せっかく異世界転移したのに、もしかして俺は弱いのか!?

化茶ぬき

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第二章

第39話 真名

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 斧を振れば籠手で防がれ、拳を避ければ掠めただけで骨まで衝撃が響く。

 常々と俺は戦いに向いていないと感じる。戦闘の最中もぐだぐだと頭の中では考えが駆け巡る。

 反射的に避けることはできるが、攻撃することはできない。戦いを楽しむことも――ましてや、異能力のせいで生に執着することもない。とはいえ、死ねば次に目が覚めるのは一時間後だ。その間に何が起こるかわからない。

 投げた斧を避けるのに視線が逸れたのを見て、取り出した剣を防具の無い肩の可動部へと突き立てた。

「っ――」

 剣先は刺さったが、そこで止まってそれ以上に刺すことも引き抜くことも出来ずに剣を手放した。

 肩から抜いて放り投げられた剣を避け、視線を戻した瞬間――迫っていたゴブリンの振り上げた拳が腹に抉り込んだ。

 メキメキと骨の折れる音が鳴り、臓器が押し潰されて血を吐き出した。そして、そのままの勢いで体が浮き上がり宙を舞う。

「っ……ごほっ」

 数秒も無い滞空時間だが、戦況がよく見える。

 ――圧されている。ドワーフたちが血を流し、ロットーも屈強なゴブリンに囲まれて善戦しているが苦しそうだ。崩れた家の中から助け出されたサーシャはハティに守られながら、弓を引いている。

 確かに善戦はしている。が……このままではこの戦争に負ける。

 地面に打ち付けられ立ち上がるが、体に力が入らない。

「んっ――」

 口に溜まった血を吐き出せば、どす黒く濁っていた。腹の中ではぐるぐると嫌悪感が駆け巡っている。

 この体では剣も斧も取り出したところで扱えない。ならばと、剣針を手に取ったが、むしろ適役かもしれないな。先が細く突き刺すことを前提としている剣針のほうが鎧の間を縫うことが容易いだろう。

 一歩踏み出す度に体に走る激痛に耐えながらゴブリンの対して剣針を構えると、わかりやすく笑顔を見せた。楽しいか? 俺はシンドくて堪らないよ。

 こちらに向かって駆け出してきたのを見て、俺も剣針を構えて走り出そうとした時――動かなくなった脚に視線を下げれば、地面から顔を出したゴブリン二匹が俺の足首を掴んでいた。

「なん、だテメェら!」

 剣針を振り下ろし、足元の頭を突き刺したが迫るゴブリンへの対処が間に合わない。

 動かない片脚を無視して、迫ってくるゴブリンに対して剣針を構えれば、背中側からナイフを取り出したのが見えた。ここにきて確実に殺しに来たってわけか。

「っ――!」

 向かってくるのに合わせて顔面目掛けて剣針を伸ばしたが空を切り――ゴブリンのナイフは俺の腹部を貫いていた。

 笑うゴブリンに対して取り出した剣を振るが、避けられて地面に落とした。

「んっ――っ」

 刺さったままのナイフの柄を掴み、思い切り引き抜けば一気に血が溢れ出した。

 地面に膝を着き、倒れそうになる体を支えると傷口からびちゃびちゃと血が流れ落ちる。これはさすがに……そろそろ死ぬな。

 未だに足を掴んでいる一匹のゴブリンの頭を刺し、その剣針を杖にして立ち上がろうとしたが、片膝を立てたところで限界が訪れた。

 視界が霞み、全身の血の気が引いていくのがわかる。

「栞!」

 ああ、わかっている。だが、その声がロットーのものかサーシャのものなのかもわからない。

「ヒューマーの……栞! その、剣針の名は――」

 微かに聞こえてきた声と共に、頭の中に流れ込んできた情報に体が震えた。

 なるほど。神器ってのは、真名を知った瞬間にその使い方を理解できるのか。

「ごほっ――命を吸え、ライフ・オブ・ツリー」

 囁くように呟いた瞬間、剣針の替え刃が弾け割れた後から出てきた枝のような刃が地面の中に伸びていった。

 地中を蠢き進む刃は枝分かれして、地面に出ると同時に戦場に立っているゴブリンたちの体を貫いた。

 命を吸われる感覚がわかる。霞んだ視界で戦場を見回すと、まだ半分のゴブリンが残っていた。

 剣針の使い方は理解したが、命を吸われれば死ぬよりも先に気を失うだろう。だから、死ぬことは無い。だが――死ななければこの場をひっくり返すことはできない。

「構わない……俺の命を――吸い尽くせ!」

 すると、その想いに呼応するように握り締めた剣針は俺の命を吸い上げて一気に成長すると、地面から突き出た刃が残り半分のゴブリンの体を貫いた。

「よく、やった……あとは――」

 意識を失う直前、駆け寄ってきたハティに寄り掛かるようにして倒れると、ふかふかな毛を感じながら命が終わるのを感じていた。


 ――――


 回復痛の中で目を覚ませば、ロットーたちの他にゴウジンもこちらを見下ろしていた。まぁ、生き返るまでの時間はいつも変わらないしな。

「栞!」

 抱き付いてくるサーシャを受け止めて頭に巻かれている包帯に触れていると、ゴウジンが苦々しい顔で近寄ってきた。

「ヒューマー、体に異変は無いか?」

「ええ、いつも通りの目覚めです。そちらは?」

「問題は無い。しかし、儂がもう少し早く目覚めていれば……」

「まぁ、結果良ければ――と言いたいところですが、戦いはどうなりました?」

「主のおかげで戦場にいたゴブリン共は全てが息絶えた。普段よりは早く太鼓の音が鳴ったが、未だにホワイトウォールの中にはゴブリン共が残っているだろう。それよりも、だ。ヒューマー……栞。主は確実に死んでいた。一度ならず、二度までも。なぜ生きている?}

「ここの門を造ったドワーフと同じです。そういう異能力だから、としか」

「……そうか。ならば、この剣針は主の物だ。持っていけ」

 差し出された剣針の柄を掴めば、またも使い方が頭に流れ込んできた。あの時は単調な使い方を、今は力の抑え方を。

「ありがとうございます」

「いいや、礼を言うのはこちらのほうだ。この場に――あの戦場に、主らがいなければ我が同胞は滅ぼされていたであろう」

「いえ……まだお礼を言うのは早いです。サーシャ、怪我は平気か?」

「うん、へーき」

「ロットーとハティは?」

「栞ほどじゃない」

「ボクも、大丈夫です」

 どちらも怪我を負っているが、顔色は悪くない。この一時間、ちゃんと休めていたのだろう。

「じゃあ、行こう。片を付ける」

 立ち上がり、ボロボロの革鎧のまま外れていた背嚢を手に、マントを羽織った。そして、命を吸わせた剣針の柄から刃を伸ばし腰に差すと、ゴウジンを驚いたように目を見開いた。

「待て。どこに行こうというのだ?」

「……戦争を終わらせに」
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