうだ。
「もういい、見つからないなら俺が探しに行く。」
魔王ハデスは大きな翼を広げ、城を飛び立った。
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