14 / 27
14 荒らされた家
しおりを挟むハーバートさんの身に起きた異変を説明し終えると、一度シルバーノームの家に戻ることになりました。
「イライアス様、ついてきても大丈夫なのですか?」
「知ってるだろう?城にはドッペル(分身)がいるから大丈夫だよ。それに、移動は私がいた方が速くはないか?」
「確かに、そうですけど」
お二人の会話を聞きながら伯爵家の庭に三人で出て、そこでイライアス様が地面に何かを描き始めました。
剣先で円形の模様のようなものを描き、最後に斜め上に線を引き上げると、そこに、腰の高さ程もある巨大な蟲が二匹現れていました。
トラツリアブによく似た姿で、半透明な翅が小刻みに震えていて、大きな複眼は真っ黒く、体は柔らかそうな何かに覆われています。
その見た目は小さければ可愛いものかもしれませんが、この大きさには引いてしまいます……
「あー、慣れないとちょっと見た目がアレだけど、移動速度は何よりも速いから。エリザベスさんは私と乗ろうか」
私が固まっている間に、アタナシアさんは、慣れた様子ですでに蟲に跨っています。
手を引いてもらって、アタナシアさんの後ろに私も跨がりました。
フワフワした乗り心地は悪いものではないのですが、蟲に体を預けていることを考えると、足先の方からゾワゾワとしたものが這い上がってくる感じがして、アタナシアさんが着ている黒いローブの端を握りしめてしまいます。
「じゃあ、出発するね。怖かったら目を瞑っていたらすぐだから!」
そう話す間に、イライアス様はすでに飛び立っていて、上を見上げていると、今まで体験したことのない感覚に襲われました。
飛び立った蟲は、みるみる内に空高くに上がり、眼下に広がる家々を見て、生きた心地がしません。
結局、目を閉じ、アタナシアさんにしがみつき、一言も発しないまま、ハーバートさんの家に到着していました。
馬車などで数日を費やした距離を、ものの数十分で帰ってきたので驚きます。
でも、地面に降りて何か感想を述べる間も無く、家の惨状を見て言葉を失っていました。
倒された柵。
壊れた扉。
荒らされた室内。
それらが、何か起きたことを物語っているだけで、この家の主人の姿は、やはりどこにもありませんでした。
家を離れていた間に何が起きたのか。
「どうして、こんなことに……どうしよう……やっぱり、家を出ずに、近くにいた方が……」
「ううん、エリザベスさんが私達に知らせてくれた方が良かったよ。貴女に危害を加えることは不可能だったとしても、私達は今この時でも異変に気付くことはできなかった。いい判断だったと思うよ」
私に危害を加えることができないと言った言葉の意味を知る前に、イライアス様がアタナシアさんを呼びました。
「ここから“守り”がやぶられてる。他の所は機能しているようだから、被害はここだけのようだ」
「他の魔法使いが絡んでいるということでしょうか?」
「うん。それと、アタナシア、これを見て」
「……獣の毛?」
「どう思う?」
「またですか?………エリザベスさん、この家の中に動物や魔物は入ったことはありましたか?」
「私がいた間は、見かけませんでした」
お二人の話す姿を見て、何かの目星をつけているように感じました。
ハーバートさんは町の人から慕われて、頼りにされて、私も頼りきってしまっています。
そんなハーバートさんが頼ることができる、助けを求める事ができる心強い方達がいることに、今は感謝していました。
無力な自分を嘆くよりも、そのことに感謝していました。
お二人の邪魔にならないように扉近くで見守っていると、遠くから足音が駆けてくるのが聞こえて来ました。
「エリ!」
駆け込んできたのはジェフ君でした。
「よかった、無事だったんだな。でっかい虫が見えたから、急いで来てみたんだ。兄ちゃんが、ここでハーバート先生と一緒にいた時に、襲われて」
「えっ!?」
ジェフ君の言葉に動揺しました。
まさか、デレクさんまで被害に遭ってしまったのかと。
「ハーバート先生がどこかに連れて行かれてしまったらしいんだ。自警団の人達が領主様に連絡をとろうとしているみたいだけど」
「デレクさんは無事なのですか?」
「兄ちゃんは怪我をしているけど、とりあえずは大丈夫だ。ハーバート先生、兄ちゃんからエリの話を聞いて動揺して、その直後に襲われたって」
デレクさんは大丈夫だということに、ほんの少しだけ安堵しました。
でも、ハーバートさんが連れ去られたことが確定してしまい、これからどうすればいいのか、どこに連れて行かれてしまったのか。
「ちょっといいかな?」
私達のやり取りを聞いていたイライアス様が、ジェフ君に声をかけました。
「私達は、彼女の依頼でこの町を訪れた者だ。こちらはここの領主でもあるウィーナー伯爵家の御令嬢。すでに領主には連絡がいっているということを町の人に伝えてもらいたい。後のことはこちらが預かるから、町の人には普段通りの生活を送っていてほしいということも一緒にね」
「領主様の家の方なんですね。わかりました!伝えてきます!エリ、領主様が捜索してくれるのならハーバート先生はきっと無事に帰ってきてくれるから、クヨクヨするなよ!」
「はい」
ジェフ君が元気よく走り去っていく背中を見送り、室内で話すアタナシアさんとイライアス様の元へと戻りました。
49
あなたにおすすめの小説
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
婚約破棄された幼い公爵令嬢、目覚めたら絶世の美女でした
鍛高譚
恋愛
『幼すぎる』と婚約破棄された公爵令嬢ですが、意識不明から目覚めたら絶世の美女になっていました
幼すぎる、頼りない――そんな理由で婚約者に見限られた公爵令嬢シルフィーネ。
心ない言葉に傷ついた彼女は、事故に遭い意識不明となってしまう。
しかし一年後、彼女は奇跡的に目を覚ます。
そして目覚めた彼女は――かつての面影を残しつつも、見る者すべてを惹きつける絶世の美女へと変貌を遂げていた!
周囲の反応は一変。婚約破棄を後悔する元婚約者、熱視線を送る他家の令息たち、さらには王太子からの突然の縁談まで舞い込み――?
「もう、誰にも傷つけられたくない。私は私の幸せを手に入れるの」
これは、冷たく突き放された少女が美しく咲き誇り、誇りと自由を手に入れる、ざまぁ&逆転恋愛劇。
【完結】私を捨てた国のその後を見守ってみた。
satomi
恋愛
侯爵令嬢のレナは公然の場でというか、卒業パーティーで王太子殿下イズライールに婚約破棄をされた挙句、王太子殿下は男爵令嬢のラーラと婚約を宣言。
殿下は陛下や王妃様がいないときを狙ったんでしょうね。
レナの父はアルロジラ王国の宰相です。実家にはレナの兄が4名いますがみんなそろいもそろって優秀。
長男は領地経営、次男は貿易商、3男は情報屋、4男は…オカマバー経営。
レナは殿下に愛想をつかして、アルロジラ王国の行く末を見守ろうと決意するのです。
次男監修により、国交の断絶しているエミューダ帝国にて。
「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み
そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。
広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。
「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」
震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。
「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」
「無……属性?」
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
2/26 番外編を投稿しました。
読んでいただけると嬉しいです。
思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。
とてもとてもありがとうございます!!
公爵夫人は愛されている事に気が付かない
山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」
「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」
「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」
「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」
社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。
貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。
夫の隣に私は相応しくないのだと…。
【完結】転生したら断罪イベントの真っ最中。聖女の嘘を暴いたら、王太子が真っ青になりました
丸顔ちゃん。
恋愛
王太子は私――エリシアに婚約破棄を宣言し、
隣では甘ったるい声の“聖女”が「こわかったんですぅ♡」と泣き真似をしている。
だが私は知っている。
原作では、この聖女こそが禁術で王太子の魔力を吸い取り、
私に冤罪を着せて処刑へ追い込んだ張本人だ。
優しい家族を守るためにも、同じ結末は絶対に許さない。
私は転生者としての知識を武器に、
聖女の嘘と禁術の証拠を次々に暴き、
王太子の依存と愚かさを白日の下に晒す。
「婚約は……こちらから願い下げです」
土下座する王太子も、泣き叫ぶ聖女も、もう関係ない。
私は新しい未来を選ぶ。
妹なんだから助けて? お断りします
たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる