異世界でボッチになりたいが、なれない俺

白水 翔太

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第十三話 フレンド認定

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「ああもう、チカチカ気になるな……」

 どこまでも広がる純白の大地。その上を黒い大蛇が這うようにして進む。といっても雪ではない。それはこの世界の夜であればどこにでも訪れる光景だ。

 天空に煌めくのは地球と同じようなサイズの満月だ。ただ色と数が違った。この世界の月は三つだ。それぞれ赤、青、緑と異なる光を放っている。それらが混ざり合って純白の大地を生み出しているのだ。
 
 ちょうどいま、青い月に雲がかかった。

 すると白い大地が黄色へと変わった。赤と緑が混じり合うことで生み出されたのだ。同様に緑の月が雲に覆われるとピンクに。赤い月が隠れると水色へと変わるのだ。

 生憎ながら今日は雲の数が多い。このためイルミネーションが特に激しかった。

「なんでカーテンがついていないんだよ」

 窓際の席が空いていた理由が今になってわかった。月のネオンが派手すぎてとてもじゃないが眠れない。

 仕方がないので、ぼーっと外を眺めていた。ゆったりと平原の中を進んでいるようだ。実際はかなりのスピードに達しているはずだ。そう感じさせないのは、やはり遠くまで見晴らしがいいためだろう。

「お、魔物同士も争ったりするんだな」

 空に打ち上げられる人型の魔物が見えた。

 魔道列車の進路から少し離れたところにゴブリンの群れが見えた。その中心にいるのはどうやらオーガのようだ。群れで襲うことで自分たちよりも格上の相手を仕留めようとしているようだ。案外賢いのな。

 巨大なオーガがこん棒のようなものを振り回す。その度に数匹のゴブリンが宙に舞っていた。どうやらオーガに無双されて終わりそうだ。前言撤回。賢いなら逃げるべきだよな。能力差がありすぎだ。

「こりゃサファリパークならぬ、モンスターパークだな」

 外を眺めているだけで本当に多彩な魔物を確認することができた。中には魔道列車を見つけて襲いかかってくるのもいた。しかし、魔道列車の速さには全くついてこれないようだ。

 運よく数匹のゴブリンやウォーウルフが魔道列車に触れることができた。が、それも一瞬。すぐに遠方へと吹き飛ばされていった。スピードが出ていることもあるが、何らかの防御魔法が列車に展開されているように思えた。

 ポリシアの街を発ってから五時間ほど経過した。

「うおっ! なんだ?」

 列車が急に蛇行し始めた。外を見るとあちこちで火柱が上がっていた。

「やばいじゃないっすか!?」

「うわっ! なんだお前!」

 隣の席の客が窓に張り付いていた。無論、中央列にはそんなものはない。したがって俺の席の窓だ。

「それどころじゃないっす!」

「いいからいますぐ俺の膝の上から降りろ! その出っ歯を引っこ抜くぞ!」

 野郎を腰の上に乗っける趣味なんてねーぞ。

「生意気なガキっすね」

「なんだと」

「痛っ!? ちょ! 引っ張らないで! おいらが悪かったっすから!」

「ふんっ」

「ああ、おいらの大切な歯が……」

 口を押えて涙目になっていた。頭には小ぶりな獣耳。はて、どこかで見たようなシルエットだな。愛嬌があるというか間抜けというか。

「それでお前は何を言いたかったんだ?」

「お前、お前って失礼っすね。おいらにはちゃんとビバティースという名があるっす」

 ああ思い出した。こいつビーバーの獣人か。

「で?」

「で? じゃないっす! おいらが名乗ったんだから――。うわぁぁああ!?」

「なんだ今の轟音は……。随分と揺れたな」

「あああ、やばいっす! まさかあんなのに出くわすとは」

「だから何なんだよ」

「窓際に居るなら上を見るっす!」

「何も見えないぞ」

「もっと顔を寄せないとないとだめっす」

 窓に片頬をくっつけ上を見る。

「おお、これはまた立派だな」

「何を悠長なことを言っているっすか。あれはサラマンダーっす。討伐ランクはチームでもAランク以上っす!」

 どうやら難敵と遭遇してしまったようだ。体長は二十メートルくらいありそうだ。空を駆ける竜相手では高速列車でも振り切れないようだ。

「ああ、もう駄目っす……。ポリシアの街になんて行かなきゃよかった」

「何が駄目なんだかよくわからんけどな」

「あんた脳みそが無いっ――。い、痛ぁあ!?」

 失礼なビーバーだ。出っ歯を軽く小突いてやった。

「何をするっすか!?」

「まあ、落ち着けよ」

「なんであんたはそんなに余裕なんすか!」

「いやだってさ、サラマンダーの翼に穴開いてるし」

「へっ? うわぁああ!?」

 再び轟音とともに車内が大きく揺れた。

「やばいっす! 炎のブレスで溶かされるっす!」

「いや、この揺れは逆だぞ」

 上空を羽ばたいていた竜が下降し始めた。というか墜落だな。両翼に大きな穴が開いていた。

「列車にも魔道砲がついていたようだな」

「ほんとっすか!?」

「ああ、街のと比べるとおそらく小ぶりだろうが。それでも竜一匹相手には十分だったようだな」

「あ、ほんとっす!」

 大地に激突するのがビバティースの席からも見えたようだ。

「しっかし餓鬼、い、いや坊ちゃんは歳に似合わず肝が据わってるっすね」

「ルイスだ」

「はい?」

「名前だ。それと俺は子供じゃない。すでに二十歳を超えている」

「へっ!?」

 前世の年齢を足したらな。

「で、でも……。人族はみな同じような成長すると聞いたっすよ」

「まあ、普通はそうだな」

「子供頃はみみっちい歯で、大人になるとしょぼい歯に変わり、歳をとるとその象徴すら抜けてなくなるって」

「判断基準が全て歯かよ」

「歯が命っす!」

 言ってることが昔の芸能人みたいだな。

「まあ、とりあえず脅威は去ったようだな。はあ、あと五時間近くも乗ってないといけないのか」

「何がっすか?」

「何がって王都に着くまであと五時間くらいだろ?」

「え? いや、あと十五時間はかかるっすよ?」

「なんでだよ。乗車時間は十時間って聞いたぞ」

「あ、それって王都からポリシアの街までっすね」

「なら同じだろ。まさかルートが違うのか?」

「ルートは同じっす」

「それなのに二倍かかるのはどう考えてもおかしいだろ」

「上りだからっす」

「上り?」

「王都は標高四千メートルの所にあるっす」

 富士山よりも高かった。

「なんでまたそんな所に……。不便すぎだろ」

「神に一番近い都市と呼ばれているっす」

「きな臭いな」

 なんか宗教的な感じがして嫌だな。前世ではやたらと勧誘されたんだよ。よほど幸薄い顔をしていたようだ。

 あらゆる場所で待ち構えられていた。自宅の門の前。学校の校門。酷かったのが腹痛で公園のトイレに飛び込んだ時だ。先に便器を占拠されていてドアの向こうから勧誘されたんだよ。腹が痛くて話を聞く余裕なんてあるはずもなかった。あの時が一番危なかった。トイレから出てくれるなら入信すると誓いそうになったよ。まあ結局、やってはいけないことをして乗り切ったが。駄目だよ。小にしたら流れないからね……。

「はあ、ならあと十五時間ずっと寝れないのかよ」

「なぜっすか?」

「このイルミネーションが眩しすぎるんだ」

「じゃあこれをしたらどうっすか?」

「それは眼鏡か?」

「ムーングラスっす。月明り完全にシャットダウンするっす」

「ほう、ちょっと貸してくれ。おお、ほんとだ!」

 眼鏡をかけると完全に真っ暗だ。どういうわけか横からは光がまったく入ってこない。まるでアイマスクをしているようだ。てか、アイマスクでいいんじゃないか? なぜわざわざサングラスみたいな眼鏡にする必要があるんだ。

「それ使うっすか?」

「おお、いいのか? でもそれだとビバティースが寝れないんじゃないのか?」

「おいらはたくさん持っているから大丈夫っす」

「おおそうか。なら遠慮なく」

「五千ギルでいいっす」

「へ? 金取るのかよ」

「当たり前っす」

「がめついな」

「ただより怖いものはないっすよ。これでも友達価格っす」

「ほお、友達に売りつけるのか」

 そもそもいつから友達になったのか教えて欲しいところだ。

「無償で貰ったら、その十倍の価値で返せ」

「は?」

「商人たちの暗黙のルールっす」

「いや、俺商人じゃないし」

 つーか、十倍返しってどんだけだよ。

「おいらは商人っす」

「え? そうなの?」

「小さいながらも王都で店を構えているっす。といっても開店間もないっすけど……」

 少し恥ずかしそうに笑うビバティース。

「ぶっ――」

「どうしたっすか?」

「いや、なんでもない……」

 やべー。いま噴き出しそうになった。だって笑うとさ。出っ歯が、出っ歯が……。

「商売が成功するといいな」

「勿論っす! 王都一、いや世界一の商会を目指しているっす! そのためなら寝る間も惜しんで働くっす!」

「そうか……」

 やる気と自信に満ち溢れたビバティース。

 日本でいま夢を語れる若者がどれくらいいるのだろうか? 少なくとも俺にはそんな大それた目標は無かった。それはこの世界に来ても変わらない。ただ、一人でゆっくりする時間が欲しかった。草食系? 上等だ。肉を食うよりエコじゃないか。そう強がって見るが、やはり目の前で熱く語られると少し羨ましかった。

「ほら、五千ギルだ」

「まいどー」

「じゃあ、俺は寝るからな」

 ムーングラスを掛けて、シートを倒す。これ以上話を続けると自分が駄目人間に思えてきそうなのでさっさと寝ることにした。

 暗闇に包まれると、急激に睡魔が襲ってきた。

「そういえばそれ――」

 ビバティースが俺に何か話しかけていたようだ。しかし、夢の世界にすでに片足を突っ込んでいた俺の耳には、その内容は入ってこなかった。
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