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その紅茶はあなたが飲みなさい
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いつものように教室で過ごしていると、興奮した女子たちの会話が耳に入った。
「そういえば、明日って魔道具発表会だよね~」
「楽しみだよね。オルド先生とグレイ様の師弟愛も素敵だし!」
「わかるっ。実は私、グレイ様推しなの~」
「あたしもだよ!」
盛り上がっていて実に楽しそうじゃないの──
なんて余裕ぶってはいられない!
ガタッ、と椅子を吹っ飛ばす勢いで私は立ち上がる。
「ソ、ソラリス様?」
「失礼、急用を思い出しましたわ!」
取り巻きを置き去りにして、教室から飛び出る。
まずい、ここで動かないとバッドエンドになる!
しかも私が死ぬタイプのやつだ。
彼女たちが話していたグレイは、ソラリスのサブパートナーの一人。
四人の中でも唯一の上級生で、天才魔術師と名高い。
この世界は、魔法や魔物が存在する意外と物騒な世界だ。
彼がすごいのは魔法だけじゃなく、魔道具作りの天才でもあること。
私は独り言で頭を整理する。
「原作通りなら、彼は発表会で自爆テロを起こす。魔道具の破片が飛んできて私の頭に直撃……死亡」
どの席に座っても、なぜか私の頭に飛来する。
じゃあ参加しなければ?
その場合、より凶悪なイベントに強制で巻き込まれる。
そこで私が訪れたのは、魔術研究室だ。
「グレイ様、いらっしゃいますか? ソラリスです」
ノックもするが反応がない。
……と思ったら、だいぶ遅れて返事が来た。
「……なんの用かな?」
「お話がしたいのです」
「悪いけどボクは忙しい」
「明日のことです!」
強めの語調で伝えると、グレイのやる気ない声音に少し変化が生じた。
「どうぞ」
ドアを開けて中に入る。
部屋自体は普通の造りだが、置いてある物が目を引く。
様々な武器を始めとして、骨董品のような物や怪しげな魔術書など。
——えっ、なにその剣……!?
グレイが、抜き身の剣を持って立っていた。
「あぁ、別に驚かせるつもりはない」
彼は剣を鞘に納めると、横目でうざったそうに私を見た。
絶対に驚かせるつもりだった……。
彼は原作と同じで、どこか陰のあるオーラを纏う。
綺麗な銀髪で肌は陶器みたいに白い。
顎のラインがシャープで、神経質そうな美形のため、一部の女子が熱狂するのもわかる。
ただ、それだけ素晴らしいパーツが整っているのに、輝きはない。
表情のせいだろう。
なんか闇に堕ちてる感が読み取れる。
「紅茶でも入れるよ。座って」
部屋の隅にテーブルがあるので、そこの椅子に座る。
少しすると、彼が私の前にカップを置いてくれた。
澄み切った緋色の液体だ。
彼は正面に座り、無表情で私を見つめる。
いや観察か……?
紅茶に手を伸ばしつつ、こちらもグレイを分析する。
グレイ・ストーン
【総合値】-455
【欺瞞】-98
【面倒】-94
【侮蔑】-90
【拒絶】-88
【諦観】-85
……なんだろう?
大体は予想通りなんだけど、欺瞞がトップにきている。
騙そうとしている?
コップに口をつける寸前で、私は手を止めた。
「これってなんの紅茶ですか?」
「ン……普通の紅茶だよ。でも高かったから君の口にも合うと思う」
【Gap80%】
すぐに、カップをソーサーに戻す。
完全な嘘ではない。
でも大部分は嘘。
多分、紅茶は本当だけどまともな品ではない。
そんなところだろう。
「まずあなたが一口、これを飲んでいただけるかしら」
「……どうして?」
「私、最近人間不信でして。例えサブパートナーに出された飲み物でも、簡単には口にしません。さ、お飲みになって」
「君は立場も高いし大変だね。悪いけど、ボクは喉が渇いていないんだ」
「では、オルド先生に飲ませてきますわ」
カップを持って出ていこうとすると、グレイはそれを奪って一気に飲み干す。
いや熱くないの……!?
「ぐうあっ……くっ……」
「それ、なにが入っていましたの?」
グレイは頭がキレる。
騙されないため、システムを最高感度に変更しておく。
【Gap1%】で設定しました。
「……もの凄く苦い紅茶でね。驚かせるつもりだった」
【Gap5%】
大きな嘘ではない。
『苦い紅茶』は本当かな。
驚かせるというよりは、少し悪意のある嫌がらせって感じか。
私は彼の顔面を両手で掴み、強制的にこちらを向かせる。
「なにか言うことはありませんか?」
グレイは目を何度か瞬かせた後、小さな声で謝る。
「悪かったよ。もうやらない」
「許しましょう。話の続きをします」
再び、席に座る。
グレイも少し感じ取っているようだ。
私が普段とは性格が違うことを。
でも今回はその方が絶対にいい。
この男のやろうとしていることを軌道修正しなくてはいけないから。
「明日の魔道具発表会。なにを出しますの?」
「……魔力の少ない人でも、火魔法が使えるようになる魔道具だよ」
よし、嘘はない。
イベントでもそうだった。
「見せていただける?」
「ボクと先生の新作だから、部外者に渡すのはリスクがある」
「あら、変な紅茶を飲まされそうになったと騒ぎ立てようかしら」
「……わかったよ。でも君、なにか薬物でもやっていないか? 僕の知っているソラリスじゃないみたいだ」
「言ったでしょう。人間不信だと。すべてを疑うことにしたのです」
少し納得したのか、グレイは試作品の魔道具を持ってきてくれた。
右手用ガントレットだ。
黒鉄の甲の部分に、炎を連想させる魔石がはめ込んである。
「私でも使えるのよね。魅力的ですわ」
「嵌めないでくれよ。明日の本番用に調整しているんだ」
「魔道具には、それを成り立たせる魔術コードを埋め込むのでしょう。これのコードを紙に書いてくださらない」
「君に理解できるの?」
「いいから書いてください」
渋々ながら、グレイはコードを書いた。
特殊な文字を使っていることもあり、何一つ理解できない。
でも一時、コードを書く手が迷った。
そしてシステムの目が、そこに反応する。
【Gap100%】
文章や数字であっても、大事なのは書き手の意志。
意図的に正しくないことを書いたとき、システムは反応する。
逆に言えば、1+1=3と書かれていても、本人がそう思っていればGapは反応しない。
要は、勘違いは捕まえられない。
天才が自作のコードを間違えるわけないので、明らかに作為的だ。
私はGapが出ている箇所を指さす。
「ここのコード、本当は違いますわね?」
「ふん。素人の君に、魔道数式が読めるわけがない」
「はい、さっぱりですわ」
「なら、根拠はなに?」
「天才かつ開発者のあなたの手が、一瞬迷った。ほんのわずかですが、指が震えてもいました」
ハッタリだ。
システムのおかげだけど、彼にはそれがわからない。
すべて見透かされている……というプレッシャーを与えたい。
「根拠としては弱すぎる」
「でも紅茶の件を思い出してください。私の勘は当たってましたよ。私があなたなら、これを暴発でもさせるでしょう」
グレイとの視線がしばらく交錯した。
口端を少し上げ、全部わかってますよ感も演出しておく。
ついに相手が根負けした。
「…………何者なんだよ、君は。ボクの知っているソラリスはもっとこう……」
「その話はさておき、復讐したいのでしょう? オルド先生に」
「なぜ、そう思った?」
「あの先生といるときのあなたの顔。それを深く観察すれば、答えはおのずと見えてきます」
本当は原作知識です、ごめんなさい。
オルドも魔道具作りにおいては天才と言われている。
しかしいつしか才能は枯れ、立ち位置に困っていた。
そんなとき、グレイが現れた。
先生の魔道具に感銘を受け、彼を尊敬していたグレイは喜んで手先となった。
でも次第に気づき始める。
自分は、ただの都合のいい道具だと。
「自分こそが先生の魔道具だ。そう感じているのでしょう?」
図星だったのかグレイは力なく椅子に座った。
悪魔か神か、あるいは得体のしれぬものを見る目を私に向けている。
「復讐はなにも生み出さない。どう思います?」
「……くだらない。大嫌いな言葉だ」
「私もです。復讐って——最高の娯楽ですもの」
微笑みかけると、グレイが生唾を飲み込んだのがわかった。
「ですが、爆発はダメです。自分と先生だけが被害を受ける設定なのでしょうが、破片が飛ぶかもしれません。なにより、あなたは苦しむ先生の顔を見られない」
「……それって」
「そう、相手が泥沼に沈むところを見下ろしてこそ、本物の復讐ですわ」
「君って……狂ってるよ……!」
「お互い様ですよ。私にいい案があります。協力してくださる?」
私は手を差しのばす。
グレイはしばらく迷っていたが最後は立ち上がって、こちらの手を握った。
私だって、バッドエンドはごめんだからね。
死ぬくらいなら狂い咲きましょうよ。
「そういえば、明日って魔道具発表会だよね~」
「楽しみだよね。オルド先生とグレイ様の師弟愛も素敵だし!」
「わかるっ。実は私、グレイ様推しなの~」
「あたしもだよ!」
盛り上がっていて実に楽しそうじゃないの──
なんて余裕ぶってはいられない!
ガタッ、と椅子を吹っ飛ばす勢いで私は立ち上がる。
「ソ、ソラリス様?」
「失礼、急用を思い出しましたわ!」
取り巻きを置き去りにして、教室から飛び出る。
まずい、ここで動かないとバッドエンドになる!
しかも私が死ぬタイプのやつだ。
彼女たちが話していたグレイは、ソラリスのサブパートナーの一人。
四人の中でも唯一の上級生で、天才魔術師と名高い。
この世界は、魔法や魔物が存在する意外と物騒な世界だ。
彼がすごいのは魔法だけじゃなく、魔道具作りの天才でもあること。
私は独り言で頭を整理する。
「原作通りなら、彼は発表会で自爆テロを起こす。魔道具の破片が飛んできて私の頭に直撃……死亡」
どの席に座っても、なぜか私の頭に飛来する。
じゃあ参加しなければ?
その場合、より凶悪なイベントに強制で巻き込まれる。
そこで私が訪れたのは、魔術研究室だ。
「グレイ様、いらっしゃいますか? ソラリスです」
ノックもするが反応がない。
……と思ったら、だいぶ遅れて返事が来た。
「……なんの用かな?」
「お話がしたいのです」
「悪いけどボクは忙しい」
「明日のことです!」
強めの語調で伝えると、グレイのやる気ない声音に少し変化が生じた。
「どうぞ」
ドアを開けて中に入る。
部屋自体は普通の造りだが、置いてある物が目を引く。
様々な武器を始めとして、骨董品のような物や怪しげな魔術書など。
——えっ、なにその剣……!?
グレイが、抜き身の剣を持って立っていた。
「あぁ、別に驚かせるつもりはない」
彼は剣を鞘に納めると、横目でうざったそうに私を見た。
絶対に驚かせるつもりだった……。
彼は原作と同じで、どこか陰のあるオーラを纏う。
綺麗な銀髪で肌は陶器みたいに白い。
顎のラインがシャープで、神経質そうな美形のため、一部の女子が熱狂するのもわかる。
ただ、それだけ素晴らしいパーツが整っているのに、輝きはない。
表情のせいだろう。
なんか闇に堕ちてる感が読み取れる。
「紅茶でも入れるよ。座って」
部屋の隅にテーブルがあるので、そこの椅子に座る。
少しすると、彼が私の前にカップを置いてくれた。
澄み切った緋色の液体だ。
彼は正面に座り、無表情で私を見つめる。
いや観察か……?
紅茶に手を伸ばしつつ、こちらもグレイを分析する。
グレイ・ストーン
【総合値】-455
【欺瞞】-98
【面倒】-94
【侮蔑】-90
【拒絶】-88
【諦観】-85
……なんだろう?
大体は予想通りなんだけど、欺瞞がトップにきている。
騙そうとしている?
コップに口をつける寸前で、私は手を止めた。
「これってなんの紅茶ですか?」
「ン……普通の紅茶だよ。でも高かったから君の口にも合うと思う」
【Gap80%】
すぐに、カップをソーサーに戻す。
完全な嘘ではない。
でも大部分は嘘。
多分、紅茶は本当だけどまともな品ではない。
そんなところだろう。
「まずあなたが一口、これを飲んでいただけるかしら」
「……どうして?」
「私、最近人間不信でして。例えサブパートナーに出された飲み物でも、簡単には口にしません。さ、お飲みになって」
「君は立場も高いし大変だね。悪いけど、ボクは喉が渇いていないんだ」
「では、オルド先生に飲ませてきますわ」
カップを持って出ていこうとすると、グレイはそれを奪って一気に飲み干す。
いや熱くないの……!?
「ぐうあっ……くっ……」
「それ、なにが入っていましたの?」
グレイは頭がキレる。
騙されないため、システムを最高感度に変更しておく。
【Gap1%】で設定しました。
「……もの凄く苦い紅茶でね。驚かせるつもりだった」
【Gap5%】
大きな嘘ではない。
『苦い紅茶』は本当かな。
驚かせるというよりは、少し悪意のある嫌がらせって感じか。
私は彼の顔面を両手で掴み、強制的にこちらを向かせる。
「なにか言うことはありませんか?」
グレイは目を何度か瞬かせた後、小さな声で謝る。
「悪かったよ。もうやらない」
「許しましょう。話の続きをします」
再び、席に座る。
グレイも少し感じ取っているようだ。
私が普段とは性格が違うことを。
でも今回はその方が絶対にいい。
この男のやろうとしていることを軌道修正しなくてはいけないから。
「明日の魔道具発表会。なにを出しますの?」
「……魔力の少ない人でも、火魔法が使えるようになる魔道具だよ」
よし、嘘はない。
イベントでもそうだった。
「見せていただける?」
「ボクと先生の新作だから、部外者に渡すのはリスクがある」
「あら、変な紅茶を飲まされそうになったと騒ぎ立てようかしら」
「……わかったよ。でも君、なにか薬物でもやっていないか? 僕の知っているソラリスじゃないみたいだ」
「言ったでしょう。人間不信だと。すべてを疑うことにしたのです」
少し納得したのか、グレイは試作品の魔道具を持ってきてくれた。
右手用ガントレットだ。
黒鉄の甲の部分に、炎を連想させる魔石がはめ込んである。
「私でも使えるのよね。魅力的ですわ」
「嵌めないでくれよ。明日の本番用に調整しているんだ」
「魔道具には、それを成り立たせる魔術コードを埋め込むのでしょう。これのコードを紙に書いてくださらない」
「君に理解できるの?」
「いいから書いてください」
渋々ながら、グレイはコードを書いた。
特殊な文字を使っていることもあり、何一つ理解できない。
でも一時、コードを書く手が迷った。
そしてシステムの目が、そこに反応する。
【Gap100%】
文章や数字であっても、大事なのは書き手の意志。
意図的に正しくないことを書いたとき、システムは反応する。
逆に言えば、1+1=3と書かれていても、本人がそう思っていればGapは反応しない。
要は、勘違いは捕まえられない。
天才が自作のコードを間違えるわけないので、明らかに作為的だ。
私はGapが出ている箇所を指さす。
「ここのコード、本当は違いますわね?」
「ふん。素人の君に、魔道数式が読めるわけがない」
「はい、さっぱりですわ」
「なら、根拠はなに?」
「天才かつ開発者のあなたの手が、一瞬迷った。ほんのわずかですが、指が震えてもいました」
ハッタリだ。
システムのおかげだけど、彼にはそれがわからない。
すべて見透かされている……というプレッシャーを与えたい。
「根拠としては弱すぎる」
「でも紅茶の件を思い出してください。私の勘は当たってましたよ。私があなたなら、これを暴発でもさせるでしょう」
グレイとの視線がしばらく交錯した。
口端を少し上げ、全部わかってますよ感も演出しておく。
ついに相手が根負けした。
「…………何者なんだよ、君は。ボクの知っているソラリスはもっとこう……」
「その話はさておき、復讐したいのでしょう? オルド先生に」
「なぜ、そう思った?」
「あの先生といるときのあなたの顔。それを深く観察すれば、答えはおのずと見えてきます」
本当は原作知識です、ごめんなさい。
オルドも魔道具作りにおいては天才と言われている。
しかしいつしか才能は枯れ、立ち位置に困っていた。
そんなとき、グレイが現れた。
先生の魔道具に感銘を受け、彼を尊敬していたグレイは喜んで手先となった。
でも次第に気づき始める。
自分は、ただの都合のいい道具だと。
「自分こそが先生の魔道具だ。そう感じているのでしょう?」
図星だったのかグレイは力なく椅子に座った。
悪魔か神か、あるいは得体のしれぬものを見る目を私に向けている。
「復讐はなにも生み出さない。どう思います?」
「……くだらない。大嫌いな言葉だ」
「私もです。復讐って——最高の娯楽ですもの」
微笑みかけると、グレイが生唾を飲み込んだのがわかった。
「ですが、爆発はダメです。自分と先生だけが被害を受ける設定なのでしょうが、破片が飛ぶかもしれません。なにより、あなたは苦しむ先生の顔を見られない」
「……それって」
「そう、相手が泥沼に沈むところを見下ろしてこそ、本物の復讐ですわ」
「君って……狂ってるよ……!」
「お互い様ですよ。私にいい案があります。協力してくださる?」
私は手を差しのばす。
グレイはしばらく迷っていたが最後は立ち上がって、こちらの手を握った。
私だって、バッドエンドはごめんだからね。
死ぬくらいなら狂い咲きましょうよ。
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