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第二世界 ドデルヘン(まったり学園生活もいいもんだ)
第五十三話 白い嵐
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森の木々が次々となぎ倒されていく。地響きは次第に強くなり、いまや立っていることもままならないほどだ。
「カイトォオオオオ!!」
「か、母さん!?」
大地を突進してくるママン。
「ちょ、母さん!? 人化して人化!」
「オオオオオオオオオ!」
どうやら聞く耳はもっていないようだ。巨大な白竜が両腕を押し広げて肉薄する。常人であれば恐怖で卒倒することだろう。そして、あの腕に抱かれたら一瞬で肉片に変えられる――。
「ああ! 無事だったのね!」
「ちょ、い、痛いってば!」
危なかった。なんとか竜化が間に合った。感動の親子再会の場面が恐怖のスプラッターになるところだった。
「母さんの心はもっと痛かったのよ!」
「心配かけてごめん」
「どうして帰ってこなかったの!?」
「いや、ちょっとパートナーを鍛えてて」
「女なのね!? 私の顎で噛み砕いてやるわ!」
「違うよ! 男だよ男。ダンジョンに潜るにはパートナーと一緒じゃないと駄目なんだよ」
「あらそうなの。悪い虫でもついたのかと心配しちゃったわ」
恐ろしすぎるぞマイママン。彼女ができでもしたら自らの胃の中で消化する気かい。
あのあとすぐにパドと別れ、街はずれの森まで走った。初めてこの街を訪れた日にパパンに送ってもらった場所だ。ここなら人目にもつき難い。森の中央に開けた場所もあるので降りてきやすいと思ったのだ。
その場に着くと俺は竜の咆哮を上げた。何度か咆哮を上げれば気づいてもらえるかもしれない。そう思っていたが、ママンはものの一分もしないうちに飛来した。開けた場所に降りればいいのに、なぜか森の外に着地し、そこから二足歩行で駆け寄ってきたのだ。何の罪もない森の木々に申し訳ないことをした。合掌。
「見つけた! やっぱりここにいたのか!」
今度は空から蒼い竜が飛来した。
「あ、父さん!」
「ホワイティ! 急にいなくなるから心配したじゃないか。村人みんなで捜索していたんだぞ」
「母さんが街の上空で咆哮を上げたらしくて、街も大騒ぎだったよ」
「あんなに人前では竜の姿を見せてはならないっていっただろ!」
「仕方ないじゃない! 愛息子のことが心配だったのよ!」
「人化するなり手はあるじゃないか」
「人化したら空から一望できないじゃない! それにその方がカイトも気づき易いでしょ!」
「母さん、この森で咆哮をあげてくれれば良かったのに」
「う……」
気まずそうに下を俯くママン。まあ、冷静な判断すらできなかったのだろう。誰にも言わずに村を飛び出したようだし。
「じゃあ、カイトの無事も確認したことだし、村に帰るぞ」
「いやよ。あなた一人で帰って」
「「え!?」」
「私は数日間、あの街で暮らすわ。いえ、いっそカイトが卒業するまで居ようかしら」
「「ええええっ!?」」
いや、それは不味いでしょ。パパンならまだしもママンは……。絶対に騒動を起こすに決まってる。しかもただの騒ぎじゃなく大騒ぎ。いや天変地異的な事件を起こしかねない。
俺は無言でパパンに助けを乞う。ほら、言ってやって。
「あ、いや……。お、俺はどうなる!?」
「だから一人で帰りなさい」
パパン、そうじゃないだろ! 夫ならびしっと叱ってやれよ。
「母さん。俺はちょっと外に出かける用事もあるし。学業も忙しいし、ダンジョンにも潜らないといけないんだ。だから明日一日だけにしてよ」
「カイト!? か、母さんを捨てるの!?」
泣き崩れるママン。なんて大げさな。竜の格好をしているからとってもリアクションがデカい。いい加減、子供離れしてくれよー。鼓膜がいてえ。
「父さんも一日こっちに泊まって、明日母さんと一緒に帰ったらどうかな」
「おお、そうだな。そうしよう!」
「あなた、母子水いらずを邪魔しないでくれる?」
「俺の息子でもあるんだぞ!? そこは家族水入らずでだろ!」
「とにかく暗くなってきたし、街に行こうよ」
「そうね」
白竜がドスンドスンと歩きだす。
「母さん、ちょっと待って! 人化しないと街には入れないよ!」
「あら、そうだったわね」
二人とも街に入れるかどうか少し心配だった。身分証とかちゃんと準備してきているのかな。いや、それよりもママンを街に入れる方が遥かに不安だな。いっそ追い出されてしまえ。いや、そんなことしたら街が一瞬で消えてしまうな。
結論からいうと何の問題もなかった。二人とも元高位の冒険者で今も登録は継続されていたようだ。なんか門番の一人からサインまで求められていたぞ。しかもママンが……。
「カイト、今日は一緒のベッドで寝れるのよね」
「そ、そうだね……。一緒の部屋だけでいいと思うけどね。ちょっと寮に行ってパートナーに伝えてくるよ」
「私も行くわ。お友達に挨拶しないとね」
「そう……」
歩く核弾頭をあまり学園内には入れたくなかった。だが、さすがに来るなとは拒めなかった。そもそも学園生活をつつがなく暮らせるだけのお金を用意してもらったしな。
「あっ、カイト! どこに行ってたの?」
「ちょっと野暮用でな」
「あれ? 後ろの人達は?」
「ああ、俺の父さんと母さんだ。この辺りに用事があったついでに街に寄ったらしい。俺、今日は親と一緒に宿に泊まるからよろしく」
「えっ! カイトのご両親なの!? あ、挨拶が遅れました! カイトのパートナーのパドと言います!」
「こいつがカイトをかどかわしたのね!?」
ママンが牙を剥く。え……、人化しても牙とか生えんの!?
「いや、パドは男だから!」
「あら、人族は雄も雌っぽい臭いがするのね」
顔を赤らめ震えるパド。そうだよな。年頃の男の子を雌扱いするなんて普通怒るぞ。俺の親だから粗相がないように耐えてくれているのだろう。
「母さん、いくらなんでもそれは失礼だろ!」
「いや、いいんだ……。じゃあ、僕はアルタたちとご飯を食べに行ってくるね!」
逃げ出すように部屋を飛び出していった。ああ、なんかごめん。
「ホワイティ、もう少し言葉を選びなさい。カイトが大事な友達を無くしてしまうぞ」
「そうだったわね……。ごめんなさい」
「もういいよ。それより僕らもご飯を食べにいこうよ」
「おお、街で外食なんて久々だな」
「そうね。カイトを産んでからは一度も街に降りなかったものね」
「なにか食べたいものある?」
「「肉だ(ね)」」
そうだよね。竜だもんね。やっぱり肉食だよね。そういえば幼い頃、野菜を食べていたらどこか悪いのかと心配されて医者の所に連れて行かれたっけ。
「俺も未だ食べたことないけど、美味しいって評判のステーキ屋があるんだ」
「そこにしましょう。今日はお腹一杯食べていいのよ」
「うん」
向かう先は、美食家アルタご推薦のお店。おそらく外れはないだろう。あのアルタが大絶賛していたからな。コスパもいいらしい。
「うわっ、なにこれめっちゃ旨い!」
「洗練された焼き加減、味付けも抜群だな」
「冒険者時代でもここまでのものはあまりなかったわね」
「さすがは学問の国。調理人も相当レベルが高いな」
確かに調理科を卒業すれば、帰国したときには宮廷料理人になれる。誰かがそう言っていたな。
家族水入らずの夕飯。久々なので会話が弾むはずだった。しかし、あまりに料理が旨すぎた。三人とも黙々と料理を口に運ぶ。
「お、お客様……。大変申し訳ございません。当店はこれにて店じまいとなります」
「ん? まだ閉店の時間ではないよな?」
「うん、開店して一時間位しか経っていないんじゃない?」
パパンが不思議そうにレストランの店員を見あげる。あれ? コック帽を被っている。もしかしてこの人、この店のシェフ?
「食材が尽きてしまいまして」
「今日は団体の予約でも入っていたのかしら」
「いえ、そ、そうではございません」
「なら食材の調達ミスね」
「いえ、普段通り、牛三頭、豚十頭、羊十匹、鶏五十羽分を仕入れております」
「ならなぜよ?」
スペアリブに噛りつきながら少し不機嫌そうに訊くママン。ちょっと、お行儀が悪いよ。
「たいへん申し上げにくいのですが……」
「なによ、はっきりしないわね」
今度はローストチキンに齧りつきながら、さらに不機嫌そうに訊くママン。食事を邪魔されて機嫌が悪くなったようだ。人の話を聞くときは食べながらはいけないって、昔ママンが言っていたじゃないか。あ、あれはパパンか。うん、パパンは食事の手をちゃんと止めているな。
「お、お客様方がほぼ全てを食べ尽くしてしまいましたもので……」
「「あ……」」
パパンと被った。ママンは反応せずに食べていた。
確かにそうかもしれない。何皿食べたかわからないもんな。テーブルに積み上げられた空の皿が崩れ落ちそうになったのだ。今じゃないよ。何度もそれがあったんだ。その度に店員が駆けつけて片付けていたもんな。
「そう。なら仕方ないわね。カイト、別の店に移動しましょうか?」
「なっ――」
シェフが絶句した。
おいおい、まだ食べるのかよ。まあ、俺も食べれないことはないけどね。だって竜だし、牛一頭くらいじゃ満腹にはならないのだ。人化して長いのであえて満腹まで食べようとも思わないけどね。
そのあと店三軒を梯子して宿へと戻った。食事代がととんでもなかった。
「ねえ、父さん。お金足りたの? 宿代払えるの?」
「ああ、それなら全然問題ないぞ」
「ほんとに? 笑っているけど現実逃避じゃないよね?」
「勿論だ。たったの数枚でいいんだよ」
「え、なにが? ここの宿も高級そうだよ。とても金貨数枚では済まなさそうだけど……」
「違う違う。鱗の数だよ」
「へ?」
「剥がしてギルドに持っていけば、それだけでこの街にマイホームを数軒は建てれるぞ」
「そうなの?」
「ああ、特にホワイティのは伝説級で破格の値がつくぞ」
なんとママンは歩く宝石箱だった。ホテルもスーパースイートルームだ。
「そうだったんだ……」
それってずるくないか。俺、冒険者時代に両親が命を賭けて稼いだ貴重なお金だと思っていたんだけど。古くなって生え変わる際に剥がれ落ちた鱗でもいいとか……。
翌日は丸一日ママンのショッピングに付き合った。これも親孝行だと割り切った。というか満足させないと帰ってくれないと思って必死にサービスしたよ。学園には近づきたくなかったしな。だって、アルタとチカに出くわしたら大変だ。うちのママンの息子の溺愛っぷりは危険だ。マジで二人を噛み砕きかねない。
「次の休みは必ず帰ってくるのよ!」
息子を強く抱擁するママン。
「わかってるって。あと痛いってば!」
ママンの肌の鱗数枚が無くなっていた。剥き出しになった鱗の角が刺さるのだ。
「では、カイト。勉学に勤しんで友達とも仲良くな」
「うん、わかった」
「女にはくれぐれも用心するのよ。近づいて来る女がいたら連絡しなさい。すぐに私が飛んでいくからね」
「うん、わかった」
ぜってーしねーよ。
「ホワイティ、そろそろ行くぞ」
「ええ……」
別れを惜しむママンの背中を押すパパン。そして二頭の巨大な竜が空へと飛び立つ。
「グオォオオオオオ!」
雄大な竜の姿が少しずつ小さくなっていく。
「グオォオオオオオ!」
見えなくなるまでの間。白竜が首を後ろに曲げ、こちらを見つめながら咆哮し続けていた。
バイバイママン。
正直、一日でお腹一杯。一年くらい会わなくても平気だな。こうして白い嵐が過ぎ去った。街の騒ぎは一週間ほどしたら自然と収まっていた。
さて、さっさとドワーフの国に行かないとな。
「カイトォオオオオ!!」
「か、母さん!?」
大地を突進してくるママン。
「ちょ、母さん!? 人化して人化!」
「オオオオオオオオオ!」
どうやら聞く耳はもっていないようだ。巨大な白竜が両腕を押し広げて肉薄する。常人であれば恐怖で卒倒することだろう。そして、あの腕に抱かれたら一瞬で肉片に変えられる――。
「ああ! 無事だったのね!」
「ちょ、い、痛いってば!」
危なかった。なんとか竜化が間に合った。感動の親子再会の場面が恐怖のスプラッターになるところだった。
「母さんの心はもっと痛かったのよ!」
「心配かけてごめん」
「どうして帰ってこなかったの!?」
「いや、ちょっとパートナーを鍛えてて」
「女なのね!? 私の顎で噛み砕いてやるわ!」
「違うよ! 男だよ男。ダンジョンに潜るにはパートナーと一緒じゃないと駄目なんだよ」
「あらそうなの。悪い虫でもついたのかと心配しちゃったわ」
恐ろしすぎるぞマイママン。彼女ができでもしたら自らの胃の中で消化する気かい。
あのあとすぐにパドと別れ、街はずれの森まで走った。初めてこの街を訪れた日にパパンに送ってもらった場所だ。ここなら人目にもつき難い。森の中央に開けた場所もあるので降りてきやすいと思ったのだ。
その場に着くと俺は竜の咆哮を上げた。何度か咆哮を上げれば気づいてもらえるかもしれない。そう思っていたが、ママンはものの一分もしないうちに飛来した。開けた場所に降りればいいのに、なぜか森の外に着地し、そこから二足歩行で駆け寄ってきたのだ。何の罪もない森の木々に申し訳ないことをした。合掌。
「見つけた! やっぱりここにいたのか!」
今度は空から蒼い竜が飛来した。
「あ、父さん!」
「ホワイティ! 急にいなくなるから心配したじゃないか。村人みんなで捜索していたんだぞ」
「母さんが街の上空で咆哮を上げたらしくて、街も大騒ぎだったよ」
「あんなに人前では竜の姿を見せてはならないっていっただろ!」
「仕方ないじゃない! 愛息子のことが心配だったのよ!」
「人化するなり手はあるじゃないか」
「人化したら空から一望できないじゃない! それにその方がカイトも気づき易いでしょ!」
「母さん、この森で咆哮をあげてくれれば良かったのに」
「う……」
気まずそうに下を俯くママン。まあ、冷静な判断すらできなかったのだろう。誰にも言わずに村を飛び出したようだし。
「じゃあ、カイトの無事も確認したことだし、村に帰るぞ」
「いやよ。あなた一人で帰って」
「「え!?」」
「私は数日間、あの街で暮らすわ。いえ、いっそカイトが卒業するまで居ようかしら」
「「ええええっ!?」」
いや、それは不味いでしょ。パパンならまだしもママンは……。絶対に騒動を起こすに決まってる。しかもただの騒ぎじゃなく大騒ぎ。いや天変地異的な事件を起こしかねない。
俺は無言でパパンに助けを乞う。ほら、言ってやって。
「あ、いや……。お、俺はどうなる!?」
「だから一人で帰りなさい」
パパン、そうじゃないだろ! 夫ならびしっと叱ってやれよ。
「母さん。俺はちょっと外に出かける用事もあるし。学業も忙しいし、ダンジョンにも潜らないといけないんだ。だから明日一日だけにしてよ」
「カイト!? か、母さんを捨てるの!?」
泣き崩れるママン。なんて大げさな。竜の格好をしているからとってもリアクションがデカい。いい加減、子供離れしてくれよー。鼓膜がいてえ。
「父さんも一日こっちに泊まって、明日母さんと一緒に帰ったらどうかな」
「おお、そうだな。そうしよう!」
「あなた、母子水いらずを邪魔しないでくれる?」
「俺の息子でもあるんだぞ!? そこは家族水入らずでだろ!」
「とにかく暗くなってきたし、街に行こうよ」
「そうね」
白竜がドスンドスンと歩きだす。
「母さん、ちょっと待って! 人化しないと街には入れないよ!」
「あら、そうだったわね」
二人とも街に入れるかどうか少し心配だった。身分証とかちゃんと準備してきているのかな。いや、それよりもママンを街に入れる方が遥かに不安だな。いっそ追い出されてしまえ。いや、そんなことしたら街が一瞬で消えてしまうな。
結論からいうと何の問題もなかった。二人とも元高位の冒険者で今も登録は継続されていたようだ。なんか門番の一人からサインまで求められていたぞ。しかもママンが……。
「カイト、今日は一緒のベッドで寝れるのよね」
「そ、そうだね……。一緒の部屋だけでいいと思うけどね。ちょっと寮に行ってパートナーに伝えてくるよ」
「私も行くわ。お友達に挨拶しないとね」
「そう……」
歩く核弾頭をあまり学園内には入れたくなかった。だが、さすがに来るなとは拒めなかった。そもそも学園生活をつつがなく暮らせるだけのお金を用意してもらったしな。
「あっ、カイト! どこに行ってたの?」
「ちょっと野暮用でな」
「あれ? 後ろの人達は?」
「ああ、俺の父さんと母さんだ。この辺りに用事があったついでに街に寄ったらしい。俺、今日は親と一緒に宿に泊まるからよろしく」
「えっ! カイトのご両親なの!? あ、挨拶が遅れました! カイトのパートナーのパドと言います!」
「こいつがカイトをかどかわしたのね!?」
ママンが牙を剥く。え……、人化しても牙とか生えんの!?
「いや、パドは男だから!」
「あら、人族は雄も雌っぽい臭いがするのね」
顔を赤らめ震えるパド。そうだよな。年頃の男の子を雌扱いするなんて普通怒るぞ。俺の親だから粗相がないように耐えてくれているのだろう。
「母さん、いくらなんでもそれは失礼だろ!」
「いや、いいんだ……。じゃあ、僕はアルタたちとご飯を食べに行ってくるね!」
逃げ出すように部屋を飛び出していった。ああ、なんかごめん。
「ホワイティ、もう少し言葉を選びなさい。カイトが大事な友達を無くしてしまうぞ」
「そうだったわね……。ごめんなさい」
「もういいよ。それより僕らもご飯を食べにいこうよ」
「おお、街で外食なんて久々だな」
「そうね。カイトを産んでからは一度も街に降りなかったものね」
「なにか食べたいものある?」
「「肉だ(ね)」」
そうだよね。竜だもんね。やっぱり肉食だよね。そういえば幼い頃、野菜を食べていたらどこか悪いのかと心配されて医者の所に連れて行かれたっけ。
「俺も未だ食べたことないけど、美味しいって評判のステーキ屋があるんだ」
「そこにしましょう。今日はお腹一杯食べていいのよ」
「うん」
向かう先は、美食家アルタご推薦のお店。おそらく外れはないだろう。あのアルタが大絶賛していたからな。コスパもいいらしい。
「うわっ、なにこれめっちゃ旨い!」
「洗練された焼き加減、味付けも抜群だな」
「冒険者時代でもここまでのものはあまりなかったわね」
「さすがは学問の国。調理人も相当レベルが高いな」
確かに調理科を卒業すれば、帰国したときには宮廷料理人になれる。誰かがそう言っていたな。
家族水入らずの夕飯。久々なので会話が弾むはずだった。しかし、あまりに料理が旨すぎた。三人とも黙々と料理を口に運ぶ。
「お、お客様……。大変申し訳ございません。当店はこれにて店じまいとなります」
「ん? まだ閉店の時間ではないよな?」
「うん、開店して一時間位しか経っていないんじゃない?」
パパンが不思議そうにレストランの店員を見あげる。あれ? コック帽を被っている。もしかしてこの人、この店のシェフ?
「食材が尽きてしまいまして」
「今日は団体の予約でも入っていたのかしら」
「いえ、そ、そうではございません」
「なら食材の調達ミスね」
「いえ、普段通り、牛三頭、豚十頭、羊十匹、鶏五十羽分を仕入れております」
「ならなぜよ?」
スペアリブに噛りつきながら少し不機嫌そうに訊くママン。ちょっと、お行儀が悪いよ。
「たいへん申し上げにくいのですが……」
「なによ、はっきりしないわね」
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「お、お客様方がほぼ全てを食べ尽くしてしまいましたもので……」
「「あ……」」
パパンと被った。ママンは反応せずに食べていた。
確かにそうかもしれない。何皿食べたかわからないもんな。テーブルに積み上げられた空の皿が崩れ落ちそうになったのだ。今じゃないよ。何度もそれがあったんだ。その度に店員が駆けつけて片付けていたもんな。
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「ねえ、父さん。お金足りたの? 宿代払えるの?」
「ああ、それなら全然問題ないぞ」
「ほんとに? 笑っているけど現実逃避じゃないよね?」
「勿論だ。たったの数枚でいいんだよ」
「え、なにが? ここの宿も高級そうだよ。とても金貨数枚では済まなさそうだけど……」
「違う違う。鱗の数だよ」
「へ?」
「剥がしてギルドに持っていけば、それだけでこの街にマイホームを数軒は建てれるぞ」
「そうなの?」
「ああ、特にホワイティのは伝説級で破格の値がつくぞ」
なんとママンは歩く宝石箱だった。ホテルもスーパースイートルームだ。
「そうだったんだ……」
それってずるくないか。俺、冒険者時代に両親が命を賭けて稼いだ貴重なお金だと思っていたんだけど。古くなって生え変わる際に剥がれ落ちた鱗でもいいとか……。
翌日は丸一日ママンのショッピングに付き合った。これも親孝行だと割り切った。というか満足させないと帰ってくれないと思って必死にサービスしたよ。学園には近づきたくなかったしな。だって、アルタとチカに出くわしたら大変だ。うちのママンの息子の溺愛っぷりは危険だ。マジで二人を噛み砕きかねない。
「次の休みは必ず帰ってくるのよ!」
息子を強く抱擁するママン。
「わかってるって。あと痛いってば!」
ママンの肌の鱗数枚が無くなっていた。剥き出しになった鱗の角が刺さるのだ。
「では、カイト。勉学に勤しんで友達とも仲良くな」
「うん、わかった」
「女にはくれぐれも用心するのよ。近づいて来る女がいたら連絡しなさい。すぐに私が飛んでいくからね」
「うん、わかった」
ぜってーしねーよ。
「ホワイティ、そろそろ行くぞ」
「ええ……」
別れを惜しむママンの背中を押すパパン。そして二頭の巨大な竜が空へと飛び立つ。
「グオォオオオオオ!」
雄大な竜の姿が少しずつ小さくなっていく。
「グオォオオオオオ!」
見えなくなるまでの間。白竜が首を後ろに曲げ、こちらを見つめながら咆哮し続けていた。
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ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
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