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2杯目 2年目の夏
14 合宿④
しおりを挟む合宿最終日。窓から差し込む光は、名残惜しさを感じさせるように、優しく僕たちを包んでいた。
朝食を済ませ、僕たちはリビングに集まった。今日は、この合宿の最大の目的である、短編小説の最終発表会だ。
昨日までの賑やかさとは打って変わり、リビングには緊張感が漂っている。
「みんな、おはよう。今日は、この合宿で書いた短編小説を発表し合います。それぞれの作品に、真剣な気持ちで向き合ってくれたら嬉しいわ。」
菊乃井先生が、いつもの穏やかな口調で、僕たちに語りかけた。
「それでは、発表会を始めます。司会は、部長の福田にお願いします。」
福田先輩が、前に出て深呼吸をする。
「それでは、トップバッターは、一文字から!」
一文字さんは、少し緊張した面持ちで、自分の書いた物語を読み始めた。
発表は、古本さん、一文字さん、そして僕の順番で進んでいった。
みんなの作品は、それぞれの個性が光っていて、とても面白かった。古本さんは、不思議な出来事を描いたファンタジー小説を、一文字さんは、甘酸っぱい青春ラブストーリーを披露した。
そして、僕の番が来た。
心臓がドクンドクンと音を立てる。僕は、ノートを開き、夏祭りの物語を読み始めた。
孤独な少年が、夏祭りの夜に特別な出会いをし、世界が少しずつ色づいていく物語。
読み進めるうちに、僕の声は自然と感情を帯びていき、いつしか、自分の物語の世界に入り込んでいた。
読み終えると、リビングには静寂が広がった。
「…ありがとう、平岡くん。とてもよかったわ。」
菊乃井先生が、優しい眼差しで僕を見つめた。
「平岡くんの書く小説は、いつも情景が目に浮かぶ。夏の夜の匂いや、祭りの喧騒が、すごく伝わってきたわ。」
福田先輩も、僕の小説を褒めてくれた。
「なんか、平岡っちが普段、どんなことを考えているのか、少しだけわかった気がした。」
宝条は、照れくさそうに呟いた。
その時、僕のスマホがピコンッと鳴った。マインだ。
〈平岡っち、頑張れー!〉
〈漢気応援スタンプ〉
彼女からの応援メッセージに、僕は胸が熱くなるのを感じた。
(入野さんのために、もっといい小説を書こう)
そう心の中で誓い、僕は皆の前に立ち直った。
全員の発表が終わり、張り詰めていた空気が、すっと軽くなった。
僕たちは、安堵のため息をつきながら、互いの作品について語り合った。
福田先輩が、改めてみんなに語りかける。
「今回の合宿は、みんなにとって、どうだったかな?何か新しい発見はあった?」
「はい!みんなの書く小説が、全然違ってて、すごく刺激になりました!」
古本さんが元気よく答える。
「私も、小説を書くのって、意外と難しいんだなって、初めて知りました。でも、すごく楽しかったです!」
一文字さんも、笑顔で言った。
僕も、この合宿で、たくさんのことを学んだ。
一人で書くのも好きだけど、仲間と一緒に作り上げていく喜び、そして、誰かのために書きたいという気持ち。
それこそが、僕にとっての新しい発見だった。
名残惜しさを感じながら、僕たちは福田先輩の祖父母の家を後にした。
バスに乗り込むと、来た時のような賑やかさはなく、みんな疲れて静かだった。
僕は、窓の外を眺めていた。
しばらくして、バスは昨日も通ったひまわり畑を通過する。
一面に広がるひまわりの花は、僕たちを見送るかのように、太陽に向かって咲き誇っていた。
(夏の、ひまわりのように……)
僕は、心の中で、新しい物語のアイデアを思い描く。
ひまわりは、いつも太陽に向かって咲いている。
僕も、自分の夢に向かって、まっすぐに進んでいきたい。
この合宿で得たたくさんの経験と、入野さんの笑顔を胸に、僕は、新しい物語の扉を開く準備ができていた。
夕方、僕たちは無事に学校へと戻ってきた。
みんなと別れ、一人で家路につく。
合宿前と何も変わらない、いつもの道。
でも、僕の心は、たくさんの思い出と、新しい希望で満ちていた。
部屋に戻ると、僕は真っ先に、創作ノートを開いた。
合宿中に書いたプロットと、皆からもらったアドバイス、そして、ひまわり畑で芽生えた新しいアイデアを書き込んでいく。
ノートのページが、一枚、また一枚と埋まっていく。
「…よし。」
僕は、静かに呟いた。
合宿で得た刺激を胸に、これからの自分の成長を誓う。
僕の夏は、まだ始まったばかりだ。
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