異世界でボッチになりたいが、なれない俺

白水 翔太

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第十二話 出立

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「いたたた……。マジ色んな意味で危なかったな」

 俺の足元で大の字に伸びているのは白髪の少年だ。顔面から夥しい血を流しているが、死んではいないようだ。

 でも咄嗟に出たのが手で良かった。こいつも身体強化をしていたようだが、出たのが足だったら今ごろ頭部が爆ぜていたな。危うく殺人者のレッテルを貼られるところだった。静かにスローライフを送りたいのだ。指名手配犯として逃亡生活とかありえない。

「おい、あの無能どういうことだ?」

「さっきまで重傷だったよな」

「まやかしの魔法かなにかか?」

「モンスターが化けているのもしれんぞ」

「やはり災厄をもたらすのか」

「誰かあいつを捕らえろ!」

 観衆が煩い。あ、やべ。遠くから警備隊が駆けてくる。騒ぎを聞きつけたのか、誰かが呼びにいったのかもしれない。

「おらどけよ!」

 取り巻く観衆を押しのけて大通りから路地裏に入る。観衆どもが警備隊に俺の逃げた方を教えている声が聞こえる。挟み撃ちとかいうフレーズも聞こえた。

「ふん、やれるもんならやってみろ」

 俺は軽く跳躍し、二階建ての屋根に乗る。あとは屋根伝いに移動するだけだった。自分達の頭上を移動する俺には一切気づかなかった。

「しかし、カラードの連中は要注意だな。今度からはもっと気をつけないと。あ、そういえばもう一個あったな」

 無限収納から紐の輪っかを取り出し、腕に通す。自動でサイズが調整されしっかりとフィットした。

 身代わりのミサンガ。

 致命傷を受けた際、そのダメージを肩代わりしてくれる魔道具だ。これをしていなかったら今頃は……。そう思うとゾッとする。俺は腹部に手を当てるがまったく痛みを感じない。完全にキャンセルされたようだ。

 刺された時にバチンと響いたのはミサンガが効果を発揮して切れたのだろう。通常であれば期間は一か月。その間に命の危機に遭わなければ切れずにただのミサンガに成り下がるらしい。俺の場合は期間が無制限となるようだ。

「服も買わないといけないな」

 さすがに服まではキャンセルされないようだ。お腹辺りにぽっかりと穴が開いていた。見えないがおそらく背中もそうなっているはずだ。

 コロセウムを挟んで逆側にある別の商店街へ向かう。あっちであれば先ほどの騒ぎもまだ伝わっていないだろう。

「すみません。この店の服に魔道具ってありますか?」

「ええ、ございますが……」

 訝し気に俺を見下ろす服屋の店主。カラフルな髪型と尖った黄色の嘴。鳥獣人のようだ。どうやら俺からは金持ちのオーラは出ていないようだ。

「あ、僕ね。使えなくなった魔道具のコレクターしているんだ。だから――」

「いいわよ! 全部持っていって構わないわ! ついてらっしゃい」

 服は防具とは違い比較的安く、日常的に身に着けるものだ。このため種類も量も豊富だった。つまり、返品される数も多い。この店では月に一度一斉に処分するらしい。都合がよいことにそれは数日後。なので今は山積みだった。

「でも、他人が着た服に袖を通すのはちょっとなあ」

「大丈夫よ。魔法でクリーニングしてあげるわ。一着あたり百ギルでいいわよ」

 金とるんだ。でも、服自体は無料らしいからお願いすることにした。

「あのー。女性用はいらないんですけど……」

 スカートとか、ブラとか。それパンティーだよね。こんなの身に着けたら完全に変態じゃないか。

「何を言うの! コレクターなら男女差別したら駄目よ。全商品をコンプリートする意気込みじゃないと!」

「はあ……」

 単にいらないものを全て俺に押しつけたいだけだよね。

「とりあえず一着いま着替えたいんだけど。何かいいものあるかな?」

「あら、コレクトするだけじゃなく着るのね」

「集めているものを人に見せたいのさ」

「なるほどね」

 俺の装備を見て納得する店員。

「なるだけ高機能のものがいいんだけど」

「だったらこれかしら?」

 なんてことない黒い無地の長袖だ。

「これはね。セルフクリーニング、耐熱耐寒、防刃、そして僅かにだけど身体能力を向上させる機能がついているのよ」

「それはいい。でもサイズが……」

 どうみても大人のスリーエルサイズはあった。

「何いってるのよ。自動調整機能が付いているに決まっているじゃない」

「ああ、そうだったね」

 ブーツと同じだった。どうやら魔道具類にはその機能は必ずついているみたい。確かに高い品物だからサイズ限定じゃ売れないよね。

「ありがとうございましたー」

「ああ……」

 まさか二百着以上も渡されるとは思わなかった。完全にごみ回収業者だな。しかも服は無料なはずなのにクリーニング代として二万ギル以上支払ってるし。よく考えると何割かはセルフクリーニング機能がついていたよな。全部クリーニングする必要なかったんじゃないのか……。

「よし、気をとりなおして次いこう」

 屋台で気になった料理を次から次へと無限収納鞄にいれていく。生の魚や肉、果物類や野菜も大量に購入した。おっと調味料を忘れちゃならない。しかしこの鞄便利だな。カテゴリー別に自動で整理されるようだ。頭の中で念じるだけでいま自分が何を持っているのかがわかる。

 調理器具やポーションなどのアイテム類も買った。散財したが、これで旅の準備は整ったと思う。

「しかし、真っ黒なっちまったな」

 装備も入れ替えた。部位に別れた防具だとチャーリーの時のような失態をしかねない。全身を覆う革の鎧に変えた。もちろん魔武具なので色々と機能もついている。何より重量軽減機能がいいよな。つけているのがまったくわからないほどだ。

 魔武具だと思われるとやっかいなので全部黒に塗りたくった。金持ちだと思われて不必要に狙われれたくない。というのもあるが、それよりも魔武具を繰り返し使用しているのをバレる方がまずい。

「王都まで乗りたいんだけどいくら?」

「お一人様ですか?」
 
 軍用列車前の仮設の販売所にきていた。街をどうやって出ようかと考えていたらたまたま目に飛び込んできたのだ。これが一番手っ取り早く遠くにいけると思ったのだ。

「そうだけど。もしかしてすでに満席?」

「いえ、滞在日を伸ばすなど少しばかりキャンセルが出ていますので開いていますよ。お一人様ですと五万ギルになります」

「た、たけーな」

「当日券ですから」

 にしたって、高すぎないか。

「背に腹は代えられないし、それでいいや」

「席はいかがいたしますか?」

「ん? だからそれが五万ギルなんだよね?」

「それは乗車券です。席は別途かかります」

 んだとぉ。

「払わないと乗れないと」

「いえ、立ち乗りになります」

「は? 着くまでずっとか?」

 確か十時間かかるんじゃなかったか。

「そうですね。トイレも我慢して頂くことになります」

「へ? なんで?」

「貨物車両に荷物と一緒に乗ってもらうことになりますので」

 扱いがひど過ぎないか?

「わかったよ。幾ら払えばいいんだ?」

「B席が一万、A席が五万、S席は三十万ギルになります」

「それらの違いは?」

「B席ですと四人掛けのボックス席になります。A席はリクライニング付きの独立シート席、S席は個室です」

 なんつーふざけた価格設定だ。でも見知らぬ奴と十時間同じ席は正直勘弁だ。

「A席で頼む」

「かしこまりました」

 懐が一気に寒くなった。ああ、王都に行ったらまた稼がないとな。

「それでいつ出発なんだ?」

「三十分後です」

 また急だな。ちょっと道草食ってたらアウトだったじゃないか。

「もう乗っちゃってもいいのか?」

「ええ、勿論でございます」

「お弁当やお飲み物は御所望ですか?」

「どうせ別売りだろ」

「勿論でございます」

「持ち込みでもいいのか?」

「それは構いません」

「なら、いらない」

 一号車に乗り込む。しかし、列車に乗るのに梯子を伝うってないわー。俺は肩掛けバッグだからいいけど。大きな荷物がある人達はどうしているんだ? ああ、だから貨物車両があるのか。荷物の預け賃も馬鹿高いんだろーけど。

 車両内に入る。

「おお、思った以上だなこれ」

 三列で並ぶリクライニングシート。列間は通路になっている。前後のシート間も余裕があり、テーブルも据え付けられていた。中世的な時代設定にしては十分豪華といえるだろう。これでモニタがついて映画でも見れたら言うことないのにな。

 出発前とあってか席はほぼ満席だった。えーと俺の席は……。お、ラッキー。窓際じゃん。

 席に座って窓の外を見やる。ああ、やっとこれで自由になれる。でも挨拶も何もできなかったな。

「えっ――。あれってまさか」

 父とレオンとどうでもいい奴がキョロキョロと周りを見回しながらこちらに近づいてくる。やっべー、見つかったらどうしよう。

 しかし、三人とも俺には気づかなかった。列車の脇を歩いて通り過ぎていっただけだ。

「あ、もしかしてこれってマジックミラーなのか?」

 そういえば、列車の外から中の席って見えなかったな。でも正直ほっとした。バレなくてじゃない。みんな怪我もなく無事なようなので安心したのだ。彼らが探していたのは恐らく俺だろう……。レオンは思い詰めたような顔をしていたな。思い返すと胸がずきっと痛んだ。

 甲高い汽笛が三回鳴った。

 魔道列車がゆっくりと動き出す。どうやら出発するようだ。タイヤが大きいからか、思った以上に滑らかだ。

 次第に小さくなっていくポリシアの街を黙って眺める。

 前世の記憶を取り戻してからは一か月ちょっとにしかならない。でも、ルイスとして生きてきた時間は七年にもなる。故郷の村にはあまり良い思い出はない。虐げられた苦い記憶ばかりだ。

 それでも両親やレオンは俺に良くしてくれた。心から感謝している。その恩に報いず、親不孝にも何も告げずに出ていく俺を許して欲しい。きっといつか――。

「ひょこっと元気な姿を見せにいきます」

 立派になって戻るとは言えない。勇者とか英雄になんてなりたくないし。城勤めとかもありえない。だって一人気ままに生きたいんだから。それでも、ちゃんと無事に生きてますよ。楽しくやってますよ。それだけでも伝えたい。
        
「あ、あれ? おかしいな」 

 戸惑う俺の頬を涙が伝っていた。それは前世では一度も経験したことのない感情だった。
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