74 / 91
72話 花火大会 1
しおりを挟む
「緊張するな……」
胸が妙にざわついて落ち着かない。ズボンのポケットに入れていたスマホを取り出すも、スマホの真っ黒な画面を眺めてすぐにポケットへとしまう。
特にやる事もなく上に視線をやれば紅く染まった空が目に入る。
胸がドキドキして喉が詰まってるかのように呼吸が浅くなる。
今日の夏祭りは瑠魅と那乃と俺の三人で回る予定だ。でも、瑠魅の話が本当ならば、那乃はこの夏祭りで俺に告白をするらしい……。
「このまま時が止まれば良いのにな」
目の前を浴衣を着た人たちが楽しそうな顔を浮かべながら通り過ぎていく。
木陰の下でそんな光景をぼんやりと眺めながら俺は悪態をつく。
大丈夫、いつも通りに過ごせば良い。それだけで……。
そう心に言い聞かせ、落ち着かせようとするも鼓動は無駄なほどに音を立てて動く。
「やっほ、蓮君」
「ッ………那乃」
名前を呼ばれてその方へ顔を向ける。那乃の姿を見た俺の思考は止まり、全身が妙な熱を放つ。
紺色を基調として、ピンクのアサガオの模様が入れられた浴衣を羽織った那乃は、何時になく大人に見えた。髪もいつもと違って後ろでまとめられている。
意識が徐々に戻って来ると、那乃と見つめ合っているこの時間が恥ずかしくなって顔を逸らした。
「瑠魅は……?」
「もう少しで来ると思うよ」
浅くなる呼吸なか、俺は無理やり深呼吸で吸う。
今言うべきはこれじゃない。もっと他に言うべきことがある。俺は更に息を吸って喉でつっかえているものごと声を出した。
「………に、似合ってるな、それ」
「フフッ。そうかな?ありがと!」
那乃の余裕の返しで幾分か心が軽くなる。ぶっきらぼうな言い方だったけど、俺からすれば充分及第点と言える。
「ッ……な、なんだよ?」
「何も?ただ、わたしもこの木に寄り掛かりたくなっただけ」
隣で木に寄り掛かる那乃。いつもは意識したことがなかったけど、とても良い香りが鼻をくすぐった。
そのせいか、俺はその瞬間那乃を女の子として明確に意識をしてしまった。
「ごめん、少し遅れた」
「ッ…………」
「わぁ、瑠魅ちゃん可愛い!」
立て続けに現れた瑠魅。俺はゆっくりと視線をあげて瑠魅の方を見る。俺は目の前で恥ずかしそうに笑う瑠魅の姿を見て思わず息を呑んだ。
紫色の無地の浴衣。でも、どこか絵になるその姿に俺は何も喉から出なかった。
出てきた言葉を何度も飲み込み、俺はその姿に見惚れていた。
「蓮翔……?」
「ッ……あ、あぁ……うん、似合ってるよ」
その一言で俺の意識が現実に戻されて、反射的に言葉を発した。
「蓮君も浴衣着てくれば良かったのに」
「そ、そうだな……うん。でも、家にはないからさ」
浮ついた心が俺の思考を鈍らせていく。ふわふわとしていてどこか夢見心地。呼吸をすることすら忘れて目の前で話す那乃と瑠魅の姿を眺める。
そこだけはどこか別の世界に見えた。夕日に照らされる二人の姿は幻想的で神秘的、どこか現実離れした画。
「じゃあ、行こっか」
「うん、そうしよ」
「………そうだな」
二人が歩き出す。俺はその後ろ姿を気に寄り掛かりながらボォッと眺めた。
胸から何か熱いものが込み上げて来て、目元が熱を帯び始める。
「ハハッ……泣きそうだ」
俺は二人を見失わなまいと駆け足で二人の後を追う。
俺は二人の後ろ姿を見て、こんな風に楽しく過ごせるのもあと僅か。実感なんて湧かない『死』というものが俺に近付いてきている、と……不意にそう思ってしまった。
胸が妙にざわついて落ち着かない。ズボンのポケットに入れていたスマホを取り出すも、スマホの真っ黒な画面を眺めてすぐにポケットへとしまう。
特にやる事もなく上に視線をやれば紅く染まった空が目に入る。
胸がドキドキして喉が詰まってるかのように呼吸が浅くなる。
今日の夏祭りは瑠魅と那乃と俺の三人で回る予定だ。でも、瑠魅の話が本当ならば、那乃はこの夏祭りで俺に告白をするらしい……。
「このまま時が止まれば良いのにな」
目の前を浴衣を着た人たちが楽しそうな顔を浮かべながら通り過ぎていく。
木陰の下でそんな光景をぼんやりと眺めながら俺は悪態をつく。
大丈夫、いつも通りに過ごせば良い。それだけで……。
そう心に言い聞かせ、落ち着かせようとするも鼓動は無駄なほどに音を立てて動く。
「やっほ、蓮君」
「ッ………那乃」
名前を呼ばれてその方へ顔を向ける。那乃の姿を見た俺の思考は止まり、全身が妙な熱を放つ。
紺色を基調として、ピンクのアサガオの模様が入れられた浴衣を羽織った那乃は、何時になく大人に見えた。髪もいつもと違って後ろでまとめられている。
意識が徐々に戻って来ると、那乃と見つめ合っているこの時間が恥ずかしくなって顔を逸らした。
「瑠魅は……?」
「もう少しで来ると思うよ」
浅くなる呼吸なか、俺は無理やり深呼吸で吸う。
今言うべきはこれじゃない。もっと他に言うべきことがある。俺は更に息を吸って喉でつっかえているものごと声を出した。
「………に、似合ってるな、それ」
「フフッ。そうかな?ありがと!」
那乃の余裕の返しで幾分か心が軽くなる。ぶっきらぼうな言い方だったけど、俺からすれば充分及第点と言える。
「ッ……な、なんだよ?」
「何も?ただ、わたしもこの木に寄り掛かりたくなっただけ」
隣で木に寄り掛かる那乃。いつもは意識したことがなかったけど、とても良い香りが鼻をくすぐった。
そのせいか、俺はその瞬間那乃を女の子として明確に意識をしてしまった。
「ごめん、少し遅れた」
「ッ…………」
「わぁ、瑠魅ちゃん可愛い!」
立て続けに現れた瑠魅。俺はゆっくりと視線をあげて瑠魅の方を見る。俺は目の前で恥ずかしそうに笑う瑠魅の姿を見て思わず息を呑んだ。
紫色の無地の浴衣。でも、どこか絵になるその姿に俺は何も喉から出なかった。
出てきた言葉を何度も飲み込み、俺はその姿に見惚れていた。
「蓮翔……?」
「ッ……あ、あぁ……うん、似合ってるよ」
その一言で俺の意識が現実に戻されて、反射的に言葉を発した。
「蓮君も浴衣着てくれば良かったのに」
「そ、そうだな……うん。でも、家にはないからさ」
浮ついた心が俺の思考を鈍らせていく。ふわふわとしていてどこか夢見心地。呼吸をすることすら忘れて目の前で話す那乃と瑠魅の姿を眺める。
そこだけはどこか別の世界に見えた。夕日に照らされる二人の姿は幻想的で神秘的、どこか現実離れした画。
「じゃあ、行こっか」
「うん、そうしよ」
「………そうだな」
二人が歩き出す。俺はその後ろ姿を気に寄り掛かりながらボォッと眺めた。
胸から何か熱いものが込み上げて来て、目元が熱を帯び始める。
「ハハッ……泣きそうだ」
俺は二人を見失わなまいと駆け足で二人の後を追う。
俺は二人の後ろ姿を見て、こんな風に楽しく過ごせるのもあと僅か。実感なんて湧かない『死』というものが俺に近付いてきている、と……不意にそう思ってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる