父に連れられて遥々海を渡った私は、異母姉に不幸をもたらした元凶だったようです

奏千歌

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ステラⅢ

13 記憶。思い出。

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 昨日は植物園でも会えて、今日も学園で会えて、エステルお姉様に会えるのはとても嬉しい事です。

 ただ、お姉様の表情がいつもよりも元気がないように見えて……

「エステルさん。何かあったのですか?」

「あら。心配させてしまったかしら?何でもないのよ。ありがとう」

 ニコッと私に笑いかけてくれる姿は、もういつもの姿ではありましたが……

 思えば、ここ数日は、お薬の事で悩んでいたのかもしれません。

 呪物事件が起きた後ででわかった事ですが、ドルティエルの魔法石だけでなく、グリース王国内には違法薬物、多くの禁制品も出回っているようでした。

 その流出源は、オードリー様の兄、エステルお姉様の伯父が当主のカティック伯爵家なのではないかと言われています。

 まだ保管場所などが判明しておらず、確証がない状況ですが。

 罪が明らかになった場合、以前から心配していた通り、もしエステルお姉様にまで影響が及んだら。

 それ以前に、伯爵家がエステルお姉様を脅したりとか……それで、罪を強要されたりとか……勘と呼べるものなのか、嫌な想像が膨らんでしまいます。

 お姉様の様子がおかしいのも、関係あるのでしょうか。

 それに、あの魔女が近くにいるかもしれません。

 今の私が何をすればいいのか。

 もし、このまま何もしなくて、取り返しのつかないことになったら……

 だから、私は、ディランさんに相談しようと思ったのだと思います。

 今はもう、魔女の呪いに打ち勝つ十分な魔力があります。

 呪いを解いて、魔女の存在を話して。

 あの時の事を話して。

 もしかしたらお姉様も。

 お姉様とディランさんは、今日、会う約束をされています。

 何か相談されるのでしょうか。

 私が、今日会うお二人の事を、あれこれ考える必要はないのですが……

 私よりもしっかりされているお二人の事なのですから。

 今はまず、私がやらなければならない事をしなければ。

 授業が終わると、急いで魔法士団に帰りました。

 ギデオン様のところに急ぎます。

 会議室で報告書を見ていたようで、そこには、エレンさんもいました。

 ちょうど良いタイミングだと思い、

「ギデオン様、私、呪いを解きたいと思っていますが、もしかしたら何か良くない事が起きるかもしれません」

「ちゃんと守ってやるから安心しろ」

 意を決して報告したのに、ギデオン様の言葉はあっさりしていました。

「いえ、守ってもらいたいのは私ではなくて、ディランさんがまた巻き込まれたら……」

「何を心配しているのかは知らないが、アレはもう、殺しても死なないだろ。子供じゃないんだ」

「あら、彼、蚊帳の外から昇格したの?そうなのねー。それじゃ、ステラちゃん。今から解く?とりあえず、私が付き添うわ」

 エレンさんも、なんだかとても軽い調子でした。

 髪を梳く?と聞かれているような感覚です。

 その流れですぐに自室に行き、念のため、エレンさんの結界の中で行いました。

 すーはーと深呼吸をして、胸に手をあてます。

 あの時から私に制約を押し付けて来た呪い。

 自分の胸に張り付いているものを引き千切る感覚で手を動かすと、バリっと何かが割れるような音がして、10年、私に纏わりついていた呪いは解けました。

 妙にあっさりとしているから、変な感じはしますが、体の調子は良いです。

「うん。成功ね」

 エレンさんが、上から下まで眺めて言いました。

「これでスッキリしたわね。ステラちゃんはギデオンに報告してくるといいわ。私はお祝いに何か買ってきてあげる」

 そこで、ふと思い立ったことがありました。

「エレンさん、買い出しに行かれるのですか?」

「ええ」

「私も一緒に行ってもいいですか?」 

「あら、もしかして……」

「?」

「ううん、それじゃあ行きましょうか」

 エレンさんとお出かけしたのは、特に意味は無いと思っていました。

 本来なら真っ先にギデオン様に報告に行ったはずなのに、何となく外に出たい気がしたというだけで。

 制服姿で、夕暮れ時はもうエレンさんの魔法は解けていますが、構わず出かけました。

「ステラちゃん、こっちよ。私、寄りたい所があるの」

 目的地はどこかなと、エレンさんと並んでしばらく歩いていくと、その光景が視界に映り込みました。

 カフェの窓側に座る、お姉様とディランさんの姿があったのです。

 どうやら、お姉様達はここでお話しをされているようでした。

 こうして見ると、お二人とも本当に親しげな様子で、長い時を共有したからこその、気心が知れた仲のように思えます。

 そしてディランさんの、お姉様に向ける表情がとても優しいもので、変わらず、とても大切に想っていることがわかって、それはずっと変わらないもので、どちらに対しても羨ましいと思っていました。

 私もお姉様と一緒にたくさん過ごしたいのに。

 あんな顔をディランさんに向けてもらいたい。

 でも、二人の間に入ってはならないと、それだけはわかりました。

 ディランさんと知り合って数ヶ月足らずの私が。

 何を考えているんでしょうと、ため息が出ました。

「あらステラちゃん素敵。恋する乙女のため息ね」

「え、エレンさん!?」

「実は、ディランが女の子と会うと知ってね。それで、ステラちゃんも気になったのかなぁって。偵察に行きましょうか」

「だめです、大切な話をしているのかもしれません。邪魔したゃダメです、エレンさん」

「魔法をかけて姿を見えなくするから、大丈夫、大丈夫。近くに行くわよ」

「ダメです!」

 エレンさんの腕を引っ張るのに、ズルズルと引きずられるようにお店の中に入っていったところで、それが聞こえてきました。

「ディラン。私と結婚して欲しいの。私には、貴方しかいない。貴方じゃないと」

 お姉様の、縋るような声。

 その瞬間、世界が無音になったように感じていました。

「ほう……思ったよりも修羅場だったな……」

 ダメ、これ以上聞いたらダメ。

 何かが壊れるのが耐えきれなくて、すぐにお店の外に飛び出していました。

 走って、魔法士団の営舎に向かって、自分の部屋に戻ると、その後は何もする気力が起きなくて、ずっとベッドで横になっていました。

 部屋の明かりもつけずに、真っ暗な部屋で過ごしていました。

 頭の中がグルグルとして、気持ちが悪くて眠れないはずだったのに、仄暗い底に引き摺り込まれるように、いつの間にか夢を見ていました。



 “お母様を返して!!”

 “あんた達親子のせいで、私のお母様は孤独に死んで逝かなければならなかった!!”

 “あんた達親子が犯した罪、許されると思わないで!!”



 夢の中で、小さなお姉様に何度も何度も罵られる。

 エステルお姉様はそんな事言わないのに。

 でも、本当は、お姉様はあの時、私を責めたかったはずです。

 それを必死に耐えて、私と同じくらい小さなお姉様に我慢させて。

 お母様の事を思い出すと、いつも罪悪感に苛まれる。



     可哀想

     貴女のお姉様が可哀想

     貴女のせいでね

     でも、仕方がないわよね?

     欲しいものは奪っていいのよ

     愛しているのだから仕方ないわ

     貴女のお母様は悪くないわ

     人のものでも欲しかったのだから

     愛が 



 オードリー様を自殺に追いやって、エステルお姉様から母親を奪って、無邪気に幸せな記憶を思い出す事ができません。

 唯一、何も考えずにすむ幸福な記憶は、シリルにぃ様と過ごした時のもので。

 でも、今はシリルにぃ様との思い出も、良くないものにすり替わろうとしていました。
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