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第二世界 ドデルヘン(まったり学園生活もいいもんだ)
第五十二話 飲酒ダメ絶対
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「カイト! は、激しすぎるよ!」
「しっかりと俺に掴まれ」
「う、うん!」
「おい! 首を絞めるな!」
「だって、カイト片手じゃない! 振り落とされちゃうよ!」
俺は暗闇を縦横無尽にひた走る。障害物は飛び超え、周囲の魔物は基本的に無視する。正面で邪魔する魔物のみぶった斬る。途中、冒険者たちの姿も目に入った。何人か声を掛けて来たように思えるが、一瞬で通り過ぎたのでよくわからない。というかあまり見られたくない。
「ヒ、ヒィイイイイイイ!?」
ん? 耳慣れた悲鳴が前方より聞こえてきた。暗闇に目を凝らす。こちらを凝視して顔を歪める一人の冒険者がいた。
「あれって、ミランダ教官?」
「く、くるなぁぁああああ!?」
両手を前に突き出し断固拒否の体勢だ。武器も地面に捨てていた。もはや戦う気力すらないようだ。俺は教官の脇を一瞬で通り過ぎた。こいつに構っている時間がもったいない。
「ねえ、カイト……。ミランダ教官が白目向いて倒れたよ」
振り返ったパドがそう呟いた。すれ違っただけで白目剥くとかどんだけだよ。ていうかダンジョン内で気を失って平気なのだろうか。
「まーなんとかなるだろ。教官には代わりがいるし」
「ひ、酷い……」
いま俺が走っているのはダンジョンの地下三十三階だ。まさか、再び抱き抱えて走ることになるとは思いもしなかった。
「あー、もう恥ずかしいよぉ……」
顔を真っ赤に染めて嫌がるパド。そりゃお姫様だっこなんかされたら男として屈辱だよな。中性的な顔がまた憎らしい。こいつ髪伸ばしたら性別絶対わからないぞ。
「ちょ――。うわぁぁあ!?」
崖下に階段を見つけた俺は躊躇せずに飛び降りた。順路をいちいち進んでいられない。ショートカットショートカット。おいパド。怖いからと俺の胸に顔を埋めるな。俺にはその毛はない!
なぜ、お姫様抱っこ状態でダンジョンを駆け抜けているか? その理由を説明するには時を少し遡らなければならない。
****
「その剣を直したいということでございましょうか?」
「おい、さすがにその回答は早えだろ!」
俺、いまロージェンの世界に来たばっかだよ。何も話してないよ! 初見でいきなり何いってくれてるの? こいつはストーカーか。だいたい俺はまだ異世界アタッシュケースから柄すら出していない。その剣とか、お前には何が見えているんだ。さすがにここまで来ると気味が悪い。
「執事ですから」
「お辞儀はいらない」
「ちっ――」
「おい! お前いま主に対して舌打ちしなかったか!?」
「まさか。耳鳴りか何かではございませんか?」
こいつ性格がどんどん悪くなっていくな。というかこっちが素なのか。
「はあ、もういい。それでどうなんだ。直せるのか?」
「わたくしめには無理でございます」
「別にお前じゃなくてもいい」
「こういう武具の修理などは小汚いドワーフの範疇でございます」
随分な言いぐさだな。いまドワーフ全てを敵に回したぞ。
「でもこれ神剣だぞ。そんなもの直せるのか?」
「一匹だけ心当たりがございます」
もう人扱いすらしてねーよ。
「どこにいる?」
「ここには居りません」
「んなことは知ってるよ! もしかして魔大陸か?」
「いえいえ。あんな薄汚い奴が同じ世界にいるなんて、わたくしめには耐えられません」
「この世界にいないってことかよ……。使えねー」
「わたくしめは極めて有用な存在でございます。そして無用なあ奴めはそちらの世界に居ります」
「え? もしかしてドデルヘンか?」
「そうでございます。あちらの世界は臭くて堪りませんな」
なぜそこまでドワーフをこき下ろすんだよ。
「それでどこに?」
「学園の南方に鉱石が豊富に獲れる山脈がございます」
「そこにいると」
「ええ、臭いのですぐにわかるかと存じます」
「おい」
「蟻の巣のように坑道が張りめぐらされております。その中心に蟻たちの街があります」
「蟻じゃなくてドワーフな」
「さらにその街の中心から地下深くに向かって坑道が伸びております」
「採掘しまくりだな」
「ええ、いつなんどき崩落してもおかしくないでしょう。地震でも起きてひと思いに潰れてしまえばよいかと」
「おい、話がずれているぞ」
「申し訳ございません。その地下坑道の奥底にあ奴めが居るはずです」
「そうかわかった」
「それと、あ奴めはかなりの偏屈。差し入れをした方がスムーズに話が進むかと存じます」
「そうなのか」
たしかにドワーフは偏屈のイメージがあるが。
「ドワーフの好物は酒でございます。いつも酒臭くてたまりませんな」
「おい」
「学園のダンジョンの地下三十八階に温泉がございます」
「ん? それがどうした?」
「温泉水そのものがお酒なのです。アルコール度数も高くドワーフにとっては美酒でございましょう」
「なんか無茶苦茶な設定だな」
「これをお持ちください」
「おお、年季を感じる甕だな」
「この骨董品に入れてご持参いただければ、主様のご要望にもきっと耳を傾けてくれることでしょう」
「おお、それは有り難い。相変わらず準備がいいな。執事だもんな!」
「わたくしめの言葉をとらないで頂きたい……」
ちょ、いま目が光ったんだけど。
「まあいい。さっそく行って来るとしようか」
胸に手をあてお辞儀するコールマン。それに背を向けドデルヘン世界へと戻る。去り際にコールマンが呟いた声が耳に入る。
「ルシア様にご挨拶もしないで帰られるなんて、後でしこたま怒られますね。ふふふ……」
てめぇえええ早くいえこの野郎!? しかも笑ったな! いま笑いやがっただろ! そう思った時にはすでに転移が完了していた。
****
「しかし、パートナーがいないと潜れないってのはやはり不便だな」
「ご、ごめん。ぼく足手纏いだよね……」
「まあ、今は仕方ないさ。ただ、より深く潜るためにもパドにはもっと強くなってもらわないとな」
「うん! ぼく頑張るよ!」
俺の胸で自信たっぷりに言われてもなあ。
「お、これを降りれば三十八階か」
「そういえば、この階の魔物たちってなんか動きがおかしくなかった?」
「そういえば、ふらふらしてたよな」
「地面で寝ている魔物もいたよ」
モンスターも眠気に襲われたりするのかね。そんなことを考えながら階段を下る――。
「うっ!?」
「く、くさっ!」
辺り一面に充満する臭気。
「カイト! むせ返るような瘴気だよ。やばい、ぼくなんかクラクラしてきた!」
「いや、これは瘴気でも毒ガスでもないな。俺はこの臭いを知っている」
「え、そうなの?」
「ああ、これは酔っ払いの臭いだ」
洞窟内にはアルコール臭が立ち込めていた。こりゃ堪らん。
「とにかく、水で濡らしたタオルでも口に当てていろ。そうしないと酔うぞ」
「ふへへへ、カイト~」
俺の胸に顔を擦りつけるパド。だめだ、既に酔っぱらっていた。どうやらパドは下戸だったらしい。というかまだ十一歳。未成年だから仕方ないのかもしれない。だが、男にスリスリされても気持ち悪いだけだ。
「くぅ、奥に進むにつれて臭いがどんどんきつくなるな。パド大丈夫か?」
あれ、反応がない。下を見ると真っ赤な顔でパドがのびていた。酔っぱらうとすぐ寝ちゃう系なのね。しかし、急がないと俺まで酔いそうだ。そういえば、この階って魔物をまったく見かけないな。アルコールで消毒でもされたかね。
そんな馬鹿な事を考えているうちに目的地に到着した。もうもうと湧き上がる湯気。というかこれもう完全にアルコール蒸気だよな。
「これはさすがにやばい……。このままでは泥酔確定だ」
早いとこ酒を汲んで退避しないと。ああまてよ。ここまで来たからには魂の素も集めとくか。だって二度とここには近づきたくないし。
「うお、これかなり水深があるな。アルコールでも水深と呼んでいいのかな」
深さ数メートルはありそうだ。裸にならないで温泉に入ったら沈んで中毒死確定だな。これこそまさに酒に溺れる。やべ、酔っぱらってきたかな。
俺は息を止め、パドを抱っこしたままアルコールの湯に浸かる。ありがとう着衣水泳スキル。危うく男どうし裸で抱き合ったまま入らないといけなくなるところだった。しかし、初めての出番がアルコールの湯だとは想像だにしなかったぞ。
「ぎゃぁあああ!?」
パドが絶叫をあげる。あまりの痛みに正気に戻ったようだ。ほんとこれやばい。特に擦り傷なんかに染み込んでくる。身体の水分まで奪われる。早く出ないとパドの命にかかわる……。
あれ、なんか意識が朦朧としてきた。
もうすぐ岸だ……。あと少し……。
手がうまく動かない。足の感覚もなくなってきた……。まさかこんなところでアルコール中毒死するとは……。
朦朧とする頭の中に何かが響いたような気がした。
「あれ? カイト。なんかこれいい臭いに思えて来たよ」
「ああ……。そうだな」
二人とも『超絶酒豪』というスキルを得ていた。
もはやザルではなく枠である、との説明だった。網目すらないほどアルコールに強いらしい。なんと燃費の悪い。というか、もう二度と酔えなくなったのではないだろうか。
「いやー、今回のはまじヤバかったな」
コールマンに貰った酒甕に温泉を満たして蓋をする。魂の素も無事ゲットした。ステータスが高いからといって安心してはいけないようだ。異世界には想定外の危険が潜んでいる。
「ねー、もっと持っていこうよー。これおいしーよー」
パドが温泉に顔を埋めてゴクゴクと飲んでいた。おい! 未成年! 飲酒ダメ絶対!
「お酒は二十歳からだぞ!」
「異世界にそんな制限なんてないよー」
「お前が異世界いうな!」
目的のブツをゲットした俺たちは意気揚々とダンジョンを後にした。さあて、次は南の山脈だな。
「もう駄目だぁぁああ!」
「いいから早く逃げるぞ!」
「あんなのから逃げられっこない……」
「世紀末だぁぁああ!?」
いや、この世界に世紀とかないし。ダンジョンから出たら街が大騒ぎになっていた。
「おい、一体なにがあったんだ?」
とりあえず、近くのオッサンに訊く。
「ガキとくっちゃべってる余裕なんかねえんだ! 早く逃げないと!」
「なにからだ?」
「は!? 竜に決まっているだろ!」
「は?」
「おめーには目はついてないのか!」
「いまのいままで数日間、ダンジョンに潜っていたし」
「街の上空に現れたんだよ!?」
「竜がか?」
「伝説のような馬鹿でかい白竜だ! 荒れ狂ったように咆哮をし続けていた。もう駄目だ。白い炎で街すべてが焼き尽くされるに決まっている!」
「ああああああっ!?」
「カイト、いったいどうしたの?」
「やべぇえええ! 春休みに実家に帰るの忘れてた!」
ママンが寂しくて街まで来たに決まっている。うわぁ、どうしよう――。
「しっかりと俺に掴まれ」
「う、うん!」
「おい! 首を絞めるな!」
「だって、カイト片手じゃない! 振り落とされちゃうよ!」
俺は暗闇を縦横無尽にひた走る。障害物は飛び超え、周囲の魔物は基本的に無視する。正面で邪魔する魔物のみぶった斬る。途中、冒険者たちの姿も目に入った。何人か声を掛けて来たように思えるが、一瞬で通り過ぎたのでよくわからない。というかあまり見られたくない。
「ヒ、ヒィイイイイイイ!?」
ん? 耳慣れた悲鳴が前方より聞こえてきた。暗闇に目を凝らす。こちらを凝視して顔を歪める一人の冒険者がいた。
「あれって、ミランダ教官?」
「く、くるなぁぁああああ!?」
両手を前に突き出し断固拒否の体勢だ。武器も地面に捨てていた。もはや戦う気力すらないようだ。俺は教官の脇を一瞬で通り過ぎた。こいつに構っている時間がもったいない。
「ねえ、カイト……。ミランダ教官が白目向いて倒れたよ」
振り返ったパドがそう呟いた。すれ違っただけで白目剥くとかどんだけだよ。ていうかダンジョン内で気を失って平気なのだろうか。
「まーなんとかなるだろ。教官には代わりがいるし」
「ひ、酷い……」
いま俺が走っているのはダンジョンの地下三十三階だ。まさか、再び抱き抱えて走ることになるとは思いもしなかった。
「あー、もう恥ずかしいよぉ……」
顔を真っ赤に染めて嫌がるパド。そりゃお姫様だっこなんかされたら男として屈辱だよな。中性的な顔がまた憎らしい。こいつ髪伸ばしたら性別絶対わからないぞ。
「ちょ――。うわぁぁあ!?」
崖下に階段を見つけた俺は躊躇せずに飛び降りた。順路をいちいち進んでいられない。ショートカットショートカット。おいパド。怖いからと俺の胸に顔を埋めるな。俺にはその毛はない!
なぜ、お姫様抱っこ状態でダンジョンを駆け抜けているか? その理由を説明するには時を少し遡らなければならない。
****
「その剣を直したいということでございましょうか?」
「おい、さすがにその回答は早えだろ!」
俺、いまロージェンの世界に来たばっかだよ。何も話してないよ! 初見でいきなり何いってくれてるの? こいつはストーカーか。だいたい俺はまだ異世界アタッシュケースから柄すら出していない。その剣とか、お前には何が見えているんだ。さすがにここまで来ると気味が悪い。
「執事ですから」
「お辞儀はいらない」
「ちっ――」
「おい! お前いま主に対して舌打ちしなかったか!?」
「まさか。耳鳴りか何かではございませんか?」
こいつ性格がどんどん悪くなっていくな。というかこっちが素なのか。
「はあ、もういい。それでどうなんだ。直せるのか?」
「わたくしめには無理でございます」
「別にお前じゃなくてもいい」
「こういう武具の修理などは小汚いドワーフの範疇でございます」
随分な言いぐさだな。いまドワーフ全てを敵に回したぞ。
「でもこれ神剣だぞ。そんなもの直せるのか?」
「一匹だけ心当たりがございます」
もう人扱いすらしてねーよ。
「どこにいる?」
「ここには居りません」
「んなことは知ってるよ! もしかして魔大陸か?」
「いえいえ。あんな薄汚い奴が同じ世界にいるなんて、わたくしめには耐えられません」
「この世界にいないってことかよ……。使えねー」
「わたくしめは極めて有用な存在でございます。そして無用なあ奴めはそちらの世界に居ります」
「え? もしかしてドデルヘンか?」
「そうでございます。あちらの世界は臭くて堪りませんな」
なぜそこまでドワーフをこき下ろすんだよ。
「それでどこに?」
「学園の南方に鉱石が豊富に獲れる山脈がございます」
「そこにいると」
「ええ、臭いのですぐにわかるかと存じます」
「おい」
「蟻の巣のように坑道が張りめぐらされております。その中心に蟻たちの街があります」
「蟻じゃなくてドワーフな」
「さらにその街の中心から地下深くに向かって坑道が伸びております」
「採掘しまくりだな」
「ええ、いつなんどき崩落してもおかしくないでしょう。地震でも起きてひと思いに潰れてしまえばよいかと」
「おい、話がずれているぞ」
「申し訳ございません。その地下坑道の奥底にあ奴めが居るはずです」
「そうかわかった」
「それと、あ奴めはかなりの偏屈。差し入れをした方がスムーズに話が進むかと存じます」
「そうなのか」
たしかにドワーフは偏屈のイメージがあるが。
「ドワーフの好物は酒でございます。いつも酒臭くてたまりませんな」
「おい」
「学園のダンジョンの地下三十八階に温泉がございます」
「ん? それがどうした?」
「温泉水そのものがお酒なのです。アルコール度数も高くドワーフにとっては美酒でございましょう」
「なんか無茶苦茶な設定だな」
「これをお持ちください」
「おお、年季を感じる甕だな」
「この骨董品に入れてご持参いただければ、主様のご要望にもきっと耳を傾けてくれることでしょう」
「おお、それは有り難い。相変わらず準備がいいな。執事だもんな!」
「わたくしめの言葉をとらないで頂きたい……」
ちょ、いま目が光ったんだけど。
「まあいい。さっそく行って来るとしようか」
胸に手をあてお辞儀するコールマン。それに背を向けドデルヘン世界へと戻る。去り際にコールマンが呟いた声が耳に入る。
「ルシア様にご挨拶もしないで帰られるなんて、後でしこたま怒られますね。ふふふ……」
てめぇえええ早くいえこの野郎!? しかも笑ったな! いま笑いやがっただろ! そう思った時にはすでに転移が完了していた。
****
「しかし、パートナーがいないと潜れないってのはやはり不便だな」
「ご、ごめん。ぼく足手纏いだよね……」
「まあ、今は仕方ないさ。ただ、より深く潜るためにもパドにはもっと強くなってもらわないとな」
「うん! ぼく頑張るよ!」
俺の胸で自信たっぷりに言われてもなあ。
「お、これを降りれば三十八階か」
「そういえば、この階の魔物たちってなんか動きがおかしくなかった?」
「そういえば、ふらふらしてたよな」
「地面で寝ている魔物もいたよ」
モンスターも眠気に襲われたりするのかね。そんなことを考えながら階段を下る――。
「うっ!?」
「く、くさっ!」
辺り一面に充満する臭気。
「カイト! むせ返るような瘴気だよ。やばい、ぼくなんかクラクラしてきた!」
「いや、これは瘴気でも毒ガスでもないな。俺はこの臭いを知っている」
「え、そうなの?」
「ああ、これは酔っ払いの臭いだ」
洞窟内にはアルコール臭が立ち込めていた。こりゃ堪らん。
「とにかく、水で濡らしたタオルでも口に当てていろ。そうしないと酔うぞ」
「ふへへへ、カイト~」
俺の胸に顔を擦りつけるパド。だめだ、既に酔っぱらっていた。どうやらパドは下戸だったらしい。というかまだ十一歳。未成年だから仕方ないのかもしれない。だが、男にスリスリされても気持ち悪いだけだ。
「くぅ、奥に進むにつれて臭いがどんどんきつくなるな。パド大丈夫か?」
あれ、反応がない。下を見ると真っ赤な顔でパドがのびていた。酔っぱらうとすぐ寝ちゃう系なのね。しかし、急がないと俺まで酔いそうだ。そういえば、この階って魔物をまったく見かけないな。アルコールで消毒でもされたかね。
そんな馬鹿な事を考えているうちに目的地に到着した。もうもうと湧き上がる湯気。というかこれもう完全にアルコール蒸気だよな。
「これはさすがにやばい……。このままでは泥酔確定だ」
早いとこ酒を汲んで退避しないと。ああまてよ。ここまで来たからには魂の素も集めとくか。だって二度とここには近づきたくないし。
「うお、これかなり水深があるな。アルコールでも水深と呼んでいいのかな」
深さ数メートルはありそうだ。裸にならないで温泉に入ったら沈んで中毒死確定だな。これこそまさに酒に溺れる。やべ、酔っぱらってきたかな。
俺は息を止め、パドを抱っこしたままアルコールの湯に浸かる。ありがとう着衣水泳スキル。危うく男どうし裸で抱き合ったまま入らないといけなくなるところだった。しかし、初めての出番がアルコールの湯だとは想像だにしなかったぞ。
「ぎゃぁあああ!?」
パドが絶叫をあげる。あまりの痛みに正気に戻ったようだ。ほんとこれやばい。特に擦り傷なんかに染み込んでくる。身体の水分まで奪われる。早く出ないとパドの命にかかわる……。
あれ、なんか意識が朦朧としてきた。
もうすぐ岸だ……。あと少し……。
手がうまく動かない。足の感覚もなくなってきた……。まさかこんなところでアルコール中毒死するとは……。
朦朧とする頭の中に何かが響いたような気がした。
「あれ? カイト。なんかこれいい臭いに思えて来たよ」
「ああ……。そうだな」
二人とも『超絶酒豪』というスキルを得ていた。
もはやザルではなく枠である、との説明だった。網目すらないほどアルコールに強いらしい。なんと燃費の悪い。というか、もう二度と酔えなくなったのではないだろうか。
「いやー、今回のはまじヤバかったな」
コールマンに貰った酒甕に温泉を満たして蓋をする。魂の素も無事ゲットした。ステータスが高いからといって安心してはいけないようだ。異世界には想定外の危険が潜んでいる。
「ねー、もっと持っていこうよー。これおいしーよー」
パドが温泉に顔を埋めてゴクゴクと飲んでいた。おい! 未成年! 飲酒ダメ絶対!
「お酒は二十歳からだぞ!」
「異世界にそんな制限なんてないよー」
「お前が異世界いうな!」
目的のブツをゲットした俺たちは意気揚々とダンジョンを後にした。さあて、次は南の山脈だな。
「もう駄目だぁぁああ!」
「いいから早く逃げるぞ!」
「あんなのから逃げられっこない……」
「世紀末だぁぁああ!?」
いや、この世界に世紀とかないし。ダンジョンから出たら街が大騒ぎになっていた。
「おい、一体なにがあったんだ?」
とりあえず、近くのオッサンに訊く。
「ガキとくっちゃべってる余裕なんかねえんだ! 早く逃げないと!」
「なにからだ?」
「は!? 竜に決まっているだろ!」
「は?」
「おめーには目はついてないのか!」
「いまのいままで数日間、ダンジョンに潜っていたし」
「街の上空に現れたんだよ!?」
「竜がか?」
「伝説のような馬鹿でかい白竜だ! 荒れ狂ったように咆哮をし続けていた。もう駄目だ。白い炎で街すべてが焼き尽くされるに決まっている!」
「ああああああっ!?」
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