異世界 de ソウルコレクター

白水 翔太

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第三世界 メルカド(金こそ全てだ!)

第六十五話 商談

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「アーリアの朝市はいかがでございましたか?」

 キツネ色のモフモフの尻尾が左右交互に勢いよく振られる。揉み手の速度も半端ない。

「ああ、さすが港町だな。凄い人と熱気だったよ」

 漁師たちの叫ぶ声が、キンキン耳に響いてしんどかったけど。

「お魚も貝も美味しかったー」

 目をキラキラと輝かせるチカ。

「ちょっとチカ。口元から垂れてるわよ」
「あっ、思い出してついー」
「こら、ちゃんとハンカチーフを使いなさい」

 慌てて口元から垂れた涎を拭うチカ。なんか俺の周りって食いしん坊ばっかり集まるよな。

「そうでしょうとも! どれも本日水揚げしたばかりの魚介類ばかりですからな」
「ふぁ~あ……。まあ確かに美味かったよ」

「もしや、ブランド卿は体調が優れないのですかな? 目の下に隈もできておりますぞ」
「ちょっとな……」

 結局、昨晩は一睡もできなかった。脳内騒音が治まった時には明け方だ。スヤスヤと眠るパドを抱っこし彼の自室へと送り届けた。いや、彼女だったか……。

 あのまま俺のベッドに寝かせておくと朝になってから色々と面倒な騒動が勃発するのは明らかだった。見回りと遭遇しなくてほんと良かった。

「そういえばパド様はご一緒では?」
「あいつは今日一日城のようだぞ」

 朝市についてこようとしたが執事のバロンに止められたのだ。学園での出来事を両親に報告しなければならないようだ。パドは残念がっていたが、俺としては正直ほっとした。未だどう対応していいのかわからないのだ。

 俺だってそこまで鈍くない。好かれているのはわかる。だがしかし。つい最近までは男だと思っていたのだ。いきなりデレられて対応できるか? できないよな。ルシアもいるし。そもそも女性とお付き合いした経験などないのだ。マジテンパってる。

「なので、さっさと交渉を終わらせてあっちに戻ろう」
「本日もお城で御休みになられるのですかな?」

「ああいや、そういうわけでは……」

「それよりカイト、例のモノは用意してくれた?」
「勿論だ」

 アルタに頼まれていたモノを無限収納から取り出す。銀色の巨大な寸胴鍋だ。

「おお!? 思った以上に強い香りですな」
「やったー! カレーだー」

「いや、チカ。お前さっき十分食べただろ」
「カレーは別腹だよー」
「そうよね」

 いやいやいやそんなデザートはございません。

「むむっ!? この具材は――」
「イカや海老が入ってるー!!」
「あとムール貝とホタテね」

「ああ、折角の港町だ。本日はシーフードカレーにしてみた」
「朝一で色々と買っていたのはこのためだったのね」

 地中海風カレーでございます。ルーもシーフードに合わせて少し甘めで、使用するワインも赤ワインではなく白ワインを使っている。当然、シーフードは別に炒めて後でルーに絡ませている。アルタの家の厨房を借りてちょちょいと作ったのだ。和食創造スキル様、いつもありがとう。

「しかし、この色はちょっと――」
「まあ、みんな初めはそうだよな」

「お父様、騙されたと思って目を瞑って食べてみて」
「あ、ああ……。で、では――。ワフッ!?」

 閉じていた目が見開いていた。なんか異世界ってリアクション芸人が多いよな。バラエティの食事シーンで、口に入れたまさにその瞬間に「うまっ!?」って言ってる嘘くさい奴がいるけど。絶対、まだ味覚感じてないからねアレ。

「ワゥゥウウウ、ワゥウウゥウ」

 わなわなと震えるサントニ卿。耳も尻尾もピンと立っていた。

「ね、お父様。これはいけるでしょ」
「カイ兄お代わりー!」

「だから、チカ。そんなに食べたら太っちゃうぞ」
「大丈夫ー。あとで大盾千回素振りするー」

 無邪気に物騒な事を言わんでくれ。

「売れるワン! これは絶対に儲かるワン!」

「味噌は伯爵様にお披露目したので港街アーリアの名産となることでしょう」
「そしてこのカレーは我が商会が独占ワン!」

「ふふふふふ。本命はこっちよ」
「さすが我が娘ワン!」

 商人の親娘が悪い顔して笑っていた。ヤダこの人達、江戸時代の大黒屋?

「さて、ブランド卿。このカレーを売って頂きたいワン!」
「お父様、語尾が……」

「ワフッ!? 私としたことが大変お見苦しいところを……」
「いや別に気にしていない」

 変な奴はもう見慣れた。

「それよりルーとして売ればいいのか?」
「ルーというのはこの汁のことですかな?」

「んー、まあそんな感じかな」

「そうなると料理がすぐに痛んでしまいます」
「ああ、それもそうか。そうするとレシピか」

「カイト。香辛料もこの辺りでは手に入らないものばかりだわ」
「なんと……。交易の中心ともいえる我が街ですら手に入らない材料なのか……」

「まあ、具材と小麦粉やバターは手に入るだろうから、アルタの言う通り香辛料だけかな」
「そうですか、それでお幾らでお譲りして頂けますか」

 だから揉み手が速いって。なんか手の間から煙が出てるけど大丈夫?

「金では売らない」
「そんな!?」

「ちょ! カイト!」

「物々交換なら応じよう」
「それは何とでございましょうか?」

「海産物全般だ。交換レートはアルタに決めてもらおうかな」
「え? 私?」

「ああ、俺も親父さんも損しない適正な相場で頼む」
「私は商会側の人間なんだけど?」

「友人を裏切るような真似はしないだろ」
「えっ――。い、いいわ。私が決めてあげようじゃない」

 プイと顔を背けるが、鼻の穴がヒクヒクしていた。まんざらでもないようだ。

「海産物といいますと干物や塩漬けですかな?」
「いや、乾物は海藻類のみ。それ以外はすべて朝獲れの新鮮な魚介類で頼む。俺がこの街を訪問した際に一度で交換したい」

「ですがそれは――」

「お父さん、大丈夫よ。カイトはアイテムボックス持ちなの。しかも中では時間が進まないのよ」
「なんと!? さすがはブランド卿。激レアのマジックアイテムまで」

「カイト、香辛料は家の商会への独占販売でお願いするわ。それに見合う交換レートに設定するから安心して」

「ああ別にそれでいい。味噌はどうするんだ?」

「そこまで独占すると目を付けられるから、それはこの街の商業ギルドに卸して頂戴」
「我が商会には香辛料と同時に卸してくだされば助かります」

「あー、面倒臭いのヤダから、その商業ギルドとの仲介はここでお願いするよ」
「そこまでして良いのですか?」

「ああ、そこはうまいことやってくれ」
「畏まりました。それでは末永いお付き合いを宜しくお願いします」

 この街一番の商会だけあって取り扱い商品はとにかく多かった。そして交換レートは想像以上だった。例えば、カレー二十杯あたりの香辛料で買えるのはそれぞれ次のような感じだ。

 烏賊  50杯
 蛸   10匹
 蟹   400杯
 海老  40kg
 マグロ 0.1本
 
 凄くない? 漁港だから安いのか? いや違うな。そもそもこの世界では冷凍や冷蔵技術、そして物流が日本のようには発達していないのだ。新鮮な魚介類は港町でしか食せない。水揚げ量に対し、この街だけで消費できる量は大したことないのだろう。

 そうすると残りは塩漬けや干物などの保存食にするしかない。他の街に運びそれらを消費することになるが、塩漬けや干物はそれほど高く売れるようなものではない。高くすると肉や野菜に負けるからだ。それらは内陸でも新鮮に食せるからな。そういう背景もあり、魚介類の価値が現代日本よりもかなり低いのだろう。

 にしても安すぎるような気もする。

「で? カレーは一杯いくらで販売する気なんだ?」
「五千デル程度を考えています」

「た、たかっ!?」

 ちなみに、この世界の通貨単位のデルは円とほぼ同じ価値だ。1デル=1円と考えて構わない。

「いえいえこれでも飛ぶように売れることでしょう」
「お父様。一万でも売れますわ」

「まあ、あまりぼったくるのも気が引けるからな」
「お父様は相変わらずお優しいですわ」

「ワフフフフ」
「ウフフフフ」

 アルタってこんな腹黒キャラだったけか? しかし、俺としては十分ぼってるような気がしてならない。まあでも、この世界にこれまで存在しなかった料理だ。そう考えると妥当な気もしてしまう。
しかも経営する高級レストランで提供するようだ。

 地球だってそうだよな。たいして美味しくない珍味がやたら高かったりする。カレーはマジでうまいからな。それで珍味扱いなら商売が成立するということだろう。

「に、してもだ……。蟹が安すぎないか!?」
「いえいえいえ、あんな見た目が悍ましい生き物なぞ売れませんぞ。すぐに異臭を放ちますしな」

 どうやら蟹は食されないで捨てられるようだ。まあ、見た目は確かにグロイけどさ。すぐに腐るしね。腐った時のあの臭いが……。アレやばいよね。

 蟹を初めて食べたチャレンジャー。偉大なる先祖に感謝。
 
 まあ、俺としてはとってもラッキーな話だ。ただ同然で獲れたての蟹が手に入る。しかも毛ガニやタラバガニのように種類も豊富だった。異世界アタッシュケースに入れれば別世界に運べるしな。ちなみに現在一度に運べるアイテムは十個までだ。なので、巨大な樽を数個用意し、何でもかんでも詰め込んでもらうことにした。

 さあ、これで準備は整った!

 意気揚々とメルカド世界へと移動する。え? 城に戻らないのかって? パドは? 冗談いうな。戻るわけねーだろ! どう振る舞えばいいかわからないんだ! 

 それに……。もうフラフラなのだ。安眠させて欲しい。ビビビビ、ビビビビ、と頭の中で警告音を鳴らされるのはもう勘弁して欲しい。

 安らかな寝床を求め、逃げ去るようにドデルヘン世界から旅立った。
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