異世界でボッチになりたいが、なれない俺

白水 翔太

文字の大きさ
4 / 42

第三話 初めての戦い

しおりを挟む
「ボッシュ遅れてるぞ!」

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「はら、もうすぐ街が見えてくるはずだ。頑張れ!」

「うぐ……。も、もう駄目だ……。俺は後からいく」

「先に行っていいのか? この山は魔物が出るそうだぞ」

「と、父さん! ちょっと待ってくれよ! そ、そもそも走る必要なんかねーだろ!」

「走った方が早く着く。それだけ魔物に遭遇しないということだ」

「前回は歩きだったじゃないか!」

「前回は日も昇らないうちに屋敷を出ただろ。今回出発したのは昼前だぞ」

「ならなんで早く出ないんだよ……」

「これも特訓のうちだ。言っとくが、お前だけが遅れているんだぞ」

「レ、レオンと一緒にしないでくれ。あいつは優勝候補だろ」

「ルイスも平気そうだぞ。あいつはお前よりも三つも年下だぞ」

「くっ……。あの野郎、急になんだっていうんだ」

「まあ、確かにな。俺もビックリしている。ルイスはここ一か月で見違えたな」 

 俺たちはいま、木が鬱蒼と生い茂る山道を駆け上がっていた。道といっても、獣道のような細さで地面もでこぼこだ。足元に気を配って走らないと捻挫しかねない。

 正面を走るのはレオン。尊敬すべき長兄はこれでも走るスピードを抑えているのだ。後ろを振り返ると遥か後方にボッシュの姿。完全に息が上がっていた。真面目に鍛錬してこなかったツケだ。最後尾の父はボッシュを叱咤し、追い立てるように走っていた。

 前世の記憶を取り戻したあの日以降。俺は一日をほぼ鍛錬に費やした。膝が痛くならない体は最高だった。しかも前世とは違い羽が生えたように体が軽かった。体重が減ったからではない。体がすごくタフになった気がする。

「ルイス! 気をつけろ!」

「わかってる! 三体だね」

「俺が二体やる。お前は一体いけるか?」

「もちろん!」

 進行方向右手の奥の木々が僅かに揺れていた。次第に木の葉の揺れが大きくなり、ガサガサと木々が擦れ合う音が聞えてきた。

「来るぞ!」

 ゲヒャゲヒャゲヒャ! という醜い叫びを上げながらそれが飛び出して来た――。

 緑色の肌をした小人。耳の先端は尖り、顔のサイズに対し大きすぎる鼻。毛の類は一切生えていない。はっきりいって醜悪そのもの。その手には太い木の棒を持っていた。

 ゴブリンだった。

 三体とも俺に向かって一直線に突進してきた。獲物として一番狩りやすく見えるのだろう。無理もない。まだ七歳だしな。

「させるか!」

 俺とゴブリンとの間にレオンが割り込む。左の腰にかけた鞘に手をかけ、引き抜き様に斬り上げる。赤い残像が走った。

「グギャッ!?」

 ゴブリンの首と胴体とが易々と切断された。物言わぬ頭が斜面を転がっていく。鼻につくような嫌な臭いがした。切断面が真っ黒に焼け焦げていた。

「グギャギャギャギャ!」

「遅い!」

 もう一体がレオンに飛びかかろうとしたが、レオンの動きは速かった。斬り上げた大剣を一瞬で斬り返し、今度は袈裟懸けのように斬り捨てる。先ほどと同じように赤い閃光が走る。よく見ると大剣の刃に炎を纏っていた。

 すれ違い様の一瞬で二体を仕留めていた。見事な剣さばきだ。

「ルイスいったぞ!」

 一体のゴブリンがレオンの脇をすり抜けて、俺に向かってきた。近くで見れば見るほど悍ましい姿だ。

「おらぁあああ!」

 大きく跳躍し、体重を乗せて剣を振り下ろした。

「グギャァッ!?」

 俺は剣に属性を乗せることができない。なので、力押しするしか手がないのだ。ゴブリンの脳天に剣が突き刺さる。体重が足りないので斬り裂くことは叶わなかった。

 頭から緑色の液体を噴き出し動かなくなるゴブリン。さすがにちょっとグロい。

「おお! 凄いなルイス。初めてだと普通恐怖で体が竦んでしまうものなのに」

「いやまあ……。大丈夫かな?」

 前世にやり込んだVRゲームで慣れていたりする。ゲームでは、ありえないほど巨大な竜と戦ったこともある。あれはマジ恐怖だった。絶叫してログオフしたら、軽く小便ちびってたのは黒歴史だ。

「うげぇぇえええ!」

「ボッシュはだらしねーなー」

 ゴブリンの死体を見て嘔吐する次兄にレオンが呆れていた。でもまあ、こいつもまだ十歳だしな。これが普通の子供の反応だと思う。

「ルイス、特訓の成果をうまく出せたようだな」

「うん、これも父さんとレオンのお蔭だよ」

「いやいやいや、お前の上達スピードはおかしいぞ」
 
 レオンがありえないと左右に首を振る。

 記憶を取り戻した翌日。ボッシュはすでに俺に掠ることすらできなかった。そりゃそうだ。対人プレーもVRで馬鹿みたいにやったからな。気づいたときにはプレイヤーキラーをキラーする方に回ってたし。現実世界には友達一人もいないのだ。仮想空間でくらいヒーロー気取りしたかったのだ。ゲームにのめり込んで学校行かなくても、教師も親も何もいわねーし。親になんてそのまま部屋から出て来るなとか言われたし。

 幾戦にも渡る死闘の結果、相手の瞳の動きを見れば大体の狙いはわかるようになった。達人でもない限り、狙った場所にどうしても目線がいくのだ。体の捌き方一つで次にどのような攻撃をしてくるかもわかるのだ。VRってほんと凄いと思う。

「ルイスちょっと下がってろ」

「何するんだ? うぉっ!?」

 ゴブリンの死体にレオンが剣を振り下ろすと、勢いよく火柱が上がった。

「死体を燃やさないとゾンビにでもなるのか?」

「ああ、違う違う」

 レオンは燃え尽きて灰になった場所に屈みこむ。立ち上がった時には手の平に何かをのせていた。小指の爪よりも小さな黒い水晶だった。

「これが魔結晶だ」

「時計の電池か?」

「でんち?」

「あ、いや。時計が動くためのエネルギーだよね」

「時計というか魔道具全ての動力源だ」

 魔結晶と聞いてもすぐにピンとこなかった。そもそも家には魔道具なんて無かったからだ。村にも一つしかない。中央広場に建てられた柱時計だ。柱の中心に魔結晶が埋めこまれていると聞いたことがある。

「村の時計に使うの?」

「いやいや、こんな小さいものでは大したことができない。精々、台所の火の代わりとして数日分といったところだろうな」

 おお、この世界には魔結晶を利用した家電みたいなものがあるのか。レオンが俺に説明している間に父が他の二体の死体を燃やしていく。どちらも同じように魔結晶が残されていた。

「これを街に持っていけば、今晩の宿代くらいにはなるだろう」

「なるほど、儲かったね!」
 
 父さんがほくほく顔で頷く。薄々気づいていたが、やはりうちは貧乏領主なのだろう。

「そうだルイス。ゴブリンを倒して何か変わったことはないか?」

「そういえば、体が少し軽くなった……かも?」

「魔物を倒すと魔力が得られるんだ」

「魔物が強ければ強いほど大きな魔力が得られる?」

「ああその通りだ」

 経験値は魔力。ドロップアイテムとして魔結晶が手に入るようなイメージでいいのかな。

「さあ、あともう少しだ。おい、ボッシュ! いつまで横になっている。ぐずぐずしてると日が暮れてしまうぞ」

「あ、ああ……」

 ボッシュの顔はまだ青褪めていた。いつもの憎まれ口を叩く元気もなさそうだ。いつもこうならいいのに。

 そして俺たちは再び山道を走り始めた。

 三十分ぐらいすると、上りから下り坂へと変わった。

「わあ! あれは――」

「ああ、あそこがポリシアの街だ。この国でも十指に入るほど栄えているんだぞ」

 円形の石壁に囲まれた街。まさにファンタジー世界で良く見る中世的な街並みだ。駄目だ。胸の高鳴りが抑えられない。

「うぉぉおおおお!」

 気づいたら、山道を駆け降りていた。

「こら! ルイス! 一人で勝手にいくな!」

「父さん、無理ないって。あれを初めてみたら誰だって興奮するよ」

「まあそうか。俺も昔はここに戻るたびに胸が高鳴ったしな」

 この街で自由になる!
 ここから俺の異世界での新たな人生が始まるのだ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。  そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。   しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。   ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。   武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」  登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。   これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...