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09.後日談 I
それからどうなかったというと、まず王太子ローデリヒは王太子位を返上することになった。
しかし、それは国王の許可も無く婚約破棄をしたことを咎められた為というより、そのような非常識な行動を取った王太子は乱心したのだという判断が下されたからだった。加えて白昼の学院で、剣を振り回すという暴挙も火に油を注いだのだった。そして王太子――いや、ローデリヒ王子は表向きは病を得たということで離宮での療養生活に入ったのだった。
ディアナとの婚約は白紙撤回され、王室の盟友であったモーント公爵家との間には溝が生まれた。王妃の甥の縁談を潰したことでマルス侯爵家からも恨まれている。国王は不甲斐無い息子の有り様に落胆したが、放り出すことはせず、周囲を厳格な者達で固め、鍛え直すことに決めたのだ。放逐して他家に迷惑を掛けてはならないからこその判断であった。
今回のことは、何よりも学院内での騒ぎであったことが、彼の身を助けたのだ。これが夜会などの他国の来賓がいる場であったなら、廃嫡だけでは済まされなかっただろう。ただでさえ王族の男子の出自が低いことで侮られているのだから、更に国としての体面を保てなくなっていたはずだ。その責任を問われ、彼の乳母や歴代教育係、使用人まで全ての首が飛んでいたに違いない。愚かな王族が原因で大量の人死を出せば、国民からの支持を失っていた未来もあったのだ。
実際、当事者達への取り調べの中で、ローデリヒ王子達は正式な場でディアナを貶め、なし崩しにキャサリンとの関係を認めさせようと計画していたという証言が出て来たのだ。ある意味、今回の騒ぎの起点となったレオンハルトの行動によって、王家は助けられたのだと言えるだろう。
そしてローデリヒ王子の後には正妃腹の王女が立太子した。数代に渡り、男子相続の継続は難しいという現実を突きつけられた王家と王国首脳部による苦渋の決断であった。幸いにして、王女は前向きに教育を受けている。
キャサリンの取り巻きであった令息達も、一旦相続権は保留となり、自宅謹慎となった。単位は十分だった為、卒業することは出来たが、その後は地方の兵団や役所などに就職するように王宮から命じられたのだった。集団でハニートラップに掛かるような世間知らずは、高位貴族の当主には相応しくないと断じられたのである。
彼らには一様に婚約者がいたのだが、この一件で解消する者もいたし、継続する者もいた。前者の場合、それまでの婚約期間の態度が女性側には好ましいものではなかったのだろう。キャサリンが現れるまで、きちんと婚約者を尊重していた者達の婚約者は、彼らを一時の気の迷いと許す女性や自分の方が優位に立てると喜ぶ女性もいたというわけだ。
そして元凶の一人であるキャサリンは、粛々と修道院生活を送っていた。
男を手玉に取るような行動を取り、茶番の終盤までは自らの正しさを主張していた彼女だったが、中身は少し強気なだけの普通の少女に過ぎなかったのだ。自分に言い寄っていた男達の手の平返しにショックを受け、絶望した。けれど抜け殻になった彼女を支えたのは、やはり彼女を愛する家族であった。
爵位返上の手続きと取り調べの為に呼ばれたメテオーア男爵や男爵夫人に泣かれ、そして兄・レオンハルトに諭されたことで己の間違いに気づき、反省の日々を送ることを受け入れたのだ。
あまりに重大な事件だったので忘れそうになるが、キャサリンが学院に在籍した期間は半年という非常に短い時間であった。深い仲になった者はおらず、贈答品とて花や菓子など子供の飯事の範疇であったのだ。キャサリンの方から高価な宝飾品やドレスなどを強請ったことも無く、差し出そうものならきちんと断っていたというローデリヒ王子や取り巻き達は証言している。キャサリンの健気な様子が良かったのだそうだ。
蓋を開けてみれば、大した関係になっていないにも関わらず、婚約者を排斥し、王子妃に祭り上げようとなどと考える方が愚かだと言えるだろう。ある意味で相当な危険人物だと炙り出す一因となったわけである。
しかし、未熟な若者達の命を守る為に、王家の汚点をうやむやにする為に、メテオーア男爵家の記録は三十年前の飢饉まで遡り、抹消された。男爵夫妻を始め、レオンハルトやキャサリンも生まれた時から平民だったということになった。シュテルン王国最高峰の教育機関である王都の王立学院を首席卒業したというレオンハルトの輝かしい記録もまた消されてしまったのだ。その事実に、彼の学生時代や王宮での働きを見て来た者達は、悔しさを噛み締めたのだった。
最後に、ローデリヒ王子との婚約を解消して、晴れてモーント公爵家の後継になったディアナについてだが、卒業後は女公爵となる為に改めて領地経営を学び直しながら、父公爵の政務の手伝いをしていた。レオンハルトに宣言したように、国民の為に何が出来るのか自問する毎日であった。
特に、いつだって弱い立場に追いやられてしまう女性や子供の為に何かしたいという思いを、王太女となったエーデルガルド王女に打ち明けたところ、王女は絶賛し、彼女の政治方針に組み込まれるようになった。女性君主誕生という未来の為に、シュテルン王国は動き始めていた。
しかし、この年の役人採用試験に、レオンハルトの名は無かった。
しかし、それは国王の許可も無く婚約破棄をしたことを咎められた為というより、そのような非常識な行動を取った王太子は乱心したのだという判断が下されたからだった。加えて白昼の学院で、剣を振り回すという暴挙も火に油を注いだのだった。そして王太子――いや、ローデリヒ王子は表向きは病を得たということで離宮での療養生活に入ったのだった。
ディアナとの婚約は白紙撤回され、王室の盟友であったモーント公爵家との間には溝が生まれた。王妃の甥の縁談を潰したことでマルス侯爵家からも恨まれている。国王は不甲斐無い息子の有り様に落胆したが、放り出すことはせず、周囲を厳格な者達で固め、鍛え直すことに決めたのだ。放逐して他家に迷惑を掛けてはならないからこその判断であった。
今回のことは、何よりも学院内での騒ぎであったことが、彼の身を助けたのだ。これが夜会などの他国の来賓がいる場であったなら、廃嫡だけでは済まされなかっただろう。ただでさえ王族の男子の出自が低いことで侮られているのだから、更に国としての体面を保てなくなっていたはずだ。その責任を問われ、彼の乳母や歴代教育係、使用人まで全ての首が飛んでいたに違いない。愚かな王族が原因で大量の人死を出せば、国民からの支持を失っていた未来もあったのだ。
実際、当事者達への取り調べの中で、ローデリヒ王子達は正式な場でディアナを貶め、なし崩しにキャサリンとの関係を認めさせようと計画していたという証言が出て来たのだ。ある意味、今回の騒ぎの起点となったレオンハルトの行動によって、王家は助けられたのだと言えるだろう。
そしてローデリヒ王子の後には正妃腹の王女が立太子した。数代に渡り、男子相続の継続は難しいという現実を突きつけられた王家と王国首脳部による苦渋の決断であった。幸いにして、王女は前向きに教育を受けている。
キャサリンの取り巻きであった令息達も、一旦相続権は保留となり、自宅謹慎となった。単位は十分だった為、卒業することは出来たが、その後は地方の兵団や役所などに就職するように王宮から命じられたのだった。集団でハニートラップに掛かるような世間知らずは、高位貴族の当主には相応しくないと断じられたのである。
彼らには一様に婚約者がいたのだが、この一件で解消する者もいたし、継続する者もいた。前者の場合、それまでの婚約期間の態度が女性側には好ましいものではなかったのだろう。キャサリンが現れるまで、きちんと婚約者を尊重していた者達の婚約者は、彼らを一時の気の迷いと許す女性や自分の方が優位に立てると喜ぶ女性もいたというわけだ。
そして元凶の一人であるキャサリンは、粛々と修道院生活を送っていた。
男を手玉に取るような行動を取り、茶番の終盤までは自らの正しさを主張していた彼女だったが、中身は少し強気なだけの普通の少女に過ぎなかったのだ。自分に言い寄っていた男達の手の平返しにショックを受け、絶望した。けれど抜け殻になった彼女を支えたのは、やはり彼女を愛する家族であった。
爵位返上の手続きと取り調べの為に呼ばれたメテオーア男爵や男爵夫人に泣かれ、そして兄・レオンハルトに諭されたことで己の間違いに気づき、反省の日々を送ることを受け入れたのだ。
あまりに重大な事件だったので忘れそうになるが、キャサリンが学院に在籍した期間は半年という非常に短い時間であった。深い仲になった者はおらず、贈答品とて花や菓子など子供の飯事の範疇であったのだ。キャサリンの方から高価な宝飾品やドレスなどを強請ったことも無く、差し出そうものならきちんと断っていたというローデリヒ王子や取り巻き達は証言している。キャサリンの健気な様子が良かったのだそうだ。
蓋を開けてみれば、大した関係になっていないにも関わらず、婚約者を排斥し、王子妃に祭り上げようとなどと考える方が愚かだと言えるだろう。ある意味で相当な危険人物だと炙り出す一因となったわけである。
しかし、未熟な若者達の命を守る為に、王家の汚点をうやむやにする為に、メテオーア男爵家の記録は三十年前の飢饉まで遡り、抹消された。男爵夫妻を始め、レオンハルトやキャサリンも生まれた時から平民だったということになった。シュテルン王国最高峰の教育機関である王都の王立学院を首席卒業したというレオンハルトの輝かしい記録もまた消されてしまったのだ。その事実に、彼の学生時代や王宮での働きを見て来た者達は、悔しさを噛み締めたのだった。
最後に、ローデリヒ王子との婚約を解消して、晴れてモーント公爵家の後継になったディアナについてだが、卒業後は女公爵となる為に改めて領地経営を学び直しながら、父公爵の政務の手伝いをしていた。レオンハルトに宣言したように、国民の為に何が出来るのか自問する毎日であった。
特に、いつだって弱い立場に追いやられてしまう女性や子供の為に何かしたいという思いを、王太女となったエーデルガルド王女に打ち明けたところ、王女は絶賛し、彼女の政治方針に組み込まれるようになった。女性君主誕生という未来の為に、シュテルン王国は動き始めていた。
しかし、この年の役人採用試験に、レオンハルトの名は無かった。
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