異世界のネコ科ってどこからどこまでですか?

化茶ぬき

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魔窟の森

第六話 訓練

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 着替えさせられたのは頑丈そうなTシャツとカーゴパンツだった。人によって装備が違うから、これをベースに鎧の形や武器を考えていくということだろう。

 ジュウゴとアヤメはそれぞれ離れた場所へ移動して、ルネは仕事があると言って中庭からいなくなったが、キャンサーとヴィゴは談笑しながらこちらの様子を窺っている。こちら――というか、俺以外の二人を、だな。

 まぁ、期待値が低いのも当然のこと。

「さ、始めようか、じいさん。何からやる?」

「急くなと言っただろうに小童。お主にはまず魔法とはなんたるかの説明が必要じゃ」

「いや、俺、魔法使えねぇんだけど」

「故に、じゃ。良いか? この世界の人間は満十五歳で魔丸パイプを吸い、魔法を使えるようになる。お主と共に来た二人はすでに魔法を使えるようじゃが、肉体強化すら使えぬ者ではデーモンと戦うどころか、まともに働くことすらできん。それゆえ、足りぬ部分を理解する必要がある」

「具体的には?」

「ふむ、まずはデーモンの強さじゃ。奴らは下っ端の雑魚ですら拳一つで人を殺すことができる。しかし、魔法が使える者ならば特異魔法の肉体強化が使えずとも、体内に魔力がある、という時点でそれなりに体が丈夫になる」

 なるほど。つまり、魔力が体内に留まらない俺は鬼から一発もらうだけでも死ぬ可能性が高いってことだな。それをカバーするには頑丈な鎧を身に纏うか、避けながら戦うかのどちらかだ。

「ん? ってことはこの世界の人間は魔丸パイプを吸えば多少は死ぬ確率が下がるってことだよな? じゃあ、どうして十五歳からなんだ? もっと子供の頃から体内に魔力を取り込んでおけば死ぬ確率は減るし、何より長いこと魔法の研鑽を積めるだろ」

「強過ぎる力は破滅をもたらすものじゃ。子供が力を持てば、自ずと良くないほうへと転がっていく。故に、物事の判断が付き、自らの力を制御できるほどの肉体に成長するまで魔法を使わせぬ――というのが建前であり、実際には魔丸パイプはそれなりに稀少でそう軽々しく使えん、というのが本音じゃな」

 ぶっちゃけたな、おい。俺はそんな稀少な道具を昨日、二本も消費しちまったわけだが……ああ、だからこそ期待されてないってことなのかね。

「で、俺にどうしろと?」

「まずは戦える者かを確かめる。どうやらお主、武術に心得があるな?」

「まぁ、一応はな」

 お互いに見ただけでそれなりの使い手だと判断できる。こちらも、年寄りの相手はそれなりに得意なつもりだし。

「では、こうするかの。一撃じゃ。ワシに本気の一撃を打ち込んでみよ」

「本気でか? そんなヨボヨボの体を殴れるわけないだろ」

「体格が気掛かりか? ならば――ふんっ! これで良いか?」

 じいさんが体に力を込めたかと思えば、次の瞬間にはヨボヨボだった肉体が筋骨隆々に膨れ上がった。なるほどね。それが魔法か。

「そんじゃあ殴るけど……後悔するなよ?」

 どれだけ筋肉が凄かろうと相手はじいさんだ。少し離れたところから、一発。


 ドンッ――


「ほう。脱力したところからこれほどの力とは」

 この程度なら避けずに受け止めるか。踏ん張る脚も動いたのは一メートルってところだな。こちらとしては数十メートル吹き飛ばすつもりだったんだが……肉体強化の魔法も伊達じゃないってことか。

「んじゃあ、次はもうちょい強めに行く。避けるなよ?」

 さっきよりも力を抜き、踏み込んだ。するとその瞬間に何を感じたのか、じいさんは今まで以上に筋肉を盛り上げた。


 ドンッ――ッ!


 拳を受けたじいさんはその衝撃に百メートルほど地面を滑っていった。

「うん。まぁこんなもんか」

 じいさんの体が膨れ上がったのは瞬時に俺の拳を受け切れないと判断してのものだろう。だとすれば、勘も良い。

 筋肉の膨張を落としながら戻ってきたじいさんは笑顔を見せている。……強いな。

「ほっほ、なるほど。戦えることはわかった。しかし、この世界には無い武術のようじゃな。どういうものじゃ?」

「黒豹流武術って言ってな。動きの中にを加えて、その力を拳に載せるんだ。色々と応用の利く技術だが習得は難しいらしい」

 幸いにも俺は猫だし、耳と尻尾が付いているだけだと言っても柔軟性は猫譲りなのか基礎の習得に苦労は無かった。

「ひねりとしなり……故に脱力か。この歳になっても知らぬこと、学ぶことは多いのう」

「じいさんも十分に強いだろ。魔法のおかげもあるだろうが、衝撃の逃がし方はさながら匠の技だ」

「お主のいた世界でどうだったのかは知らんが、この世界は純粋な力に合わせて技術が無ければ生き残れん」

「純粋な力、ね」

 それはつまり、魔法も含めて純粋な力、ということだろう? 俺は初めから出遅れているってことだ。

「まぁ、体は出来てるようだし、ワシの技術とデーモンとの戦い方を教え込むとしよう」

「急所でもあるのか?」

「人ならば体を左右に分けた時の中央が急所だと言われているが、デーモンにはそれが無い。そもそもが頑強な肉体じゃからな。刃物で切る・刺す・抉る、棍で殴る・潰す、あとは魔法で攻撃する以外に殺す術がないのが基本じゃ」

「……肉体強化も魔法での攻撃に含まれるわけか」

「そういうことじゃ。魔法を使わずにデーモンを殺す方法が無いのが現状――故に、お主に教えるのは生き残る術のほう。殺すことではなく、殺されない技術を教えるということじゃ」

 生き残る術を知っている。だから、その歳まで現役で生き永らえているということだろう。これでも逃げ足には自信があるのだが、戦うことを前提にしているのに言うことでは無いな。

「まぁ、どっちでもいい。実際に敵と相対してみないとわからないこともあるだろう――しっ!」

 殴り掛かってきたじいさんの拳を受けると踏み込んできた足元から土煙が上がった。

「ほっほ、この程度なら受けれるか」

「いやいや、結構ギリギリだったぞ。さっきまでとは違って、速度のほうに肉体強化を振ったってことか?」

「その通り。では、もう少し速度を上げるぞい」

 攻撃を受けるために身構えると、直前まで迫っていたじいさんが何かに気が付いたように動きを止めた。

 次の瞬間。

「ん? ――っ!」

 脇腹に受けた衝撃で倒れ込むと、俺の体の上でふみふみする猫がいた。

「すみません! エタのネコちゃんが――」

「おや、姫様。散歩ですかな?」

「カプリコーン様。すみません、訓練の邪魔をしてしまって」

「ほっほ、構いませんわい。それにしてもネコ殿が姫様以外に懐いているところは初めて見ますな」

「うん。たぶんネコさまだからだと思います」

 倒れてる俺を無視して談笑かよ。ネコさまね……まぁ別にいいけど。

 しかし、この猫どうなってるんだ? 不意打ちとはいえ、たかが猫の飛び付き――いや、突進で、俺が倒れるなんて有り得ない。

 まぁ、現に有り得ているわけだが……突進された時は相当重い衝撃を受けたんだが今、俺の上に乗っている猫は見た目通りの重さだ。まさか、こいつ。

「なぁ、エタールちゃん、だっけ? もしかしてこいつ魔丸パイプを吸ったんじゃないか?」

「あ、はい。そうです。ネコちゃんは魔丸パイプを吸って体内に魔力を持っています。ルネが言うには、たしか……速度に比例して質量が五倍になる? とか?」

「なるほど。よくわからねぇが理解はした」

 つまり速ければ速いほど重さが増して、突っ込まれた側が受ける衝撃が強くなるってことだな。

 この時点で俺が受け入れるべき問題は一つ――猫ですら魔丸パイプを吸って体内に魔力を留めることができるのに、人であり超人類でもある俺は? こりゃあどうやら本格的に戦闘員以外の道を考えたほうがいいのかもしれないな。

 兵士・治療班・武器職人……ああ、ダメだ。兵士みたいに規則に縛られるのは性に合わないし、治療班になったところでたぶん血を見たら体が疼く。武器職人はアレだ。不器用ってわけじゃないがぶっちゃけセンスがねぇ。

 一応はジュウゴとアヤメの手前もあるし、死ぬまでは戦ってみるとするか。
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