放浪剣士は異世界ダンジョンを踏破する。

化茶ぬき

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第26話 商会

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 白堕を取り纏めている商会を潰そうと思う――そう伝えたジョニーの反応は淡泊だった。

「おお、いいんじゃねぇの? ギルドのほうでも結構問題になってたし、大々的に動くくらいならうちみてぇな小さなクランがやったほうがいい。好きにやれよ」

 淡泊と言うか、薄情のような気もするが。

 とりあえず商会を潰す許可を得たわけだが、ジョニーはまたも朝から外出中。有益な情報でもあれば、と思っていたが頼りにならないのはわかり切っている。

「そんじゃあ、どうする? 商会を潰すと言っても、正面から乗り込んで首謀者全員をぶっ飛ばすだけじゃ意味が無いからな」

「にゃっ……戦わない、のかにゃ?」

「いや、その可能性もゼロじゃないが、ただ組織を潰すだけでは意味が無い。売る奴と買う奴、どちらも潰した上で白堕の安全を保証する場が必要になる」

「……手が足りませんね」

「だな。とはいえ、俺たちに頼れる相手はいないし、とりあえずは売り手である商会を潰せればいいが、少なくとも白堕の安全は確保しないと」

「ギルドはダメなんでしょうか?」

「もし受け入れてくれるんなら、今まで放置していないだろ」

「うちのクランじゃダメにゃのかにゃ?」

 その言葉に、俺とヨミは同時にドロレスへと視線を向けた。

「……現在、確認できているだけで約二十名の白堕が商会に所属しています。その全てを受け入れるのは、さすがに無理ですね」

 なんとなく受け入れるのはクランじゃないほうが良い気もしている。冒険者がどうのではなく、もっと別の――しがらみの無い生き方をするべきだ。仮にそれで、ボグが仲間にならなかったとしても。

「受け入れ先を探すのは後にして、一先ず商会を潰してから考える、というのではダメなんですか?」

「ダメってことは無いが……仮に、俺らが商会を潰して白堕たちを自由の身にさせたとして――これで君らは自由だ。でも後のことは何も決まってない。一緒に考えよう――なんて奴ら、信用できるか? 少なくとも、最後まで全う出来ない者に人を救う資格は無い。と俺は思う」

「確かに。正鵠です。生活と仕事、そして安全を保障できない限りは――」

「二人とも、何を言ってるにゃん? 生活と仕事、安全は……まぁ、たぶん大丈夫にゃと思うけど――うちがあるにゃ」

「うち? ってのはネイルの……ああ、西にあるネイルの実家か?」

「そうにゃ。人手は足りてにゃいし、ボクの家族ににゃら任せられるにゃん」

「頼めるんですか?」

「ボクのお願いを断ることはできにゃいからにゃ。というわけで、手紙を書いて出してくるにゃ!」

 駆け出していったネイルを見送って。

「これで受け入れ先は確保できましたが……商会がある場所はわかっているんですか?」

 ヨミの視線がドロレスに向かう。

「商会は中央都市より東に位置する廃墟に拠点を構えています」

「居場所がわかっているのに放置している理由は?」

「それは、私の関知できるところではないので」

 売り手がいて、買い手がいる。それを、この世界で最も上位組織であるはずのギルドが放置しているとなると――政治か? さすがに元の世界では普通の高校生だった俺には、そういう組織間のいざこざや有力者云々についてはよくわからない。とはいえ、好きにしろと言われた以上は好きにする。責任はジョニーが取ってくれるはずだ。たぶん。

「……じゃあ、役割を決めよう」

「それは商会に踏み込んだ時の役割、でしょうか?」

「だな。俺たちは三人しかいないから効率的に動く必要がある。まず、室内侵入組は俺とネイルだ。ネイルの鼻ならどこにいるかわからない白堕たちを見付けることができるだろう。その隙に、俺は親玉を叩く」

「……私は何を?」

「ヨミの能力は外のほうが活かされる。だから、もしも外に別の仲間がいた時のための対処と、中から出てきた奴らを任せたい」

「捕らえるってことですか?」

「そこが俺にもわからないんだが、捕らえたところで意味はあるのか? 罰則も何も無いんじゃあ同じことの繰り返しだろ。白堕たちが安心できない」

「その点については大丈夫だと思います。ジョニー様が動いているはずですので」

「本当に大丈夫か? あの飲んだくれで」

「飲んだくれではありますが――切れます。信用してください」

 信用に足るだけの行動をしてくれれば疑うことも無いんだが。

「白堕の受け入れ先もある。商会を仕切ってる奴らの行く末も決まった。となれば――行くか」

「え、今からですか?」

「早いに越したことは無い。それに俺たちにはこれといった準備も必要ないからな。ネイル」

「にゃっ?」

 階段から下りてきたネイルを呼べば、耳がピンと立った。

「行けるか?」

「もちろんにゃ!」

「はぁ……まぁ、いいですけどね」

 ネイルが書いてきた手紙はドロレスに渡して、それぞれが装備を整えて玄関に集合した。

「では、お気を付けていってらっしゃいませ」

 何かを確信しているような眼に見送られ――中央都市、東側にある門を通り抜け、枯れ木の森を進んでいけば廃墟が見えてきた。

「突っ込むのかにゃ?」

「いや……どう思う? ヨミ」

「日が暮れるのを待ったほうがいいかもしれません。今なら白堕を救い出すことは容易いかもしれませんが、全員がいる確証もなければこの場にいない商会の人間が逃げて、また同じことが繰り返される可能性もありますので」

「にゃははっ、夜なら夜目が効く獣人の領域にゃん」

「とは言っても、ネイルは室内侵入組だけどな。……暫くは待機か」

 ヨミの言っていることは正しい。一網打尽にして、白堕を救い出せることが一番だが――本来であれば、それは俺たちの仕事では無い。

 白堕を救い出し、安全な場所で保護するまではいいが、組織の解体やら摘発はもっと別の然るべきところが行うべき案件だと思うが……おそらく、それでは本当の意味でボグからの信用は得られない気がする。

 まぁ、それもこれも全て俺の勘だ。始めから終わりまで――徹頭徹尾、勘でしか進んでいなくてさすがに荷が重くなってきた。



 三時間後――日暮れ。

 廃墟からは気付かれない距離にある枯れ大木の陰で、先程まで昼寝をしていたネイルが伸びをした。

「んにゃっ、そろそろ出番かにゃ?」

「すみません、フドーさん。監視を任せてしまって」

「いや、せめてこれくらいの役には立たないとな」

「それで、商会の者は集まっていますか?」

「全部で何人いるのかはわからないが、馬車が二台。少なくとも武装している奴が五人はいたな」

 それだけなはずは無いから、凡そ白堕と同じ数――二十人はいると考えるべきかな。

「にゃっはっは! 戦いにゃ!」

「外は私にお任せください。お二人は存分に」

「ネイルもヨミも、基本は不殺だ。あくまでも俺たちは無限回廊に挑戦する冒険者だからな。人殺しじゃない」

 これが終わってボグを仲間にできれば、やっと無限回廊に行ける。女帝・エレスとの御前試合からたったの数日だけだが、随分と長い間モンスターと戦っていない気がする。

 どうにも未だに人と戦うのは苦手意識がある。元の世界のことを考えれば当然だが――おかしな話、モンスターとの純粋な命の殺り取りのほうがよほど楽だ。

 とはいえ、俺の蒔いた種なわけで、俺がやらないわけにもいかない。

 ……さぁ、行こうか。
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