異世界でボッチになりたいが、なれない俺

白水 翔太

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第三十一話 俺の出番

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「そんなばかな……」

 巨漢の男が筋肉を震わせる。

「もう生き残ってるのは貴方たちだけよ!」

 指をつきつけ宣言するアンヘレス。

「いや、死んではいないけど」

 砂浜に転がる海賊たちは苦しそうに呻いていた。うん、やっぱり生きてる。

「この女狐がぁぁあ!」

「きゃっ!」

 両腕で顔を覆いながら筋肉達磨がこちらへと突っ込んでくる。光の弾が立て続けに当たり血飛沫が上がる。が、それを意にも留めないようだ。アンヘレスに近接すると両腕をかかげ――。

「食らえ! 俺様のウォッシングハンド!」

 やっぱり洗うんじゃねーかよ。どんな技か気になるよな。

「うぜーんだよ!」

「あっ――」

「ぐがぁっ!?」

 レッドに殴られ吹き飛ばされるラスカル。ただでさえ身体能力の高い狼獣人。赤ふんによる攻撃力倍増効果で大男であろうがものともしなかった。

 ああ、結局どんな技かわからんかったな。

「ぐぅぅ……。お、おい、どうなっているんだシェン!」

「いやはや、これは想定外でした。まさかあんな代物があるとは」

「ハリウッドがあれば大丈夫じゃなかったのか!」

「マジックフィールドだよ。ほんと馬鹿だなお前は」

「なっ! シェンてめえ誰に向かっ――」

「きゃぁああ!?」

「なんてことを……。仲間じゃなかったのですか」

 お頭と呼ばれた男の首が砂浜を転がっていった。こいつ、いま何をしたんだ。

「はあ、カラード対策にはこれだと思っていたんですけどね」

 肩を竦めながら近寄ってくるサングラスのサラリーマン。

 アンヘレスが魔法を撃ち込むが――。

「そんな! 魔法がまったく効いていないです!」

 ジャケットもスラックスも光弾を弾いていた。どうやらあのスーツは魔道具のようだ。

「俺の拳を受けてみろぉぉお――」

「ふふふふ、馬鹿な犬ですね」

 男が右の拳をレッドへと向ける。

「お兄ちゃん駄目!?」

 赤い閃光が走った――。

「ぐぁぁあああ!」

 レッドが腕を押さえて大地を転がる。肘から先が斬り落とされていた。

「レオーラ!」

「わかってますわ!」

「ぐぁぁあああ! 俺の腕が! 痛え、痛えよぉおお!」

「レッドさん! 黙って動かないでください! アクアさん! 彼を押さえて!」

「は、はい!」

「いまくっつてあげるわ! 汝の失いし体の一部を戻したまえ『ヒール!』。くぅっ――」

 懸命にレッドの腕を接合しようとするレオーラ。額に浮かべるは珠の汗。唇も真っ青だ。どうやらアンチマジックフィールドの影響が未だ残っているようだ。

「あれも魔導具か」

 今度は見えた。右手の中指につけていた髑髏型のシルバーの指輪。骸の口部分から、赤いレーザー光のようなものが放たれたのだ。よく見ると左手にも同じアクセサリーがついていた。ならば――。

「それで打ち止めだろ!」

「なっ! いつの間に――」

 シェンとの間を瞬時に詰めた俺は剣を振り下ろす。それぞれの指輪から魔法を発動した今がまさにチャンスだった。

「うおっ!? あ、あぶねー!」

 右の拳から再び放たれたレーザーを剣で弾く。ぎりぎりのタイミングだった。

「なんでまだ撃てるんだよ!」

「ふふふふ」

 際限なく続くレーザー光線を剣で弾く。くそ、捌くのだけで精一杯だ。でもなんで。まさか――。

「お前、インフィニティか」

「ほほう、それを知っているとは……」
 
「なぜだ。人族には遣い手はいないはずでは」

「ふふふふ、これからゆっくりと一人で考えてください。時間はたっぷりとあるのですから。墓の中ですがね!」

 左右の拳から交互に光線を放ってきた。糞、ならば――。

「この野郎!」

「ぬぅっ!?」
 
 右手に握った剣で光線を弾きながら、左手に取りだしたショートソードで斬り上げる。が、剣が触れる寸前、バックステップで躱された。

「ちっ、もう少しだったのに」

「くっ! 何故ですか! 無能の癖になぜそんな速さが」

 サングラスがブリッジの部分からポキンと折れて地に落ちた。どうやら躱し損ねたようだ。

「ん? なんだお前その目……」

 割れ落ちたサングラスから現れたのはパープルアイ。瞳だけじゃない。白目の部分も全て紫一色なのだ。

「あれは――。ま、ま、まさか――」

「どうしたレオーラ」

「そ、そいつは人族じゃありませんわ……」

「仕方ないですね。少しだけ本気をだすとしましょうか」

 シェンはニタリと不気味に口角を吊り上げる。バリバリバリという音とともに――

「おいおい、なんだよこいつ」

 背中から羽が生えてきやがった。漆黒だが紫色の複雑な模様が描かれている。蝙蝠? 獣人って変幻出来るんだっけ?

「ルイスさん! その人はとても危険です!」

「ははは、もう遅えよ!」

 いつのまにか口調も変わっていた。首裏がぞくっとした。 

「おらっ!」

「っ!? があっ!?」

 気づいた時には目の前に拳が迫っていた。ガードするので精一杯だった。腕が痺れて動かない。衝撃で後方の海まで吹き飛ばされた。

 今のはやばかった。

 直撃してたら今ごろどうなっていたかわからない。とっさにブーツに力を込めて背後に飛んだのだ。勢いを殺せなかったらと思うと、背中に冷や汗が伝う。

「何故こんなところに魔族がいるのですか!」

 魔族だと……。今まで聞かなかったのでこの世界には存在しないかと思っていた。なら、もしかして魔王もいるのか。

「ふん、野暮用よ。まあ、いずれにしろ、正体がバレたからには生かして帰すわけにはいかん」

「よく言いますわ。もともと奴隷にする気だったのに」

「命を奪われないだけいいだろう」

 どうやら俺も《インフィニティ》を全開にしないといけないようだな。ここは覚悟を決めよう。 

「守護天使よ。悪しき存在から我らを護り給え、『ホーリーサーキット!』」

「なっ――。ぐぅっ!」

 レオーラの足元を中心に、白光に輝く魔法陣が広がり、シェンを吹き飛ばした。

「お前は……。忌まわしきその技が使えるとは、まさか教会の――」

「ただの冒険者ですわ」

 レオーラは淡々と聖なる矢を次々と放っていく。

「ぐぅっ!? ぎぁっ!?」

 どうやら魔族はあのサークルの中には入れないようだ。聖光に包まれた矢が突き刺さるたびに魔族は悲痛な声をあげていた。でも不思議だ。アンヘレスの光魔法は効かないのにな。魔族って普通は光属性に弱いんじゃないのか? あれじゃあ、まるでアンデッドじゃねーか。

「糞! 覚えておれ! 次に会うときはお前らの魔珠を全てを抜き取ってやる!」

 漆黒の羽を羽ばたかせて、大空に駆け上がる魔族。向かう先は海賊船か。

「逃がしませんわよ!」

 レオーラの掲げた右手の上には聖なる矢。これまでよりも格段に大きい。それが背を向けて逃げる魔族へと突き刺さった。

「がぁぁぁああああ!?」

 絶叫を上げながら墜落する魔族。

「ああ、少し遅かったですわ」

 墜落した先はガレー船だった。
 魔族を収納した海賊船はゆっくりと方向転換し、海の彼方へと消えていった。

「レオーラ凄い!」

「姉御と呼ばせてくれ!」

「大したことないですわ。レッドさんも腕が繋がったようで何よりですわ。そうえいば、ルイスさんは?」

「兄貴そんなところで何してるんだ?」

 波打ち際で、頭から塩水を滴らせる俺に首を傾げるレッド。

 海に飛ばされた俺は反撃のため直ぐに浜辺に戻ったのだ。しかし、そこから出番がまったくなかった。これはむしろやられ役じゃないのか。レオーラの引き立て役で終わってしまった。

「ちょっと、一人にさせてくれ……」

 テントに入り個室に篭ることにした。うむ、ここなら防音が効いているはずだ。

「俺はモブじゃねぇえええ!!」

 心の叫びを口にしてみた。少しだけすっきりしたかも。はあ、もうなんか今日は疲れたよ。よし、ふて寝しよう。

 …………。

 体がベトベトして眠れない……。
 
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