放浪剣士は異世界ダンジョンを踏破する。

化茶ぬき

文字の大きさ
3 / 29

第3話 期待値は上がる

しおりを挟む
「起~き~る~にゃっ!」

「ぐえっ――」

 腹に受けた衝撃で体が跳び上がった。

 尻尾を振るネイルが腹から下りて、腕時計を確認すればきっちり三時間が経っていた。

「出発の時間にゃけど、行けるかにゃ?」

 異世界転移……夢じゃなかったか。

「ああ、行こう」

 川の水で顔を洗い、エナメルバッグを斜め掛けにして、蜘蛛の牙で作った刀を持ちネイルと共に再び森の中を進み始めた。

「そういえば、フドーはドリフターかにゃ?」

「ドリフターってなんだ? 漂流者?」

「この世界以外から来た人間のことにゃん。突然、街中に現れて言葉も通じにゃい。それがドリフター」

「俺みたいなのがそんな頻繁にいるのか」

「うんにゃ。街中に現れるのは年に一人から二人でダンジョンの中にってのは聞いたこともないにゃ。まぁ、でも、考えてみれば回廊内はモンスターばかりにゃし、出る前に殺される可能性のほうが高いかもにゃ」

 俺は運が良かったってことだな。……いや、逆か。転移してすぐに大蜘蛛と出くわしたんだから、最悪だった。

「じゃあ、そのドリフターってのに毎回ネイルが俺にやったように穴? を開くのか?」

「うんにゃ。ボクがやったのは――あれにゃ。あの……にゃ。詳しくは連れに訊いてくれればいいにゃ。街中に現れたドリフターはギルド登録と同時に言葉が通じるようになるにゃ」

 口籠り方が気になり過ぎるが、まぁいい。

「ギルドがあるのか? じゃあ、ネイルはハンター? 冒険者?」

「冒険者にゃん」

「冒険者、ねぇ……」

 こんな道すがらで掘り下げるのも何か違う気がする。無事にここを出られればいくらでも時間はあるしな。

「にゃーにゃん! 階段発見!」

「上の階には、下にいた大蜘蛛のようなモンスターがいるんだよな?」

「そりゃそうにゃ。大蜘蛛を倒したフドーの力、楽しみにしてるからにゃん」

 階段を先に上るネイルが振り返って期待を込めた視線を向けてくる。困ったな。

「あ~……いや、悪いが俺は戦えない」

「ふにゃっ! にゃにゃ――にゃんで!?」

「大蜘蛛を倒したのは偶然だし、何より俺は刀を振るえない」

「振ってたにゃ! ボクに向かって振ってたにゃ!」

「あれはネイルの姿が見えてなかったし、つい反射的に手が出ただけだ。だからまぁ、俺のことは戦力として捉えないでくれ。戦いはネイルに任せる」

「ふぬぬっ……まぁ、いいにゃ」

 いいのか。切り替え早いな。

 どうせいざとなったら戦ってくれるんだろうにゃ~、という顔をしてトントンと階段を上っていくが――まぁ、否定は出来ない。いざとなったらどうなるかは俺自身もわからないが、これだけは確信している。

 面と向かって敵と相対した時、俺は相手を倒す技を持っていない。

 とりあえず自分のことは棚上げしておくとして、そこそこ難易度が高いらしいこのダンジョンに脚を踏み入れているネイルも、そこそこ強いってことだろう。ならば、ここは他力本願で行かせてもらうとしようか。

 上の階に着けば、そこは岩肌剥き出しの洞窟だった。

「今度は洞窟か。そういや訊き忘れていたが、ここは何階なんだ?」

「二十一階だにゃん」

「で、頂上は?」

「三十階くらいかにゃ~」

「そんなもんか」

 普通の高層マンションってくらいだが、一つの階に対する大きさを考えれば相当高いんだろう。

「さぁて、そんにゃあ気合い入れていくにゃ!」

「戦いは避ける方向で頼む」

「ボクの第一目標も連れとの合流だから無駄にゃ戦闘は避けるつもりだにゃ」

 そうだと有り難いが、大蜘蛛と遭遇した時のことを考えれば逃げられない状況も有りそうだな。

 ……いや、駄目だろ。良くないことばかり考えるな。

 蜘蛛の牙を肩に担ぎながら洞窟を進んでいく。

 前を行くネイルは揚々と鼻唄混じりでスキップしている。付いて来いと言わんばかりだが、度々訪れる分かれ道を迷うことなく進んでいるのは若干不安が残るな。

「おい、ネイル。道は合ってるのか?」

「連れの匂いを追ってるから間違ってはいにゃいはずにゃ」

 その連れが道を間違っていたら、という懸念もあるが、ネイルにとっては合流することが一番の目的だから、間違っていないのだろう。

「……おい、何かいるぞ」

 こちらを振り向いたネイルが足を停めた瞬間、その少し先で洞窟の壁から剥がれるように人型のモンスターが姿を現した。

「んにゃっ!」飛び退いたネイルは一気に俺も下まで戻ってきた。「にゃんでボクの鼻より先に気付けるにゃ!?」

「気配を読むのが得意なんだよ。それで、あいつは?」

「ロックロックにゃ! 岩に擬態して横を通るものを食べるモンスター!」

「強いのか?」

「下の階にゃら弱いけど、この辺りだとそこそこヤバいにゃ」

「同じモンスターでも階によって強さが変わるってことか。ネイルの連れはここを通っても大丈夫だったのか?」

「前にも言ったけど、気付かれにゃいのが得意にゃやつなのにゃ」

「……ネイルは勝てるか?」

「にゃははっ! じゃあ、ボクの力を説明しておくにゃん。ボクの能力は《大物喰らいジャイアント・キリング》――戦う相手が強ければ強いほど、それに比例してボクの力が強くにゃる。つまり――」

 駆け出したネイルが握った拳でロックロックを殴れば、その衝撃で岩の体が飛び散った。

「すっげぇ、粉々」

 魔法ではなく能力と言ったな。

 ということは、この世界での力はレベルが上がって覚えるスキルみたいなものってことか?

「見たかにゃ? これでもボクは強いんにゃ」

「ああ、見てたよ。この分なら俺は戦わなくても大丈夫そうだな」

「それはわからにゃいにゃん」

「まぁ、先のことはわからねぇけどさ……こういうモンスターってどうするんだ? 素材として持ち帰れば売れるのか?」

「もちろん売れるにゃ。回廊の踏破目的じゃにゃくて素材集め目的にゃら浅い階層だけ探索して帰る冒険者も多いにゃ」

「じゃあ、今回は放置していくわけか」

「勿体にゃいけど仕方ないにゃ」

 倒したロックロックを放置して、そのまま洞窟を進むことに。

 迷路上になっている洞窟だが、それからはモンスターと出会うこともなく上へと続く階段に辿り着いた。

「意外と早かったな」

「普通はこんなもんにゃ。十九階みたいにゃ長さのは有限回廊にゃあ稀にゃ」

 猫語過ぎてよくわからなかったが、言いたいことはわかった。

「もしかして、回廊ってのは各階にボスモンスターみたいなのがいるのか?」

「うんにゃ。中堅のボスがいるのが各九階で、大ボスは最上階にだけいるにゃ」

「……ってことは、十階とか二十階は――」

「休憩場所にゃん」

「つまり、この先は休み無しか」

 ダンジョン――回廊か。思った以上にゲーム的だな。

 とはいえ、セーブが出来るわけでも無いし、たぶん死ねばそこでお仕舞いだ。

 しかし……未だにどうにも受け入れ難い。異世界転移は、まぁ百歩譲って別にいい。だが、ダンジョン内ってことだけはさすがにキツい。なんの説明も無く死線の真っ只中は、死ねと言っているようなものだ。

 ネイルの話によれば俺以外にも転移してきている者はいるらしいし、それが日本人なら――いや、地球から来た者であれば話す必要がある。生きてこのダンジョンから出られれば、な。

「二十二階にゃ~!」

「今度は森か。そろそろネイルの連れと合流できればいいんだけどな」

「にゃんっ」

 猫過ぎて感情がわからないが、肯定ってことでいいんだろう。

 猫の獣人――可笑しな話だが、この世界に人間以外がいることで変に期待値の上がっている俺がいる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

世界最強の七賢者がお世話係の俺にだけはデレデレすぎる件

Y.
恋愛
国の頂点に君臨し、神にも等しい力を持つ『七賢者』。 火・水・風・土・光・闇・氷の属性を極めた彼女たちは、畏怖の対象として国民から崇められていた。 ――だが、その「聖域」の扉を一枚隔てた先では、とんでもない光景が広がっていた。 「アルトぉ、この服脱がせてー。熱いから魔法で燃やしちゃった」 「……アルトが隣にいないと、私、一生布団から出ないから」 「いいじゃない、減るもんじゃないし。さあ、私と混ざり合いましょう?」 彼女たちの正体は、私生活が壊滅的にポンコツで、特定の一人に依存しきったデレデレな美少女たちだった! 魔法の才能ゼロの雑用係・アルトは、世界で唯一「彼女たちの暴走魔力に耐えられる」という理由で、24時間体制の身の回りのお世話をすることに。 着替え、食事の介助、添い寝(!?)まで……。 世界最強の7人に取り合われ、振り回され、いじり倒される。 胃袋と心根をガッチリ掴んだお世話係と、愛が重すぎる最強ヒロインたちによる、至福の異世界ハーレムラブコメ、開幕!

勇者召喚の余り物ですが、メイド型アンドロイド軍団で冒険者始めます

水江タカシ
ファンタジー
28歳独身、一般事務の会社員である俺は、勇者召喚に巻き込まれて異世界へと転移した。 勇者、聖女、剣聖―― 華やかな肩書きを持つ者たちがもてはやされる中、俺に与えられたのは聞いたこともないスキルだった。 【戦術構築サポートAI】 【アンドロイド工廠】 【兵器保管庫】 【兵站生成モジュール】 【拠点構築システム】 【個体強化カスタマイズ】 王は落胆し、貴族は嘲笑い、俺は“役立たず”として王都から追放される。 だが―― この世界には存在しないはずの“機械兵器”を、俺は召喚できた。 最初に召喚したのは、クールな軍人タイプのメイド型戦闘アンドロイド。 識別番号で呼ばれる彼女に、俺は名前を与えた。 「今日からお前はレイナだ」 これは、勇者ではない男が、 メイド型アンドロイド軍団と共に冒険者として成り上がっていく物語。 屋敷を手に入れ、土地を拠点化し、戦力を増強しながら、 趣味全開で異世界を生きていく。 魔王とはいずれ戦うことになるだろう。 だが今は―― まずは冒険者登録からだ。

処理中です...