英雄殺しの復讐譚

化茶ぬき

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第25話 部外者

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 翌日、夜明けと共に魔物たちの行軍が再開した。

 塀の上では冒険者たちが遠距離魔法を放ち、牽制している。

「一晩休んで魔力は回復したな!? 三位以上の奴らは前に出ろ! 特大魔法を撃ち込むぞ!」

 塀の向こうへ出た冒険者たちが一斉に魔法詠唱を始めると――同時に放たれた魔法が大群の前面を殺ぎ落とした。

 さすがにどうあっても真似できないこの光景は圧巻だな。

 これで魔族への道は出来たし、残りは上位種が数体と雑魚が二、三百匹程度か。それが右舷と左舷にも分散されるのなら、この場でランクの低い僕に大した出番は無いだろう。

「よぉし! 魔族の周辺では魔法が使えない! 魔法を使わずに戦える奴は私と共に来いっ! それ以外の奴らは範囲から出た魔物を殺せ!」

 ジョーイルの下へ向かう数人の冒険者の中にはボルトの姿もあるが、僕は適当に離れたところで雑魚狩りをするとしよう。

「っ――」

 ぐいっ、とローブのフードを引かれて振り返れば、そこにはジョーイルが居た。

「小僧、お前の昨日の戦いっぷりは見ていたぞ。名前は?」

「……ロロ、です」

「ロロか。……第六位だな。だが、この場にいる以上は実力があれば順位など関係ない。共に来い」

「……わかりました」

 仕方が無い。逆に考えればジョーイルの近くにいるのが最も安全かもしれないし、無理をしなくても済む。

 前衛で魔法を使わずに戦えるのはジョーイルを含めて五人か。目立ちたくはないが、そうも言っていられないな。

「行くぞぉおおお!」

 その声に駆け出せば、行く手を阻むオークやトロールは遠距離魔法が吹き飛ばしていく。

 昨日までは椅子に座って掲げられていた魔族も地に足を着けて、戦闘準備万端か。その手前にはワーウルフの集団とミノタウロスがいる。

「おい、誰か――」

「僕が行きます」

「俺ちゃんも行くぜ!」

 飛び出した僕に続いてボルトもジョーイルたちの前に出てきた。

 視線を合わせた後の動きで分担がわかった。僕はワーウルフを、ボルトはミノタウロスだ。

 鋭い牙と爪に加えて分厚い毛皮だが、こちらのナイフはバギーベアーすらも斬り裂けるだけの切れ味がある。

 一匹二匹三匹と首を裂いた後、四匹目には腕を盾に防がれた。

「ガルルッ、オレ様を他のワーウルフと一緒にするなよ」

 振ったナイフを爪で弾かれる。確かに他の魔物よりは強そうだ。

「手が足りませんね」

 ワーウルフの向けてくる爪は手だけじゃなく足もある。加えて牙の噛み付きも。ナイフで弾き、ギリギリで避けるが掠めただけで服と皮膚を裂いてくる。傷は浅いが、積み重なれば致命傷にもなり得る。次の一手で終わらせるとしよう。

 突き立ててきた片腕の爪を受け止めた瞬間に、残った手に握ったナイフを伸びきった腕に刺した。

「ガルッ――!」

 怯んだところで体を翻しながら腕から肩、最後に首にナイフを突き刺せば血を噴き出しながら倒れていった。

 魔法も無い単純な近距離戦闘なら負ける気はしない。

 まぁ、さすがにジョーイル含む三人と何事もなく渡り合っている魔族には勝てる気もしないが。

 向かってくるトロールを殺しながら考える――状況的に厳しいのは魔族のほうだろうが、手を貸しに行くならボルトのほうじゃないか? まずは周りを切り崩してから、全員で強い奴の相手をするほうが勝率が上がる。

 こちら側に背を向けているミノタウロスに跳び掛かれば、振り向かずに斧の刃を向けられてナイフで受け止めた。

「っ――やはりワーウルフよりは強いですね」

 ワーウルフは集団で狩りをするが、ミノタウロスは単独で純粋に強い。

「ロロ! 左右から同時に攻撃するぞ!」

 その言葉に頷いて左右からミノタウロスを挟み込んで、再び跳び掛かった。

 すると、こちらには斧で対応してきて、ボルトのほうに腕を伸ばすと――その腕は見事な輪切りにされて地面へと落ちた。

「首だ!」

 斧を避け、地面に膝を着いたミノタウロスの首をボルトと共に左右から斬り裂いた。

 首を落とせはしなかったが、薄皮一枚繋がったような状態で血が噴き出してゆっくりと地面に倒れ込んだ。

「いや、悪いね。俺ちゃんだけじゃさすがにきつかったわ」

「ミノタウロスは仕方がありません。では――行きましょうか」

「はっはぁ! そんじゃあ――っ!」

 意気揚々と魔族のほうへ向かおうとした時、飛んできた冒険者がボルトに直撃して、受け止めながら吹き飛んでいった。

 見れば、魔族は両手の甲からやいばを生やし、もう一人の冒険者を吹き飛ばしてジョーイルと一対一で斬り合っている。

「はぁ……せめて戻ってくるだけの時間稼ぎはしますよ」

 一本のナイフを口に挟み、取り出した三本のナイフを魔族に向かって放り投げるのと同時に駆け出した。

 投げたナイフはジョーイルと斬り合う魔族に片手間で防がれた。こちらを見もしないのか。まぁ、警戒されていないほうが有り難い。

 真っ直ぐ突き進み、魔族の手前で跳び上がって空中で回転しながら二本のナイフを振り抜いた。

「ロロ! 気を付けろこいつは――」

 ジョーイルが後退したことにより魔族がこちらを向いて刃とナイフが交わった。弾かれるナイフが重い。胸に向けられた刃をナイフで受ければその衝撃で吹き飛ばされた。

「ふぅ……神経がすり減りますね」

 全て殺すつもりの一撃でも軽くあしらわれる。強さで言えば、おそらくは英雄と同等程度だろう。違いがあるとすれば、英雄には情報があるが、魔族のことは何もわからない。

 過剰負荷なら対等以上に戦えるかもしれないが、英雄以外には使わないと決めている。この場で出来ることはジョーイルと二人で他の三人が集まるまでの時間を稼ぐことだけだ。

「ロロ! 合わせろ!」

 大斧を振るジョーイルに合わせて魔族の死角からナイフを振るが、どんな角度からでも防がれる。反動で腕が痺れるが、止まるわけにはいかない。

「っ――」

 ナイフを弾かれバランスを崩した瞬間、魔族の刃が伸びてきた――が、それを弾くように鎖で繋がれた剣が飛んできた。

「無事か!?」

「はい。なんとか」

 三人で魔族から距離を取れば、両腕から生えた刃を擦り合わせてこちらを挑発してくる。

「ジョーイルさん、あとの二人は脱落です。肉体強化の魔法が切れて動けなくなった」

「そうだ。ボルト、ロロ。奴は触れた相手の肉体強化魔法も無効化させる。無理だと思ったら離れろ。じゃねぇと死ぬぞ」

「そういうことなら俺ちゃんは問題無いな」

「僕も、大丈夫です」

「よし。なら気合いを入れろ。この場で戦えるのは我々だけだ! 三人で、奴を倒すぞ」

「一番乗りは俺ちゃんだ!」

 すると横に居たはずのボルトは、バチンッと電気が弾けるような音を立てていつの間にか魔族に斬り掛かっていた。次いでジョーイルも跳び上がって大斧を振り下ろせば、受け止めた魔族の立つ地面が衝撃で沈んだ。

 速さではボルト、力ではジョーイル。僕には何がある? 強いて言えば――思考と、手数だ。

「では、狙いを変えましょう」

 首を狙う二人に対して、僕は左腕に狙いを定めた。

 魔族の視線はジョーイルに向かい、右腕はボルトの剣を受けて、そして左腕がこちらに来た。刃にナイフを滑らせて、腕の肉を削ぎながら残ったナイフを肩に振り下ろした。しかし、硬い。さすがに斬り落とすことは出来ないか。

「ロロ! 退けぇええ!」

 その言葉に突き刺さったままのナイフを抜いて退いた瞬間、振り下ろされたジョーイルの大斧が魔族の左腕を切り離した。

「足だ!」

 ボルトの言葉と同時に左足の甲に目掛けてナイフを投げて、上から足を振り下ろして貫かせると、右脚のほうはボルトが太腿に剣を突き刺していた。

「良くやった! とどめだ!」

 動きを停めた魔族の正面でジョーイルが大斧を振り上げ――今まさに体を真っ二つにしようした時、魔族の体が震えた。

「オッ、オォオオオッ!」

 叫び声と共に全身から無数の刃を生やして吹き飛ばされた。

「マズいですね」

 寸前で気が付いたおかげで無傷ではあるけれど、一本のナイフは魔族の足に刺さったままだ。

「クッソ……ボルト、ロロ、怪我は!?」

「ありません」

「軽傷だ!」

 ボルトは肩に切り傷が。ジョーイルは腹部を刺されて血を垂れ流している。

 第二位の冒険者がいる三対一でも、こちらがジリ貧か。おそらく魔法分解が無ければここまで苦戦はしないのだろうが、今更そこを言っても仕方が無い。そろそろ疲労が溜まってきているし、ここら辺で終わりにしなければどちらにせよ負ける。

 考えろ――飛び出した刃の長さは凡そ五メートル。太さは無いが、硬度は腕から出ていた刃の比では無い。折れないし、僕一人では数に対処し切れない。

「ジョーイルさん、どうしますか?」

 問い掛ければ、ジョーイルは筋肉を締めて傷口を塞ぎ、立ち上がった。

「魔法が使えない以上、やることは変わらない。お前ら、隠している力があるなら出し惜しみするな! 全力で殺しに掛かるぞ!」

 出し惜しんでいる気は無いけれど。少なくとも過剰負荷は使えない。

「では、僕が邪魔な刃を壊すので、あとのことはお任せします」

「出来るのか?」

「やるだけやってみます」

 ナイフを仕舞い、拳を握り締めて駆け出した。

 刃はナイフでは砕けない。だが、刃物は横からの衝撃に弱い。故に、拳で横から叩けば折れる。衝撃で拳の皮膚が裂けて血が流れるが、その程度これまで死に掛けたことに比べれば大したことは無い。

 折って折って折って――そうしたら、四方八方に伸びていた刃が全てこちらに向かって伸びてきた。

「それを待っていました!」

 跳び上がり、束になって伸びてきた刃の上を走って、再び跳び上がるのと同時に空中で一回転した勢いのまま振り下ろした脚で根元から刃を圧し折った。

 そして、左足に刺さっていたままだったナイフを引き抜けば、右側にやってきたボルトが魔族に斬り付け始めたのと同時にこちらもナイフを振り出した。

 左右から止め処なく斬撃を食らわせれば魔族はどちらにも対応できなくなり――背後からの殺気を感じた瞬間にボルトと共にその場から退けば、ジョーイルの大斧が振り下ろされた。

「おぉおおおらぁああっ!」

 そして、魔族は真っ二つに引き裂かれた。

「はっはぁ! 俺ちゃんたちの勝ちだ!」

 ボルトの叫びと共に、至る所で勝鬨が上がった。魔族が死んだことが伝わったのか魔物たちは敗走を始め、同時に残党狩りが始まる。

「はぁ……戦争と言う割には随分と――」

 敵の大将を討ち取った瞬間に、戦争とは思えないほど一方的なものに変貌した。見るに堪えないと言うほどでは無いが、僕にはそれがどうしようもなく酷いものに見える。

 とはいえ、あらゆる全てのことにおいて僕がどうこう言える立場では無い。今はただ終結を待つ。この場に置いて――僕は部外者以外の何者でも無いのだから。
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