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末路
9 届かなかった手紙
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王太子殿下とアリーヤ様が結婚式を終えたばかりのこの日、アリーヤ様宛の手紙が届いているのに気付いた。
アリーヤ様の妹からだ。
挙式の準備に皆バタバタしていたから、数日前に届けられたこれを見落としていたようだ。
王宮に勤める上級侍女である私は、内容をチェックしてお渡しするように命じられている為、先に開封して中を確認した。
その内容を読んで、最初は何が書いてあるのか理解できなかった。
アリーヤ様の妹であるイリーナさんは、いったい、何を言っているのだろうか。
切実ともとれる文章からは、アリーヤ様の結婚を祝う言葉が一切出てこない。
それどころか、アリーヤ様の存在を否定するかのような内容だった。
その手紙に憤りを覚えた。
聖女はアリーヤ様なのだ。
アリーヤ様でなければならないのだ。
そうでなければ、私達は、私達は、一体、誰を処刑したというのか……
誰を処刑してしまったというのか……
「ひっ………」
その考えに至り、思わず口から小さな悲鳴を漏らしていた。
バクンバクンと、今まで鳴らしたことがないような音で心臓が騒ぎ立てる。
嫌な汗をかいた手で手紙を握りしめて自室に駆け込むと、ソレを否定するように、すぐに暖炉の火を起こして、燃え盛る炎の中に手紙を投げ込んでいた。
誰もこの手紙の内容を知らないのであれば、これが真実とはならない。
聖女はアリーヤ様なのだ。
それが全てだ。
忘れろ。
こんなデタラメな内容の手紙のことなんか、忘れてしまえ。
この妹は、幸せな姉に嫉妬してこんな手紙を送りつけてきたのだ。
きっとそうだ。
暗い部屋の中、燃え盛る炎を見つめて、得体の知れない不安を抱いて、それに押し潰されそうだった。
それから何日も眠れない日が続いた。
アリーヤ様と殿下の結婚式から、王都が、国が、この大陸が晴れる事は無くなった。
それに続いて異常気象の影響で、各地で大きな被害が起き始めている。
恐怖に慄いていた。
アリーヤ様が聖女だ。
アリーヤ様が聖女だ。
何度も自分に言い聞かせる。
王都の治安も日に日に悪化していった。
住む家を失った多くの人が、王都周辺に徐々に集まってきたからだ。
段々と食料も乏しくなってきて、黒い雲が上空を覆うように、華やかな王都に陰りが見えていた。
あの日から何日経ったのか、昼間でも薄暗くなった道を一人で歩いていた。
城のすぐ近くだったから、あまり警戒はしていなかったのだ。
だから、降り続く雨がその音を消してしまっていたから、腹部の痛みを感じるまでそれに気付かなかった。
濡れた地面に倒れ込み、初めて自分が誰かに刺されたのだと気付いた。
私の荷物を奪い、犯人だと思われる小さな人影が走り去っていく。
その後ろ姿に腕を伸ばしたところで、何をしようというのか。
急速に失われていく意識。
最期に思っていた事は、
ああ、これで、あの事実を知る者は誰もいなくなった……
アリーヤ様の妹からだ。
挙式の準備に皆バタバタしていたから、数日前に届けられたこれを見落としていたようだ。
王宮に勤める上級侍女である私は、内容をチェックしてお渡しするように命じられている為、先に開封して中を確認した。
その内容を読んで、最初は何が書いてあるのか理解できなかった。
アリーヤ様の妹であるイリーナさんは、いったい、何を言っているのだろうか。
切実ともとれる文章からは、アリーヤ様の結婚を祝う言葉が一切出てこない。
それどころか、アリーヤ様の存在を否定するかのような内容だった。
その手紙に憤りを覚えた。
聖女はアリーヤ様なのだ。
アリーヤ様でなければならないのだ。
そうでなければ、私達は、私達は、一体、誰を処刑したというのか……
誰を処刑してしまったというのか……
「ひっ………」
その考えに至り、思わず口から小さな悲鳴を漏らしていた。
バクンバクンと、今まで鳴らしたことがないような音で心臓が騒ぎ立てる。
嫌な汗をかいた手で手紙を握りしめて自室に駆け込むと、ソレを否定するように、すぐに暖炉の火を起こして、燃え盛る炎の中に手紙を投げ込んでいた。
誰もこの手紙の内容を知らないのであれば、これが真実とはならない。
聖女はアリーヤ様なのだ。
それが全てだ。
忘れろ。
こんなデタラメな内容の手紙のことなんか、忘れてしまえ。
この妹は、幸せな姉に嫉妬してこんな手紙を送りつけてきたのだ。
きっとそうだ。
暗い部屋の中、燃え盛る炎を見つめて、得体の知れない不安を抱いて、それに押し潰されそうだった。
それから何日も眠れない日が続いた。
アリーヤ様と殿下の結婚式から、王都が、国が、この大陸が晴れる事は無くなった。
それに続いて異常気象の影響で、各地で大きな被害が起き始めている。
恐怖に慄いていた。
アリーヤ様が聖女だ。
アリーヤ様が聖女だ。
何度も自分に言い聞かせる。
王都の治安も日に日に悪化していった。
住む家を失った多くの人が、王都周辺に徐々に集まってきたからだ。
段々と食料も乏しくなってきて、黒い雲が上空を覆うように、華やかな王都に陰りが見えていた。
あの日から何日経ったのか、昼間でも薄暗くなった道を一人で歩いていた。
城のすぐ近くだったから、あまり警戒はしていなかったのだ。
だから、降り続く雨がその音を消してしまっていたから、腹部の痛みを感じるまでそれに気付かなかった。
濡れた地面に倒れ込み、初めて自分が誰かに刺されたのだと気付いた。
私の荷物を奪い、犯人だと思われる小さな人影が走り去っていく。
その後ろ姿に腕を伸ばしたところで、何をしようというのか。
急速に失われていく意識。
最期に思っていた事は、
ああ、これで、あの事実を知る者は誰もいなくなった……
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