未来からやって来た子孫が言うことには、私は国王になれずに破滅するらしい。

小笠原 ゆか

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そんなことがありながらも無事に学園を卒業し、私とナタリーは予定通り結婚した。

国中の人々に祝福された、幸せな結婚だと私は心の底からそう思えた。もちろん、一部では疎んでいる人間はいたかもしれないが、そんな有象無象のことなど気にしたところで始まらない。ナタリー以上に王子妃、ひいては次期王妃に相応しい者はいないのだから。


宴が終わり、私達は夫婦の寝室にいた。

これから初夜を迎えようというのだが、ナタリー以外の女性と親しくしたこと無い私には所謂経験値というものが皆無である。王子と言えど年相応に下世話な話を振って来る者もいたのだが、私の御目付け役であるリゼットが凄い顔で睨みつけて来たから、角が立たないように受け流して来たのだ。

そのリゼットといえば、流石に覗き見などしないだろうと思っていたが、不安になって寝室に入ってすぐに周囲を確認してしまった。この事実だけは彼女にバレないようにしなければ。

このまま膠着状態を続ける訳にもいかず、おずおずとナタリーに手を伸ばすと、彼女は優しく微笑んでその白く美しい手を重ねてくれる。

「貴方の妻になれるなんて、世界で一番私は幸せな女です」

何て愛らしい人なのだろう。胸が温かくなって、改めてこれから彼女と共に暮らしていくのだという実感が湧いてきた。

「私の方こそ幸せだ!君のような素晴らしい人とずっと一緒にいられるなんて夢のようだ」

今こうして私がナタリーと笑い合っていられるのは、リゼットが私の目を覚ましてくれたお陰だった。



『結婚おめでとう。そして王太子就任も』


私は結婚と同時に立太子し、名実ともに次期国王への道を歩き出した。

「どうしたんだ。君が改まって言うなんて、何か裏があるんじゃないかと心配になる」
『今日に限って言えば、本心からの言葉よ』

そう言ってリゼットは鼻を鳴らしてみせた。
庶民育ちとはいえ、見た目は王女然としている。勝気な仕草もまた彼女には良く似合っていた。

『アンタなら、この国を正しく導く良き王になるでしょう』
「そう言ってもらえると嬉しいが、全ては君のお陰だよ」

急に褒められて戸惑ったものの、良い機会だと私は隠していた物を机に引き出しから取り出して、彼女の前に差し出した。

「リゼット。君に贈りたい物があるんだ」
『……贈りたい物?』

意味が分からないとリゼットは首を傾げて見せる。

「君のお陰で、私はまともな人間になれた。いや、まだまだ合格点には達していないかもしれないが、リゼットの言葉が無いまま成長していれば、視野の狭い独善的で傲慢な愚か者になっていたことだけは分かるんだ」

使用人達に傅かれ、高位貴族もおいそれと注意も出来ない子供など扱いづらいことこの上ない。そのまま成長していれば、誰の意見も聞かず、独断専行著しい問題児の出来上がりである。そんな愚か者に自分がなっていたかもしれないと考えるだけで恐ろしかった。

「母が呼んだ商人が持って来た商品に、君に似合う宝飾品を見つけたんだ」

そう言って私は隠していた箱を開けて見せる。

「リゼットに似合うと思って……」
『……』
「も、もちろん、ナタリーの分も買ったぞ?」

リゼットの分を用意したのに、ナタリーの分を忘れたなんて思われたら、また大目玉を喰らうと焦った私は慌てて弁明した。

『アタシ、実体が無いから触れないし……』
「そのことなら心配ない!100年後、曾孫のリゼットが成人した暁に譲渡されるように遺言書を書いておくからな」

今はつけれずとも、立派な淑女となったリゼットに相応しいものを選んだつもりだ。私は箱からネックレスを取り出すと、リゼットを鏡の前に立たせ、後ろから回り込んで首元に当てて見せた。

『綺麗ね……』
「よく似合ってる」

美しい宝石を見て、うっとりと目を細めるリゼット。

『意外と見る目があるのね』
「リゼットが私のセンスをダメ出ししてくれたお陰だ」
『そういうこともあったわね』

ナタリーへの贈り物についてリゼットに幾度となく選び直しさせられた私は、同年代の男達に比べれば女性に似合うものを選べるようになっていると自負している。

今回選んだ宝飾品もリゼットに似合うイエローゴールドにペリドットをあしらったものを揃えた。若葉の色をしたペリドットは溌剌とした点も似合うと思うが、それ以上に火山から生まれる石というのも彼女自身の苛烈さにピッタリだと思ったのは内心に留めておこうと思っている。

『ありがとう、テオ』
「立派な王女には、相応しい宝飾品が必要だからな」
『……そうね』

いつもの毒舌は鳴りを潜め、その日のリゼットは少し悲しげに見えた。
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