異世界のネコ科ってどこからどこまでですか?

化茶ぬき

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ウッドビーズ

第十四話 長靴を履いたネコ

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 目の前に飛び出してきた剣先に自然と体が反応して後ろへ飛び退くと頬を伝った血が地面に落ちた。

 白虎は見回りに行っているのか近くに気配は感じないが、それでいい。今一番厄介なのはデーモンじゃない奴との戦いに、デーモンが介入してくることだ。

「さて――どんな敵だ?」

 身構えていると飛び出してきた奴が高速で目の前を跳ね回るから姿が確認できない。少なくとも大きさはバスケットボール大程度だが微かに見える剣先は確実に喉元を狙ってくる。

 とはいえ、動きは速いが避けられらないほどではない。

 それにデーモンほどの敵意も感じないし、魔窟の森で戦ったモンスターほど野性味も感じない。こちらから軽く仕掛けてみるか。

 向こうの剣を避けた瞬間に後を追いかけて拳を振れば、当たりはしなかったがその影は俺から距離を取って立ち止まった。

「ネコ、か?」

 長靴にハット帽、マントを羽織って腰には剣を差すベルトが巻かれている。いや、風貌がどうであれ、ネコなのは間違いない。三毛猫だ。

「吾輩は大樹の守護を任された騎士である! この場は姫様より預かった大事な場所故、侵入者には容赦しない! 覚悟せよ!」

 情報が渋滞中だ。とりあえずはその小さいクセに切れ味抜群の剣をどうにかしないと話も出来そうにない。それに、まず間違いなく普通の猫の速度では無い。いや、まぁ立って話して剣を振っている時点で普通とはかけ離れているわけだが――そういうことでは無く。

 おそらくはこいつも魔丸パイプを吸って魔力を得ているのだろう。だとすればまともに戦うよりは戦意を削ぐほうが良さそうだ。
 あえて構えを解き、隙を突きやすいように腹部をガラ空きにすれば思った通り、そこを狙って剣を振ってきた。

「んっ――ッ!」

 剣を掴めば途端に体に雷が走ったように痺れたが、ネコの体をこちらの尻尾で包み動きを止めれば痺れが消えた。

「落ち着け。よく見ろ、敵じゃない」

 そう言って視線を合わせれば、漸くネコの目に俺の姿が映ったのか鼻息荒く威嚇していたのが落ち着いてきた。

「デーモンじゃない……? いったい何者であるか!?」

「あ~、改めて何者かと問われるとなんて答えるのが正解かわからないな。強いて言うなら救世主か? まぁ自分で言うのはどうにも違和感があるけどな」

「救世主? 何を訳の分からないことを――そもそもこの場所は加護により絶対に見つけらないはずなのだ! どうやって扉を開いた!?」

 口調や雰囲気からしてデーモンに操られているわけではないだろう。

「見つけたわけでも開いたわけでも無い。気配を感じたんだ。呼ばれているような気配に」

「呼ばれた……つまり大樹に呼ばれた、と? ならば――だと、するならばっ!」

 気が付いたように声を上げたネコは途端に体に入れていた力を抜き、その視線を俺の尻尾から耳へと向けてきた。

「その容姿――姫と同じ……?」

「姫っつーと、エタール姫か?」

「違う。それはバルバリザーク王国の姫であろう。吾輩が言っているのは大樹と精霊の巫女のことである。巫女のミコ――大樹より生まれ大樹の内側にて死する巫女は逸脱した姿をしている。今の巫女はちょうど、お主と同じ耳を付けている」

 情報がゴタついているな。

「とりあえず大事なことだけ確認しよう。まず、俺たちは敵同士じゃない。ネコガハラ・マタタビだ。よろしく」

「マタタビ……何故だか甘美な響きであるな。吾輩はシャルル・ペロー三世。偉大なる大樹と精霊の巫女を守護する騎士である。姫からはペロと呼ばれている」

「そうか、ペロ。その巫女ってのはどこにいるんだ?」

「姫はデーモンどもに攫われた。本来ならばすぐにでも助けに行くのが騎士である吾輩の務めであるが……今は姫より仰せつかった大樹の――大樹の内側に避難している民を守らなければならない」

 なるほど。ようやく事情が呑み込めた。

 尻尾で掴んでいたペロを地面に下ろせば、片膝を着いて頭を下げてきた。

「マタタビ殿。大樹の声が聞こえたのならおそらくは選ばれし者。姫の救出にご助力を願いたい」

 ただでさえキツい状況で面倒事を増やしたくはないが、そもそもこの世界における何某かを助けるために召喚されたんだ。

「まぁ、別に構わねぇけど――ん?」

 その時、白虎の遠吠えが響いてきた。

「この声は……白虎殿?」

「なんだ、白虎と知り合いか?」

「知り合いというか昔馴染みである」

「そうか。どうやらデーモンがこっちに向かってきているらしい。ペロ、戦えるか?」

「当然。マタタビ殿がバルバリザークの姫を知っているということは、今のウッドビーズで起きていることの理由は見当が付く。そのような状況で吾輩が力を貸さぬわけにはいかぬ」

 意志を確認した上で声がしたほうに駆け出せば、ペロは四足歩行で横並びになった。

 街のほうへと向かえばデーモンたちと戦う白虎の姿が見えた。数は大体三十くらいか。こちらに来ている以外のデーモンのほとんどはジュウゴとアヤメが倒しているだろうから、おそらくは残党だろう。

「よし、皆殺しだ」

 体も温まってきたところで――向かって来たデーモン二体の頭を掴んで地面に叩き付けた。うん、勢いのままでいけば力任せの一撃でも倒せるな。まぁ当然、グローブありきの話だが。

 横を見ればペロの剣は電気を帯びているのか斬られ突き刺されたデーモンたちは体を焦げ付かせている。さっき俺も食らったんだが、たぶん手を抜いていたんだろうな。

「さて――」

 大方は白虎とペロが倒してくれて、こちらに来ていたデーモンたちはいなくなった。あとどれくらい居るのかわからないが……地鳴りがして全滅させたことに気が付いた。

 都市の西側に土の壁が聳え立ったことでウッドビーズにいるデーモンを殺し、奪還したことの証明になった。

「マタタビ殿、あれは……?」

「フィルドブルとリバーエッジからの増援を防ぐための土壁だ。デーモンを全滅させた後に師団が造ることになっていたから、まぁ、そういうことだろうな」

 あまり仕事をしていない気もするが、終わり良ければ総て良しだ。

「つまり、戦いは終わった、と。つまり、民は救われた、と。つまり吾輩は――っ。感謝する。マタタビ殿」

「いや、お礼を言うのは俺にじゃない。それに、だ。とりあえず俺以外の国の人間に紹介しよう。それから大樹の中にいるという民を解放すればいい」

「何から何まで心遣い痛み入る……!」

 片膝を着いて頭を下げるペロはまさに騎士の様相だ。素晴らしい。

 それはそれとして――いくつかの疑問は残るが初戦は勝利だ。あとはアレか。ジュウゴとアヤメの戦闘欲の熱が抜けているといいんだが……逆にが火が付いた可能性も否めない。まぁ、それならそれで望むところって感じかな。

「……まぁ」

 気分の高揚はわからなくも無い。同じと思われるのは癪だがな。
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