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炎、出ませんね
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これ以上ないくらいの晴天だ。
魔道具発表会の今日は、校庭に大勢の人が集まっている。
オルディ学院の生徒より、むしろ部外者の方が多い。
商人、魔道具研究者、貴族など。
半年に一度の大きいイベントなのだ。
「お嬢様、こちらの席へどうぞ」
黒髪の紳士的な男性が、私をVIP席に案内する。
「ありがとう、ジャイル」
彼は、我がノルディ公爵家に仕える優秀な三十歳だ。
まだ若いが商会の幹部で、今日も父の代理で来ている。
公爵家の商売の中には魔道具の販売があり、オルドとも契約しているのだ。
最前列の席に、私は腰掛けた。
目の前には、簡易的ではあるが立派な壇上がある。
「ねぇ、オルド先生との契約はどのくらいになるの?」
「教授とは、もう五年になります」
「結構長いのね。制作者としては優秀、か」
「ええ。ですが、実は契約終了も考えていたのです。段々と作る魔道具が低品質になりまして」
「才能の枯渇かしら」
「そう感じていました。ところが一年前から、見違えるように最高の品を出すようになりましてね」
グレイが助手になった時期だ。
ジャイルはその辺、気づいているのだろうか?
尻目で確認すると、不思議そうな顔をしていた。
「……お嬢様、そういったことに興味を持つようになったのですね」
「公爵令嬢としての自覚が芽生えてきたのよ」
「さすがです、お嬢様! 私は将来が楽しみで仕方ありません!」
彼のレーダーチャートを確認してみよう。
ジャイル・オードリー
【総合値】-288
【呆れ】-94
【軽蔑】-91
【諦観】-88
【失望】-85
【忠誠】+70
……私はジト目になった。
大嘘つきもいいところですね、あなた。
そんな私たちの元に、今日の主役がやってきた。
「ジャイル様ッ。もう到着されていたのですな!」
「これはオルド教授。ご無沙汰しております」
「いや~、期待してください! 今日は自信作ですぞ!」
オルドのテンションが果てしなく高い。
熊のようにずんぐりした体型で髭も濃い。
二重顎に脂ぎった肌。
中年男性がなにも頑張らずに生活するとこうなる……の見本みたいだ。
「今回は、より多くの人に売れやすい仕様です。契約の件、ちと頑張っていただきたい」
「ええ。見合うものであれば、高額でも出しますよ」
「過去最高額でお願いしたい。私も豪邸を建ててましてな。額次第では、他も考えております」
だいぶ強欲だし失礼だ。
ジャイルは顔色変えずに対応する。
「我々は適正な額をお出しします。いままでのように」
「がはは、結構! 公爵家も私も大儲けですなぁ!」
よくもまあ、ここまで下品になれるよね。
彼は、私にも注意を向けてくる。
「魔力の弱いソラリス嬢でも、使える魔道具ですぞ」
「素敵ですわ。私のサブパートナーも関与していると聞きました」
「あ~、ほんのわずかですが、手伝ってもらいました。設計やコードは、私がすべて行っておりますがね」
【Gap100%】の文字が痛々しい。
オルドは今回いかに頑張ったかを力説した後、舞台裏に消えていった。
彼が消えるなり、ジャイルは大きく嘆息する。
「やれやれ。腕はそれなりですが、性格に難ありですねぇ」
「それなり?」
最高級の魔道具を作る相手に使う言葉だろうか?
ジャイルは表情を変えずに訂正する。
「失礼しました。私も偉そうでしたね」
「助手のグレイについて、どう思うの?」
「……素晴らしい才能です。実はお父上もそれに気づいています。だからこそ、お嬢様のサブパートナーにしたのです」
なるほどねー。
ここはあまり突っ込まないでおこう。
その方が、こちらもやりやすい。
さて、発表会が始まる。
盛大な拍手で迎えられながら、オルドは壇上に一人でのぼった。
「皆さん、私が天才製作者のオルドです。冗談です、がははは!」
唾を飛ばしながら、豪快に笑う。
「さて、毎回驚きがある発表会ですが、本日は過去一番でしょうな! なにせ、私の最高傑作が完成しました!」
オォーッ! と地鳴りのような歓声が上がる。
正直、気持ちはわかる。
地球でも有名メーカーの新作発表会とか、盛り上がるもんね。
商品が魔道具ときたら、なおさら熱い。
「こちらをご覧ください」
昨日、研究室で見たガントレットだ。
オルドは右に左に動かして、観客にアピールする。
「皆さんの中には、魔法が使えない者も多いでしょう。ですが、これがあれば皆さんの夢が叶います!」
「オルド教授。それは、誰でも魔法が使えるということでしょうか?」
手を挙げて質問したのはジャイルだ。
オルドは自信たっぷりにうなずく。
「その通りです! これさえあれば、火魔法が使えるのです!」
信じられないくらい校庭が盛り上がった。
魔法がある世界なのに、魔法が使えない。
私もそうだけど、これほど悲しいこともないよね。
つまりあれは、叶わない夢を持っていた人たちに希望を与える魔道具。
「早くやってみせてくれ!」
「俺たちが実験台になってもいい! 頼む!」
あちこちから出る逸る声に、オルドは満足げにうなずく。
「実験台は私です。魔道具作りの天才などと呼ばれていますが……実は私も魔力が貧弱で、生まれてこの方魔法を使えたことがありません」
オルドは右手にガントレットを嵌める。
そして蒼穹を掴むが如く、腕を伸ばした。
「見ていてくださいっ。これが私の研究の全てだぁぁあああッ!!」
雄叫びのような声をあげ、火魔法が発動する。
——ポスッ
百円ライターかな?
ってくらい弱々しい火が一瞬生まれて、すぐに消えた。
煙だけはご立派で、オルドの暑苦しい顔を黒く汚す。
静まり返る会場。
「は……はははっ。冗談は終わりにして、本気でいきますぞ!」
オルドはもう一度挑戦した。
結果は同じだった。
「なんだこれはッ……! どういうことだぁ!?」
そのセリフは、集まった人たちが言いたいことだよね。
魔道具発表会の今日は、校庭に大勢の人が集まっている。
オルディ学院の生徒より、むしろ部外者の方が多い。
商人、魔道具研究者、貴族など。
半年に一度の大きいイベントなのだ。
「お嬢様、こちらの席へどうぞ」
黒髪の紳士的な男性が、私をVIP席に案内する。
「ありがとう、ジャイル」
彼は、我がノルディ公爵家に仕える優秀な三十歳だ。
まだ若いが商会の幹部で、今日も父の代理で来ている。
公爵家の商売の中には魔道具の販売があり、オルドとも契約しているのだ。
最前列の席に、私は腰掛けた。
目の前には、簡易的ではあるが立派な壇上がある。
「ねぇ、オルド先生との契約はどのくらいになるの?」
「教授とは、もう五年になります」
「結構長いのね。制作者としては優秀、か」
「ええ。ですが、実は契約終了も考えていたのです。段々と作る魔道具が低品質になりまして」
「才能の枯渇かしら」
「そう感じていました。ところが一年前から、見違えるように最高の品を出すようになりましてね」
グレイが助手になった時期だ。
ジャイルはその辺、気づいているのだろうか?
尻目で確認すると、不思議そうな顔をしていた。
「……お嬢様、そういったことに興味を持つようになったのですね」
「公爵令嬢としての自覚が芽生えてきたのよ」
「さすがです、お嬢様! 私は将来が楽しみで仕方ありません!」
彼のレーダーチャートを確認してみよう。
ジャイル・オードリー
【総合値】-288
【呆れ】-94
【軽蔑】-91
【諦観】-88
【失望】-85
【忠誠】+70
……私はジト目になった。
大嘘つきもいいところですね、あなた。
そんな私たちの元に、今日の主役がやってきた。
「ジャイル様ッ。もう到着されていたのですな!」
「これはオルド教授。ご無沙汰しております」
「いや~、期待してください! 今日は自信作ですぞ!」
オルドのテンションが果てしなく高い。
熊のようにずんぐりした体型で髭も濃い。
二重顎に脂ぎった肌。
中年男性がなにも頑張らずに生活するとこうなる……の見本みたいだ。
「今回は、より多くの人に売れやすい仕様です。契約の件、ちと頑張っていただきたい」
「ええ。見合うものであれば、高額でも出しますよ」
「過去最高額でお願いしたい。私も豪邸を建ててましてな。額次第では、他も考えております」
だいぶ強欲だし失礼だ。
ジャイルは顔色変えずに対応する。
「我々は適正な額をお出しします。いままでのように」
「がはは、結構! 公爵家も私も大儲けですなぁ!」
よくもまあ、ここまで下品になれるよね。
彼は、私にも注意を向けてくる。
「魔力の弱いソラリス嬢でも、使える魔道具ですぞ」
「素敵ですわ。私のサブパートナーも関与していると聞きました」
「あ~、ほんのわずかですが、手伝ってもらいました。設計やコードは、私がすべて行っておりますがね」
【Gap100%】の文字が痛々しい。
オルドは今回いかに頑張ったかを力説した後、舞台裏に消えていった。
彼が消えるなり、ジャイルは大きく嘆息する。
「やれやれ。腕はそれなりですが、性格に難ありですねぇ」
「それなり?」
最高級の魔道具を作る相手に使う言葉だろうか?
ジャイルは表情を変えずに訂正する。
「失礼しました。私も偉そうでしたね」
「助手のグレイについて、どう思うの?」
「……素晴らしい才能です。実はお父上もそれに気づいています。だからこそ、お嬢様のサブパートナーにしたのです」
なるほどねー。
ここはあまり突っ込まないでおこう。
その方が、こちらもやりやすい。
さて、発表会が始まる。
盛大な拍手で迎えられながら、オルドは壇上に一人でのぼった。
「皆さん、私が天才製作者のオルドです。冗談です、がははは!」
唾を飛ばしながら、豪快に笑う。
「さて、毎回驚きがある発表会ですが、本日は過去一番でしょうな! なにせ、私の最高傑作が完成しました!」
オォーッ! と地鳴りのような歓声が上がる。
正直、気持ちはわかる。
地球でも有名メーカーの新作発表会とか、盛り上がるもんね。
商品が魔道具ときたら、なおさら熱い。
「こちらをご覧ください」
昨日、研究室で見たガントレットだ。
オルドは右に左に動かして、観客にアピールする。
「皆さんの中には、魔法が使えない者も多いでしょう。ですが、これがあれば皆さんの夢が叶います!」
「オルド教授。それは、誰でも魔法が使えるということでしょうか?」
手を挙げて質問したのはジャイルだ。
オルドは自信たっぷりにうなずく。
「その通りです! これさえあれば、火魔法が使えるのです!」
信じられないくらい校庭が盛り上がった。
魔法がある世界なのに、魔法が使えない。
私もそうだけど、これほど悲しいこともないよね。
つまりあれは、叶わない夢を持っていた人たちに希望を与える魔道具。
「早くやってみせてくれ!」
「俺たちが実験台になってもいい! 頼む!」
あちこちから出る逸る声に、オルドは満足げにうなずく。
「実験台は私です。魔道具作りの天才などと呼ばれていますが……実は私も魔力が貧弱で、生まれてこの方魔法を使えたことがありません」
オルドは右手にガントレットを嵌める。
そして蒼穹を掴むが如く、腕を伸ばした。
「見ていてくださいっ。これが私の研究の全てだぁぁあああッ!!」
雄叫びのような声をあげ、火魔法が発動する。
——ポスッ
百円ライターかな?
ってくらい弱々しい火が一瞬生まれて、すぐに消えた。
煙だけはご立派で、オルドの暑苦しい顔を黒く汚す。
静まり返る会場。
「は……はははっ。冗談は終わりにして、本気でいきますぞ!」
オルドはもう一度挑戦した。
結果は同じだった。
「なんだこれはッ……! どういうことだぁ!?」
そのセリフは、集まった人たちが言いたいことだよね。
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