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第一部
33話 絶対に助ける
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ジニは無理矢理警備員を引っ張り、一緒に工房へ来てもらった。
「何と……これはひどい熱のようだな」
マーシアの容態を見て、警備員はそう言葉を漏らした。
「何か、薬とか毛布って警備室に置いてないですか?」
「薬は置いていないが、ブランケットならあるよ。少し大きめだけれど」
「全っ然いいです! むしろ寒がってるし、絶対大きいほうがいい!」
「そうかい? じゃあ、今取ってくるから待っていてくれよ」
ジニに告げると警備員は警備室に向かい、数分後にブランケットを抱えて戻ってきた。
確かにブランケットは広げてみると中々大きく、マーシアの全身をすっぽり覆えそうだ。
「ありがとうございます! よかったなウォルジー、これでもう寒くないぞ!」
ジニはマーシアに声がけをし、彼女の身体にブランケットを巻いた。
ブランケットでぐるぐる巻きになり、ようやくの温かさを手に入れたマーシアを見て、ジニはひとまず安堵の息を吐いた。
「ところで、君。この後は、お嬢さん共々どうするつもりなんだい?」
ふと警備員が、先程ジニが自分で抱いた疑問と同じことを彼に投げかける。
「どうって、ひとまずウォルジーのことはあったかくしてやれたし、後はすぐそこの雑貨店で水でも買ってきてあげようかなって」
「ああいや、それも大事だとは思うが……。あれ、もしかして君、今が何時か分かっていない?」
「へっ?」
見るからに今が何時か分かっていなさそうなジニを見て、警備員は少々バツの悪そうな顔で言葉を続けた。
「あの……直に十九時を回るだろう? だから工房を含め、そろそろ全ての建物を施錠しなくてはならないんだよ」
「…………え…………????」
それを聞いたジニの顔は、一瞬にして青ざめる。
『十九時には警備員が工房の施錠をしちまうから、それまでには切り上げるんだぞ』
「あ゛……っ!?」
ジニはアレイシオの言っていたことを、今思い出した。このゴタゴタの中で、すっかり忘れてしまっていたのだ。
「ほら」
警備員は服の胸ポケットを探って懐中時計を出し、ジニに見せる。
現在、十九時ちょっと前。
いつの間にか、時間は飛ぶように進んでいた。
「…………ッ!! なんっ……!? え、じゃ、じゃあ……俺ら、すぐにこっから出ないといけないんですか?!」
「ああ、非常に心苦しいんだが……」
「そ、そんな…………!!」
そりゃあ工房で一晩を明かせはしないので出ないわけにもいかないのだが、とはいえまさか今すぐに追い出されるなんて考えてもいなかったため、後のプランなぞ余計に何も考えていない。
「じゃ、じゃあ俺ら……どうすりゃいいんだよ……!!」
絶望し、ジニは膝から崩れ落ちた。
「……あのさ、君」
床と一体化したジニを哀れみの目で見ていた警備員が、おずおずと口を開く。
「君、お嬢さんの家は知ってるかい?」
「家ェッ?! ウォルジーの家なんて、行けるもんなら行ってみたいに決まってるでしょう!!」
「そ、そういうことを聞いているんではなくて……」
荒れ狂うジニに困惑し、警備員は頭を掻いて言葉を続けた。
「もし、君がこちらのお嬢さんの住所を知っているんであれば、自宅まで連れて行ってあげてくれないかと思った次第なんだよ。ほら、お嬢さん見るからに一人で帰るのは無理そうだろう?」
「あ……」
警備員の言葉に、ジニはハッと我に返る。
「そっか……。ウォルジー、このままじゃ家に帰れねぇんだ……」
「ああ、そうなんだ。それで、住所はご存知でないかい?」
「すいません……家は分かんないです」
「そうか、では仕方ないな。どのみち君達を追い出すのも気が引けるし、もう少し鍵は開けておこう。私は近隣にお嬢さんが泊まれる宿でもないか調べてくるから、君はここで彼女の様子を見ていてあげてくれ」
「あ、ありがとうございます」
そう言うと、警備員は再び警備室に向かうべく歩き出した。
残されたジニは眠るマーシアを見つめ、俯く。
(ウォルジーん家か……。ベルナ・ストリートに住んでるってのは前に聞いたけど、具体的にその"どこ"に住んでるのかは、分かんねぇもんな……)
彼女の役に立ちたいが、そうするには自分の知っている情報が少なすぎる。
とても役には立てなさそうだとジニが嘆きの溜め息を吐き、大人しく警備員が戻ってくるのを待とうとした、その時。
「……っ、ごほっ! ごほ、ごほっ……!」
「!」
突然マーシアが激しく咳き込み、ジニは目を見張った。
「ウォルジー、大丈夫か? しっかりしろよ……」
トントンと軽くマーシアの背中を叩くと、やがて咳はおさまり、彼女はより深く眠りについた。
「……どんどん酷くなってるな……。これ、宿探しなんて待ってたら、もっと状態悪化するんじゃねぇか……?」
ずっと固い椅子に座らせたままでは、治るものも治らないだろう。
なら、一刻も早くマーシアを家に帰らせ、温かいベッドに寝かせてあげるべきか。
「……ベルナ・ストリートに着けば、誰かしら人がいるに決まってるもんな。そんで、住んでる人にウォルジーのことを聞いてみて、家を教えてもらえば、無事にウォルジーを家まで送れるはず……」
以前マーシアから、工房最寄りの停留所からベルナ・ストリートまでの移動時間は、路面電車を使って二十分ほどなのだと聞いていた。距離もそこまで長くはない。
「……行くしかないか」
ジニは決意を固めた。
今のマーシアにとっての最善を選ぶ。
彼女を、家まで送り届けるのだ。
「……こんなに、俺のために尽くしてくれたんだ。だから俺だって、絶対にウォルジーのこと助けてやるからな!」
ジニは指輪をさすり、その決意を露わにする。
マーシアに恋をしているから、良いところを見せたいから。今はそんなこと関係ない。
愛に溢れた優しい彼女を、助けてあげたい。
ただ、それだけの想いでいっぱいだった。
「よおぉしッ! 行くぞ、ウォルジー! お前ん家に向かって!!」
ジニは気合いを入れ、マーシアをおぶった。
****
「本当に、大丈夫かい?」
「はい! このブランケットだけ借りてきます!」
事情を話し心配そうに自分を見つめる警備員をよそに、ジニはやる気満々な笑顔を見せる。
「ありがとう。では、お嬢さんをよろしく頼むよ」
「了解です!」
ジニは歯を見せ笑い、マーシアと共に薄暗くなった道を行く。目指すは、停留所だ。
「はぁ……にしても、あっついな……」
日が落ちてもしつこく残る熱気に、ジニの額は汗を掻く。だが正直、熱さの原因は気温だけではない。
「……はあっ、はあ……」
ジニの首筋にかかるマーシアの熱を帯びた息と、ブランケットに包まれたその全身。
よく考えると、自分は今布越しとはいえ、彼女と身体が密着している状態なのだ。
「…………」
余計なことに気付いたが最後、ジニの脳はたちまち冷静さを失った。
(……~~ッ!! だああああっ!! バカバカバカバカッ!! ウォルジーが辛い時にくだらないこと考えてんじゃねぇよ!! バカがよぉっ!! 働け、理性!! さっきは働いただろ理性!! おいっ、理性!! りせーーーーいッ!!!!)
いくら恋愛感情関係なしにマーシアを助けるといっても、この状況は普通にヤバい。
ジニは塀に頭をガシガシぶつけ、己の理性を呼び起こす。その光景は、通行人がいたら通報レベルだったであろう。
「……っはあ、はあ……!」
何とか煩悩を抹殺し、ジニは再度停留所を目指す。
****
やっとのことで、二人は停留所に辿り着いた。
幸い電車はすぐにやってきたので、急いで乗り込む。
車内にある向かい掛けの椅子は、まばらに空いていた。端のほうに二人分のスペースを見つけたジニは座席の一番端っこにマーシアを座らせ、隣に自分も腰かけた。
(とりあえず、ベルナ・ストリートに着くのを待つしかねぇか)
「何と……これはひどい熱のようだな」
マーシアの容態を見て、警備員はそう言葉を漏らした。
「何か、薬とか毛布って警備室に置いてないですか?」
「薬は置いていないが、ブランケットならあるよ。少し大きめだけれど」
「全っ然いいです! むしろ寒がってるし、絶対大きいほうがいい!」
「そうかい? じゃあ、今取ってくるから待っていてくれよ」
ジニに告げると警備員は警備室に向かい、数分後にブランケットを抱えて戻ってきた。
確かにブランケットは広げてみると中々大きく、マーシアの全身をすっぽり覆えそうだ。
「ありがとうございます! よかったなウォルジー、これでもう寒くないぞ!」
ジニはマーシアに声がけをし、彼女の身体にブランケットを巻いた。
ブランケットでぐるぐる巻きになり、ようやくの温かさを手に入れたマーシアを見て、ジニはひとまず安堵の息を吐いた。
「ところで、君。この後は、お嬢さん共々どうするつもりなんだい?」
ふと警備員が、先程ジニが自分で抱いた疑問と同じことを彼に投げかける。
「どうって、ひとまずウォルジーのことはあったかくしてやれたし、後はすぐそこの雑貨店で水でも買ってきてあげようかなって」
「ああいや、それも大事だとは思うが……。あれ、もしかして君、今が何時か分かっていない?」
「へっ?」
見るからに今が何時か分かっていなさそうなジニを見て、警備員は少々バツの悪そうな顔で言葉を続けた。
「あの……直に十九時を回るだろう? だから工房を含め、そろそろ全ての建物を施錠しなくてはならないんだよ」
「…………え…………????」
それを聞いたジニの顔は、一瞬にして青ざめる。
『十九時には警備員が工房の施錠をしちまうから、それまでには切り上げるんだぞ』
「あ゛……っ!?」
ジニはアレイシオの言っていたことを、今思い出した。このゴタゴタの中で、すっかり忘れてしまっていたのだ。
「ほら」
警備員は服の胸ポケットを探って懐中時計を出し、ジニに見せる。
現在、十九時ちょっと前。
いつの間にか、時間は飛ぶように進んでいた。
「…………ッ!! なんっ……!? え、じゃ、じゃあ……俺ら、すぐにこっから出ないといけないんですか?!」
「ああ、非常に心苦しいんだが……」
「そ、そんな…………!!」
そりゃあ工房で一晩を明かせはしないので出ないわけにもいかないのだが、とはいえまさか今すぐに追い出されるなんて考えてもいなかったため、後のプランなぞ余計に何も考えていない。
「じゃ、じゃあ俺ら……どうすりゃいいんだよ……!!」
絶望し、ジニは膝から崩れ落ちた。
「……あのさ、君」
床と一体化したジニを哀れみの目で見ていた警備員が、おずおずと口を開く。
「君、お嬢さんの家は知ってるかい?」
「家ェッ?! ウォルジーの家なんて、行けるもんなら行ってみたいに決まってるでしょう!!」
「そ、そういうことを聞いているんではなくて……」
荒れ狂うジニに困惑し、警備員は頭を掻いて言葉を続けた。
「もし、君がこちらのお嬢さんの住所を知っているんであれば、自宅まで連れて行ってあげてくれないかと思った次第なんだよ。ほら、お嬢さん見るからに一人で帰るのは無理そうだろう?」
「あ……」
警備員の言葉に、ジニはハッと我に返る。
「そっか……。ウォルジー、このままじゃ家に帰れねぇんだ……」
「ああ、そうなんだ。それで、住所はご存知でないかい?」
「すいません……家は分かんないです」
「そうか、では仕方ないな。どのみち君達を追い出すのも気が引けるし、もう少し鍵は開けておこう。私は近隣にお嬢さんが泊まれる宿でもないか調べてくるから、君はここで彼女の様子を見ていてあげてくれ」
「あ、ありがとうございます」
そう言うと、警備員は再び警備室に向かうべく歩き出した。
残されたジニは眠るマーシアを見つめ、俯く。
(ウォルジーん家か……。ベルナ・ストリートに住んでるってのは前に聞いたけど、具体的にその"どこ"に住んでるのかは、分かんねぇもんな……)
彼女の役に立ちたいが、そうするには自分の知っている情報が少なすぎる。
とても役には立てなさそうだとジニが嘆きの溜め息を吐き、大人しく警備員が戻ってくるのを待とうとした、その時。
「……っ、ごほっ! ごほ、ごほっ……!」
「!」
突然マーシアが激しく咳き込み、ジニは目を見張った。
「ウォルジー、大丈夫か? しっかりしろよ……」
トントンと軽くマーシアの背中を叩くと、やがて咳はおさまり、彼女はより深く眠りについた。
「……どんどん酷くなってるな……。これ、宿探しなんて待ってたら、もっと状態悪化するんじゃねぇか……?」
ずっと固い椅子に座らせたままでは、治るものも治らないだろう。
なら、一刻も早くマーシアを家に帰らせ、温かいベッドに寝かせてあげるべきか。
「……ベルナ・ストリートに着けば、誰かしら人がいるに決まってるもんな。そんで、住んでる人にウォルジーのことを聞いてみて、家を教えてもらえば、無事にウォルジーを家まで送れるはず……」
以前マーシアから、工房最寄りの停留所からベルナ・ストリートまでの移動時間は、路面電車を使って二十分ほどなのだと聞いていた。距離もそこまで長くはない。
「……行くしかないか」
ジニは決意を固めた。
今のマーシアにとっての最善を選ぶ。
彼女を、家まで送り届けるのだ。
「……こんなに、俺のために尽くしてくれたんだ。だから俺だって、絶対にウォルジーのこと助けてやるからな!」
ジニは指輪をさすり、その決意を露わにする。
マーシアに恋をしているから、良いところを見せたいから。今はそんなこと関係ない。
愛に溢れた優しい彼女を、助けてあげたい。
ただ、それだけの想いでいっぱいだった。
「よおぉしッ! 行くぞ、ウォルジー! お前ん家に向かって!!」
ジニは気合いを入れ、マーシアをおぶった。
****
「本当に、大丈夫かい?」
「はい! このブランケットだけ借りてきます!」
事情を話し心配そうに自分を見つめる警備員をよそに、ジニはやる気満々な笑顔を見せる。
「ありがとう。では、お嬢さんをよろしく頼むよ」
「了解です!」
ジニは歯を見せ笑い、マーシアと共に薄暗くなった道を行く。目指すは、停留所だ。
「はぁ……にしても、あっついな……」
日が落ちてもしつこく残る熱気に、ジニの額は汗を掻く。だが正直、熱さの原因は気温だけではない。
「……はあっ、はあ……」
ジニの首筋にかかるマーシアの熱を帯びた息と、ブランケットに包まれたその全身。
よく考えると、自分は今布越しとはいえ、彼女と身体が密着している状態なのだ。
「…………」
余計なことに気付いたが最後、ジニの脳はたちまち冷静さを失った。
(……~~ッ!! だああああっ!! バカバカバカバカッ!! ウォルジーが辛い時にくだらないこと考えてんじゃねぇよ!! バカがよぉっ!! 働け、理性!! さっきは働いただろ理性!! おいっ、理性!! りせーーーーいッ!!!!)
いくら恋愛感情関係なしにマーシアを助けるといっても、この状況は普通にヤバい。
ジニは塀に頭をガシガシぶつけ、己の理性を呼び起こす。その光景は、通行人がいたら通報レベルだったであろう。
「……っはあ、はあ……!」
何とか煩悩を抹殺し、ジニは再度停留所を目指す。
****
やっとのことで、二人は停留所に辿り着いた。
幸い電車はすぐにやってきたので、急いで乗り込む。
車内にある向かい掛けの椅子は、まばらに空いていた。端のほうに二人分のスペースを見つけたジニは座席の一番端っこにマーシアを座らせ、隣に自分も腰かけた。
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