父に連れられて遥々海を渡った私は、異母姉に不幸をもたらした元凶だったようです

奏千歌

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ステラⅡ

9 雷が落ちてきました

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「おまえは!!何をしてるんだ!!何を考えてる!!自分をエサにしただろ!!!!」

 首根っこ掴まれて指揮所のテントに連れて行かれると、騎士の皆様が慌ただしく事後処理を行う中、叱られていました。

 落とされる雷に、小さくなるしかないです。

 騎士団の鬼隊長がここにいます。

「たいちょー、騎士団の勢いで魔法士団の子叱ったら可哀想だろ。その子が飛竜を一纏めにしてくれたからスムーズに討伐が進んだし、何よりあのブレスを完全に防げたのが、もう凄いことだろ?」

  副隊長さんが、私達の間に入ってくれました。

 この前、救護所で話しかけてくれたあの騎士さんですね。

 ディランさんはまだ何か言いたげでしたが、とりあえず飲み込んでくれたようです。

 副隊長さん、感謝。

「同じ事はもう二度とやるな」

 こくこくと頷いて答えました。

 ありがとうございます、ディランさん。

 心配してくださったのは理解しています。

 ただ、雷が怖いのです。

 怖すぎます。鬼の第三部隊長。

「あのブレス、どうやったんだ。俺には消えたようにしか見えなかった」

 語気を和らげたディランさんに尋ねられました。

 どうやったのかと、私もちょっとだけ考えて、

「多分、食べました」

 それが一番近い表現でした。

 あの時、自分の魔力として吸収されたような感覚を受けましたから。

「食べ……ああ、お前は、何でも美味そうに食べるからな。パンも肉もリンゴも、飴も」

 食い意地が張っていると言いたいのですか。

 意地悪く笑って言わなくてもと、今の今まで鬼の形相で怒鳴りつけていたのは誰なのかと、非難がましい目を向けてはみても、何一つ言い返すことはできませんでした。

 余計な事を言って、また怒られるのは嫌です。

「怪我は無いな?」

「はい」

「なら、いい」

 ディランさんが助けてくれたおかげですと、そう言いたかったのにお礼を言い損ねていました。

 まるでエステルお姉様を想う時のような優しげな顔で、私に笑いかけてきたからです。

 いつも怖い顔か、意地悪く笑った顔のどちらかだったのに。

 自分が言うべき言葉を発せられずにいると、

「隊長!町外れに不審な奴がいたって、今、数人が後を追っている」

 騎士の一人がテントに入ってきました。

 そこでまた、その場の空気が一気に緊張しました。

「お前はここにいろ」

 それを聞いたディランさんは、すぐに他の騎士さんと走って行きます。

 私も気になって、でも、騎士の方々の足にはついていけそうにないので、偵察用の鳥型使い魔をもう一度飛ばしました。

 鳥の視界は空から下を見下ろします。

 ディランさん達が走っていく方向。

 あれ?

 大きな影?

「だめ」

 思わず、ディランさん達が走って行った方向に叫んでいました。

「ディランさん!!そっちはダメ!!」

 姿はもう見えない。

 声も届かない、足も追いつけないけど、テントを飛び出して走っていました。

 間に合わない、間に合わない。

 待ち伏せ

 不意打ち

 あの時の光景が頭をよぎる。

 血まみれで倒れたディランさん。

 もう一度囮になろうかと、手に魔力を集めた時、木々の向こう側から凄まじい咆哮が聞こえ、耳を押さえて体を強張らせました。

 鳥の視界で確認すると、頭や尾を振り回し、暴れ回る大きな体躯の魔物の姿が見えました。

 大き過ぎて、私の影では縛れない。

 自分に何ができるのかと、でもその場へ急ぐと、私が目にしたのは大きな塊の前で、ディランさんや他の数人の騎士さんが血を拭って鞘に剣を収めるところでした。

 動かなくなった大きな塊は、翼が無いタイプの地龍と呼ばれる存在に形は似ていますが、聞いていたよりも小さいようには思えます。

 それでも、大きな物には変わりありませんが……

「はや……もう討伐してる……」

 自分の心配が無意味なものだとわかって安堵すると共に、呆気にとられていました。

 第三部隊の戦闘力を、今、やっと把握したようです。

「テントにいろと言ったろ?」

 私に気付いたディランさんが、“危ないから下がれ”と近付いてきました。

「偵察の鳥を飛ばしたら、暗い影が見えて、心配で」

「猫に鳥に、便利な代物だな」

 私がここに来た事を無意味にしない為にも、ひとつ気付いた事を伝えました。

「あの、ディランさん。空から見ると、地面に魔法陣が見えました。あの鳥が旋回している場所です」

 私の言葉に、すぐ様ディランさんも、周りの人達も動きました。

 鳥が旋回している場所まで、私も一緒に行きます。

 そこで、ディランさんの横に並んで目にしたのは……

「どこの言葉だ、これ」

 見た事もない文字で地面に魔法陣が描かれていました。

「これ、時間が経てば消えます。ジェレミー様ならわかるかもしれませんが……」

「記録用の写真機あったか?」

 ディランさんが他の騎士さんに尋ねると、すぐにそれが持ってこられました。

 写真機は魔道具の一つで、風景などを専用の魔法紙に保存してくれます。

 魔法陣が写真に写される作業を見守っている間、騎士の方々からチラチラと視線を向けられていました。

 邪魔なのかなと、ディランさんの後ろに隠れます。

 そんな私を見下ろして、ディランさんは言いました。

「ちゃんと顔を見せて偉いな」

「ひっ」

 バッと、大急ぎでフードを被りました。

 いつから……

 ワイバーンに襲われた時に、上から下に飛び降りたから、その時に外れたのだと思います。

 思えば、ずっとこの目で目の前の光景を見ていました。

 ディランさんにテントで怒られている時から、今の今まで素顔を晒して。

「顔は見せておけって。目を合わせない奴に、命なんか預ける事ができないだろ。それに、感謝も言いにくい」

 ディランさんの言葉が合図になったかのように、周囲にいた騎士さんから次々と声をかけられていました。

「その歳で玉持ちになるだけはあって、さすがだよ」

「町中は死角が多いから、前回と今回と、随分楽だった」

「だから余計に怒られているのが不憫でねぇ」

「いい奴なんだけど、圧がなぁ。女の子にはキツイよな」

「怒られている時、助けに入らなくて悪かったな。隊長には、きっと副隊長から指導が入るだろうから」

「何でだ」

 最後にディランさんが、抗議の声をあげていました。

 思いのほか好意的に受け入れてもらえているようです。

 でも、素顔を晒すのは当たり前にはできそうにありません。

 私は異質ですし、どこから何が漏れるのかはわかりませんから。

「ほら、これ持って、ゲートが閉じる前に先に帰れ。オーラム団長に見てもらえ」

 ディランさんから、今撮ったばかりの写真を渡されました。

 転移ゲートは、一定時間が過ぎると閉じてしまいます。

 そうなると、騎士団と共に馬に乗って帰らなければならないわけで、それは嫌だと素直に従います。

「では、先に戻って報告してきますね。騎士の皆さんも気を付けてお帰りください」

「ありがとう」

「隊長が怖い時は俺らに言ってねー」

「またよろしく!」

 様々な声に見送られて、その場を後にしました。




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