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ステラⅢ

10 創立記念パーティー

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 休日が終わり、少しだけ緊張しながら登校しました。

 賭博場に行った学生は、おそらく上級生だったのだと思われますが……

 とりあえずは教室で顔を合わせる事は無いようで、でも、何があるかもわかりませんので、常に警戒は必要です。

 ギデオン様からは、無理に追わなくて良いとは言われましたが……

 とは言え、昼食時などのお姉様達と過ごせる時間は、楽しんではいました。

「エステルさんや、アリソン様は、創立記念パーティーにどなたか招待されるのですか?」

「あ!そう言えば、貴女に言うのを忘れていたわ。よかった、誰か声をかけてくれたのね」

「はい」

「まぁ!私とした事が、うっかりしていましたわ」

「アリソンも忘れてたのね。私は例の幼なじみに声をかけたのだけど、今年は忙しいみたいで、だから他には特に呼んではいないわ」

 ディランさん、エステルお姉様のお誘い断ってよかったのでしょうか?

「私は本来なら、婚約者であるラシャド様を御招待したかったのだけど、今は学園に来られないようですわ」

 王子殿下お二人がそろって同じ場にいるのは、危険だからでしょうか?

「ステラは?」

「はい?」

「誰か招待するの?」

「え、いえ、わ、私は」

「あら、もしかして、例の彼が来るのかしら」

「えっ、いえ!」

「ふふっ。来るのね」

「観念しなさい、ステラ。貴女は全て顔に出るのよ」

 ええっ……

 自分で自分の顔を触りました。

 ディランさんとお姉様が鉢合わせしたら、何と説明したらいいのか、絶対にお二人が遭遇しないようにしなければ。

 創立記念日に向けて、新たな問題が浮上したようでした。



 それから数日が経ち、その事をすっかりと忘れていた頃、明日はいよいよ創立記念パーティーが開催されるという日。

「ステラ、ドレスができたからうちに来い」

 学園帰りに魔法士団の門の前に到着するなり、ディランさんに捕まってしまいます。

 私の返事も聞かずに小脇に抱えて馬に乗せられると、猛スピードで走り出していました。

 軍馬として鍛えられた、あの大きな子に乗せられて、跨がせてももらえずに、横座りのままではディランさんにしがみつくしか、私にはなす術もありません。

「いつもいつも、強引すぎです!」

 馬上で叫んでいました。

 無駄に疲れた私は、馬から降りるとフラフラでした。

 そんな私にはお構い無しに、さっさと目的の部屋へと連れて行かれます。

「ほら、いい色だろ?」

 中に入ると、怒りも疲労もすっかり忘れて、そこの中央に飾られたドレスに視線を奪われました。

 紫色のグラデーションがキレイなドレスに見惚れていました。

 全体的に銀色にキラキラしていて、裾がふわりと広がっていて、デコルテ部分が綺麗に見えるものです。

「私が、本当にこんな素敵なものを着てもいいのでしょうか」

「ああ。ステラに絶対に似合う」

「えっと……素敵な物を用意していただき、ありがとうございます」

「ああ。明日は朝から色々準備をしなければならないからな。このまま泊まれ」

「えっ、またですか!?」

「お前、一人でこれを着れるのか?」

「無理です……」

「そういう事だ」

 その日、またミラージュ家の方々にお世話になったのですが、突然お邪魔することになった私に嫌な顔一つせず、ノリノリで準備を手伝ってくれる使用人の方々は、さすがと言うべきでした。



 当日を迎えて、ディランさんとは別々にお屋敷を出ました。

 馬車を出していただいて、私が先に学園へ向かいます。

 学園には、いつもよりも多くの人の姿がありました。

 どの人も着飾っていて、より、華やかな印象です。

「ステラ」

 お姉様がすぐに私を見つけて声をかけてくれました。

 そのお姉様のドレス姿は、予想通り神々しいものです。

 こんなお姉様のお誘いを断ってしまって、ディランさんがちゃんとお姉様にフォローされたのかが心配でした。

「エステルさん、とっても素敵な御姿ですね」

「ありがとう。貴女もよ。そのドレス、例の彼が用意したのかしら?とても似合っているわ」

「えっ、いえっ、違います!」

 すぐに否定したのに、お姉様は信じてないようで、クスクスと笑っていました。

 また、顔に出ていましたか……?

 門を通り抜けて、学園の敷地内に足を進めると、軽快な音楽が聴こえていました。

「ホールの方ではダンスも楽しむことができるの。パートナーの方がいらしたら、二人で行くといいわ」

「あ、はい、そうですね」

 私は踊れないので、きっとそこには行きませんが、こそっとお姉様の姿を拝見してみるのもいいなぁとは思っていました。

 お姉様がひと通り案内してくれたところで、そろそろディランさんとの約束の時間です。

「エステルさん、ご挨拶したい方が向こうにいたので、行ってきますね」

「じゃあ、私は誰かといるわね。後で、“例の彼”を紹介してね」

 それには苦笑いで応じました。

 申し訳ないとは思いながらも、パーティー会場で何かが起きないか心配で、自分のしなければならない事のために、ディランさんの待ち合わせ場所に急ぎました。

 中庭を通り抜けて南校舎の方へ行くと、そこにはただ一人を除いて人の姿はなく、地面にしゃがんで何かを探っていた人が、立ち上がってこっちを向いた姿に目を見張りました。

 ディランさんも正装をされていて、いつもと雰囲気が違うのでビックリしたのです。

 髪もセットされているし、違う人と一緒にいるみたいでドキドキしてしまいます。

 袖口に視線を移すと、私が贈ったカフスボタンも付けてくれていました。

 黒曜石でできたもので、高い物ではないけど、お姉様とお買い物をした時にお墨付きをもらったのでそれに決めました。

 お姉様とのお買い物も、とてもとても楽しい思い出になったものです。

 言葉を失っている私をよそに、ディランさんはいつもと変わらない様子で話しかけてきました。

「お前がうちにいる間にここに捜査が入ったんだが、エドガーが、第二部隊の隊長の事だが、そいつが言うには、ここに残されていた魔法石はドルティエル産だったそうだ」

 ドルティエルとは、ドルティエル王国。ディランさんの実家のミナージュ辺境伯領と国境を面している国の事ですね。

 あの時の事はダニエル様もある程度把握されていたので、併せてアーサー様から第二部隊へと報告されたのだと思います。

 それで、

「えっと……?」

「ドルティエルと魔法石の取り引きは禁止されていて、グリースでは使われていないはずなんだがな。武器を調達する資金源になるから」

 魔法石は国産で供給が賄えますし、国内に通常は出回っていないものが、ここで使用されていたという事ですね。

「それはそれとして、とりあえず行くか」

「どこへですか?」

「いつまでも辛気臭い場所にいるわけにはいかないだろ。ホールへだ」

「踊れないから行きません!近付きたくないです!」

「外から眺めてみるだけでもいい。雰囲気を味わえ」

「お姉様と鉢合わせしたらどうするおつもりですか!」

「いいだろ、別に」

「よくないです!」

「いいから、行くぞ」

 私の心配をよそに、ディランさんに手を引かれてホールへと向かいましたが、広い会場では、お姉様が何人もの方にダンスを申し込まれている様子を目撃することになりました。

 こちらに気付く暇もないようで、ひと安心です。

 やっぱりお綺麗なお姉様はおもてになるのだなぁって、感心していました。

 今までだって、手紙を何通も渡されていましたし。

 さすがお姉様です。

 何故か私が、誇らしいと思っていました。

「何見てるんだ?ああ、エステルか。もてるな、アイツは」

「ディランさんは、お姉様と踊らなくてよかったのですか?」

「別に、今は必要ないだろう。先に言っておくが、俺は去年、エステルの社交界デビューの時にエスコートしている」

「あ、そうですよね。社交界。お姉様のエスコート、ディランさんがされたのですね」

「家族の義務のようなものだから、心配するな」 

「心配?は、別にしていませんが、お姉様のドレス姿が見られるなんて、そこだけは私もご一緒したかったです」  

 綺麗な御姿だったであろう事を想像します。

 それを伝えると、ディランさんは、複雑な表情を浮かべていました。



『ステラちゃん。聞こえてるかな?』

「あ、ダニエル様から……どうしましたか?」

 使い魔を通じて話しかけられていました。

『騎士団の人と一緒だと思うのだけど、その人に確かめてもらいたい事があるんだ』

「はい、伝えます」

『あの人、見えるかな』

 使い魔の視覚を通して、とある人物が見えました。

『何かを持っているから様子を探って欲しいのだけど』

「わかりました。今からディランさんと向かいます」

『げっ……竜殺しと……あぁ、でも、むしろ安心か。じゃあ、よろしくね。気を付けて』

 麻薬でしょうか?

「ディランさん」

「ああ。どこに行けばいいんだ?」

 使い魔はまだダニエル様の手元にいます。

 私はその人達が向かったであろう方角に急ぎました。

 おそらく、先程私達がいた場所。学生が消えた場所です。

 そこには男性が二人いて、そして、すぐに姿を消していました。

「あいつら、わかってて目の前で消えやがった」

「どうしてですか?」

 それを尋ねた途端に、向こう側で、私達が来たばかりの方角から多くの悲鳴が聞こえました。

「陽動だったのかもしれないな……」

 彼ら二人を追っていたのか、他の騎士らしき人が悲鳴の聞こえた方向へ走っていくのが見えました。

 ディランさんも、険しい顔でそちらを見つめていました。   
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