【第二部投稿中】今を生きる魔法使いへ

一三三

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第一部

32話 マーシアの異変

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「おりゃああ!!」

 一方ジニは、以前自分が敗北したあの因縁深い椅子に向かって、操作の魔法エンピュートをかけてるところだった。
 椅子は操作の魔法エンピュートがかかると、ピョコンとその場で軽く飛び跳ね、そしてジニのほうに体(?)を向ける。

「…………」

 ジニは喉を鳴らし、椅子を睨む。
 椅子もまた、ジッと動かずジニのほうを向く。


 ──ピョン!


 すると椅子は、ウサギのようにひとっ飛びしてジニの元へやってきた。そして自らの脚でジニの脛をスリスリ撫でる。
 これはどう見たって、攻撃性の欠片もない挙動と言えよう。


「あ゛ーーーーっ!! やったやった、やったぞーーーー!!」

 
 ジニは歓喜のあまり、座っていたほうの椅子から勢いよく立ち上がる。その時、彼は違和感に気付いた。


「あれ?」


 椅子に夢中になるあまり意識するのを忘れていたが、後ろにいるマーシアが随分と静かだ。
 振り返ってみると、何と彼女は眠ってしまっていた。

「何だ、寝ちゃったのか? ……よっぽど疲れてんだな」

 あれだけあちこち調達に行けば、疲れるに決まっている。そんな理解もあったため、ジニはマーシアが突然寝てしまったことにも特段驚きはせず、眠る彼女を見て微笑んだ。

「ん?」

 だが、微笑んだのも束の間。
 ジニの顔は、一瞬にして眉根を顰めることとなる。

「……ウォルジー?」

 マーシアの呼吸が何だか荒い。
 よく見ると、彼女の顔は赤みを帯び、ほてっているようだった。

「え? ウォ、ウォルジー? どうした?」

 慌てたジニが呼びかけるも、マーシアの応答はない。その代わりに、はあはあと辛そうな息遣いだけが微かに聞こえる。

「…………ごめんな、ちょっと失礼」

 嫌な予感がし、ジニは自分の額とマーシアの額に、それぞれ手を当てた。
 彼女の額は、異様な高温を放っている。まるで、こっちの手が火傷してしまいそうなほどに。


「……~~ッ!! おい、バカ!! お前、熱あんじゃねぇかよ!!」


 ジニは思わず叫んだ。


「おぉい! ウォルジー、大丈夫か?! ……って、どう見ても大丈夫じゃねぇか……。ええぇ、と……ちょ、ちょっと待ってな……。えっと……こういう時は、えっと……」

 突然のマーシアの異変にジニは激しく狼狽し、心で「落ち着け」と何度も唱えながら、彼女の前で右往左往を繰り返す。

(ヤバい……どうすりゃいいんだ……)

 動転する頭では落ち着くものも落ち着かず、どのような応急処置をすべきなのかも判断出来ない。

「あ……そ、そうだ! 前にウォルジーが俺を介抱してくれた時! あの時って、俺にどんなことしてくれてたんだっけ……」

 過日のゴーレム騒動を、ジニはふと思い出す。あわよくば、あの日のマーシアの行動が、現在の彼女を助けられる手がかりとなるかもしれない。

 
(あの時は、確か……。ウォルジーが俺の服を脱がして、膝枕してくれた!)


 なるほど。
 ということはつまり、自分も彼女に同じことをすればいいのだ。

 何だ、簡単だ。
 ジニは安堵し、大きな息を吐いた。
 

「……いいわけねぇだろ!!!!」


 冷静な自分が、心の内の単細胞をドゴンとぶっ飛ばす。
 
(バカたれ!! い、いくら何でも出来るか!! 確かに呼吸も苦しそうだし、服の上んとこのボタン緩めたほうが楽にはなりそうだけど……。だ、だからって……)

 顔中を真っ赤に染め、ジニはチラリとマーシアの首元に目をやる。
 こんなに暑い日でもキッチリと台襟まで留められた、白いシャツブラウスのボタン。
 せめてそこだけでも外せれば、幾分か呼吸がしやすくなりそうなのだが。

(…………だからって、無理に決まってんだろうが!! 禁断の領域すぎるわ!!)

 自分が身包み剥がされるのとは訳が違うのだ。
 こればっかりは、ジニの理性もさすがに働く。

「ぁ……はぁっ……はぁ……」
「……っ!」

 そんな中、マーシアの息遣いがまた聞こえてくる。身体を震わす彼女を見たジニの心は、どしりと重みを増した。

(さっきよりも辛そうだな……)

 マネキンも、心なしか心配そうに自身の両手を握り、祈るようにマーシアを見つめている。


「ん、マネキン……? あ、そうだ……そっか……!」


 マネキンを見たジニは、ピンと閃いた。


「頼んだぞ!」


 ジニは、マネキンにマーシアの服の台襟ボタンを外すよう指示を出した。
 見るつもりは毛頭ないと百回ほど心で呟いているが、それでも念には念の念を入れ、後ろを向いてマーシアを視界から外す。

 やがてマネキンがジニの元へ戻ってきたので、ゆっくりと後ろを振り返った。
 マーシアが楽になってくれたかは目視では分からないが、一応一番上のボタンが外されたおかげで、首元は僅かに緩まった。
 僅かだから、首だけちょっと見えるようになったぐらい。もし胸元まで開いてしまっていたら自分は理性を保てる自信がないとジニは謎に心配していたが、杞憂で終わった。

「よしっ! サンキューな!」

 何はともあれ、一つ応急処置が完了したことで、ジニの頭はようやく少し平常を取り戻した。

「ウォルジー、寒いか?」
「う……うぅん……」

 依然マーシアは返事が出来る状態ではないが、その身体の震えから、彼女が寒気を感じているのは明らかだった。

「上着とかは、さすがに持ってねぇよな……」

 マーシアがカーディガンの一つでも持ち歩いていることを期待したが、彼女の荷物を見る限りそんなことはなさそうだ。
 夏真っ盛りの季節に、弱冷房の執務室ときたら、わざわざ上着を羽織る必要もないのだろう。

「仕方ないか……。ウォルジー、ちょっと待ってろよ。確か、ロッカーに予備の作業服が……」

 そう言うと、ジニは自分の荷物ロッカーにすっ飛んだ。

「あー! あった! よかったああ!!」

 ジニは跳ねて喜ぶ。
 何かの時にと思ってずっとロッカーに入れっぱなしだった長袖の作業服が、今ここで役に立った。
 素早く作業服を手に取り、マーシアの元に急ぐ。

「はいよ。何にもないよりはマシだと思うから、少しだけこれ羽織っててな」

 良くも悪くも薄い生地の作業服だが、それでもマーシアの身体を覆うのには充分だった。
 彼女の肩にそっと作業服をかけ、せめてもの寒さ凌ぎに活用してもらう。

「とりあえず、何とかここまでやってみたけど……。この後どうしよ、誰か本館とかに残ってねぇかな……」
 
 助けを借りられるならぜひとも借りたいところ。
 ジニは一旦工房を離れ、本館の執務室と魔法服開発部の工房を覗いてみた。
 だが、こういう時に限って誰も残業をしていない。

「もおおう!! 誰か一人くらい残ってろよ!!」

 ジニが憤慨し、地鳴りがしそうな地団駄を響かせた、その時。

「おや、君? 一体どうしたんだい?」
「!?」

 突如一人の男性が現れ、目を丸くしてジニを見つめている。
 ジニも驚愕してたじろぐが、男性を流し見し、その正体を悟ると、途端に声を張り叫んだ。

「……警備員さん!!!!」

 そう、夜間警備の警備員が本館の見回りのため、建物内を移動していたのである。

「いかにも警備の者だ。それより、皆とっくに帰宅をしているんだが、どうして君は一人で居残りを?」
「そっ、そんなことどうだっていいんです! それより! こっち、こっち来て!! 助けてくださああい!!」
「はあ?」
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