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75話 二学期
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青々と照る空、気持ち良さげに揺れる草木。
夏休み明け初日。俺の憂鬱な心境とは裏腹に空はこれでもかと輝いていた。
「はぁ……行きたくねぇな」
チャリを漕ぐ速度は心なしか遅くなる、それでも後ろから吹き付ける湿気を多分に含んだ風は、俺を前へ前へと押し進める。
昨日から無駄に緊張していたせいか、俺はいつもより三十分も早く家を出てしまった。
俺はチャリを漕ぐ気になれず、サドルから降りて徒歩に切り替える。特にやることも無いのでゆっくりと学校へと向かって歩いていく。もちろんその足取りは遅く、まるで重りを背負っているかのようだ。
「……………」
あの日、那乃に告白された日。俺はあれからずっとその事だけを考えて過ごしてきた。
………もし、あの時ちゃんと答えていれば、こんなに憂鬱な気分で登校することもなかったのかもしれない。
………もしあの時、那乃からの告白をちゃんと断ることが出来ていれば……こんな陰鬱になることもなかった。
………もしあの時、告白の答えを先延ばしにしなければ……これほどの心苦しさを感じることもなかった。
あの時俺は断るべきだった。でも、あの時の俺には那乃との関係を変える勇気がなかった。だからと言って那乃と付き合うと言う無責任な事をすることも出来なかった。
「過ぎたことはしょうがないよな。今やるべきことを……やる」
声に出してそう勇気づけ、自分で後押しをする。あの時の告白の答えは間違っていたかもしれない。でも、まだ取り返しがつく程度のミスだ。
放課後まであと六時間。それまでに脳内シミュレーションで完璧にする。
そう思うと、俺の中に根拠の無いやる気と謎の自身が湧き上がる。
俺はチャリを引きながら走り出し、その勢いそのままに地面を蹴り飛ばしてチャリにまたがる。
俺はなぜか上手くいく気がして、気持ちが良いままチャリを漕いで行く。その速度は先ほどとは比べ物にもならないほどだ。
~~~~
「……………」
おかしいな。先程まであったやる気が今は全くないぞ。学校に着く前までは確かにやる気があった。なのに、教室に入り、気付けば弱気。那乃が来ないことを祈っていたり、今日返事ができない言い訳ばかりを探してしまっている。
最悪だ。こんな状態じゃまともに目も合わせられない。
「どうしてそんな辛気臭い顔してんだ?」
「………海斗か」
いつもなら普通に会話できるが、今は会話するような気分じゃない。俺は一言謝って寝ようとするも、先に海斗が口を開いた。
「まさか、また変なこと企んでるのか?」
俺の事情など露知らず、海斗はニヤケながらそう尋ねてくる。そういう悩みではない事を知っていてわざとそんな質問をしてきている。
俺は面倒臭いと思いながらも、海斗が俺の事を思ってそんな風に茶化して来ているのだと思うと心が軽くなった。
「さぁな。海斗の顔を見てたら、なんであんなに悩んでたのか忘れたわ」
「……そうか。まぁ、さっきよりも随分まともな顔色になってるし、信じてやるよ」
「俺、そんなに酷い顔してたか?」
「あぁ、まるで告白して振られたあとみたいだ」
「………ははっ、なんだそれ」
時が止まった、本当にそう思った。図星を突かれたわけじゃないのに、心臓が飛び出でるかと思うほどその言葉に敏感に反応してしまった。
ぎこちない笑みを浮かべながらやり過ごそうとするも、返答までに空いた間が気になるのか、海斗は俺の方を訝しげに見下ろす。
「俺、トイレ行くわ」
俺はその視線でいたたまれなくなって、トイレを口実に席を立つ。
海斗は視線で俺を追うだけだった。
俺が教室のドアを通ると同時に視界の端に人影が見えた。ぶつかりそうになり、俺は反射的に謝りながら顔を上げると、そこには今会いたくない人物が居た。
「あ、すみま……那、乃」
「………あっ……と、その……おはよ」
那乃はそれだけ言って教室に逃げるように入って行く。その一部始終を見ていたクラスメイトのうち、那乃と親しい間柄の人たちは戸惑ったようにざわつき始めた。
俺はクラス内にすら居づらくなり、トイレへと直行したのだった。
~~~~~~~~~~~~~~
久々の投稿となります。時間がなかなか取れなく、あっという間に7月に入っておりました。これからは普段通りの更新頻度に戻る予定です。
現在も随分暑いですが、これからも気温は上がっていくと思います。作者含めて、皆さん、健康には気をつけていきましょう!
拙い部分多々あると思いますが、これからも作品共々よろしくお願いします!
夏休み明け初日。俺の憂鬱な心境とは裏腹に空はこれでもかと輝いていた。
「はぁ……行きたくねぇな」
チャリを漕ぐ速度は心なしか遅くなる、それでも後ろから吹き付ける湿気を多分に含んだ風は、俺を前へ前へと押し進める。
昨日から無駄に緊張していたせいか、俺はいつもより三十分も早く家を出てしまった。
俺はチャリを漕ぐ気になれず、サドルから降りて徒歩に切り替える。特にやることも無いのでゆっくりと学校へと向かって歩いていく。もちろんその足取りは遅く、まるで重りを背負っているかのようだ。
「……………」
あの日、那乃に告白された日。俺はあれからずっとその事だけを考えて過ごしてきた。
………もし、あの時ちゃんと答えていれば、こんなに憂鬱な気分で登校することもなかったのかもしれない。
………もしあの時、那乃からの告白をちゃんと断ることが出来ていれば……こんな陰鬱になることもなかった。
………もしあの時、告白の答えを先延ばしにしなければ……これほどの心苦しさを感じることもなかった。
あの時俺は断るべきだった。でも、あの時の俺には那乃との関係を変える勇気がなかった。だからと言って那乃と付き合うと言う無責任な事をすることも出来なかった。
「過ぎたことはしょうがないよな。今やるべきことを……やる」
声に出してそう勇気づけ、自分で後押しをする。あの時の告白の答えは間違っていたかもしれない。でも、まだ取り返しがつく程度のミスだ。
放課後まであと六時間。それまでに脳内シミュレーションで完璧にする。
そう思うと、俺の中に根拠の無いやる気と謎の自身が湧き上がる。
俺はチャリを引きながら走り出し、その勢いそのままに地面を蹴り飛ばしてチャリにまたがる。
俺はなぜか上手くいく気がして、気持ちが良いままチャリを漕いで行く。その速度は先ほどとは比べ物にもならないほどだ。
~~~~
「……………」
おかしいな。先程まであったやる気が今は全くないぞ。学校に着く前までは確かにやる気があった。なのに、教室に入り、気付けば弱気。那乃が来ないことを祈っていたり、今日返事ができない言い訳ばかりを探してしまっている。
最悪だ。こんな状態じゃまともに目も合わせられない。
「どうしてそんな辛気臭い顔してんだ?」
「………海斗か」
いつもなら普通に会話できるが、今は会話するような気分じゃない。俺は一言謝って寝ようとするも、先に海斗が口を開いた。
「まさか、また変なこと企んでるのか?」
俺の事情など露知らず、海斗はニヤケながらそう尋ねてくる。そういう悩みではない事を知っていてわざとそんな質問をしてきている。
俺は面倒臭いと思いながらも、海斗が俺の事を思ってそんな風に茶化して来ているのだと思うと心が軽くなった。
「さぁな。海斗の顔を見てたら、なんであんなに悩んでたのか忘れたわ」
「……そうか。まぁ、さっきよりも随分まともな顔色になってるし、信じてやるよ」
「俺、そんなに酷い顔してたか?」
「あぁ、まるで告白して振られたあとみたいだ」
「………ははっ、なんだそれ」
時が止まった、本当にそう思った。図星を突かれたわけじゃないのに、心臓が飛び出でるかと思うほどその言葉に敏感に反応してしまった。
ぎこちない笑みを浮かべながらやり過ごそうとするも、返答までに空いた間が気になるのか、海斗は俺の方を訝しげに見下ろす。
「俺、トイレ行くわ」
俺はその視線でいたたまれなくなって、トイレを口実に席を立つ。
海斗は視線で俺を追うだけだった。
俺が教室のドアを通ると同時に視界の端に人影が見えた。ぶつかりそうになり、俺は反射的に謝りながら顔を上げると、そこには今会いたくない人物が居た。
「あ、すみま……那、乃」
「………あっ……と、その……おはよ」
那乃はそれだけ言って教室に逃げるように入って行く。その一部始終を見ていたクラスメイトのうち、那乃と親しい間柄の人たちは戸惑ったようにざわつき始めた。
俺はクラス内にすら居づらくなり、トイレへと直行したのだった。
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久々の投稿となります。時間がなかなか取れなく、あっという間に7月に入っておりました。これからは普段通りの更新頻度に戻る予定です。
現在も随分暑いですが、これからも気温は上がっていくと思います。作者含めて、皆さん、健康には気をつけていきましょう!
拙い部分多々あると思いますが、これからも作品共々よろしくお願いします!
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