父に連れられて遥々海を渡った私は、異母姉に不幸をもたらした元凶だったようです

奏千歌

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ステラⅠ

3 なにもわかってはいませんでした

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「おい、起きろ」

「こんなところで寝て、なんて下品なの。育ちが知れるわ」

 脇腹の痛みに驚いて、目を覚ましました。

 一緒にいてくれる大人がいなかったので、あれからどうしたらいいか分からず、気付けば扉に寄りかかって寝ていたのです。

「こんな見窄らしいガキ、旦那様はどうして連れて帰ってきたりしたんだ」

「見ろ、この薄気味悪い肌の色を」

「人間がこんな黒く生まれてくるものなんだな」

「本当に旦那様の子かしら。魔物とまぐわったのじゃない?穢らわしい」

 何を話しているのか、クスクスと笑い声が聞こえてきて、でも、私を取り囲む大人達はとても怖い顔をしていました。

 男性も女性も、とても怖い顔で私を見下ろしていました。

「こっちに来い」

 男の人に急に乱暴に髪を掴まれ、たまらず悲鳴をあげてしまいました。

 突然の事に何の理解もできず、ただ怖くて、ガタガタと震えることしかできなくて、お父さまの姿を一生懸命に探しました。

「お父さま……お父さまは……」

「旦那様はエステル様のおそばを離れられない。お前ごときに構っていられない。邪魔だから、さっさと来い」

 また髪を引っ張られて、足をもつれさせながら立ち上がりました。

 自分よりもはるかに大きな男の人に睨まれ、周りにいる女の人たちも怖い顔を向けたまま、誰も助けてはくれません。

 引きずられるようにお屋敷の外に連れて行かれると、

「良いと言うまでここにいろ」

 ドンと突き飛ばされて入れられた部屋は、物置のような場所でした。

 小さな窓がひとつしかなくて、薄暗い場所です。

「まって、まって、ここはいや!!置いていかないで!!」

 ただでさえ、誰も知っている人がいない、知らない場所に来たばかりなのに、こんな所に閉じ込められる恐怖は言葉では表せませんでした。

 私が怖がる様子など気にもされずに、バンっと、殴りつけるように目の前で扉が閉められました。

 出してといくら扉を叩いても、それが開くことはありませんでした。

 すぐに日が暮れて、真っ暗闇になって、何も見えなくて、その暗闇から今にも怖い物が現れそうで、嫌だ嫌だとずっと泣いていました。

「ママ!!ママ!!」

 いくら泣いて叫んで、助けを求めても、お母さまが来てくれないのは当然のことでした。

 それでも、恐怖を紛らわせるように、“ママ”とずっと叫んでいました。

 幼い言葉は使わずに、常に丁寧な言葉遣いをと、お母さまの言いつけを守る事もできません。

 泣きながら膝を抱えて真っ暗な部屋で過ごすと、いつの間にか疲れて眠ってしまっていました。

 夜が明けたところで目が覚めたようで、少し明るくなった部屋のすみに、水の入ったコップが置かれているのと、パンが一つだけ転がっているのをみつけました。

 落ちた物を拾って食べてはダメだとお母さまに教えられていましたが、お腹がすいて我慢できずにそれを口にしていました。

 “シリル様に迷惑をかけるから、上品な振る舞いを心がける事”

 “誇りを穢してはならない”

 また、お母さまの教えを守る事ができませんでした。

 ごめんなさい、お母さま。

 シリルにぃ様に会いたい。

 涙が溢れて、ぽたりぽたりとこぼれ落ちていました。



 昨日から泣いてばかりで、涙をこぼしながらも少しだけ気持ちが落ち着いたところで明るくなった部屋の中を見ると、小さなベッドと、地面に掘った穴があるのを見つけました。

 ポッカリと空いた穴は真っ黒で底が見えず、それが怖くて視線を向けないようにしました。

 誰もいない一人の空間は、はじめての事で寂しくてたまりません。

 これ以上は、どんなに泣いても誰も来てくれない事は理解していました。

 これからどうなるのか、どうしたらいいのか。

 お父さまがいつか迎えにきてくれるのか。

 心細く、何もすることがない一人の部屋で、お母さまのキレイな魔法を思い浮かべていました。

 お母さまが操る燃え盛る炎は、頼もしくて、心強くて、まるでお母さまのようでした。

 私も同じものが出せないか、手の平に力をこめます。

 お母さまは簡単に魔法を使っていましたが、私はそうはいきません。

 そもそも、お母さまと同じように魔法が使えるのかもわからないからです。

 一生懸命に手の平に何かが出ないか集中させてみました。

 お母さまの顔を思い浮かべながら、ずっとずっと集中していました。

 誰も訪れず、他にする事もなかったからずっと集中できていましたが、さすがにお腹がすいて、疲れて、眠くなってきました。

 そんな頃でした。

 手の平が熱くなったように感じられると、その変化が前置きもなく訪れていました。

 手の平の上にパッと現れたのは、赤くてオレンジ色の炎ではなくて、黒い、影のようなものが、霧のように漂っていたのです。

 炎に見えなくもないですが、私のものは真っ黒いものでした。

 それに向かって“ママ”と話しかけても、もちろん返事はありません。

 私は、あっさりと魔法らしきものを使えるようになりましたが、この黒いモヤのようなものが、どんなものなのか、まだ分かりませんでした。






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