異世界のネコ科ってどこからどこまでですか?

化茶ぬき

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フィルドブル

第十七話 奪還作戦Ⅱ

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 ウッドビーズを奪還してから二日後――結論から言うと、内通者は現段階ではわかっていない。怪しみだすと誰一人として信用できなくなるから、案として出た嘘の情報を流す、というのは却下になった。良い考えだと思ったのだが。

 仕方なく内通者捜しよりも情報の漏洩阻止に的を絞り、人員配置についての詳細を知っているのは師団の全権を握るレオと、参謀役なのにウッドビーズに残ったリブラ、あとはなんとなく信用できるルネの三人だけで、あとは作戦の要を任された俺たちだけだった。

「まぁ、実際はちょっと考えればわかることだし苦肉の策ではあるけどな」

「だがしかし、内通者を惑わせさえすれば良い。我らに付いて離れないという印象が強かった三つ子をばらけさせたのは良い案かもしれないな」

「私としてはドライちゃん、結構好きなんですけれど。せめて一人くらいは連れて来れば良かったのではないかしら?」

「いないことに意味があるんだよ。アインをウッドビーズに、ツヴァイとドライを街の防衛に回らせれば、まさかお目付け役を一人も付けないで動き回らせることは無いだろうという思考が働くはずだ」

「信用が無い、ということですわよね」

「とはいえ、少なくとも作戦の詳細を知る三人だけは我らを信用しているというわけだ。今はそれで満足するしかあるまい」

 フィルドブルの西側には小高い山脈があり、街に向かって下っていく棚田が作られている。その山頂から街を見下ろしていると、素早い影がこちらに向かってきた。

「マタタビ殿。街にいるデーモンはおよそ百体である」

「まぁ常駐しているのはそんなもんか。三人もいらなかったかもな」

「開戦の合図まで緊張を切らすな。それぞれが役目を全うすれば勝利は容易いはずだ」

「あら、この作戦で最も重要なポジションにいるのはジュウゴなのだから、自らに言い聞かせるべきですわ」

「ふん。今ここで貴様から燃やしてやってもいいがな」

 などと言っているが決して本気ではない。軽く笑い合っているような状況で、バルバリザーク王国のほうから爆発音が聞こえて、地鳴りがした。

「合図だな。戦争が始まった」

「では、俺様は先に行く。貴様等も作戦通りに」

 そう言って山を下りていったジュウゴの背中を見送って、俺は準備運動を始めた。二人と違って魔法の力を使えるわけじゃないから入念に解しておかないと。

「そういえば、マタタビ。あなた新しい武器を作ったんじゃなかったの?」

「ん? ああ。キャンサーに武器の製作は頼んだが間に合わなくてな。別に素手で戦えないことも無いし、今回も素手だ」

「まぁ、今日はペロちゃんもいることですし、無理をしない範囲で殺戮しましょう」

「……だな」

 これが通常運転だ。俺自身もどこかが欠けている自覚はあるが、アヤメとジュウゴはそれ以上だな。

「お二方、そろそろ三分が経つ頃である」

「よし。んじゃあ、行くか」

 俺はペロと共に山道を駆け下りていくが、アヤメは宙を舞って飛んでいった。便利な力だ。

 そうこうしている間にフィルドブルとリバーエッジの間で火柱が上がり、次第に広がっていくと炎の壁が出来上がった。

 前のウッドビーズでは土壁を造れる力を持った師団員がいたが、今回はいない。だから苦肉の策としてデーモンたちを分断するためにジュウゴの力を使うことにしたわけだ。

「――マタタビ殿」

「ああ、わかっている」

 炎壁のほうに気を取られているようだが棚田と街の境目にデーモンたちがいた。こちらも何か派手な技で注意を引く必要があるが、その役目は俺じゃない。

 飛んできたアヤメが地面に勢いよく降り立つと、デーモンたちは立っていられないほどの揺れにしゃがみ込んだ。

「ペロ、右側を頼む」

「お任せあれ」

 左右に分かれ、アヤメのほうに視線を向けているデーモンの首に脚を振り下ろした。

 さぁ――どんどん行こう。

 

 この辺りのデーモンは粗方片付けた。

「どれくらい倒した?」

「数えていませんわ」

 うん。アヤメはそうだろうな。離れたところでデーモンに止めを刺していたペロに視線を向ければ、気が付いたように近寄ってきた。

「およそ七十体程度であるな。吾輩が偵察した時よりも減っている」

「つーことはジュウゴのほうに行ったか――ん? いや、向こうか」

 気配を感じたほうに歩みを進めていけば大きな倉庫を警護するように立つ十数体のデーモンがいた。

 その様子を民家の角から眺めていると、目の前を通って普通に倉庫に向かおうとするアヤメの服を掴んで止めた。

「待て待て待て」

「え、なんですの? あれくらい瞬殺すれば――」

「それが良くねぇから止めてるんだろ。状況が違うんだよ。ちょっと待て」

 ここはデーモンの占有地であり、そこにある倉庫をデーモンが守っている。つまり、守るべき何かがそこにある、ということだ。

 可能性は三つ――武器庫か、食糧庫か、収容所だ。ウッドビーズでは大樹の中に大多数の住民を避難させていたから違和感を覚えなかったが、デーモンが全ての人間が殺しているわけではないのなら、確実に人間を容れておく場所があるはずだ。男共は労働に。そして――

「じゃあ、こうしよう。周りのデーモンはアヤメとペロに任せる。俺は倉庫の中を確認しに行くから、間違って潰さないでくれよ」

「よくわかりませんけれど……わかりましたわ」

 渋々納得したようなアヤメはペロと共に特に躊躇うことなくデーモンたちに向かって歩き出した。

「人間が来たぞ! 殺せぇええ!」

 すでに戦闘が行われていることを知っていた上での反応っぽいな。まぁだからといってアヤメは気にすることなくデーモンたちを潰していくわけだが。

 戦っている間を縫って倉庫まで辿り着いたが、閉じられたドアの前には一体のデーモンが立ち塞がっている。

「黒豹流――いや、使わねぇ!」

 技を使おうかと思ったが、シンプルに捻りを加えた飛び蹴りで、デーモンごとドアを吹き飛ばした。

 倉庫の中に這入れば――ああ、うん。予想は付いていたよ。

「さて……どうしたものかな」

 考えていると、外の騒ぎが治まり背後からアヤメとペロが入ってきたことに気が付いた。

「マタタビ殿、こちらはすべて――っ」

「何か見つかったのかし――ら? ああ、なるほど。そういうこと……」

 倉庫の中には半裸の女性たちが藁の敷かれた地面に大勢座り込んで、互いを抱き締め合うように固まっていた。こちらを見詰めたまま、動かずにいる。倒れたまま生気なく動けない者もいる。

 そんな様子を見るアヤメは自らを落ち着かせるように息を吐いていた。

 俺たちに罪悪感は無い。だからといって、怒りの感情が沸かないわけでは無い。殊更、同姓であるアヤメはなのだろう。

「随分と下衆なことをしますわね」

 この声に怒気が孕んでいるのがよくわかる。

「とはいえ、これが戦争だ。わかり切っていたことだろ」

「いいえ、わかりませんわ。こんなこと、許されるはずが無い」

「許される許されないの問題では無いのである。これは必然。故に吾輩は――」

 アヤメの言いたいこともペロの言いたいこともわかる。というか、このことはペロと精霊の巫女が女子供を真っ先に大樹の中に隠した事実からわかっていたことだ。たぶん、アヤメ以外の全員は気が付いていたはずだ。それでも教えなかったのは、気が付いていない振りをしている可能性もあったから……だからこそ、わざわざ残酷な現状を口にすることを憚った。

「とりあえずこの場は放置だな。部外者がどうこう出来るところじゃない。俺たちはデーモンの残党狩りに行くぞ。アヤメ」

「……ええ、わかりましたわ」

 これまであまり感情を出していなかったアヤメが怒りを全面に出している。珍しいというか、人の琴線はどこにあるのかわからないってやつだ。

 街の中を回りつつデーモンの死体を炎壁を守るジュウゴの下に持っていけば、そこにはすでに数体の丸焦げ死体があった。

「ああ、やっぱりこっちにも来ていたか。大丈夫だったか?」

「問題ない。俺様だぞ? 貴様等も、デーモン共はそれで全部か?」

「多分な。処理してくれ」

 前と同じようにこちらの勝利の狼煙としてジュウゴに燃やしてもらおうと思ったのだが、炎を出そうと構えた腕の前にアヤメが立ち塞がった。

「ここは私がやりますわ」

「あん? そういうわけにはいかないだろう。これは戦争だ。やり方が決まっている。退け。貴様も燃やすぞ」

「戦争だから――やり方、だから? だから、女の人たちが慰みモノになってもいいって!? 私には……わかりませんわ」

 声を荒げたアヤメに対して疑問符を浮かべたジュウゴはこちらに視線を飛ばしてきたが、手を広げて恍けて見せた。

 だがまぁ、精神的なケアも必要だな。

「わかった。アヤメ、この死体の処理は任せる。狼煙に関してはどこか適当な木でも燃やせばいい」

「……そうだな。そうするとしよう」

 察したようなジュウゴがそう言うと、アヤメは積み重ねたデーモンの死体に近寄って持っていた杖を地面に突き立てた。

「私はを許しません。その姿形をこの世に保っていることすら許せない。だから――」

 広げた両腕の掌を合わせるように寄せていくと、同時に死体の山も徐々に中央に集まって小さくなっていく。骨の軋む音と折れる音、筋肉の千切れる音と共に血が噴き出すが広がることなく収縮されていく。

 そして、アヤメの掌が合わさると、グチャと何かが潰れるような音と共に死体の塊は掌よりも小さな黒い塊へと変貌した。

 一先ずフィルドブル奪還作戦は成功と言っていいだろう。あとは本陣の防衛作戦が成功しているのかどうか――俺たちには待つことしかできない。
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