異世界のネコ科ってどこからどこまでですか?

化茶ぬき

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魔窟の森

第五話 バルク師団

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 用意された部屋は三つの続き部屋で、それぞれが室内ドアで繋がっていた。何故だか必然的に俺が真ん中の部屋になってしまったのだが、別に行き来することも無いだろうからと受け入れることにした。

 その後の宴会にも一応は参加したのだが、案内された部屋には俺たち三人とルネと姫様、それに数名の兵士しかいなかった。しかし、城の至る所から酒を飲んで笑い合うような声が聞こえてきていたから二人の言っていたことは正しかったのだろう。

 おそらく、宴会の部屋を分けたのは俺たちへの配慮と、兵士と民を分けることで変な緊張感を生まずに気兼ねなく飲めるようにしたのだ、とジュウゴが言っていた。

 文字通りの宴会騒ぎは初日で終わり、眠りから覚めれば三人は城の中庭に集められた。大浴場があったのはいいが、着替えがなくて昨日と同じ制服なのはどうにもな。

「ねっむ……時差か」

「俺様たちが召喚された時間との誤差は無かったはずだ。しかし、確かに体の怠さはある。おそらく召喚されたことにより俺様たちの体力が削られたのだろうな」

 なるほど。そこで大量のメシを腹に詰め込めば眠りが深くなるのも当然か。

「お二人とも、戯れはそれくらいにしておきなさい。そろそろ私たちが呼び出された理由がわかりそうですわ」

 その発言が昨日のジュウゴに対する意趣返しだとはすぐに気が付いたが、アヤメの言うように中庭にはルネに連れられた多くの兵が集められていた。

 城内では見かけなかった兵士ばかり――つまり、昨日、戦場に出ていた者たちというわけだ。皆それぞれ付けている鎧や持っている武器が異なるのは、使える魔法が違うからってことか?

「ふんっ、来たな。強者だ」

 ジュウゴの視線の先には雰囲気の違う十人の兵士がいた。武術なんかをやっていると相手を見るだけで伝わってくる。全員が師範クラスの気を纏っている感じだ。

「お待たせしました! 救世主の皆様、こちらが王国随一の腕を持つバルク師団の皆さんです!」

 声高に紹介するとひと際大きく白髪の長髪に髭を蓄えた男が脚を進めてきて、ジュウゴの前で停まった。

「私はバルク師団・団長のレオだ。君たちが話に聞いていた救世主か。初めに言っておくが、私は君たちに期待していない。どうやら元の世界に帰ることはできないようだが、死にたくないのなら安全な城の中から出ないことをオススメする。それでは失礼」

 それだけ言うと師団長のレオは踵を返して去っていった。そんな様子を呆然と眺めていると、長髪を束ねた細身の男がこちらに向かって丁寧に腰を折って頭を下げると、団長の後を追うように去っていった。

 それを合図にして師団のほとんどは中庭からいなくなり、残ったのは俺たち三人とルネ、それに雰囲気の違う四人だけだった。

「……よし。少しばかり俺様が礼儀というものを教えてやりに行こう」

「いや、やめておけよ。あのレオとかいう男、たぶん相当強いぞ? それに言っていたことも、まぁ間違ってないだろ」

「正しいからといって侮辱されたことを許せるものではありませんわよ? 私はジュウゴに賛成ですわ。まずは上下関係からはっきりとさせましょう」

「おいおい……」

 踏み出した二人に呆れていると、目の前にルネが飛び出してきて焦ったように両腕を広げた。

「お待ちください! 師団の非礼は私がお詫びします。しかし、ご理解いただけると幸いです。彼らも皆、終わらぬ戦争で疲弊し切っているのです」

 戦争で精神を病むのは、どの世界でも同じことか。

「だとさ、ジュウゴ。俺たちだってまったく気持ちがわからないわけではないだろ?」

「確かにな。我らはまだ奴らの土俵にすら乗っていない。同等に扱われなければ正々堂々屈服させることも難しい。良いだろう。話を聞こうか、ルネ」

「ありがとうございます! え~と、ですね……この場にいない各師団長を紹介するのは大変なので、先程のレオ団長の後に続いた長髪の男性は副団長のリブラさんです。公平な方ですので、皆様のことを知れば団長のことも説得してくださるはずです」

 つまり、今はまだ公平である者にさえ俺たちはただの足手まといと思われているわけか。いや、俺はそれでもいいんだけど。

「ルネ。私たちに彼らを紹介するためだけに呼んだわけではないですわよね? 早いところ本題に入りましょう」

「そうですね。本日は魔丸パイプによって判明した皆様の力に合わせて訓練をするための師団長方をお呼びしたのです。まずは第一師団・団長のスコーピオン様、炎魔法の使い手です」

 紹介されて前に出てきたのは細い長身で額にゴーグルを嵌めた長槍の男。体躯に反してヘラヘラとした軽薄そうな表情を見せている。

「様なんて大層なもんじゃねぇよ。ただまぁ、オレも本音を言えば救世主なんてのを信じているわけじゃない。とはいえ、王も民もキミらに期待している。だからまぁやるだけのことはやるつもりだが……ジュウゴってのはどいつだ?」

「俺様だ」

「へぇ、生意気そうだが良い面構えだ。お前はオレが鍛えてやろう」

「ご指導痛み入るよ」

 強めの皮肉っぽいが相手に響いていないところを見るに、この世界では通じないのかもな。

「では、お次です。第八師団・団長のアリエス様。特異魔法、念力の使い手です」

 出てきたのは目付きのキツいショートカットの女性だ。腰に剣の鞘を差しているが、その反対にはロッククライミングで使う滑り止めの粉を入れる袋のようなものを下げている。

「お初にお目に掛かる。私は第八師団長のアリエス。スコープの言葉に倣うのなら、私はあなた方に希望を見出しています。なのできっちりとやらせていただく。アヤメというのはキミだね?」

「ええ、私ですわ」

「使い物になるかはあなた次第。覚悟しておくように」

「望むところですわ」

 見る限り、真面目そうなアリエスとピエロっぽい雰囲気のアヤメは相性が良さそうだな。まぁ、真面目な側が振り回される光景しか思い浮かばないのだが。

「それでは最後です。ネコガハラ様には魔法の適性が無かったので、お三方を紹介させていただきます。まず第十師団・団長のヴィゴ様です。第十師団は他の師団と違って後方支援や負傷者の治療が主な活動なので如何かな、と」

 ひらひらを手を振ってくるのは全身を白い服で包んだ可愛らしい糸目の女性だ。なるほど、言ってみれば治療班か。問題は俺には応急処置くらいの知識しかないってことだな。

「お次は第三師団・団長のキャンサー様。特異魔法、錬成の使い手であり、自らも戦場へと赴きますが、師団員が持っている武器のほとんどはキャンサー様とその部下の皆様が作っておられます」

 ああ、だから武器を大量に詰め込んだ背丈に見合わない大きな籠を背負っているわけか。つまり、戦えないのなら武器でも作ってろ、ってことね。まぁ、正論ではある。

「そして、第九師団・団長のカプリコーン様です。師団最年長で使う魔法はもっともポピュラーな肉体強化ですが、その実力は三本の指に入るほどです」

「カプで良いぞ」

 最後は身長百五十センチくらいの小さな老人だった。髪も髭も白髪で見た目はまるで仙人のようだが、俺にはわかる。相当な手練れだ。

「それで、俺はどうしたら?」

「選んでいただければ幸いなのですが……如何でしょう?」

 俺の意志で選ばせれば色々と波風が立たないって感じか? まぁ、間違っちゃいない。だが、出せる答えは決まっている。横から向けられている視線も痛いことだし。

「俺たちは救世主として召喚されたんだろ? だったら初めから戦わないことを選ぶのは違うだろう。よろしく頼む、カプ」

「ほっほ、良い選択じゃ。任されよう」

 随分と陽気っぽいじいさんだな。

「これで救世主様方の訓練担当が決まりましたね。皆様はこちらの中庭にて訓練を始めてください。キャンサー様とヴィゴ様も基本的にはこちらに居られる予定ですので怪我をした場合や、欲しい武器などがあれば双方よろしくお願いします。それでは本日より五日間! 励んでいきましょう! おーっ!」

 一人で盛り上がるルネに釣られて握った拳を軽く挙げてみた。

 ……ん? 五日間?

 同じような疑問を浮かべたのか、ジュウゴは「ふんっ」と鼻を鳴らした。。

「訓練期間が五日間? 俺様にしてみれば多過ぎるくらいだが、意味があるのか?」

「意味、と言いますか――実はレオ様より師団長方を借りる許可を頂いたのが五日間なのです。なので、本日を含めて六日後には失礼ながら救世主様方が戦えるだけの力を持っているかどうかのテストを行うと思います。すみません」

「あら、別にルネが謝ることでは無いですわよね。要は私たちがテストに合格すればいいだけの話。楽勝ですわ」

 アヤメとジュウゴは自信満々って感じだが、俺はどうだかな。

「テストね。そんじゃあ――早いところ訓練を始めるか」

 呟いて自然と体が準備運動を始めたが、どうやら俺もすでに別の世界に来ていることを受け入れいるらしい。

「ほっほ、そう急くでない。小童よ。訓練よりも、まずは着替えじゃ」

 ああ、良かった。この世界に来て、一番の朗報を聞けた。

 よし――着替えよう。
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