せっかく異世界転移したのに、もしかして俺は弱いのか!?

化茶ぬき

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第二章

第38話 アンフェア

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 熾烈を極める、とはこういうことを言うのだろう。

 いったい何匹のゴブリンを殺したのか――何体のドワーフが殺されたのか――血に塗れ、臓器が飛び散り、鉄の臭いが鼻の奥を刺激する。

 ゴブリン共も隊列を組み始めているのが厄介だ。屈強なゴブリンが普通のゴブリン十匹を引き連れて向かってくる。しかし、ドワーフたちは俺が教えた戦い方で被害を最小限に抑えている。

 とはいえ、俺のほうは常に満身創痍だ。

「っ――らぁ!」

 大斧を振り回してゴブリンの体を斬り飛ばし、スリングショット用の鉄屑を目潰しに放り投げ、動きを停めたところに取り出した斧を投げて頭を割った。

 今はまだ戦えている。戦うことが出来ている。だが、徐々に気が付き出すはずだ。いつまで戦えばいいのか……ゴブリンたちがどれだけ潜んでいるのか。俺自身は初めからわかった上で臨んでいるが、他の者は違う。

 もしも、ゴブリン側が次の手を打ってきたら――

「栞! 何か来るよ!」

 サーシャの声にホワイトウォールのほうへ視線を向ければ、張り巡らされた草木を割って現れたゴブリンに目を疑った。

 屈強なだけでは無く、明らかにヴァイザーから奪ったものであろう武器と防具を装備している。歴戦の猛者ってところか。しかも、それが十体以上。

「はぁ……自信のある奴だけ来い!」

 俺に自信は無いが、この状況でドワーフだけに任せることはできない。

 普通のゴブリンの相手はハティやサーシャに任せて、こっちは俺とロットーで引き受けよう。

「栞、大丈夫か?」

「いやまぁ、そこそこキツいけどな……ロットーは?」

「アタイも同じようなものだ。栞、剣をくれ」

 取り出した剣を手渡せば、溝を隔てて並んだゴブリン共と向かい合うと、相対するようにドワーフたちも立ち並んだ。

「小僧、手間を掛けさせて悪いな」

「いえ、形だけとはいえ今は俺があなた方を引っ張る立場ですから」

「ならば言ってやれ。戦いの合図だ」

 あまり汚い言葉は使いたくないが。

「ふぅ――行くぞ野郎共! ゴブリンを皆殺しにしろぉおお!」

「〝おぉ!〟」

 その掛け声と同時にドワーフたちが駆け出せば、ゴブリン共も一斉に溝を飛び越えてきた。

 屈強なゴブリンとドワーフ――体格差はあれど、元がヴァイザーの装備とドワーフの技術で造られた装備とではこちらが勝っている。

「っ――ぶねぇ!」

 ドワーフたちは二対一なのに、俺だけその逆なのは理不尽じゃないか? とはいえ、見切りの良さは健在だ。二体のゴブリンが振ってくる剣と棍棒をギリギリで避けながら活路を探し出す。

 剣を避けて持っていた斧を振り下ろせば、籠手に当たった瞬間に刃が砕け散った。次の棍棒の横振りが脚を狙ってきているのがわかって跳び上がれば、そこに合わせたように蹴りが飛んできたのが見えて、持っていた大斧を手放した。

「っ――!」

 吹き飛ばされたが受け身をとって即座に立ち上がれば、蹴ってきた脚に剣針の替え刃がハリセンボンの如く刺さっている姿が見えた。蔵書から武器を取り出す速度だけは一丁前だな。

 ともあれ、一体の動きが停められれば、あとはこっちのものだ。

 一気に距離を詰めて動けないゴブリンの顎下から剣を突き刺し、拾った大斧でもう一体の胴体を二つに分けた。

 俺が他の奴らと違うことは手数が多いことだ。使える手も、使える武器も多い。加えて、死ぬ覚悟の特攻ができる。

「さぁ――まだまだ元気な奴がここにいるぞ! 掛かって来い!」

 そう叫んだ時、ホワイトウォールの向こうから地響きにも近い足音がして――消えたと思った瞬間、上から屈強なゴブリンが目の前に振ってきた。

 見たところ、装備は一級品だ。しかも背負っているのは身の丈ほどの大剣で、それを自在に扱えるほどの筋肉が防具の上からでもわかる。こいつがゴブリンの王か? いや、頭を使って戦うタイプには見えない。この群れの最強ってところだろう。

 俺は捨て駒で構わない。大事なのはドワーフたちを守ること――ドワーフたちの武器を死守すること。そうしなければ、次の襲われるのはおそらくアイルダーウィン王国だ。

 大斧を握り締めて、大剣に備えようとした時――不意に飛んできた光の矢がゴブリンの体を捉えた。はずだったのだが……矢は突き抜けることなく、軽く払われて消え去った。そして、しゃがみ込んだゴブリンが落ちていた石を拾い上げたのを見て、振り返った。

「サーシャ! 逃げ――っ」

 言い終わるよりも先に、ゴブリンの投げた石がサーシャの乗っていた家の屋根を破壊した。直撃はしなかったから生きてはいるはずだ。驚くべきは、その肩力だな。

 下手をしなくとも、まともにその剣を受ければこちらは間違いなく力負けする。

 大剣の柄を握ったと認識した次の瞬間には振り下ろされていて、後ろに退いたのはいいが抉られた地面から飛んでいた小石で視界が遮られた。

「しーちゃん!」

 横腹に突進を受けて倒れ込むと、今の今まで立っていた場所に振り下ろされた大剣が地面を割っていた。

「ハティ、助かった」

「あまり無茶をしないでください」

「無茶をして勝てるなら――っと!」

 横薙ぐ大剣が見えてハティを抱えたまま後転して起き上がった。

「ボクも一緒に戦います」

「いや、ハティはサーシャのほうに向かってくれ。無事だとは思うが心配だ」

「でも――」

「行けっ!」

 命令する口調で言えば、ハティは真っ直ぐにサーシャの下へと駆け出した。

 あまり悠長に会話をしている時間は無い。

 首を狙って振られた大剣を大斧で受け流し、距離を詰めようとしたが振り下ろされた拳に邪魔されて近付けない。

 そりゃあ使っている武器が大きければ近付かれるのは嫌だよな? だが、逆に言えばそれこそが付け入る隙になる。

 しかし、こちらのしたいことが伝わったのかゴブリンは鋭い太刀筋で大剣を振り下ろしてくる。近付くも何も、受け流すので精一杯だ。

 徐々に勢いと強さの増す大剣を受け流し切れなくなってきて――胴体を別つ横薙ぎを受け流そうとした時だった。

「くっ――そ!」

 受け流そうと大斧を向けた瞬間、大剣が九十度回せれて刃の腹で吹き飛ばされた。

 間に大斧が入ったから直撃は避けられたが、全身の筋肉と骨が軋む感覚で体が動かしにくい。全身打撲だが、死ぬほどじゃない。

 軋む体に鞭を打ち、ゴブリンに向かって駆け出せば接近に合わせて大剣を振り下ろしてきた。それでいい。俺の狙いはその大剣だ。

 下から潜るように大斧で大剣の柄を担ぎ上げれば、弾けるように互いの武器が宙を舞った。

「よしっ!」

 取り出した斧を両手に距離を詰めると、途端にゴブリンが拳を構えてきて攻め切れない。その口角を上げた表情に、むしろ素手のほうが望むところって感じだな。

 だとしても関係ない。戦争に置いて重要なのは個人のプライドなどでは無く、全体を見た勝利だ。

 アンフェアだと言われたところで知ったことか。拳を構えるゴブリンに対して、斧を手に駆け出した。
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