英雄殺しの復讐譚

化茶ぬき

文字の大きさ
26 / 29

第26話 祝杯。そして

しおりを挟む
 戦争が終わった日の夜――ジルニアの酒場は戦争に参加していた冒険者だけが集まっていた。

「皆の者! 此度の戦争ご苦労であった! 幸いにも死者は無く、怪我人が数名のみ! それも治癒魔法で完治した! 今宵は飲んで食って勝利を祝え!」

 ジョーイルの言葉と共に、全員が木製のジョッキを掲げて打ち付けた。

 この空間には英雄教団の冒険者もいないし、英雄もいない。端のほうにいれば目立つことも無いだろう。

 酒場の中を見回せば――全員では無いのか。ウォードベル神父もウギさんもザジさんもいない。おそらく元冒険者勢はすでに帰ったのだろう。依頼を熟して生活している冒険者とは違い、あくまでも元冒険者だ。今の生活がある。

「……酒を酌み交わすのはもう少し先になりそうですね」

 独り言を呟いて、ジョッキに入ったミルクを飲んだ。

「よぉよぉロロ! 飲んでるか!?」

「はい。ミルクですが。ボルトさんは……飲んでいるようですね」

「そりゃあそうだろ。今回の戦争で今の五位と六位は順位が上がるんだからな! それでこそ参加した意味があるってもんだ!」

 それはまた……僕にとっては悲報だな。

「あれ? でも、ボルトさんは第三位ですよね? 関係ないんじゃないですか?」

「おいおい、これでも俺ちゃんは雷鳴のボルトって言ってそこそこ有名人なんだぜ? 二つ名持ちが増えるのはそれだけで嬉しいもんだ」

「そういうものですか」

 そんな相槌を打っていると、ボルトの肩に肘を掛けた背の高い女性が近寄ってきた。

「そんでアタシが稲妻のエクレール。あんたがロロだね。昨晩は挨拶できなかったから」

 差し出された手を握り返せば、笑顔を向けられた。

「弓での援護、助かりました」

「それがアタシたち遠距離魔法を使う冒険者の仕事だよ。うちなんかは特にこの馬鹿が突っ走っていくから大変だ。そっちは? チームは組んでいるのかい?」

「はい。一応は。順位が低いので今回の戦争には参加できませんでしたが」

「じゃあ、その相棒を大事にすることだ。うちみたいに少人数のチームは一人抜けるだけで厳しいからね」

「心に留めておきます」

 ミルクを飲みながらボルトとエクレールの会話を聞いていると、酒場の入口からギルド職員が入ってきたのが見えた。真っ直ぐにジョーイルの下へ向かうと、紙を渡してそのまま去っていった。タイミングを考えれば戦争終結について王都からの謝状でも来た可能性はあるが、少なくとも僕には関係ない。

 とりあえず、今飲んでいるミルクを飲み干したらクローバーの泊まっている宿に向かうとしよう。

「おい! 全員聞けぇ!」

 声を上げたジョーイルはただでさえデカい体で椅子に乗って注目を集めた。

「今し方、ギルドより順位昇格の知らせが届いた! 正式には後日、ギルドで更新する必要があるが今日は昇格した者に付いた二つ名を発表しよう!」

 そして酒場内が盛り上がる。冒険者というのは本来こういうバカ騒ぎをする集団なのだろうな。

 続々と発表されていく中で、僕の名前が載っていないことを願っていたのだけれど。

「――次だ! 第六位のロロ! 二つ名は虎狼! 虎狼のロロだ!」

「……どちらかというと魔物よりっぽい呼び名ですね」

「本来であれば魔法を元に付けられることが多いが、ロロの場合はそのすばしっこさと手数の多さで名付けられたようだな。じゃあ、次だ!」

 向けられていた視線が無くなり、残っていたミルクを飲み干した。

「まぁ、最初は慣れねぇもんだ。俺ちゃんだって二つ名を付けられた頃は自分から名乗ることもなかったが、次第に二つ名だけで呼ばれることも出てくる。死なねぇ限りはな」

「それはどちらも困りものですが、一先ずは死なないことを第一に考えることにします。では、僕はこの辺で」

「なんだ、もう行くのか」

「はい。チームの仲間も待っていますので」

「そうか。じゃあ、ロロ。また会えるのを楽しみにしているぜ」

「アタシもな」

 求められた握手に応じていれば、後ろから頭を鷲掴みにされた。

「私に挨拶もなく行くつもりか? ロロ」

「ジョーイルさん。いえ、ちゃんと挨拶をしてから出て行くつもりでした。魔族討伐と戦争の勝利、おめでとうございます」

「何を他人事みたいに言っているんだ。魔族を殺せたことも戦争に勝利できたことも、お前が居たからだ。ロロ。もちろん、ボルトもな。もしもこの先、何か困ったことが起きた時はギルド伝いで良いから私に連絡しろ。いつでも力を貸そう」

「ありがとうございます。その時は、頼らせていただきます」

 握手を交わして、酒場を後にした。

「……」

 改めて理解した。僕にとって英雄は殺すべき憎む相手だが、たぶん冒険者そのものも苦手なんだと思う。それはノリとか雰囲気もそうだけど、もっと根本的に――人を救いたいという感覚こそ、僕に欠けているものなのだろう。命を賭けるのは無理だ。少なくとも、両親の仇を討つまでは。

 宿に入り用意されていた部屋へと向かえば――ドアの前に立つ人影が見えた。

「ロロくん。良かった。帰ってきた」

「もちろん、帰ってきますよ。……部屋に入りましょうか」

 一人部屋の中に二人。必然的に僕はベッドに座ってクローバーは椅子に腰を下ろした。

「それで、戦争には勝ったんだよね?」

「はい。恙無く。クローバーさんは昨日も部屋の前に居たんですか?」

「ううん。今日の昼間に戦争に勝ったことが噂になっていたから。……どうだった?」

「どう、と訊かれると難しいですが……それほど苦労はしませんでしたね。第二位のジョーイルさんを始めとして、頼りになる方も多くいましたから」

「そうじゃなくて、私が言いたいのはロロくんが……その……」

 口籠る姿を見て、何を言いたいのかがわかった。

「僕が英雄を殺した犯人だとバレなかったか、ってことですね。それはおそらく問題無いと思います。あの場でそれだけのことを気にしていた人がいるとは思えませんし、何よりも――皆、勝利に酔っています。これ以上に依頼でも無い戦いをすることは無いでしょう」

「そっか。なら良かった。じゃあ、しばらくゆっくり出来るの?」

「いえ、可能ならできるだけ早く……明日の朝にでもジルニアを離れたいです」

「次はどこに向かうの?」

「ここより西にある山――ニコウ山に英雄の一人がいるようなのでそちらに向かいます」

「わかった。あ、ロロくんがいない間に準備は整えてあるからいつでも出発できるよ」

「助かります。それでは明日の朝一に宿を発つとしましょう」

「うん。じゃあまた……私、邪魔になってない、よね?」

 不意な質問に、息が漏れた。

「今更ですね」

「ロロくんは一人で戦って、それで帰ってきたから……私は――」

「元々これは僕一人の復讐だったことをお忘れですか? それでもクローバーさんと共に行動することを選んだんです。今の僕らは仲間――チームです。クローバーさんが僕と共に行動することを選ぶのであれば、感謝しかありません」

「……わかった。じゃあ、また明日ね」

「はい。また、明日」

 去っていく背中を見送って、脱いだロープをベッドに広げて全てのナイフを並べた。

 荷物は多い。そんな中で圧縮魔法を使えるクローバーは重宝しているが、さすがに荷物持ちだからってわけではない。

 おそらく英雄を前に理性を失い掛ける僕を止めることが出来るのは今のところクローバーだけだ。たぶん、似たような憎しみを抱えているから――だからこそ、共に行動することにストレスは無い。

 ルール二・人は嘘を吐く。信用するなら後悔するな――わかっている。それでいい。それでこそ、僕だから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン
ファンタジー
完結しました! 魔法使いの国に生まれた少年には、魔法を扱う才能がなかった。 無能と蔑まれ、両親にも愛されず、優秀な兄を頼りに何年も引きこもっていた。 そんなある日、国が魔物の襲撃を受け、少年の魔物を操る能力も目覚める。 能力に呼応し現れた狼は少年だけを助けた。狼は少年を息子のように愛し、少年も狼を母のように慕った。 滅びた故郷を去り、一人と一匹は様々な国を渡り歩く。 悪魔の家畜として扱われる人間、退廃的な生活を送る天使、人との共存を望む悪魔、地の底に封印された堕天使──残酷な呪いを知り、凄惨な日常を知り、少年は自らの能力を平和のために使うと決意する。 悪魔との契約や邪神との接触により少年は人間から離れていく。対価のように精神がすり減り、壊れかけた少年に狼は寄り添い続けた。次第に一人と一匹の絆は親子のようなものから夫婦のようなものに変化する。 狂いかけた少年の精神は狼によって繋ぎ止められる。 やがて少年は数多の天使を取り込んで上位存在へと変転し、出生も狼との出会いもこれまでの旅路も……全てを仕組んだ邪神と対決する。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...