【第二部投稿中】今を生きる魔法使いへ

一三三

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第二部

6話(45話) おめかしをして

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 行き先が決まってからの数日が飛ぶように過ぎたのだ。
 たった二日なんて、瞬きをすればすぐにやってくる。

 
 そんなわけで、お出かけ当日。


「よおおっし!!」

 
 ジニは鏡を見てバーガンディ色のネクタイを整えると、頬を叩き一発気合いを入れる。
 
 ネクタイと同じ色合いのストライプ模様が入ったベージュの半袖シャツに、焦茶色のズボンを合わせたサスペンダーコーディネート。
 それに、カッコいい大人の男には外せない、茶色の中折れ帽。
 流行りを取り入れた、間違いない組み合わせ。今日のために奮発して購入したのだ。

「そろそろ出るか。よーし、ウォルジー!! 待ってろよ~!!」

 行き先が気乗りのしない魔法図書館とはいえ、それとマーシアと一日一緒にいられる喜びはまた別である。
 ジニは高らかに声を上げると、自宅を出て目的地へ向かった。


 同刻、マーシア宅にて──


「……うーん、変ではないかしら?」


 ドレッサーの鏡の前で、マーシアは化粧を施した己の顔を繁々と見つめる。

 普段あまり化粧をしないマーシアだが、今日は顔に粉をはたき、瞼にはほんのり色付く程度の、控えめなピンク色のアイシャドウを入れた。

「あとは、を塗れば完成なのだけれど……」

 マーシアの視線は、手に持つ艶やかな深紅色をした口紅ルージュに注がれる。

 先日、今日のための服を探しに街へ繰り出し、その際に立ち寄った化粧品店で購入したものだ。

 愛想の良い店員の「品の良い色合いで、年齢を問わず人気があります」という売り文句に心を掴まれ買ったものの、冷静になって眺めてみると、十代の少女が使うにはあまりにも背伸びをしすぎな色味に見える。

(ど、どうしましょう……。これを塗ってエラ様にお会いしたら、引かれてしまうかしら……?)

 この口紅は、言ってしまえば蠱惑的な女性にしか似合わなそうだ。
 そんなものを自分の唇に塗ったところで、ただ鮮やかに映る深紅だけが悪目立ちし、異質さを際立たせるだけかもしれない。

「…………きょ、今日は、やめておきましょう!!」

 散々考え抜いた末、マーシアは口紅を化粧台の引き出しに勢いよくしまった。
 その代わり、リップクリームを塗って唇にツヤだけ出しておいた。
 大人の色気を出すのは、彼女にはまだ早かったようである。


「──ふうっ。これで、よしっ……」


 マーシアは姿見の前でくるくると回り、コーディネートを確認する。

 白襟が付いた緑色のギンガムチェックのパフスリーブワンピースに、黒い帯が巻かれ同色の花飾りが施された、白色のクロシェハット。
 靴は悩んだが、最終的に五センチほどのヒールが付いた、黒色のレザーシューズにすることに決めた。

 そして母からもらった香水をプシュッとひと吹きし、全身にまとわせる。
 ふんわりと、鈴蘭の爽やかな香りが辺りに広がった。

「後は、持ち物を……」

 一通りハンドバッグの中身をチェックし、忘れ物がないか確認する。
 
「……!? 大変、を忘れていたわ!」

 マーシアは大慌てで机の引き出しを開け、大事なものとやらを取り出した。
 それは、直径十五センチほどの薄くて小さい木箱だった。

「エラ様にお見せしたかったのに、これを忘れてしまっては意味がないわ……」

 ほっと安堵し、ハンドバッグにしまう。
 今度こそ、準備万端だ。 

「では、そろそろ向かわないと」

 時計を見ながら、急ぎ玄関へ向かう。
 扉の鍵を閉めると、マーシアは鼓動を響かせ、駅へ向かって歩み始めた。


 清々しい青空の下では、今日も太陽が燦々と輝く。



 ****



「ちょっと早く着いたな」

 駅前の時計台を見てジニはそう呟き、辺りを見渡す。

 とうとうやって来た、大都会。
 幼い頃に一度家族で訪れたことがあるらしいが、その記憶はジニの頭に全く残っていない。
  
 街を行き交う自動車、高架を駆け抜ける鉄道、ウィノア市の比ではない数の路面電車。

 ただでさえ交通手段の数だけでも圧倒されるというのに、アール・デコ調の洒落た摩天楼の下を颯爽と歩く人々は、誰も彼もが生き生きと胸を張り、これでもかと大人の余裕を見せつけてくれる。

「……すげぇなぁ」

 時代の最先端を行く華の街。
 こんな機会がなければ、到底訪れることはなかっただろう。
 
(まあ、今日のメインは魔法図書館なんだけど……)

 とほほ、と言わんばかりにジニは情けなく溜め息を吐く。

 見所しかなさそうな街なのに。
 あわよくば、もっと楽しそうなところへ行きたかったという思いは、中々拭えそうにない。


「エラ様、おはようございます!」


 ジニが二度目の溜め息を吐いた時、マーシアの声が聞こえた。

「おっ、ウォルジー! おは……っ──?!?!」

 眼前で手を振るマーシアの姿を見て、ジニは心臓にガトリング砲で撃たれたかのような衝撃を覚えた。


(夏の、妖精……ッ!!!!)


 夏の青々とした木々を連想させる緑色のワンピース。入道雲のような白い帽子。夜中の一抹の涼しさを感じさせる黒色の靴。
 ああ、そうか。これが、妖精女王ティターニアか。
 

「最高です!!!!」
「何がですか?!」


 出会い頭に突然叫ばれ、マーシアは大困惑する。

「いや……な、何でもない……。あっ、今日化粧もしてんだ!」
「え゛っ!? ……は、はい、そうです……」

 ジニに顔をじっと見つめられ、マーシアはどきりと胸を鳴らす。
 薄化粧なのでジニには分からないだろうと踏んでいたが、いとも容易く見抜かれたことに焦ったのだ。

「やっぱそうか、いいな! こないだ髪も変えてたし、ウォルジー、何やっても似合うんだな」
「ぁ、は……っ! あ、ありがとうございます……」

 流れるように賛辞の言葉を言うジニに、マーシアはしどろもどろに返事を返す。

(も、もう……。エラ様の言葉は、心臓に良くないわ……っ!)

 だが一方で、彼に褒められることを心のどこかで望んでいた自分もいる。
 そのことに、マーシアは余計に顔を赤らめた。

(それにしても、エラ様……。素敵な服を着てらっしゃる……)

 ジニは普段の仕事帰りでも作業着を着たままなことが多いので、その私服姿は新鮮だった。
 見慣れない格好をしているせいなのか、何だか今日の彼は一段と眩しく見える。

「……エ、エラ様。その服、とてもお似合いです。す、すごく良く……似合っています」

 同じことを二回言ってしまったことにも気付かぬほど、マーシアは一生懸命にジニへ賛辞を伝えた。彼の目は恥ずかしくて、とても見れなかった。

「……まじ? ……本気? ……マジイイィ!?!?」

 ジニはダブった言葉に気付いていない。
 浮かれ脳が幸いしたようだ。


「──ふうううぅ……」


 一通り暴れ狂ったところで、ジニはようやく鎮まった。
 
「そ……そろそろ、行くか……」
「そ、そうですね……」

 褒め合いが完了し、二人はぎこちなく笑みを浮かべ、魔法図書館に向かうべく足を踏み出す。
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