せっかく異世界転移したのに、もしかして俺は弱いのか!?

化茶ぬき

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第二章

第48話 議論

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 待機室内の空気が重い。

 少なからず俺たちが招かれざる客だという事実は変わらず、全方向から警戒の視線が注がれている。

 部屋の端に座っている巨大な岩のような種族はグレンデルだろう。そして、その隣のテーブルの上に乗っている掌大のがポックルか。どちらも好戦的には見えないが、片方が相当な実力者なのはわかる。

 ヒューマーとセリアンスロォプはそれぞれに腰を据えているが、ヴァルキリーは鎧馬を撫でながらこちらの様子を窺い、敵意無く目の前に座っているエルフのシルフは大きく溜め息を吐いた。

「それで、サーシャ。数十年振りに会ったと思ったらヴァイザーになっていたのね」

「うん……ヴァイザーになったのは最近だけどね」

 シルフはサーシャと似たような格好をしていて、見るからに遠距離攻撃主体のようだが、他の天災に比べて異能力『精霊』に関しては想像も付かない。片方のエルフは全身を覆うようなローブを着ていて、学士のような雰囲気だ。

「え~っと、とりあえず確認を。お二方はどういった関係で?」

 問い掛ければ、サーシャはそっぽを向いてシルフが静かに息を吐いた。

「この世界にエルフの里は一つだけで、当然のようにシルフとサーシャは同じ里出身なのよ。そして、基本的にエルフは里を出ないものなの」

「それは仕来しきたりか何かか?」

「そういうのではないわ。知っていると思うけれどエルフは寿命が長い。それ故に、外の世界に出ればその差を如実に感じてしまう。だからこそ、他種族との関わりを持たずに生きる者が多いのよ」

「つまり、サーシャは変わり者か」

「否定は出来ないわね。でも、何もサーシャだけではない。これまで幾名ものエルフが里を出て行ったわ。その時にいくつかの約束をするのだけれど――その娘は」

「約束を果たしていないってわけだな。具体的には?」

「十年に一度、帰郷すること」

 まぁ、まるで家出娘のような反応を見るに、そんなところだろうとは思った。

「生きていたことは吉報だとして、は基本的に族長の仕事だろう? どうしてそこに天災であるシルフが関わってくる?」

「里を出るエルフは全員が族長とシルフと面談するのが決まりなのよ。その中でもサーシャは異能力持ちだったから少し力の使い方と制御を教えたの」

「教えたっていうか、虐められたの間違いじゃないかな?」

 異能力が違えば戦い方は一切異なる。特に天災は別格だ。学ぶも教えるも、規格外の者には無理な話である。

「まぁ、紆余曲折あったようだが、これで生存確認はできたってわけだ。……ああ、シルフが来るのをわかっていたから渋っていたのか」

 気付いたように言えば、軽く肩にパンチを食らった。

 そんな様子を眺めていたシルフが静かに肩を落としたことに気が付いた。

「……なんにしても――共に行動しているのが天災の漆だということのほうが問題ね。どういうつもり?」

「どういうつもりも無いな。元を辿れば付いてくると言ったのはサーシャのほうだし、俺がどうこう言うのも筋違いだろ」

「栞はサーシャの仲間だから! ロットーもハティも! シルフには関係ない!」

 その言葉に待機室内全体がざわついた。

 これまで明言してこなかったが、敢えて口にすることによって理解したか。ただでさえヒューマー以外の異能力持ちは稀少な上に、ヴァイザーになる者はほとんどいない。にも拘わらず、種族を越えてチームを組んでいることは異端に見えるらしい。

 やはりどうにも、俺にはその感覚がわからないが。……いや、丁度いいな。本ではあらゆることを知っているが、今なら貴重な生の意見が聞ける。

「皆さん各々気になることがあると思いますが、この度のドワーフの一件に関することで一つ――お聞きしてもよろしいですか?」

 指を立てて全員を見回せば、訝し気ながらもそれぞれが頷いた。

「下らぬことであれば此方が斬る」

 だとすれば斬られる可能性も高そうだが。

「まぁ、とりあえず聞いてもらえるということで。訊きたいことは――何故、種族間でいがみ合っているのか? です」

 問い掛ければ、空気が凍り付いた。

 そんなに変なことを言ったつもりも無いが、こちら側にいるはずのロットー、サーシャ、ハティすらも口を噤んで俯いた。

 沈黙が続く中――口を開いたのはシルフの横にいたエルフだった。

「天災には理解できるはずもない。尚且つ、ヒューマーでありヴァイザーである貴方には」

「歴史は認識しているつもりだ。故に訊いている。種族間契約を結んだ時点で過去は清算しているんだろ? 現にこの場にいる奴らは手と手を取って仲良しとはいかないまでも、それぞれを嫌悪している感じも、警戒している様子も無い。にも拘らず、だ。種族単位では今も嫌悪感が拭えていない。その理由は?」

 すると、ロットーたちが静かに息を吐いた。

「……例えば、ピクシーは性別を変えられる」

「エルフとハーフエルフは耳が尖っていて色が白い」

「セリアンスロォプは言わずもがな、ですね。獣です」

 それに続くようバショウが口を開く。

「ヒューマーは異能力を使えて、ヴァルキリーは身馬一体。ポックルは小さな体躯を持ち、グレンデルは岩のような体をしている。そして――天災はそもそもが別格の存在だ」

 何を言いたいのか首を傾げれば、馬を撫でていたツキワが真っ直ぐにこちらを見据えた。

「一目で別の生物だと知覚できるものを、どうして受け入れることができる? 此方ら天災は別としても、この場にいる者がいがみ合っていないのは理解しているからだ。各々と争うことで何も得るものがないことを」

 自分と違うものは受け入れない。それはまるで小さな子供のわがままのようにも思えるが、真理でもある。大人になったとしてもその凝り固まった思考を持ち続けた結果が戦争に繋がるのだ。とはいえ、この世界では共通の敵もいるし、互いの姿形が全く異なるからこそそれほどの争いも生まれないのだろう。

 まぁ、その結果、争わないまでも受け入れないことが根付いてしまっているわけだが。

「俺としては……そうだな……正直、心底どうでも良い。ピクシーの性別変化は男の力強さと女のお淑やかさが同居していて興味深い。エルフは耳が尖っていようが色白だろうが長寿ってのは憧れだろ。まぁ、それはそれで悩みもあるんだろうが。セリアンスロォプなんかは例外なく個性的で素晴らしい。ヴァルキリーの身馬一体は絆だろ? 損得なく繋がれる者がいるのは羨ましいことだ。グレンデルとポックルは、それぞれ体躯で不便なところもあると思うが大きな体と小さな体、利点は各々で理解しているはずだ。憧れこそあれ、他を恨めしく思う必要はない。ヒューマーは……まぁ、別にいいか」

 長々と思ったことを伝えれば、俯いていたシルフが顔を上げた。

「つまり、何が言いたいのかしら?」

「別に仲良くするべきだ、なんて言うつもりは無い。ただ、どうにも理解が出来なくてね。ピクシーのロットー、ハーフエルフのサーシャ、セリアンスロォプのハティ――異能力を持ち、ヴァイザーになったことで元の種族からも離れることになった。それってのは種族間の意識の問題だろ? 一つの変化で全てを否定される理由は? こいつら自身は何も変わっていないのに」

 そう言えば、各々が考えるように視線を背けたが、天災だけは俺と顔を見合わせていた。

 この会話に答えが出ないことはわかっている。ライオネル王の言う一石を投じるとは違うと思うが、俺だからこそ投げ掛けられる議論がある。あとはそれぞれの心の中で議論してくれればいい。

 とはいえ、いつまでも重苦しい空気のままでは居た堪れないから何か別の話題を提供しようかと考えていれば、不意にソルの耳が反応した。わかりやすいな。

「ドワーフが来たようだ。あとは――」

 その時、全身が冷汗に包まれるような気配を感じて立ち上がった次の瞬間――天災を残し、周囲にいた他の全ての者が姿を消した。
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