愛していると言われても、頭上の数値は『殺意MAX』ですが?

セトガワ

文字の大きさ
7 / 12

その紅茶はあなたが飲みなさい

しおりを挟む
 いつものように教室で過ごしていると、興奮した女子たちの会話が耳に入った。

「そういえば、明日って魔道具発表会だよね~」
「楽しみだよね。オルド先生とグレイ様の師弟愛も素敵だし!」
「わかるっ。実は私、グレイ様推しなの~」
「あたしもだよ!」
 
 盛り上がっていて実に楽しそうじゃないの──
 なんて余裕ぶってはいられない!
 ガタッ、と椅子を吹っ飛ばす勢いで私は立ち上がる。

「ソ、ソラリス様?」
「失礼、急用を思い出しましたわ!」
 
 取り巻きを置き去りにして、教室から飛び出る。
 まずい、ここで動かないとバッドエンドになる!
 しかも私が死ぬタイプのやつだ。
 彼女たちが話していたグレイは、ソラリスのサブパートナーの一人。
 四人の中でも唯一の上級生で、天才魔術師と名高い。
 この世界は、魔法や魔物が存在する意外と物騒な世界だ。
 彼がすごいのは魔法だけじゃなく、魔道具作りの天才でもあること。
 私は独り言で頭を整理する。

「原作通りなら、彼は発表会で自爆テロを起こす。魔道具の破片が飛んできて私の頭に直撃……死亡」
 
 どの席に座っても、なぜか私の頭に飛来する。
 じゃあ参加しなければ?
 その場合、より凶悪なイベントに強制で巻き込まれる。
 そこで私が訪れたのは、魔術研究室だ。

「グレイ様、いらっしゃいますか? ソラリスです」
 
 ノックもするが反応がない。
 ……と思ったら、だいぶ遅れて返事が来た。

「……なんの用かな?」
「お話がしたいのです」
「悪いけどボクは忙しい」
「明日のことです!」
 
 強めの語調で伝えると、グレイのやる気ない声音に少し変化が生じた。

「どうぞ」
 
 ドアを開けて中に入る。
 部屋自体は普通の造りだが、置いてある物が目を引く。
 様々な武器を始めとして、骨董品のような物や怪しげな魔術書など。
 ——えっ、なにその剣……!? 
 グレイが、抜き身の剣を持って立っていた。

「あぁ、別に驚かせるつもりはない」
 
 彼は剣を鞘に納めると、横目でうざったそうに私を見た。
 絶対に驚かせるつもりだった……。
 彼は原作と同じで、どこか陰のあるオーラを纏う。
 綺麗な銀髪で肌は陶器みたいに白い。
 顎のラインがシャープで、神経質そうな美形のため、一部の女子が熱狂するのもわかる。
 ただ、それだけ素晴らしいパーツが整っているのに、輝きはない。
 表情のせいだろう。
 なんか闇に堕ちてる感が読み取れる。

「紅茶でも入れるよ。座って」
 
 部屋の隅にテーブルがあるので、そこの椅子に座る。
 少しすると、彼が私の前にカップを置いてくれた。
 澄み切った緋色の液体だ。
 彼は正面に座り、無表情で私を見つめる。
 いや観察か……?
 紅茶に手を伸ばしつつ、こちらもグレイを分析する。

 グレイ・ストーン
【総合値】-455

【欺瞞】-98
【面倒】-94
【侮蔑】-90
【拒絶】-88
【諦観】-85

 ……なんだろう?
 大体は予想通りなんだけど、欺瞞がトップにきている。
 騙そうとしている?
 コップに口をつける寸前で、私は手を止めた。

「これってなんの紅茶ですか?」
「ン……普通の紅茶だよ。でも高かったから君の口にも合うと思う」

【Gap80%】
 
 すぐに、カップをソーサーに戻す。
 完全な嘘ではない。
 でも大部分は嘘。
 多分、紅茶は本当だけどまともな品ではない。
 そんなところだろう。
 
「まずあなたが一口、これを飲んでいただけるかしら」
「……どうして?」
「私、最近人間不信でして。例えサブパートナーに出された飲み物でも、簡単には口にしません。さ、お飲みになって」
「君は立場も高いし大変だね。悪いけど、ボクは喉が渇いていないんだ」
「では、オルド先生に飲ませてきますわ」
 
 カップを持って出ていこうとすると、グレイはそれを奪って一気に飲み干す。
 いや熱くないの……!?

「ぐうあっ……くっ……」
「それ、なにが入っていましたの?」
 
 グレイは頭がキレる。
 騙されないため、システムを最高感度に変更しておく。

【Gap1%】で設定しました。

「……もの凄く苦い紅茶でね。驚かせるつもりだった」
 
【Gap5%】

 大きな嘘ではない。
 『苦い紅茶』は本当かな。
 驚かせるというよりは、少し悪意のある嫌がらせって感じか。
 私は彼の顔面を両手で掴み、強制的にこちらを向かせる。

「なにか言うことはありませんか?」
 
 グレイは目を何度か瞬かせた後、小さな声で謝る。

「悪かったよ。もうやらない」
「許しましょう。話の続きをします」
 
 再び、席に座る。
 グレイも少し感じ取っているようだ。
 私が普段とは性格が違うことを。
 でも今回はその方が絶対にいい。
 この男のやろうとしていることを軌道修正しなくてはいけないから。

「明日の魔道具発表会。なにを出しますの?」
「……魔力の少ない人でも、火魔法が使えるようになる魔道具だよ」

 よし、嘘はない。
 イベントでもそうだった。

「見せていただける?」
「ボクと先生の新作だから、部外者に渡すのはリスクがある」
「あら、変な紅茶を飲まされそうになったと騒ぎ立てようかしら」
「……わかったよ。でも君、なにか薬物でもやっていないか? 僕の知っているソラリスじゃないみたいだ」
「言ったでしょう。人間不信だと。すべてを疑うことにしたのです」
 
 少し納得したのか、グレイは試作品の魔道具を持ってきてくれた。
 右手用ガントレットだ。
 黒鉄の甲の部分に、炎を連想させる魔石がはめ込んである。

「私でも使えるのよね。魅力的ですわ」
「嵌めないでくれよ。明日の本番用に調整しているんだ」
「魔道具には、それを成り立たせる魔術コードを埋め込むのでしょう。これのコードを紙に書いてくださらない」
「君に理解できるの?」
「いいから書いてください」
 
 渋々ながら、グレイはコードを書いた。
 特殊な文字を使っていることもあり、何一つ理解できない。
 でも一時、コードを書く手が迷った。
 そしてシステムの目が、そこに反応する。

【Gap100%】

 文章や数字であっても、大事なのは書き手の意志。
 意図的に正しくないことを書いたとき、システムは反応する。
 逆に言えば、1+1=3と書かれていても、本人がそう思っていればGapは反応しない。
 要は、勘違いは捕まえられない。
 天才が自作のコードを間違えるわけないので、明らかに作為的だ。
 私はGapが出ている箇所を指さす。

「ここのコード、本当は違いますわね?」
「ふん。素人の君に、魔道数式が読めるわけがない」
「はい、さっぱりですわ」
「なら、根拠はなに?」
「天才かつ開発者のあなたの手が、一瞬迷った。ほんのわずかですが、指が震えてもいました」 
 
 ハッタリだ。
 システムのおかげだけど、彼にはそれがわからない。
 すべて見透かされている……というプレッシャーを与えたい。
 
「根拠としては弱すぎる」
「でも紅茶の件を思い出してください。私の勘は当たってましたよ。私があなたなら、これを暴発でもさせるでしょう」

 グレイとの視線がしばらく交錯した。
 口端を少し上げ、全部わかってますよ感も演出しておく。
 ついに相手が根負けした。

「…………何者なんだよ、君は。ボクの知っているソラリスはもっとこう……」
「その話はさておき、復讐したいのでしょう? オルド先生に」
「なぜ、そう思った?」
「あの先生といるときのあなたの顔。それを深く観察すれば、答えはおのずと見えてきます」
 
 本当は原作知識です、ごめんなさい。
 オルドも魔道具作りにおいては天才と言われている。
 しかしいつしか才能は枯れ、立ち位置に困っていた。
 そんなとき、グレイが現れた。
 先生の魔道具に感銘を受け、彼を尊敬していたグレイは喜んで手先となった。
 でも次第に気づき始める。
 自分は、ただの都合のいい道具だと。

「自分こそが先生の魔道具だ。そう感じているのでしょう?」

 図星だったのかグレイは力なく椅子に座った。
 悪魔か神か、あるいは得体のしれぬものを見る目を私に向けている。

「復讐はなにも生み出さない。どう思います?」
「……くだらない。大嫌いな言葉だ」
「私もです。復讐って——最高の娯楽ですもの」
 
 微笑みかけると、グレイが生唾を飲み込んだのがわかった。

「ですが、爆発はダメです。自分と先生だけが被害を受ける設定なのでしょうが、破片が飛ぶかもしれません。なにより、あなたは苦しむ先生の顔を見られない」
「……それって」
「そう、相手が泥沼に沈むところを見下ろしてこそ、本物の復讐ですわ」
「君って……狂ってるよ……!」
「お互い様ですよ。私にいい案があります。協力してくださる?」
 
 私は手を差しのばす。
 グレイはしばらく迷っていたが最後は立ち上がって、こちらの手を握った。
 私だって、バッドエンドはごめんだからね。
 死ぬくらいなら狂い咲きましょうよ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

3歳児にも劣る淑女(笑)

章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。 男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。 その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。 カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^) ほんの思い付きの1場面的な小噺。 王女以外の固有名詞を無くしました。 元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。 創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

9時から5時まで悪役令嬢

西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」 婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。 ならば私は願い通りに動くのをやめよう。 学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで 昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。 さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。 どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。 卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ? なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか? 嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。 今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。 冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。 ☆別サイトにも掲載しています。 ※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。 これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。

婚約破棄ですか……。……あの、契約書類は読みましたか?

冬吹せいら
恋愛
 伯爵家の令息――ローイ・ランドルフは、侯爵家の令嬢――アリア・テスタロトと婚約を結んだ。  しかし、この婚約の本当の目的は、伯爵家による侯爵家の乗っ取りである。  侯爵家の領地に、ズカズカと進行し、我がもの顔で建物の建設を始める伯爵家。  ある程度領地を蝕んだところで、ローイはアリアとの婚約を破棄しようとした。 「おかしいと思いませんか? 自らの領地を荒されているのに、何も言わないなんて――」  アリアが、ローイに対して、不気味に語り掛ける。  侯爵家は、最初から気が付いていたのだ。 「契約書類は、ちゃんと読みましたか?」  伯爵家の没落が、今、始まろうとしている――。

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

うまくやった、つもりだった

ひがん さく
恋愛
四大貴族、バルディストン公爵家の分家に生まれたオスカーは、ここまでうまくやってきた。 本家の一人娘シルヴィアが王太子の婚約者に選ばれ、オスカーは本家の後継ぎとして養子になった。 シルヴィアを姉と慕い、養父に気に入られ、王太子の側近になり、王太子が子爵令嬢と愛を深めるのを人目につかぬよう手助けをし、シルヴィアとの婚約破棄の準備も整えた。 誠実と王家への忠義を重んじるこの国では、シルヴィアの冷徹さは瑕疵であり、不誠実だと示せば十分だった。 かつてシルヴィアはオスカーが養子になることに反対した。 その姉が後妻か商家の平民に落ちる時が来た。 王太子の権威や素晴らしさを示すという一族の教えすら忘れた姉をオスカーは断罪する。 だが、シルヴィアは絶望もせずに呟いた。 「これだから、分家の者を家に入れるのは嫌だったのよ……」  

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

処理中です...