平凡ばあちゃんの思い出話

ミズキケイ

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人生のはじまり

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 わたしは自分の人生を平凡だと思っていますが、生い立ちは少し、平凡じゃないかもしれません。なので、少し、わたしが生まれた時のことを、お話ししておこうかと思います。
 わたしが生まれたのは、今から80年とちょっと前のお正月です。母親の実家で生まれて、生後2週間くらいまでの間に、連れ去られました。わたしを連れ去った犯人は、実の父親です。その後、20歳近くまで母親と会うことはありませんでした。
 なぜ、生まれてすぐに父親に連れ去られることになったかというと、これがまた当時としては特殊な状況で私が産まれたからです。母親が、お嫁に行って1週間で実家に帰ってしまっていたのです。「あのまま一緒に暮らしていたら、わたしもお父さんも幸せになれないと思ったからなの」という、当時としては信じられないような理由でした。だって、お姑さんにいじめられても、他の家族にいじめられても、ひたすら耐えるのが嫁として普通の時代だったんですから。なかなか子どもが生まれない「うまずめ」は用がない、と離縁されることは普通でも、お嫁に行った女性が、女性の意思で離縁するなんてことはほとんどない時代でした。「出戻り」は、戻ってこられた実家としても、親戚や近所の評判が悪くなるとか、周囲の目とか、色々と大変だった時代です。
 そんな時代に、離婚するつもりで実家に帰った母は、その後、何があっても嫁ぎ先の家には戻りませんでした。何度も何度も「帰ってこい」と父や、父方の親戚や、仲人をしてくれた村長さんまでが実家まで迎えに行っても、頑として首を縦に振らなかったそうです。いつまでも持って行った荷物を返してもらえなくても、絶対に帰らなかったというのです。お母さんはすごい女性だなと思います。でも、外聞の悪い「出戻り」という存在を、嫌な顔もせずに受け入れただけでなく、守り通した祖父母も強くて立派な人たちだったんだと思います。今の時代なら大したことじゃない。でも、80年前は、本当にすごいことだったんです。
「あなたがお腹にいるって分かってたら、帰らなかったのにねぇ……」と、大人になってから母に会った時、そう言われました。「ごめんね。でも、もう帰れなかったの。だって、子どもがいるのが分かったからって、それでお父さんのところに帰ったら、今度はお母さんだけじゃなくて、あなたも辛い思いをすると思ったの」と、謝ってくれました。
 なるほどなあ、と思いました。
 母親が実家に帰って、父親に誘拐に近い形で連れ去られて始まったわたしの人生。父の再婚相手に育てられ、父と義理の母との間にできた妹たちとの生活。「婚外子」という形になったことで、辛かったり、肩身が狭かったり、悩んだりすることもあったけど、でも、生きてて良かったと思えます。全部が積み重なって、今があるのだから。
 そうそう、「1週間で帰ったっていっても、結婚してるのに、なんで婚外子なの?」って孫に聞かれたことがあったのを思い出しました。昔は「足入れ婚」っていうのが普通だったんです。「戸籍に傷がつくと困る」って言って、結婚式をしても、すぐには入籍しなかったんですよ。子どもができなかったら離縁、嫁としてダメだったら離縁、そんな時代でしたから。戸籍に離婚したことが記されて「キズ」がつくのは恥、という時代だったんです。わたしが結婚した時も、まだ足入れ婚は残っていました。何かの用事で自分の戸籍謄本を見るときまで、結婚して1年くらい入籍してなかったなんて、わたし、知らなかったんですよ!「まだ足入れ婚なんて残ってたんだ……」ってびっくりしたもんです。
 さて、わたしが生まれた時の話は、こんなものでしょうか。
 次は、わたしの人生の、どんな時のどんな記憶を思い出すのか分かりませんけれど。徒然なるままに。
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