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第三話 初めての戦い
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「ボッシュ遅れてるぞ!」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「はら、もうすぐ街が見えてくるはずだ。頑張れ!」
「うぐ……。も、もう駄目だ……。俺は後からいく」
「先に行っていいのか? この山は魔物が出るそうだぞ」
「と、父さん! ちょっと待ってくれよ! そ、そもそも走る必要なんかねーだろ!」
「走った方が早く着く。それだけ魔物に遭遇しないということだ」
「前回は歩きだったじゃないか!」
「前回は日も昇らないうちに屋敷を出ただろ。今回出発したのは昼前だぞ」
「ならなんで早く出ないんだよ……」
「これも特訓のうちだ。言っとくが、お前だけが遅れているんだぞ」
「レ、レオンと一緒にしないでくれ。あいつは優勝候補だろ」
「ルイスも平気そうだぞ。あいつはお前よりも三つも年下だぞ」
「くっ……。あの野郎、急になんだっていうんだ」
「まあ、確かにな。俺もビックリしている。ルイスはここ一か月で見違えたな」
俺たちはいま、木が鬱蒼と生い茂る山道を駆け上がっていた。道といっても、獣道のような細さで地面もでこぼこだ。足元に気を配って走らないと捻挫しかねない。
正面を走るのはレオン。尊敬すべき長兄はこれでも走るスピードを抑えているのだ。後ろを振り返ると遥か後方にボッシュの姿。完全に息が上がっていた。真面目に鍛錬してこなかったツケだ。最後尾の父はボッシュを叱咤し、追い立てるように走っていた。
前世の記憶を取り戻したあの日以降。俺は一日をほぼ鍛錬に費やした。膝が痛くならない体は最高だった。しかも前世とは違い羽が生えたように体が軽かった。体重が減ったからではない。体がすごくタフになった気がする。
「ルイス! 気をつけろ!」
「わかってる! 三体だね」
「俺が二体やる。お前は一体いけるか?」
「もちろん!」
進行方向右手の奥の木々が僅かに揺れていた。次第に木の葉の揺れが大きくなり、ガサガサと木々が擦れ合う音が聞えてきた。
「来るぞ!」
ゲヒャゲヒャゲヒャ! という醜い叫びを上げながらそれが飛び出して来た――。
緑色の肌をした小人。耳の先端は尖り、顔のサイズに対し大きすぎる鼻。毛の類は一切生えていない。はっきりいって醜悪そのもの。その手には太い木の棒を持っていた。
ゴブリンだった。
三体とも俺に向かって一直線に突進してきた。獲物として一番狩りやすく見えるのだろう。無理もない。まだ七歳だしな。
「させるか!」
俺とゴブリンとの間にレオンが割り込む。左の腰にかけた鞘に手をかけ、引き抜き様に斬り上げる。赤い残像が走った。
「グギャッ!?」
ゴブリンの首と胴体とが易々と切断された。物言わぬ頭が斜面を転がっていく。鼻につくような嫌な臭いがした。切断面が真っ黒に焼け焦げていた。
「グギャギャギャギャ!」
「遅い!」
もう一体がレオンに飛びかかろうとしたが、レオンの動きは速かった。斬り上げた大剣を一瞬で斬り返し、今度は袈裟懸けのように斬り捨てる。先ほどと同じように赤い閃光が走る。よく見ると大剣の刃に炎を纏っていた。
すれ違い様の一瞬で二体を仕留めていた。見事な剣さばきだ。
「ルイスいったぞ!」
一体のゴブリンがレオンの脇をすり抜けて、俺に向かってきた。近くで見れば見るほど悍ましい姿だ。
「おらぁあああ!」
大きく跳躍し、体重を乗せて剣を振り下ろした。
「グギャァッ!?」
俺は剣に属性を乗せることができない。なので、力押しするしか手がないのだ。ゴブリンの脳天に剣が突き刺さる。体重が足りないので斬り裂くことは叶わなかった。
頭から緑色の液体を噴き出し動かなくなるゴブリン。さすがにちょっとグロい。
「おお! 凄いなルイス。初めてだと普通恐怖で体が竦んでしまうものなのに」
「いやまあ……。大丈夫かな?」
前世にやり込んだVRゲームで慣れていたりする。ゲームでは、ありえないほど巨大な竜と戦ったこともある。あれはマジ恐怖だった。絶叫してログオフしたら、軽く小便ちびってたのは黒歴史だ。
「うげぇぇえええ!」
「ボッシュはだらしねーなー」
ゴブリンの死体を見て嘔吐する次兄にレオンが呆れていた。でもまあ、こいつもまだ十歳だしな。これが普通の子供の反応だと思う。
「ルイス、特訓の成果をうまく出せたようだな」
「うん、これも父さんとレオンのお蔭だよ」
「いやいやいや、お前の上達スピードはおかしいぞ」
レオンがありえないと左右に首を振る。
記憶を取り戻した翌日。ボッシュはすでに俺に掠ることすらできなかった。そりゃそうだ。対人プレーもVRで馬鹿みたいにやったからな。気づいたときにはプレイヤーキラーをキラーする方に回ってたし。現実世界には友達一人もいないのだ。仮想空間でくらいヒーロー気取りしたかったのだ。ゲームにのめり込んで学校行かなくても、教師も親も何もいわねーし。親になんてそのまま部屋から出て来るなとか言われたし。
幾戦にも渡る死闘の結果、相手の瞳の動きを見れば大体の狙いはわかるようになった。達人でもない限り、狙った場所にどうしても目線がいくのだ。体の捌き方一つで次にどのような攻撃をしてくるかもわかるのだ。VRってほんと凄いと思う。
「ルイスちょっと下がってろ」
「何するんだ? うぉっ!?」
ゴブリンの死体にレオンが剣を振り下ろすと、勢いよく火柱が上がった。
「死体を燃やさないとゾンビにでもなるのか?」
「ああ、違う違う」
レオンは燃え尽きて灰になった場所に屈みこむ。立ち上がった時には手の平に何かをのせていた。小指の爪よりも小さな黒い水晶だった。
「これが魔結晶だ」
「時計の電池か?」
「でんち?」
「あ、いや。時計が動くためのエネルギーだよね」
「時計というか魔道具全ての動力源だ」
魔結晶と聞いてもすぐにピンとこなかった。そもそも家には魔道具なんて無かったからだ。村にも一つしかない。中央広場に建てられた柱時計だ。柱の中心に魔結晶が埋めこまれていると聞いたことがある。
「村の時計に使うの?」
「いやいや、こんな小さいものでは大したことができない。精々、台所の火の代わりとして数日分といったところだろうな」
おお、この世界には魔結晶を利用した家電みたいなものがあるのか。レオンが俺に説明している間に父が他の二体の死体を燃やしていく。どちらも同じように魔結晶が残されていた。
「これを街に持っていけば、今晩の宿代くらいにはなるだろう」
「なるほど、儲かったね!」
父さんがほくほく顔で頷く。薄々気づいていたが、やはりうちは貧乏領主なのだろう。
「そうだルイス。ゴブリンを倒して何か変わったことはないか?」
「そういえば、体が少し軽くなった……かも?」
「魔物を倒すと魔力が得られるんだ」
「魔物が強ければ強いほど大きな魔力が得られる?」
「ああその通りだ」
経験値は魔力。ドロップアイテムとして魔結晶が手に入るようなイメージでいいのかな。
「さあ、あともう少しだ。おい、ボッシュ! いつまで横になっている。ぐずぐずしてると日が暮れてしまうぞ」
「あ、ああ……」
ボッシュの顔はまだ青褪めていた。いつもの憎まれ口を叩く元気もなさそうだ。いつもこうならいいのに。
そして俺たちは再び山道を走り始めた。
三十分ぐらいすると、上りから下り坂へと変わった。
「わあ! あれは――」
「ああ、あそこがポリシアの街だ。この国でも十指に入るほど栄えているんだぞ」
円形の石壁に囲まれた街。まさにファンタジー世界で良く見る中世的な街並みだ。駄目だ。胸の高鳴りが抑えられない。
「うぉぉおおおお!」
気づいたら、山道を駆け降りていた。
「こら! ルイス! 一人で勝手にいくな!」
「父さん、無理ないって。あれを初めてみたら誰だって興奮するよ」
「まあそうか。俺も昔はここに戻るたびに胸が高鳴ったしな」
この街で自由になる!
ここから俺の異世界での新たな人生が始まるのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「はら、もうすぐ街が見えてくるはずだ。頑張れ!」
「うぐ……。も、もう駄目だ……。俺は後からいく」
「先に行っていいのか? この山は魔物が出るそうだぞ」
「と、父さん! ちょっと待ってくれよ! そ、そもそも走る必要なんかねーだろ!」
「走った方が早く着く。それだけ魔物に遭遇しないということだ」
「前回は歩きだったじゃないか!」
「前回は日も昇らないうちに屋敷を出ただろ。今回出発したのは昼前だぞ」
「ならなんで早く出ないんだよ……」
「これも特訓のうちだ。言っとくが、お前だけが遅れているんだぞ」
「レ、レオンと一緒にしないでくれ。あいつは優勝候補だろ」
「ルイスも平気そうだぞ。あいつはお前よりも三つも年下だぞ」
「くっ……。あの野郎、急になんだっていうんだ」
「まあ、確かにな。俺もビックリしている。ルイスはここ一か月で見違えたな」
俺たちはいま、木が鬱蒼と生い茂る山道を駆け上がっていた。道といっても、獣道のような細さで地面もでこぼこだ。足元に気を配って走らないと捻挫しかねない。
正面を走るのはレオン。尊敬すべき長兄はこれでも走るスピードを抑えているのだ。後ろを振り返ると遥か後方にボッシュの姿。完全に息が上がっていた。真面目に鍛錬してこなかったツケだ。最後尾の父はボッシュを叱咤し、追い立てるように走っていた。
前世の記憶を取り戻したあの日以降。俺は一日をほぼ鍛錬に費やした。膝が痛くならない体は最高だった。しかも前世とは違い羽が生えたように体が軽かった。体重が減ったからではない。体がすごくタフになった気がする。
「ルイス! 気をつけろ!」
「わかってる! 三体だね」
「俺が二体やる。お前は一体いけるか?」
「もちろん!」
進行方向右手の奥の木々が僅かに揺れていた。次第に木の葉の揺れが大きくなり、ガサガサと木々が擦れ合う音が聞えてきた。
「来るぞ!」
ゲヒャゲヒャゲヒャ! という醜い叫びを上げながらそれが飛び出して来た――。
緑色の肌をした小人。耳の先端は尖り、顔のサイズに対し大きすぎる鼻。毛の類は一切生えていない。はっきりいって醜悪そのもの。その手には太い木の棒を持っていた。
ゴブリンだった。
三体とも俺に向かって一直線に突進してきた。獲物として一番狩りやすく見えるのだろう。無理もない。まだ七歳だしな。
「させるか!」
俺とゴブリンとの間にレオンが割り込む。左の腰にかけた鞘に手をかけ、引き抜き様に斬り上げる。赤い残像が走った。
「グギャッ!?」
ゴブリンの首と胴体とが易々と切断された。物言わぬ頭が斜面を転がっていく。鼻につくような嫌な臭いがした。切断面が真っ黒に焼け焦げていた。
「グギャギャギャギャ!」
「遅い!」
もう一体がレオンに飛びかかろうとしたが、レオンの動きは速かった。斬り上げた大剣を一瞬で斬り返し、今度は袈裟懸けのように斬り捨てる。先ほどと同じように赤い閃光が走る。よく見ると大剣の刃に炎を纏っていた。
すれ違い様の一瞬で二体を仕留めていた。見事な剣さばきだ。
「ルイスいったぞ!」
一体のゴブリンがレオンの脇をすり抜けて、俺に向かってきた。近くで見れば見るほど悍ましい姿だ。
「おらぁあああ!」
大きく跳躍し、体重を乗せて剣を振り下ろした。
「グギャァッ!?」
俺は剣に属性を乗せることができない。なので、力押しするしか手がないのだ。ゴブリンの脳天に剣が突き刺さる。体重が足りないので斬り裂くことは叶わなかった。
頭から緑色の液体を噴き出し動かなくなるゴブリン。さすがにちょっとグロい。
「おお! 凄いなルイス。初めてだと普通恐怖で体が竦んでしまうものなのに」
「いやまあ……。大丈夫かな?」
前世にやり込んだVRゲームで慣れていたりする。ゲームでは、ありえないほど巨大な竜と戦ったこともある。あれはマジ恐怖だった。絶叫してログオフしたら、軽く小便ちびってたのは黒歴史だ。
「うげぇぇえええ!」
「ボッシュはだらしねーなー」
ゴブリンの死体を見て嘔吐する次兄にレオンが呆れていた。でもまあ、こいつもまだ十歳だしな。これが普通の子供の反応だと思う。
「ルイス、特訓の成果をうまく出せたようだな」
「うん、これも父さんとレオンのお蔭だよ」
「いやいやいや、お前の上達スピードはおかしいぞ」
レオンがありえないと左右に首を振る。
記憶を取り戻した翌日。ボッシュはすでに俺に掠ることすらできなかった。そりゃそうだ。対人プレーもVRで馬鹿みたいにやったからな。気づいたときにはプレイヤーキラーをキラーする方に回ってたし。現実世界には友達一人もいないのだ。仮想空間でくらいヒーロー気取りしたかったのだ。ゲームにのめり込んで学校行かなくても、教師も親も何もいわねーし。親になんてそのまま部屋から出て来るなとか言われたし。
幾戦にも渡る死闘の結果、相手の瞳の動きを見れば大体の狙いはわかるようになった。達人でもない限り、狙った場所にどうしても目線がいくのだ。体の捌き方一つで次にどのような攻撃をしてくるかもわかるのだ。VRってほんと凄いと思う。
「ルイスちょっと下がってろ」
「何するんだ? うぉっ!?」
ゴブリンの死体にレオンが剣を振り下ろすと、勢いよく火柱が上がった。
「死体を燃やさないとゾンビにでもなるのか?」
「ああ、違う違う」
レオンは燃え尽きて灰になった場所に屈みこむ。立ち上がった時には手の平に何かをのせていた。小指の爪よりも小さな黒い水晶だった。
「これが魔結晶だ」
「時計の電池か?」
「でんち?」
「あ、いや。時計が動くためのエネルギーだよね」
「時計というか魔道具全ての動力源だ」
魔結晶と聞いてもすぐにピンとこなかった。そもそも家には魔道具なんて無かったからだ。村にも一つしかない。中央広場に建てられた柱時計だ。柱の中心に魔結晶が埋めこまれていると聞いたことがある。
「村の時計に使うの?」
「いやいや、こんな小さいものでは大したことができない。精々、台所の火の代わりとして数日分といったところだろうな」
おお、この世界には魔結晶を利用した家電みたいなものがあるのか。レオンが俺に説明している間に父が他の二体の死体を燃やしていく。どちらも同じように魔結晶が残されていた。
「これを街に持っていけば、今晩の宿代くらいにはなるだろう」
「なるほど、儲かったね!」
父さんがほくほく顔で頷く。薄々気づいていたが、やはりうちは貧乏領主なのだろう。
「そうだルイス。ゴブリンを倒して何か変わったことはないか?」
「そういえば、体が少し軽くなった……かも?」
「魔物を倒すと魔力が得られるんだ」
「魔物が強ければ強いほど大きな魔力が得られる?」
「ああその通りだ」
経験値は魔力。ドロップアイテムとして魔結晶が手に入るようなイメージでいいのかな。
「さあ、あともう少しだ。おい、ボッシュ! いつまで横になっている。ぐずぐずしてると日が暮れてしまうぞ」
「あ、ああ……」
ボッシュの顔はまだ青褪めていた。いつもの憎まれ口を叩く元気もなさそうだ。いつもこうならいいのに。
そして俺たちは再び山道を走り始めた。
三十分ぐらいすると、上りから下り坂へと変わった。
「わあ! あれは――」
「ああ、あそこがポリシアの街だ。この国でも十指に入るほど栄えているんだぞ」
円形の石壁に囲まれた街。まさにファンタジー世界で良く見る中世的な街並みだ。駄目だ。胸の高鳴りが抑えられない。
「うぉぉおおおお!」
気づいたら、山道を駆け降りていた。
「こら! ルイス! 一人で勝手にいくな!」
「父さん、無理ないって。あれを初めてみたら誰だって興奮するよ」
「まあそうか。俺も昔はここに戻るたびに胸が高鳴ったしな」
この街で自由になる!
ここから俺の異世界での新たな人生が始まるのだ。
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