逃走中。待てと?殺されるのが分かってて待つわけないでしょぉぉぉ

奏千歌

文字の大きさ
33 / 39

33 追いかけっこの果てに

しおりを挟む
 目の前には、山盛りの生クリームが載ったお皿が。

 生クリームに隠れて、パンケーキがあるはずだ。

 さらにその前には、私を見ながら機嫌よく座るユリウスの姿があった。

 ユリウスに捕獲されて連れて行かれた町で、食べ損なったパンケーキを堪能している最中だ。

 私とユリウスが二人でのんびり過ごしているのには理由があるし、私もそれには納得している。

 ユリウスは、私の手がかりが全くなくてどうするか考えている最中に、アダムからの情報提供を受けたそうだ。

 それで私の捜索に出たそうだけど、ついでに半年は帰ってくるな。新婚旅行だと言われたと。

 この辺の事情を聞かされている最中は、何故かユリウスの膝の上に座らされていた。

 これでは、ルゥとリシュアの時と立場が逆だ。

 それで、王都ではユリウスが行方不明ということになっていて、その混乱に乗じて、アダムは粛清を行い、自分が王になっていた。

 その手際の良さに感心したものだ。

 第一王子派だろうと、側妃派だろうと、中立派だろうとまとめて膿みを出し切ったようだ。

 この中には、あのデラクール公爵家や、ローパー公爵家も含まれる。

 ジャクリーンやブライアンの顔が一瞬浮かんで、すぐに消え去っていった。

「だいたい本人に問題があるやつの家も、何かしらしでかしてくれている家だよ」

 随分と後になって、何かの会話の時にアダムが言っていた言葉だ。

 彼女達がその後どうしているかは、興味がないから知らない。

 二度と顔を合わせることがなかったとだけ言っておく。

 そして、王と王妃に毒を使用した側妃とダンスト子爵は長い幽閉の末に、一人ずつ見せつけるように処刑。

 そっちも私は特に興味がなかったので、わざわざそれを見に行ってはいない。

 私が動かないから、ユリウスも行かなかったな。

 ダンスト家は領地没収で取り潰し。

 当主以外の者は王都から地方へ移動する最中に盗賊に馬車が襲われて、元子爵夫人と娘は行方不明。

 天使の微笑みを浮かべたアダムが、しばらくしてからこっそりとリゼットとその母親がどうなったか教えてくれたけど、気分が良いものではなかったから聞き流しておいた。

 ユリウスはそれを聞いて満足気だったけど。

 それで、アダムが王となった時に、ユリウスに聞いた。

「ユリウスはそれで良かったの?」

 と。

「何故だ?ティエラは王妃になりたかったのか?なら、今から軍をまとめて王都を掌握しに行って俺が王になる準備をしてくるけど」

 ちょっと散歩に行ってくるような気軽さで言う内容ではない。

「違う、待って、やめて。そうじゃなくて、ユリウスが3年間戦場で頑張った事が無駄になったのかなって思って」

「ティエラと今後も一緒にいられるようにするには、そうするのがいいと思ったんだ。俺が力をもった立場になって、ティエラ自身に選んでほしかったんだ。ティエラの意思を尊重したかったから」

 そして、さらっと、とんでもない事を付け加えて話した。

「そういえば忘れていたが、戦場にいる間、“動乱と殺戮の神”ってのが、ずっと俺に話しかけてきてたんだ。我が犬となるなら、誰にも負けない力を、弟の神にも負けない力を授けるって。俺はリシュアの犬だから、そんな奴の犬になるわけがない。偉いか?」

 ど、動乱と殺戮の神?

 あ、これって、国が救われた一つの大きな選択だったんじゃない?

 もし、私がラザールにあの時殺されていたら……

 ユリウスはその神と契約をして、この国を消滅させていた気がしてならない。

 あの無感情で無表情なクロノスが、すぐそこで何回も頷いているように見えるのは、きっと気のせいだ。

 アダムが神と契約を果たしてからまだ1年に満たないくらいだけど、それまでにこの国は実は何度も崩壊の危機にあったのでは?

 あぁ、どうしよう。

 ルゥが、誉めてって、尻尾をブンブン振って私を見てる。

「偉いよ、ユリウスは。さすが、リシュアのルゥだね」

 とりあえず頭を撫でてあげていた。

 本当に、神によって、力の与え方が随分と違うものだ。





 クロノスが最初にリシュアの前に現れた時、クロノスは、言ったんだ。

 間も無く、何ものにも代え難いモノとの出会いがある。

 生涯、その者との絆は途絶えることはないだろう。

 その者との絆を守るために、お前に力を貸してやると。





 最初の頃とは違う形の家族になったけど、私が幸せなことには変わりない。

 ここでユリウスと過ごした数日は、すでに満ち足りたものになっていた。

 しかし、と、ふと蘇った事が、私の頭を占領する。

 あれが、大人の男の人になると、あんなになるなんて聞いてない……

 リシュアのだって、あんなんじゃなかった……

 急に思い出して、その時にされた事も思い出して、両手で顔を覆って悶えていた。

 そして、その時にユリウスに晒した自分の姿を思い出して、さらに悶えていた。

 待ってって言うのに、待ってくれなかったし、

 あの『待て』の意趣返しじゃないかと思ったくらいだ。

 転げ回りたい。

 穴に入りたい。

 せっかくのパンケーキの味が、せっかく美味しいの食べてるのに、味が分からなくなった!

「ティエラ?具合でも悪いのか?」

 ユリウスに顔を覗きこまれた。

「な、な、何でもない」

 正直言って、今はその顔を近付けてもらいたくない。

「でも、顔が赤い」

「何でもないの!」

 ちょっと強めに言ってしまったものだから、

「……ごめん」

 あぁぁ、今度はしょんぼりとしたルゥが、上目遣いにこっちの様子を窺っている。

「こ、れ、これ、食べる?おいしくて、感動していただけだから!」

「美味しいなら、ティエラがたくさん食べて。おかわりも頼むか?」

 持ち直してくれたユリウスが、追加注文をしようとするから止めておいた。

 ちょっと色んなものがいっぱいになって、目の前の物を処理するのが大変そうだ。

 外はいい天気だから、この後運動がてら散歩でもしないと晩ご飯が食べられないかも。

 王都中枢の騒動はここまで届かないから、私達ののんびりとした7年遅れの新婚旅行はまだまだ続くのでした。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

婚約破棄イベントが壊れた!

秋月一花
恋愛
 学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。  ――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!  ……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない! 「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」  おかしい、おかしい。絶対におかしい!  国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん! 2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

処理中です...