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第二部
7話(46話) 〜ウォルジー家具 History〜
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二人は他愛もない会話に花を咲かせ、のんびりと図書館に向かう。
「ウォルジーは、ブルスバリー来たの初めて?」
「いえ、舞台などを観覧しに何度か訪れたことがあります。先日も、タンゴイへ行く際に港を利用したのですよ」
「へぇ~、そうだったんだ」
さすがはお嬢様、やはり都会には慣れっこらしい。
「あっ」
その時、マーシアがふいに進行方向を指差した。
「エラ様、あちらの建物が見えますか?」
「うん?」
彼女が指を差すほうには、周りの建物より背は低いが、荘厳で確かな存在感のあるホテルが、どっしりとそびえ立っていた。
「実は、あちらにあるウィストン・ホテルで、父の店の家具が使用されているんです」
「へー、ウォルジー家具店のか! すげぇな、あんな超でっけぇホテルでなぁ」
「はい、もう四十年ほど前になるのでしょうか。私の祖父が店を経営していたころから、長年ご愛顧にしてくださっているようで」
マーシアはジニにそう説明すると、ホテルを仰ぎ見る。
「ウォルジー家具を世に広めてくださったのも、あちらのホテルなのだと父から聞いています。何でも、ある大騒動がきっかけとなったらしく……」
「大騒動? 何それ? どんなん、どんなん?」
「はい、それは──」
────
マーシアが言うには約四十年前。
当時、ウォルジー家具店はティムズワース市で細々と経営を行う、しがない街の家具屋だった。
そんな折、同時期に開業予定だったウィストン・ホテルにて、ウォルジー家具店の家具が採用された。
現在の謳い文句でお馴染み、『ウォルジー家具は倒れない』な魔法家具特有の効果は関係なしに、緻密で厳かなデザインによって惚れ込まれた、何とも幸運な調度品の数々。
開業後、それらは無事にホテルの各室に設置され、宿泊客に極上の一時を与える役目を存分に発揮していた。
そんな矢先のことだった。
『たっ、大変だーー!!』
なんと、ブルスバリーに巡業に来ていたサーカス団の象が脱走した。
しかもよりによって、ホテル近くの広場に張られたサーカステントから。
『まっ、待ちなさい!! パオ太夫!! 待ちなさあぁあい!!』
団長の呼びかけは、未知なる土地に興奮するパオ太夫になど届きはしなかった。
パオ太夫は群衆の叫びなど物ともせず、ドコドコと地響きを上げて大通りを突き進む。
これでは人々や建物に多大な被害が出てしまう。
そう考えたサーカス団員らは、団員の魔法使いに、彼を何とかするよう魔法をかけてくれとの指示を出した。
『まっかせなさいでヤンスよーー!!』
魔法使いは対象を小さくすることが出来る魔法【縮小の魔法】を、パオ太夫に向かって放った。
はずだった。
ズオオオォン──!!
普通にかける魔法を間違え、魔法使いはパオ太夫に【拡大の魔法】をかけた。
『パオ太夫ーーーーッ!!!!』
通常時よりも五倍ほどの大きさにパワーアップしてご機嫌なパオ太夫はますます勢力を増し、猪突猛進で大通りをひたすらに突き進む。
最近ようやく舗装されたばかりの道路は、パオ太夫の足跡でバキバキに。街路樹も薙ぎ倒され、群衆も馬車馬も逃げ惑う。
パオ太夫はやがて、ウィストン・ホテルの前の通りも通過した。
当時ホテルに宿泊していた客の証言によると、部屋で寛ぎワインを嗜んでいたところ、突然の地響きが客を襲い、卸し立ての服にびっちょりワインが溢れてしまったということだ。
だが、そんなことよりも地響きにより部屋中が崩れそうなほどに軋み、電話棚上の花瓶やテーブル上に置いたワインのビンがどったんばったん倒れ始めたことのほうが深刻だったそう。
自らの身体も跳ね上がり、天井のシャンデリアも音を立て激しく揺れる。
これで家具まで倒れてしまったら、怪我では済まないかもしれない。客は頭を抱えて床に屈み、身体を震わせギュッと目を瞑った。
『…………?』
ところが、いつまで経っても何かが倒れてくる気配が起きない。客は恐る恐る目を開けた。
『こ、これは!?』
客は驚き、目を見開いた。
なんと、棚やらテーブルは細い猫脚に作られた心許なそうな支えにも関わらず、床に張り付いたように不動のまま堂々と佇んでいた。
一ミリも動いている様子などなかった。
おかげで全客室の被害は最小限に留まり、
怪我をした者も、擦り傷などの軽傷で済んだのだ。
『凄いぞ! これだけの震動を受けながら、ウォルジー家具店の家具はビクともしない!』
まさかデザイン性で選んだ家具に、そんな効果があったとは。
後に客から話を聞いた支配人は手を叩いて家具を称賛し、大っぴらにウォルジー家具の宣伝活動を行ってくれた。
『ウォルジー家具は倒れない!』
謳い文句は、この時に支配人により考案された。
ラジオのない当時は、専ら街中に貼られる広告ポスターで使われたそうだ。
──こうして、ウォルジー家具店の評判は次第に州を跨いでロドエ全土に広がり、その名を一役有名にしたのであった。
余談だが、パオ太夫はその後何とか元の大きさに戻って無事サーカス団の檻へ帰り、団員の魔法使いは減給処分を受けたらしい。
────
「──と、いうことがあったのです」
「珍事件すぎるだろ」
話を聞き終えたジニは、困惑の目でマーシアを見遣った。
「けれど……そんな出来事があったからこそ、こうして今もロドエの方々にウォルジー家具が愛されているのかと思うと、何だか感慨深いです」
「ははっ、象様々だな!」
ジニの大笑いに、マーシアも釣られてくすくすと笑う。
「……あっ! エラ様、あちらに魔法図書館の案内板が」
「あ、ホントだ」
話に夢中になっている間に距離も進んでいたようで、二人は案内板に目を向ける。
「えーと、何々? 『この先50メートル。突き当たりを右折し、直進』?」
「あらっ。では、もうすぐのようですね」
「ああ……。でも、さぁ……」
ジニは案内板に書かれた矢印が差す方向を、訝しげに見つめる。
彼の頭の中では図書館というものは大体大きな建物である、との認識があるのだが、矢印の示す方向はビル群の合間。路地裏中の路地裏なのだ。
こんな狭いところに図書館があるというのか。
ジニの表情はどんどん険しくなる。
「この看板、ホントに合ってんのか? 誰かがいたずらで立てたんじゃねぇだろうな」
「ですが、他に案内も見当たらないですし……。少しだけ行って、覗いてみるのはどうでしょうか?」
マーシアは好奇心が疼いているのか、割と乗り気で矢印の示す先を眺めている。
そうなると、ジニも弱い。
お嬢様の好奇心は、なるだけ大事にしてあげたい。
「んじゃあ、行くだけ行ってみるか」
「ふふっ、はい!」
マーシアは嬉しそうに返事をする。
内心やれやれと思いつつも、やはりその愛しい笑顔には勝てない。ジニは口角を上げると、マーシアと共に矢印のほうに進んでいく。
少し進んだ先には建物を囲ったフェンスがあり、一応突き当たりの役割を果たしていた。
そこから右折しさらに進んでいくが、やはりどう見たとて、この一帯のどこかに図書館があるとは信じ難い。
そして、案内の示した場所へ辿り着いた途端、ジニは叫んだ。
「ねぇじゃん!!!!」
到着した先は、もはや行き止まりであった。
しかも路地裏で薄暗い分、昼間なのに怪しい雰囲気が漂っている。
「だーー!! やっぱり嘘じゃねぇか、あの看板!! 戻るぞ、ウォルジー!! 戻ってちゃんとした道探そう!!」
立腹のジニが踵を返そうとすると、マーシアは行き止まりの下方をじっと見つめ、指を差して呟く。
「いえ、エラ様。もしかしたら……」
彼女が指を差しているのは、錆び付いたマンホールだ。
「ここが、魔法図書館への入り口なのではないでしょうか?」
「はあっ?! こんなとこが!? 図書館なのに!? "こーきょーきかん"なのに!?」
そんなはずないだろう、とジニは声を張り上げる。
「魔力を持たない一般の方には入れないよう、カモフラージュされているのかもしれません。先程の案内板も、魔力のある者しか見つけられないよう、細工のされている可能性が……」
「えぇ~、んなアホな……」
とは言ってみたが、マーシアは興味深げにマンホールを見つめている。
「……マンホールん中見たら、満足するか?」
「!! はいっ!!」
「……そう」
このままでは、入り口があるか否か、マーシア自身の目で見届けるまでここを離れなさそうである。
ジニは一つ溜め息を吐くと、マンホールに向かって操作の魔法を放った。
マンホールはコロコロと転がり、ビルの壁にもたれかかる。
「……あっ!!」
「……嘘じゃん」
穴を見た二人は、驚愕の声を上げた。
マンホールの穴からは、地下へと続く石造りの階段が姿を見せていたのだ。
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