せっかく異世界転移したのに、もしかして俺は弱いのか!?

化茶ぬき

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第二章

第29話 ホワイトフォレスト

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 街を出て二日目の朝。俺たちはホワイトフォレストの手前にあるホワイトカーペットと呼ばれる草原で目を覚ました。

「栞が一緒だと魔物が寄ってこなくていいね~」

「あんまり関係ねぇと思うけどな」

 言いながら焚き火を消していれば、背中に集める視線に振り向くと目を細めたロットーがいた。

「声が大きい者は自らの声の大きさに気が付かないものだ」

「そうですね。しーちゃんの雰囲気は少し……異常です」

 言葉を選ぶのかと思えば正面からぶん殴られた。しかもハティに。

「まぁ、それはそれとして。午後にはホワイトフォレストに入る。近付くにつれて魔物も増えるだろうから気を抜くなよ」

「りょ~かい!」

 気合いの入れ方は各々ということで。

 移動中に本で読んだことの復習をしておこう。

 ホワイトフォレストはその名の通り、木も草も全て白い森だ。この地域特有の大気に含まれる魔力を吸収し、その結果長い年月を掛けて木も枝も葉も白くなっている、と。

 ホワイトカーペットも同様の理由で白いが、濃度の違いからフォレストのほうに生息する魔物はそこに自生する草木を食べているせいで体が白くなり、同時に魔力を摂取しているから凶暴で強くもある。

「……凄いな」

 呟いた先に見えているのは白い森と緑の森の境目だ。綺麗にすっぱりとツートンカラーに分かれている。自然の驚異だが、向こう側とこちら側では生態系が全く異なっており、そのせいで今回の依頼に繋がった。

 増えたホワイトベアーが森を出て、他の魔物を襲っている、と。まぁ、増えた厄介者を減らすという考えはわかるが、そもそも何故ホワイトベアーが増えたのかを調べるほうが先じゃないか?

 何かしらの変化があったのは間違いないはず。ならば、その原因を突き止めなければ同じことの繰り返しになる。余裕があればそれも調べてみることにしよう。

「このまま森に入るのか? 栞」

「いや、その前にホワイトベアーについての情報共有を――」

 言いながら振り返った瞬間、背中で感じる森のほうから駆け寄ってくるような足音に気が付いた。くそっ。気を抜いたのは俺か。

「栞!」

「っ――」

 背中に受けた衝撃で倒れ込むのと同時に投げられたロットーのナイフがホワイトベアーに突き刺さった。

 腐っていくホワイトベアーを見ながら体を起こせば、流れ出る血と駆け巡った痛みを和らげるため大きく息を吐いた。

「栞、生きてるか?」

「はぁ……ああ、残念ながら生きてる。誰も魔物の接近に気が付かなかったのか?」

「この辺りは魔力の濃度が高いから気配を探りにくいんだよね~」

 そういうものか。まぁ、過ぎたことで責めるつもりもないが。

「たぶん、たまたま近くにいたんだろう。死ぬなら死んだほうが楽だったのかもしれないが、新しい鎧のおかげで深手にならなくて済んだな」

「回復に時間が掛かりそうならボクが鳥になって上からホワイトベアーを捜してきましょうか?」

 痛みはあるが動けないほどではないし、一体ずつ捜すのは時間が掛かる。

「いや、ホワイトベアーの生態は理解している。俺は別として、お前らなら各個撃破できるんだろ? なら、全員まとめて相手をしてやることにしよう」

「……?」

 疑問符を浮かべる三馬鹿への説明は措いといて――背中に痛みを感じながらホワイトフォレストに足を踏み入れた。

 魔物と遭遇することなく、周囲を白樹に囲まれた場所で立ち止まった。

「この辺りでいいか。ロットー、半径二十メートルくらいを更地にしてくれ」

「わかった」

 しゃがみ込んだロットーを中心に樹々が腐っていくのを見て、蔵書から取り出した火吹石を落ちていた木の枝に括りつけて火を付ければ準備完了だ。

 本来であれば野生の獣は火を怖がり近付かないものだが、ホワイトフォレストでは燃焼と共に大気の魔力も燃え出し、そのエネルギーを求めてホワイトベアーが集まってくる。故に火を焚くな、というのが通説だったがそれを逆手に取ったわけだ。

「あ、来るよ!」

「そんじゃあ、それぞれカバーしつつ戦闘開始だ」

 火吹石を地面に突き立て、蔵書から出した二つの斧を握り締めた。

 ロットーは投げナイフを手に、サーシャは弓を引き、ハティが狼へと姿を変えた時――周囲から一斉にホワイトベアーの群れが姿を現した。

 さっきは背後からで、見た時にはすでに腐りかけていたからよくわからなかったが、綺麗な白い毛並みに赤い眼と頭には二本の角が生えている。

 振り被った斧を放り投げれば、向かってきていた一体の額を割った。続く二体目にも斧を放ったが軌道が逸れて肩に突き刺さった。そう上手くはいかないな。

 剣針もあるが、ホワイトベアーの肉を通すには普通の剣のほうが良い。

 四足歩行で突っ込んできたホワイトベアーをジャンプしながら避けつつ、取り出した剣を振り下ろし首元を貫いた。

 向かってくるホワイトベアーに取り出した斧をひたすらに放り投げながら、他の奴らを一瞥した。

 ロットーの投げナイフは便利で良い。刺さりさえすれば殺せるわけだが、それは相手がホワイトベアーだとわかっていたからこそ、それに合わせた腐食の力を付与できたのだろう。

 サーシャは無双状態だな。太陽の下なら日光の力が存分に使えて、一本一本の矢も強いし、家で練習していた数本もまとめて射る技も楽々と熟し、同時に数体のホワイトベアーを倒している。

 片やハティがちゃんと戦う姿は初めて見るが、さすがは狼だ。鋭い牙でホワイトベアーの首元を噛み切り、爪でその体を裂いている。

 ……満身創痍なのは俺だけか。

 戦闘時間凡そ十五分。半径二十メートルに積み重なったホワイトベアーの死体を前に息も絶え絶えだったのは――俺だけだった。

 熊殺しか。元の世界ならちょっとしたニュースだな。

「サーシャ、ハティ、気配は?」

「ん~、無い!」

「ボクも感じません」

「なら依頼完遂だ。怪我は……無さそうだな」

 休みたいところだが、ホワイトフォレストには他の魔物も多い。その魔物が死んだ魔物の体に含んだ魔力を取り込もうと集まってくる前に移動したほうがいい。

「あ、栞。移動する前にナイフの回収を手伝ってもらえるか?」

「ああ、そうか。よし、ハティは狼のまま周囲の警戒を。サーシャはこっちを手伝え」

 ホワイトベアーからナイフを引き抜けばメスのように薄く投げやすいように加工されている。大量生産されているものなのだろうが、蔵書に記される様子が無い。剣針の替え刃もすぐには記されなかったし、何かしらの条件があるのかもしれない。

 それはそれとして、蔵書について一つわかったことがある。おそらくだが、出す上限が存在していない。取り出した斧の数を明確に数えていたわけでは無いが、少なくとも百は超えている。強いて言えば、使う意志を失った時が取り出せなくなる時、ということか。
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