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第3話 期待値は上がる
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「起~き~る~にゃっ!」
「ぐえっ――」
腹に受けた衝撃で体が跳び上がった。
尻尾を振るネイルが腹から下りて、腕時計を確認すればきっちり三時間が経っていた。
「出発の時間にゃけど、行けるかにゃ?」
異世界転移……夢じゃなかったか。
「ああ、行こう」
川の水で顔を洗い、エナメルバッグを斜め掛けにして、蜘蛛の牙で作った刀を持ちネイルと共に再び森の中を進み始めた。
「そういえば、フドーはドリフターかにゃ?」
「ドリフターってなんだ? 漂流者?」
「この世界以外から来た人間のことにゃん。突然、街中に現れて言葉も通じにゃい。それがドリフター」
「俺みたいなのがそんな頻繁にいるのか」
「うんにゃ。街中に現れるのは年に一人から二人でダンジョンの中にってのは聞いたこともないにゃ。まぁ、でも、考えてみれば回廊内はモンスターばかりにゃし、出る前に殺される可能性のほうが高いかもにゃ」
俺は運が良かったってことだな。……いや、逆か。転移してすぐに大蜘蛛と出くわしたんだから、最悪だった。
「じゃあ、そのドリフターってのに毎回ネイルが俺にやったように穴? を開くのか?」
「うんにゃ。ボクがやったのは――あれにゃ。あの……にゃ。詳しくは連れに訊いてくれればいいにゃ。街中に現れたドリフターはギルド登録と同時に言葉が通じるようになるにゃ」
口籠り方が気になり過ぎるが、まぁいい。
「ギルドがあるのか? じゃあ、ネイルはハンター? 冒険者?」
「冒険者にゃん」
「冒険者、ねぇ……」
こんな道すがらで掘り下げるのも何か違う気がする。無事にここを出られればいくらでも時間はあるしな。
「にゃーにゃん! 階段発見!」
「上の階には、下にいた大蜘蛛のようなモンスターがいるんだよな?」
「そりゃそうにゃ。大蜘蛛を倒したフドーの力、楽しみにしてるからにゃん」
階段を先に上るネイルが振り返って期待を込めた視線を向けてくる。困ったな。
「あ~……いや、悪いが俺は戦えない」
「ふにゃっ! にゃにゃ――にゃんで!?」
「大蜘蛛を倒したのは偶然だし、何より俺は刀を振るえない」
「振ってたにゃ! ボクに向かって振ってたにゃ!」
「あれはネイルの姿が見えてなかったし、つい反射的に手が出ただけだ。だからまぁ、俺のことは戦力として捉えないでくれ。戦いはネイルに任せる」
「ふぬぬっ……まぁ、いいにゃ」
いいのか。切り替え早いな。
どうせいざとなったら戦ってくれるんだろうにゃ~、という顔をしてトントンと階段を上っていくが――まぁ、否定は出来ない。いざとなったらどうなるかは俺自身もわからないが、これだけは確信している。
面と向かって敵と相対した時、俺は相手を倒す技を持っていない。
とりあえず自分のことは棚上げしておくとして、そこそこ難易度が高いらしいこのダンジョンに脚を踏み入れているネイルも、そこそこ強いってことだろう。ならば、ここは他力本願で行かせてもらうとしようか。
上の階に着けば、そこは岩肌剥き出しの洞窟だった。
「今度は洞窟か。そういや訊き忘れていたが、ここは何階なんだ?」
「二十一階だにゃん」
「で、頂上は?」
「三十階くらいかにゃ~」
「そんなもんか」
普通の高層マンションってくらいだが、一つの階に対する大きさを考えれば相当高いんだろう。
「さぁて、そんにゃあ気合い入れていくにゃ!」
「戦いは避ける方向で頼む」
「ボクの第一目標も連れとの合流だから無駄にゃ戦闘は避けるつもりだにゃ」
そうだと有り難いが、大蜘蛛と遭遇した時のことを考えれば逃げられない状況も有りそうだな。
……いや、駄目だろ。良くないことばかり考えるな。
蜘蛛の牙を肩に担ぎながら洞窟を進んでいく。
前を行くネイルは揚々と鼻唄混じりでスキップしている。付いて来いと言わんばかりだが、度々訪れる分かれ道を迷うことなく進んでいるのは若干不安が残るな。
「おい、ネイル。道は合ってるのか?」
「連れの匂いを追ってるから間違ってはいにゃいはずにゃ」
その連れが道を間違っていたら、という懸念もあるが、ネイルにとっては合流することが一番の目的だから、間違ってはいないのだろう。
「……おい、何かいるぞ」
こちらを振り向いたネイルが足を停めた瞬間、その少し先で洞窟の壁から剥がれるように人型のモンスターが姿を現した。
「んにゃっ!」飛び退いたネイルは一気に俺も下まで戻ってきた。「にゃんでボクの鼻より先に気付けるにゃ!?」
「気配を読むのが得意なんだよ。それで、あいつは?」
「ロックロックにゃ! 岩に擬態して横を通るものを食べるモンスター!」
「強いのか?」
「下の階にゃら弱いけど、この辺りだとそこそこヤバいにゃ」
「同じモンスターでも階によって強さが変わるってことか。ネイルの連れはここを通っても大丈夫だったのか?」
「前にも言ったけど、気付かれにゃいのが得意にゃやつなのにゃ」
「……ネイルは勝てるか?」
「にゃははっ! じゃあ、ボクの力を説明しておくにゃん。ボクの能力は《大物喰らい》――戦う相手が強ければ強いほど、それに比例してボクの力が強くにゃる。つまり――」
駆け出したネイルが握った拳でロックロックを殴れば、その衝撃で岩の体が飛び散った。
「すっげぇ、粉々」
魔法ではなく能力と言ったな。
ということは、この世界での力はレベルが上がって覚えるスキルみたいなものってことか?
「見たかにゃ? これでもボクは強いんにゃ」
「ああ、見てたよ。この分なら俺は戦わなくても大丈夫そうだな」
「それはわからにゃいにゃん」
「まぁ、先のことはわからねぇけどさ……こういうモンスターってどうするんだ? 素材として持ち帰れば売れるのか?」
「もちろん売れるにゃ。回廊の踏破目的じゃにゃくて素材集め目的にゃら浅い階層だけ探索して帰る冒険者も多いにゃ」
「じゃあ、今回は放置していくわけか」
「勿体にゃいけど仕方ないにゃ」
倒したロックロックを放置して、そのまま洞窟を進むことに。
迷路上になっている洞窟だが、それからはモンスターと出会うこともなく上へと続く階段に辿り着いた。
「意外と早かったな」
「普通はこんなもんにゃ。十九階みたいにゃ長さのは有限回廊にゃあ稀にゃ」
猫語過ぎてよくわからなかったが、言いたいことはわかった。
「もしかして、回廊ってのは各階にボスモンスターみたいなのがいるのか?」
「うんにゃ。中堅のボスがいるのが各九階で、大ボスは最上階にだけいるにゃ」
「……ってことは、十階とか二十階は――」
「休憩場所にゃん」
「つまり、この先は休み無しか」
ダンジョン――回廊か。思った以上にゲーム的だな。
とはいえ、セーブが出来るわけでも無いし、たぶん死ねばそこでお仕舞いだ。
しかし……未だにどうにも受け入れ難い。異世界転移は、まぁ百歩譲って別にいい。だが、ダンジョン内ってことだけはさすがにキツい。なんの説明も無く死線の真っ只中は、死ねと言っているようなものだ。
ネイルの話によれば俺以外にも転移してきている者はいるらしいし、それが日本人なら――いや、地球から来た者であれば話す必要がある。生きてこのダンジョンから出られれば、な。
「二十二階にゃ~!」
「今度は森か。そろそろネイルの連れと合流できればいいんだけどな」
「にゃんっ」
猫過ぎて感情がわからないが、肯定ってことでいいんだろう。
猫の獣人――可笑しな話だが、この世界に人間以外がいることで変に期待値の上がっている俺がいる。
「ぐえっ――」
腹に受けた衝撃で体が跳び上がった。
尻尾を振るネイルが腹から下りて、腕時計を確認すればきっちり三時間が経っていた。
「出発の時間にゃけど、行けるかにゃ?」
異世界転移……夢じゃなかったか。
「ああ、行こう」
川の水で顔を洗い、エナメルバッグを斜め掛けにして、蜘蛛の牙で作った刀を持ちネイルと共に再び森の中を進み始めた。
「そういえば、フドーはドリフターかにゃ?」
「ドリフターってなんだ? 漂流者?」
「この世界以外から来た人間のことにゃん。突然、街中に現れて言葉も通じにゃい。それがドリフター」
「俺みたいなのがそんな頻繁にいるのか」
「うんにゃ。街中に現れるのは年に一人から二人でダンジョンの中にってのは聞いたこともないにゃ。まぁ、でも、考えてみれば回廊内はモンスターばかりにゃし、出る前に殺される可能性のほうが高いかもにゃ」
俺は運が良かったってことだな。……いや、逆か。転移してすぐに大蜘蛛と出くわしたんだから、最悪だった。
「じゃあ、そのドリフターってのに毎回ネイルが俺にやったように穴? を開くのか?」
「うんにゃ。ボクがやったのは――あれにゃ。あの……にゃ。詳しくは連れに訊いてくれればいいにゃ。街中に現れたドリフターはギルド登録と同時に言葉が通じるようになるにゃ」
口籠り方が気になり過ぎるが、まぁいい。
「ギルドがあるのか? じゃあ、ネイルはハンター? 冒険者?」
「冒険者にゃん」
「冒険者、ねぇ……」
こんな道すがらで掘り下げるのも何か違う気がする。無事にここを出られればいくらでも時間はあるしな。
「にゃーにゃん! 階段発見!」
「上の階には、下にいた大蜘蛛のようなモンスターがいるんだよな?」
「そりゃそうにゃ。大蜘蛛を倒したフドーの力、楽しみにしてるからにゃん」
階段を先に上るネイルが振り返って期待を込めた視線を向けてくる。困ったな。
「あ~……いや、悪いが俺は戦えない」
「ふにゃっ! にゃにゃ――にゃんで!?」
「大蜘蛛を倒したのは偶然だし、何より俺は刀を振るえない」
「振ってたにゃ! ボクに向かって振ってたにゃ!」
「あれはネイルの姿が見えてなかったし、つい反射的に手が出ただけだ。だからまぁ、俺のことは戦力として捉えないでくれ。戦いはネイルに任せる」
「ふぬぬっ……まぁ、いいにゃ」
いいのか。切り替え早いな。
どうせいざとなったら戦ってくれるんだろうにゃ~、という顔をしてトントンと階段を上っていくが――まぁ、否定は出来ない。いざとなったらどうなるかは俺自身もわからないが、これだけは確信している。
面と向かって敵と相対した時、俺は相手を倒す技を持っていない。
とりあえず自分のことは棚上げしておくとして、そこそこ難易度が高いらしいこのダンジョンに脚を踏み入れているネイルも、そこそこ強いってことだろう。ならば、ここは他力本願で行かせてもらうとしようか。
上の階に着けば、そこは岩肌剥き出しの洞窟だった。
「今度は洞窟か。そういや訊き忘れていたが、ここは何階なんだ?」
「二十一階だにゃん」
「で、頂上は?」
「三十階くらいかにゃ~」
「そんなもんか」
普通の高層マンションってくらいだが、一つの階に対する大きさを考えれば相当高いんだろう。
「さぁて、そんにゃあ気合い入れていくにゃ!」
「戦いは避ける方向で頼む」
「ボクの第一目標も連れとの合流だから無駄にゃ戦闘は避けるつもりだにゃ」
そうだと有り難いが、大蜘蛛と遭遇した時のことを考えれば逃げられない状況も有りそうだな。
……いや、駄目だろ。良くないことばかり考えるな。
蜘蛛の牙を肩に担ぎながら洞窟を進んでいく。
前を行くネイルは揚々と鼻唄混じりでスキップしている。付いて来いと言わんばかりだが、度々訪れる分かれ道を迷うことなく進んでいるのは若干不安が残るな。
「おい、ネイル。道は合ってるのか?」
「連れの匂いを追ってるから間違ってはいにゃいはずにゃ」
その連れが道を間違っていたら、という懸念もあるが、ネイルにとっては合流することが一番の目的だから、間違ってはいないのだろう。
「……おい、何かいるぞ」
こちらを振り向いたネイルが足を停めた瞬間、その少し先で洞窟の壁から剥がれるように人型のモンスターが姿を現した。
「んにゃっ!」飛び退いたネイルは一気に俺も下まで戻ってきた。「にゃんでボクの鼻より先に気付けるにゃ!?」
「気配を読むのが得意なんだよ。それで、あいつは?」
「ロックロックにゃ! 岩に擬態して横を通るものを食べるモンスター!」
「強いのか?」
「下の階にゃら弱いけど、この辺りだとそこそこヤバいにゃ」
「同じモンスターでも階によって強さが変わるってことか。ネイルの連れはここを通っても大丈夫だったのか?」
「前にも言ったけど、気付かれにゃいのが得意にゃやつなのにゃ」
「……ネイルは勝てるか?」
「にゃははっ! じゃあ、ボクの力を説明しておくにゃん。ボクの能力は《大物喰らい》――戦う相手が強ければ強いほど、それに比例してボクの力が強くにゃる。つまり――」
駆け出したネイルが握った拳でロックロックを殴れば、その衝撃で岩の体が飛び散った。
「すっげぇ、粉々」
魔法ではなく能力と言ったな。
ということは、この世界での力はレベルが上がって覚えるスキルみたいなものってことか?
「見たかにゃ? これでもボクは強いんにゃ」
「ああ、見てたよ。この分なら俺は戦わなくても大丈夫そうだな」
「それはわからにゃいにゃん」
「まぁ、先のことはわからねぇけどさ……こういうモンスターってどうするんだ? 素材として持ち帰れば売れるのか?」
「もちろん売れるにゃ。回廊の踏破目的じゃにゃくて素材集め目的にゃら浅い階層だけ探索して帰る冒険者も多いにゃ」
「じゃあ、今回は放置していくわけか」
「勿体にゃいけど仕方ないにゃ」
倒したロックロックを放置して、そのまま洞窟を進むことに。
迷路上になっている洞窟だが、それからはモンスターと出会うこともなく上へと続く階段に辿り着いた。
「意外と早かったな」
「普通はこんなもんにゃ。十九階みたいにゃ長さのは有限回廊にゃあ稀にゃ」
猫語過ぎてよくわからなかったが、言いたいことはわかった。
「もしかして、回廊ってのは各階にボスモンスターみたいなのがいるのか?」
「うんにゃ。中堅のボスがいるのが各九階で、大ボスは最上階にだけいるにゃ」
「……ってことは、十階とか二十階は――」
「休憩場所にゃん」
「つまり、この先は休み無しか」
ダンジョン――回廊か。思った以上にゲーム的だな。
とはいえ、セーブが出来るわけでも無いし、たぶん死ねばそこでお仕舞いだ。
しかし……未だにどうにも受け入れ難い。異世界転移は、まぁ百歩譲って別にいい。だが、ダンジョン内ってことだけはさすがにキツい。なんの説明も無く死線の真っ只中は、死ねと言っているようなものだ。
ネイルの話によれば俺以外にも転移してきている者はいるらしいし、それが日本人なら――いや、地球から来た者であれば話す必要がある。生きてこのダンジョンから出られれば、な。
「二十二階にゃ~!」
「今度は森か。そろそろネイルの連れと合流できればいいんだけどな」
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