せっかく異世界転移したのに、もしかして俺は弱いのか!?

化茶ぬき

文字の大きさ
30 / 52
第二章

第30話 龍酵泉

しおりを挟む
 次の目的地である龍酵泉に向かう道中、形の良い木の枝を見付けて足を止めた。

「栞?」

「悪い、ちょっと待ってくれ」

 ホワイトフォレストの樹は魔力を含んでいるせいもあって堅く丈夫で、良く撓る。取り出した斧で枝を落とし、無駄な部分を切り整えれば理想の形に仕上がった。

「それなに?」

「俺の新しい武器、になるかもしれないものだ。スリングショットってやつだな」

「ふ~ん」

 まぁ、Y字型の枝だけでは想像できなくて当然だ。あと必要なのはゴム紐と、撃ち出す弾だけ。……色々と足りないな。

「よし、行こう」

 枝を背嚢に入れて、龍酵泉へと進んでいくと微かに水のにおいがしてきた。

「近付いてきましたけれど……何か変な気配も感じませんか?」

「あ~、やっぱり気付いた? 何かいるよね? まぁ、魔物だと思うけど」

 龍酵泉は天然の酒が湧く泉だ。野生の生物――魔物も例外では無く、酔えば外敵から狙われやすくなるため比較的に安全な場所だと本で読んだが、ここはハティとサーシャを信じるとしよう。

「サーシャ、木に登って上から泉を確認しろ」

「りょーかい!」

 俺の背を蹴って木に登ったサーシャを待つ間、髪を結えているロットーに視線を向ければ怪訝な顔を返された。

「……なんだ?」

「いや、誰かゴムを持ってないかと思ってな」

「ゴム? 髪ゴムなら持っているが、そういうのじゃないんだろ?」

「だな。少なくとも三十センチは欲しいからな」

 考えながら呟くように言うと、疑問符を浮かべたハティの視線が俺の足元に注がれた。

「しーちゃん、それは?」

 指された先を追えば、それは革鎧と一緒に買ったブーツの靴紐だった。

 靴紐――だと思っていたそれを確かめてみれば、正しくゴム紐だった。盲点と言うか、履いた時に気が付かなかった俺が馬鹿野郎だな。これで簡易的にだがスリングショットが作れる。

「よいっ――しょ、と」

 革鎧の裏側の一部を切り取ってゴム紐に通していれば、木から飛び降りてきたサーシャが俺の手元を見て疑問符を浮かべたが、その前に成果を訊こう。

「どうだった?」

「泉の周りには何もいなかったけど、水の中に何かいるかも。で、それが新しい武器?」

「まぁ、一応は」

 ゴム紐をY字型の枝に固定して、一先ずはスリングショット完成。あとは撃ち出す弾だけだ。

「どうする、栞。水の中にいるならアタイの異能力で水ごと腐らせようか?」

「いや、龍酵泉の水はドワーフへの手土産にしたいし、何より龍酵石は泉の中にある。仮に泉の中に魔物がいるとすれば倒してからじゃないと依頼は達成できない。……ホワイトベアーよりこっちのほうが面倒そうだな」

「サーシャがいるから大丈夫!」

「……そりゃあ心強い。とりあえず――行ってみるか?」

 ゴム紐を抜いたブーツに、地面に生えていた茎の長い草を代わりに巻き付けながら顔色を窺ってみれば、三者三様に肯定して見せた。

 ハティは狼に姿を変え、サーシャは弓を手に、ロットーは異能力が付与されていないナイフに手を掛けた。俺のほうは剣針でも蔵書の武器でもなく、落ちていた石を拾ってスリングショットに挟んだ。

 警戒しながら龍酵泉の前まで行けば、先が見えないほど大きな泉が広がっていた。これが全て酒らしいが、それらしい匂いはしない。

「先に依頼を済ませてしまうか?」

 水面を動く影はあるが、近寄ってくる気配はない。

「俺が行こう。警戒を」

 俺なら死んでも生き返るから、という枕詞は無しにして――水面に足を入れれば深さは足首までだった。

 浅い。だが、感覚でわかる。おそらく十メートル先は俺の身長を呑み込むほどの深さになっているだろう。

 龍酵石は泉の底に沈んでいる石のことを言う。水の中に手を入れて触れた石を取り出そうとした時――水の撥ねる音がした。

「栞、伏せて!」

 陸地に倒れ込みながら転がれば、頭上を光の矢が通り過ぎた。

 起き上がり視線を送れば、そこには矢が刺さった巨大で真っ白なヘビが……ヘビか? ナマズのような髭も生えているが、見た目は間違いなくヘビだ。

「たしか、こいつはグランツネック。黒に近い緑色だと本で読んだが――倒し方は知っている。ハティ、鳥になって陸地におびき寄せてくれ」

「わかりました」

 鷹に姿を変えたハティがグランツネックの上空を舞って注意を引き始めたのを見て、俺たちは森のほうに退いていった。

「サーシャが前に来たときはあんなのいなかったんだけど!」

「本来の生息地でないのは間違いないが、あの色からして結構前からホワイトフォレストにいたのは確かだろう」

「栞、たぶんアタイのナイフは刺さらないと思うが……どうする?」

「陸地に上げたら俺があいつの気を引く。サーシャは目と鼻先を狙って矢を射れ。その間にロットーが尻尾のほうを掴んで腐らせてみてくれ」

 物は試しだ。依頼のためにはグランツネックを倒すのが手っ取り早いし、ヘビであることには変わりがないから目と同様にピット器官でこちらの動きを捉えてくる。逃げるよりは始めから戦う気でいたほうが良い。

 空中を旋回し、こちらに向かってくるハティを追うグランツネックを見て、ロットーとサーシャは散開した。

「さて――剣を二本」

 真っ直ぐ向かってくるグランツネックはこちらに気が付く様子は無い。嫌な予感しかしないな。

「しーちゃん!」

 わかっている。

 体の前で二本の剣をクロスさせ、向かって来たグランツネックを受け止めるのではなく――受け流す!

「っ――!」

 さすがは全身筋肉なだけあって、いなしただけでも体に衝撃が走る。

 グランツネックの体が全て陸地に上がると、振られた尻尾に吹き飛ばされ、体が白樹に叩き付けられた。

「栞! 生きてる!?」

「っ……大丈夫だ! やれ!」

 叫ぶのと同時に蜷局とぐろを巻いたグランツネックの顔に光の矢が降り注がれた。

 背中に受けた衝撃――肺がやられたのか息苦しいが、動くことは問題ない。

 サーシャの矢は目を狙うが、当たる直前に瞼が閉じられて突き刺さらない。ハティは鷹の姿のまま爪で攻撃しているがあまりダメージを与えられている様子は無い。ロットーは気を窺って待機している。

 まずは巻いてる蜷局を解かないとな。

 目を潰すにはスリングショットを使ってみるか。一個よりは、外しても良いように拾い上げた複数の小石を革部分に挟み込んで、グランツネックの目に狙いを付けた。

 試射もしていないのに当たるかどうかは賭けだが――放たれたサーシャの矢が閉じた瞼に当たる直前、こちらも手を放した。

 あ、ずれた。

 しかし、矢を防いで開かれた目に、運良く小石の一つが直撃した。

 身悶えするように頭を振るグランツネックを見て、目が潰れたのだと確信した。なら、もう一歩だ。

「サーシャ!」

「わかってる~よっ!」

 すると、同時に放たれた二本の矢の一本が一直線に目に向かっていき瞼を閉じると、もう一本は大きな弧を描き、開いた目に突き刺さった。

 その瞬間に取り出した鎖に火吹石を巻き、火を点けた。

「ハティ! サーシャ! 離れてろ!」

 目を潰した今、ヘビであるグランツネックは熱を探知するピット器官に頼るしかない。

 ロットーが待機しているほうとは反対に向かって駆け出せば、熱源を見つけたグランツネックが体を伸ばして追ってきた。

 遠くへ逃げ過ぎればロットーが触れられなくなるから取り出した斧を振り被りながら踵を返し、開けた大口の中に放り込んだ。

 追随するようにどこからか飛んできた矢がグランツネックに刺さると、血が弾けながら体を仰け反らせた。動きが止まれば、あとはロットーのターンだ。

 尻尾のほうへと視線を向ければ、ロットーが触れた場所からぐずぐずと腐り始めた。

 これにて戦闘終了。それを告げるように手を振り上げれば、離れていたサーシャとハティが戻ってくる気配を感じていると、手に持った鎖の先で火が点いたままの火吹石に気が付いた。

「おっと、消さないとまたホワイトベアーが寄ってくるな」

 地面の土を掛けて消火しようとした時、遠くから声が聞こえてきた。

「――栞!」

「しーちゃん!」

「〝後ろ〟!」

 焦ったようなその言葉に振り返ると――大口を開けたグランツネックが俺の体を噛み千切った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

勇者召喚の余り物ですが、メイド型アンドロイド軍団で冒険者始めます

水江タカシ
ファンタジー
28歳独身、一般事務の会社員である俺は、勇者召喚に巻き込まれて異世界へと転移した。 勇者、聖女、剣聖―― 華やかな肩書きを持つ者たちがもてはやされる中、俺に与えられたのは聞いたこともないスキルだった。 【戦術構築サポートAI】 【アンドロイド工廠】 【兵器保管庫】 【兵站生成モジュール】 【拠点構築システム】 【個体強化カスタマイズ】 王は落胆し、貴族は嘲笑い、俺は“役立たず”として王都から追放される。 だが―― この世界には存在しないはずの“機械兵器”を、俺は召喚できた。 最初に召喚したのは、クールな軍人タイプのメイド型戦闘アンドロイド。 識別番号で呼ばれる彼女に、俺は名前を与えた。 「今日からお前はレイナだ」 これは、勇者ではない男が、 メイド型アンドロイド軍団と共に冒険者として成り上がっていく物語。 屋敷を手に入れ、土地を拠点化し、戦力を増強しながら、 趣味全開で異世界を生きていく。 魔王とはいずれ戦うことになるだろう。 だが今は―― まずは冒険者登録からだ。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...