せっかく異世界転移したのに、もしかして俺は弱いのか!?

化茶ぬき

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第二章

第49話 襲来

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 ロットーたちがいなくなった、というよりは俺たちが別の場所に移されたような感覚だ。

「誰の異能力だ!?」

 ツキワはランスを構えてこちらに向けているが、同様にシルフも弓を、ソルも軍刀を握って四つ巴の形になっている。

 この世界の奴らは好戦的過ぎる。少しは思考したほうが良い。単純に考えれば『落雷』は雷系統の力で、『武軍』は攻撃型の異能力だろう。可能性があるとしたら『精霊』だが、あのタイミングで異能力を使う理由が無い。つまり、この場にいる俺たち以外の異能力が関わっているはずだ。

「その通りだ」

 不意に背後から聞こえた声に、一斉に背中合わせになった。

 ローブのフードを目深に被っていて顔が見えないが、異様な空気を醸し出している。目の前にいる奴以外に、同様の気配が二つ。

「……何者だ?」

「我が名はスペース。貴殿等の空間を断絶した」

「我が名はタイム。貴様等の時間を止めた」

「我が名はライフ。君等の命を保護している」

 その言葉に、俺たちは一瞥するように視線を交わせた。

「……三賢者か? 実際に存在していたとは驚きだな」

「こちらとしては貴殿がこの空間に這入り込んでいることに驚きだ。天災だけを移したつもりだったのだが――どうやった?」

「どうもしねぇで巻き込まれているから困っているんだが……その言い草だとあんた等は俺のことを天災だと認めていないようだな」

「当然だ。我らは予兆の文言に準ずる者――記されていない貴様を受け入れるはずもない」

 言葉を交わしながら集まった三賢者の前で俺たちが横並びになると、軍刀を突き立てたソルが口を開いた。

「準ずる者、か。将はてっきり三賢者様が予兆の文言の執筆者だと思っていたのだが」

「予兆の文言を書いたのは至高の御方であり、我らはただの信奉者に過ぎない。故に、ことわりから外れている君の存在が許せない」

「これまで我らは世界を正しく保ってきた。しかし、そこに現れた貴殿が全てを変えたのだ。失った臓器すらも再生する空間への反逆」

「死という概念を覆す時間の可逆化」

「そして、命そのものへの冒涜。看過できるものでは無い」

 俺の異能力について、俺自身がどうにかできるものではないから何も言えないな。

「まぁ、俺を殺すならそれでも構いませんよ。三賢者と呼ばれて永遠を生きているようなあなた方ならそれも可能でしょうから」

 空間を断絶し、老いを止め、命を繋ぐ――やり方はどうであれ、目の前にいる奴らが長く世界を見守り続けてきたのはわかる。亀の甲より年の劫とも言うしな。俺が世界にとっての悪なら、殺されるのも吝かではない。

 などと考えていれば、途端にソルの気配が鋭くなり突き立てていた軍刀を抜いて構えて見せた。

「申し訳ありませぬが、例え三賢者様とて栞に手出しすることは許されない」

 すると、ソルに続いてツキワもランスを構えて、シルフまで弓を引いた。おいおい、こんなところで殺し合いになるのはごめんなんだが。

「此方もこちら側に付くとしよう。『不死』は――栞は、ヴァルキリーの身馬一体を絆だと称した。それは何を措いても揺るがぬ真実だ。一目でそれを言い当てた奴を殺させはしない」

「シルフは……サーシャが信頼している。それだけで守るに値するわ」

 そう思ってくれているのは有り難い。が、他の奴らまで巻き込むのはマズい。俺だけなら切り抜けられる道筋もあったが、大事になればなった分だけ嫌な展開しか浮かばない。

 仕方なく俺も剣針を手に取れば、三賢者は寄せていた顔を離してこちらを見据えてきた。

「わかっていないようだから教えよう。元より、貴殿だけを殺すことはいつでも出来たのだ。しかし、そうしなかったのには理由がある」

「貴様は不確定要素だ。天災の零には他の六つの天災を合わせたところで勝ち目はないが、それでも均衡を保ってきていた」

「しかし、君の出現が均衡を崩した」

「だが、均衡とは停滞を意味する。本来であれば予兆の文言を何よりも優先するのが我らの定めではあるが、天災の零が世界にとって害悪であることに変わりはない」

「故にこれから先の――未だ読むことのできぬ予兆の文言に貴様が書かれている可能性を考慮し、ここで裁くことはしない」

「我らは見守ることを決めた。あとはそちらに任せることにしよう」

 取って付けたようではあるが、事無きを得たのならそれでいい。とはいえ――

「おい、別に俺の処遇に関してはどうでもいいんだよ。そもそも、俺たちをここに呼んだ理由は何だ?」

 問い掛ければ、スペースが一歩前に出てきた。

「貴殿等が気が付いた気配について教えるために呼んだのだ」

「戦うことは勧めない」

「今はまだ、その時ではない」

「まずは回避を考えろ。では――戻れ」

 その言葉と共に自然と瞬きをした瞬間、消えていた者たちが姿を現した。というより、俺たちが戻ってきたのか。

「全員、建物外に退避だ!」

 ソルが叫んだのと同時にバショウと隻眼の老兵が会議室のドアを開けると、それぞれの種族が族長を連れ出しに向かい、俺たちは真っ先に建物を出た。

「栞! 一体何が――」

 気付いているのは天災だけか。

 外に出て建物の上空を見上げ、落ちてくる巨大な岩を見付けたロットーは口を噤んだ。

「サーシャ、全員避難したか?」

「え~っと、ちょっと……うん、大丈夫!」

「よし――伏せろ!」

 ロットーたちに覆い被さるように伏せれば、直後に落ちてきた岩が島に唯一あった建物を吹き飛ばした。

「全員無事か!?」

 周囲を見回せば、六種族とドワーフの姿が確認できた。無事、とは言い難いが生きてはいる。

 その時、まるで肩に重しが掛かったような嫌悪感を覚えて視線を上げれば――落ちてきたが岩の上に着地し、その衝撃が瓦礫を巻き上げた。

「ヌハハッ! 初撃で数名は死ぬかと思えば随分と活きが良いではないか!」

 深紅の肌に一本角を生やし、背中に巨大な包丁を背負った鬼のような奴は、エンジュと似たような気配を感じる。つまり、バショウなら知っているはずだ。しかし、場所が遠い。

「雷槍!」

 ツキワのランスから伸びた雷の槍が真っ直ぐに鬼に向かっていったが、それは片腕で受け止められた。

「やはり、活きが良いな」

 それを合図に皆が一斉に動き出した。

 飛び込んだポックルが鬼の腹部に激突するとバランスを崩し、その背後に現れたグレンデルが拳を振り下ろすと、鬼に避けられ土埃が舞った。

 鬼が避けた先ではソルの軍刀と老兵の大剣が振られたが、躱され受け止められ――そこにシルフの射った矢が向かったが片手で軽く弾かれた。少なくとも天災は本気を出せていないが、それでもこうも容易くあしらわれるか。

「しーちゃん! ボクたちも!」

 俺たちが助太刀したところで現状が好転するとは思えないが、動かないことには何も変えられないな。

「ハティは族長たちを一か所に集めて守れ。サーシャはシルフの下へ行って援護を。ロットーは一緒に来い」

 そう言えば、それぞれに動き出し、ロットーは槌を伸ばして担ぎ上げた。

 駆け出しながら剣針に命を吸わせれば、気が付いたように鬼がこちらを振り向いた。

「見つけたぞ! 手前がエンジュの言っていた面白い手合いだな! 楽しませてもらおうか!」

「断る!」

 俺だけでは数秒と持たない。

 シルフとサーシャの矢、ポックルが小さな体躯とスピードで鬼を翻弄し、グレンデルの一撃を避けるのに跳び上がったのを見て、残りの奴らが一斉に駆け出した。

 ツキワのランス、老兵の大剣、ソルの刀を空中で避けた鬼は地面に着地すると真っ直ぐに俺に向かって来た。

「栞!」

 俺の前に立ったロットーが振り落とした槌を避けた鬼が背負っていた巨大な包丁を手に取った。

「っ――」

「ほう、これを避けるか!」

 紙一重も良いところだ。追い討つ連撃をギリギリのところで避け続けるが、本気で殺しに来ているだけに反撃する隙が無い。

 とはいえ、この状況――周りの奴らも下手に助太刀できないのか静観している。こちらとしてはいくらでも入ってきてくれていいのだが、さすがに無理か。なら、俺は俺のやり方でやろう。

 生き返ることを前提にはしたくないが、無駄に精神を削るくらいならこちらから。後ろに向かっていた重心を前に移して飛び出した。

「命を吸え!」

 伸びた剣針の刃が鬼の肩を掠めると、代わりに鬼の包丁が俺の腹を突き抜けた。

「ヌハハッ! 相討ち覚悟の特攻か!」

「っ……相討ちじゃねぇよ」

 気配には気が付いていた。

 天災とも、この場にいる強者とも違う雰囲気――それは、アイルダーウィン王国で俺を見ていた視線と同じものだ。空に浮遊するギルドの飛行船から落ちてきたは急激に落下速度を増してきた。

「皆、逃げろ!」

 バショウの声と共に包丁が腹から抜かれた瞬間に降ってきたヴァイザーの起こした衝撃に島全体が揺れて、体が吹き飛ばされた。

 ああ、くそっ――そりゃあ天災と認められなくて当たり前だ。弱過ぎて話にならない。
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