父に連れられて遥々海を渡った私は、異母姉に不幸をもたらした元凶だったようです

奏千歌

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ステラⅣ

ディランのお茶会

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 ステラとエステルを屋敷に残して、すぐに騎士団本部に戻っていた。

 外は暗くなっているが、敷地内は煌々と照らされており、もうすでに、倉庫や武器庫から様々なものが運び出されて、どこを見ても物々しい雰囲気だ。

 忙しくなるのは、これからが本番だ。

 部隊の詰所に行くと、副隊長のユージーンから恨みがましい目で見られていた。

「指示された事は、全て手筈が整った。部隊の連中は家族に会いに行ってる。報告書をまとめておいたから、これを今すぐ殿下の所に持っていけ!」

「助かる。お前も、家に帰っていいから」

「今度、絶対に奢らせるからな」

「わかった」

 ユージーンが言質は取ったぞと言うように、ビシッと俺を指差す。

 報告書の束を受け取ると、すぐにラシャドの執務室に向かった。

「ラシャド、報告書だ」

 部屋にいるのは一人かと思ったが、思いがけずソイツはいた。

 ラシャドとソファーで向かい合って座っていたのは、“シリルにぃ様”だ。

「ディラン、いいところに来たね。今からお茶にするんだ。君もどう?」

「ああ」

 断る理由もないから、受ける。

 ユージーンにバレたら、また恨み言を言われそうだが、その時はその時だ。

 きっと、今頃は家に帰っているだろう。

 むしろラシャドは、俺をここに座らせたかったのだ。

 シリルとラシャドと3人で奇妙なお茶会が始まった。

 正面に座った俺に対して、シリルは気まずげにしていた。

 だからあえて、ラシャドの隣のここに座ったんだ。

 シリルは、妙に所作の綺麗な男だ。

 どう見ても、貴族階級以上のやつだ。

 間違っても、商会の者というだけの奴じゃない。

 そもそも、ただの商人が何度もこんな所に来ないだろ。

 それもこんな遅い時間に。

 遠慮なくジロジロと眺め続けていると、口を開いたのはシリルの方からだった。

「すまなかった」

『簡単に謝らないのではなかったか?』

 すっかり、憑き物が落ちたような顔をしている。

「時と場合による。君がステラをどのように思っているのか知った。完全に俺が誤解していた」

 ラシャドは、俺達のやり取りを穏やかな顔で見ていた。

『俺よりも、ステラに謝れ。ステラが会いたがっていた』

「合わせる顔がない」

『さっさと謝って、抱きしめてやれ。“シリルにぃ様”をずっと待っている』

「余裕だな」

 余裕なわけないだろ。

 気が気でないのはこっちの方だ。

「ふふっ。君達、自分の母国語を間違っていないかな?アリソンが怒っていた事は、ディランには秘密にしてあげた方がいい?」

「ラシャド……その件こそ……一言謝っただけでは済まない」

「アリソンには伝えておくよ」

 シリルは緊張をほぐすようにお茶を一口飲むと、カップをソーサーに置き、それを尋ねてきた。

「ステラと、いつから付き合っているんだ」

「別に、そんな関係じゃない」

 反応がいちいち可愛いからつい構い過ぎてしまうけど、ステラと恋愛は、まだ無理だろ。年を考えろ。

 あの時、自分が刺された時よりも、あの子を泣かせた時の方が余程動揺した。

 自分がとんでもない犯罪者になった気分だった。

 これで、踏み込んだ関係になれるはずがない。

「貴様、ステラを弄んでいるのか!?」

「なんでそうなる。めんどくさい奴だな」

「じゃあ、ステラのどこが不満なんだ。この世界にあんな天使が生まれてきて、歩いても喋っても天使で、今も間違いなく天使で、あの小さかった天使がもう間も無く女神になろうとしているんだぞ!?この最高のタイミングを見守れる貴様は、どれだけ恵まれていると思っているんだ」

「ラシャド、こいつ気持ち悪い」

「ステラは天使だろ!!」

「わかった、わかった」

 ステラが死んだと聞かされた当時の、こいつの憔悴っぷりが想像できる。

 荒んだのも無理はないのか。

 ステラを傷付けたのはバカだと言いたいが。

 この際だから、聞いておきたい事があった。

「ステラは、タリスライトに強制的に連れ戻されたりするのか?」

 それは、ずっと俺の頭を悩ませている事だった。

 タリスライト王国で、ある程度の貴族階級の生まれの可能性のあるステラが、このままグリース王国の魔法士団に所属したままでいられるのか。

 そもそも、グリース王国に留まる事ができるのか。

「ステラが望まない事はしない。俺は、ステラが望む事しかしない。だから、無理矢理連れ戻すような事はしない。ステラが帰りたいと言うのなら別だが、俺は、もう、ステラにこれ以上嫌われたくない」

「何をしたんだ」

 シリルは俯いて頭を抱え、その落ち込み具合に呆れる。

「……ステラに申し訳ない事をしたから、まずはこの国の為に、ラシャドに提案しにきた。俺は、今度こそステラを守る」

「助かるよ。被害は無いに越した事はないからね」

 そのやり取りでドルティエル王国関連の何かを任せたのだと、想像する事はできる。

「ディラン。言っておくが、エステルまで奪わせないからな」

 苦悩の末に絞り出したように言われて、聞き返していた。

「何がだ?」

「ステラもエステルもって、貴様はハーレムを築くつもりか」

「何を言っているんだ。頭大丈夫か?」

「俺は、エステルの事でも何か言われると思っていたんだ」

「お前が何者かは知らないけど、少なくともエステルが側にいるのを許してるんだろ。なら、俺が何か言う必要はないし、エステルが信頼する者を俺も信用する。それに、エステルもって、なんだ。エステルは家族のように思っているが、恋愛対象になんか、全く見ていない。この先もあり得ない」

 シリルが意外そうに俺を見る。

 なんだよ……俺を何だと思っているんだ。

 会話が途切れた所で、ラシャドが口を開く。

「ねぇ、ディラン。国境付近が厳戒態勢に入るよ」

 それだけで、何が言いたいか分かった。

「わかってる。うちの辺境伯領だろ」

「うん」

 ちらりとシリルを見た。

「この話を聞かせて大丈夫なんだな?」

 大丈夫だと、ラシャドは頷く。

「君の部隊を筆頭に行ってもらう事になると思う」

 どこか非情になりきれない部分があるラシャドは、俺を、騎士団を案じているのだろう。

「準備はできている。だから、王命を伝えるのがお前の仕事で、それに従うのが俺の仕事。ただそれだけだ」

 だから、一人で気に病むな。

「ラシャドは優しいね」

 シリルのその言葉に、侮蔑の響きは感じられない。

「必要な時は決断できるから、別にいいんだよ。こいつは、これで」

「ドルティエル王国で奇妙な病が蔓延している。病の蔓延は、人を狂わせているよ。こちらから治療薬を届ける手筈は整ったけど、国境沿いに進軍される事は止められない。停戦に持ち込むまでに、出来るだけ被害が出ないようにしたい。魔法士団が動いてくれるけど、小規模で活動されれば、油断できない。ミナージュ領に入り込まれて小細工をされたら……」

「わかった」

 空になったカップを置いて、立ち上がる。

「じゃあ、俺は最後の確認に行ってくる。後は待機しておくから」

 ラシャドの視線に見送られて、部屋を出た。

 さっき会ったばかりなのに、無性にステラの顔を見たくなった。

 今はまだエステルと一緒にいるはずだ。

 明日は、あいつに会えるだろうか。









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