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第二部
8話(47話) 魔法図書館
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「エラ様! やっぱりこちらが入り口だったようですね!」
「あ、ああ……そうだねぇ……」
呆気に取られているジニとは裏腹に、マーシアの声はわくわくと弾んでいる。
都市部に隠されし秘密の通路に、いたく興奮しているようだ。
「では、行ってみましょう! 壁際に火が灯ってはいますが、少し薄暗いので足元にはお気を付けて」
「え゛っ!? ちょっ、ちょちょちょ!! ウォルジーが先行ってどうすんだよ!?」
「? へっ……?」
先陣を切る気満々のマーシアに向かって、ジニは待ったをかける。
いくら続く先が魔法図書館とはいえ、こういう怪しくて暗い通路の場合、男たる自分が先を行き女性をエスコートするべきだろう。
咄嗟にそう考え、慌ててジニはマーシアの前にずいっと割り込んだ。
「俺が先行くって。暗いし危ねぇだろ、ほら」
「……あっ……」
ジニは無意識に、マーシアへ手を差し出した。
「……ッ!! あ゛っ!? ち、違うぞ?! 暗いから!! 危ないから!! このほうが安全だろって思って……!!」
「…………」
どうも自分は、マーシアの手を握りたがる傾向にある。「良くない良くない」と、即座に手を引っ込めようとした時、マーシアの手がスッと彼の目の前に差し出された。
「では……お、お言葉に甘えて……。お願い、いたします……」
俯きながらも、その瞳は気恥ずかしげにジニを見据える。
その顔を見た瞬間、ジニは頭に血が上る感覚を覚えた。
「う、うん……。じゃあ、段差狭いから、ゆっくり……」
「……はい」
ジニはマーシアの手を取る。
じんわりと温かい、少し熱を帯びた柔らかい手。
(ああ……)
そっと伝わるその熱に、鼓動が早まる。
(まさか、あん時の願いがこんなに早く叶うとは……)
以前、熱を出した彼女の手を握った時のことを思い出す。あの時は勝手に手を取ってしまったが、今は合意がある。
嬉しくて、飛び上がってしまいそうだった。
「気を付けろよ」
「はい、ありがとうございます……」
ジニはマーシアより一段だけ下に降り、前を向いて彼女の手を取り、階段を下る。
(……エラ様の手、とても温かい……)
その後ろから、マーシアは揺れる瞳で重なる互いの手を見つめた。
初めて伝わる、彼の温もり。
心臓が、キュッと音を上げる。
ゆっくり、ゆっくり。二人は階段を下る。
会話は少ない。それなのに、不思議とその空気が心地良かった。
「……ほいっ! 着いた!」
階段を下り切ったジニが、口を開く。
マーシアも彼に続き、広めの通路に降り立った。石で造られているためか、空間がどことなくひんやりとしている。
通路を少し進むと、年季の入った扉が現れた。どうやら、ようやく入り口に到着したようだ。
「よしっ、入ろう!」
名残惜しいが手を離し、ジニは扉を開いた。
その先から、室内の明るい光が漏れ出てくる。
「……あらっ、珍しい。あなた方、"裏口"からお越しになられたんですかー?」
扉を開けて二人が中に入ると、司書と思わしき女性が目を丸くし、二人に声をかけてきた。
「へっ? 裏口?」
「はいー。あなた方、マンホールから通じてる通路から来ませんでした? そこ、こちら魔法図書館の一階に通じる裏口通路なんですよー」
「はっ?!?!」
静粛にすべき図書館であることも忘れ、ジニは素っ頓狂な声を出し、窓から見える景色に目を凝らす。
本当だ。地下に下りたはずなのに、窓に映るは、明らかに地上の景色。
「ほら、あちらにおっきな扉があるでしょう? あれが、正規の入り口となっておりますー」
「あ…………」
女性の言う通り、どこかの城にあってもおかしくなさそうなほど堂々とした大きな扉が、しっかりとその存在を醸し出している。
「じゃ、じゃあ……途中に出てた案内板って……?」
「ああ。あれ、ちゃんと読みました? 下にちっさく"裏口通路"って書かれているんですよー」
「…………」
ジニとマーシアは、ポカンと立ち尽くす。
「一般の人が来たりしないように、マンホールからしか来れないようになってるとか、案内板に魔法で細工してるとか、そんなことは……」
「ないです。ここ、公共機関ですよ?」
「そうすか…………」
「そうです。では私、そろそろ失礼しますね」
女性との会話が終わり、ジニはマーシアを一瞥する。
「……私の、思い違いだったようですね……」
「きっ、気にすんなよ! 冒険みたいで楽しかったしさ! レア経験出来たってことで! なっ?!」
「そ、そそそ、そうですね……」
ジニもマーシアも、互いに手を取り合ったことは恥ずかしくて口に出せず、何とかいい感じにまとめてその場を取り繕った。
「──しかし、すげぇな。当たり前だけど、本ばっか……」
ジニは眉を顰め、広大な館内を見渡す。
壁を埋め尽くすほどの書架に収められた膨大な数の蔵書。ウィノア市魔法図書館の比ではない。
館内は優美な光を放つシャンデリアや意匠の施された飾り柱も相まって、城と言っても過言ではない造形をしている。
のんびりするのに打って付けなのだろうか、読者スペースでは身なりの良い人々がそれぞれ思い思いに本を読み、寛いでいた。
「では、操作の魔法の専門書を探していきましょうか」
「うへぇい……」
ここまで来たら腹を括るしかない。
ふうっと深呼吸し、ジニは本を探すべく書架へと向かう。
事前に司書から本の所在を尋ねていたため、棚自体はすぐに見つかった。
だが、やはり棚一本当たりに占める蔵書の数が半端ではない。長いスライド梯子を駆使し、ひいひい言いながら操作の魔法に関連しそうな本を探す。
背表紙に書かれた書名を見ていくだけでも、頭が痛くなりそうだった。
「な、何とか見つけたぞ……」
数分後。ようやく書名に"操作の魔法"の名が入った本を見つけ出した。
分厚い本を一冊ずつ取り出し、梯子の下にいるマーシアに手渡していく。
「ひとまず、これくらいの冊数があれば充分そうですね」
とりあえず選んだ三冊から調べることにし、二人は机を挟み、向かい合わせに読書スペースに座った。
ジニは険しい顔で一冊の本の表紙を開く。
「ヒッ…………!?!?」
「?!」
途端、彼は青ざめた顔で息を呑み、手で口を塞ぐ。
「エラ様、どっ、どうなさいました?」
「文字が……文字が、多い…………」
「ええぇっ?! そ、それはそうですとも! 専門書なのですから!」
「しかも、載ってる絵も全っ然可愛くない……。何これ、なんでこんなリアルな絵なの……?」
「専門書だからです!!」
早速躓いているジニに、マーシアも思わず声を張り上げる。前途多難だ。
「頑張って目を通していきましょう。焦らずゆっくり、一文字ずつ言葉を刻んで。そうすれば、内容が頭に入ってきやすいですよ」
「ひゃい……」
マーシアから助言を受け、ジニはぶつぶつと小声で文字を呟き、文頭から本を読み進める。
マーシアはそんな彼を見てくすりと笑うと、自身も先程持ってきた内の一冊を手にし、操作の魔法の子細な情報を得るべく、頁を捲った。
「あ、ああ……そうだねぇ……」
呆気に取られているジニとは裏腹に、マーシアの声はわくわくと弾んでいる。
都市部に隠されし秘密の通路に、いたく興奮しているようだ。
「では、行ってみましょう! 壁際に火が灯ってはいますが、少し薄暗いので足元にはお気を付けて」
「え゛っ!? ちょっ、ちょちょちょ!! ウォルジーが先行ってどうすんだよ!?」
「? へっ……?」
先陣を切る気満々のマーシアに向かって、ジニは待ったをかける。
いくら続く先が魔法図書館とはいえ、こういう怪しくて暗い通路の場合、男たる自分が先を行き女性をエスコートするべきだろう。
咄嗟にそう考え、慌ててジニはマーシアの前にずいっと割り込んだ。
「俺が先行くって。暗いし危ねぇだろ、ほら」
「……あっ……」
ジニは無意識に、マーシアへ手を差し出した。
「……ッ!! あ゛っ!? ち、違うぞ?! 暗いから!! 危ないから!! このほうが安全だろって思って……!!」
「…………」
どうも自分は、マーシアの手を握りたがる傾向にある。「良くない良くない」と、即座に手を引っ込めようとした時、マーシアの手がスッと彼の目の前に差し出された。
「では……お、お言葉に甘えて……。お願い、いたします……」
俯きながらも、その瞳は気恥ずかしげにジニを見据える。
その顔を見た瞬間、ジニは頭に血が上る感覚を覚えた。
「う、うん……。じゃあ、段差狭いから、ゆっくり……」
「……はい」
ジニはマーシアの手を取る。
じんわりと温かい、少し熱を帯びた柔らかい手。
(ああ……)
そっと伝わるその熱に、鼓動が早まる。
(まさか、あん時の願いがこんなに早く叶うとは……)
以前、熱を出した彼女の手を握った時のことを思い出す。あの時は勝手に手を取ってしまったが、今は合意がある。
嬉しくて、飛び上がってしまいそうだった。
「気を付けろよ」
「はい、ありがとうございます……」
ジニはマーシアより一段だけ下に降り、前を向いて彼女の手を取り、階段を下る。
(……エラ様の手、とても温かい……)
その後ろから、マーシアは揺れる瞳で重なる互いの手を見つめた。
初めて伝わる、彼の温もり。
心臓が、キュッと音を上げる。
ゆっくり、ゆっくり。二人は階段を下る。
会話は少ない。それなのに、不思議とその空気が心地良かった。
「……ほいっ! 着いた!」
階段を下り切ったジニが、口を開く。
マーシアも彼に続き、広めの通路に降り立った。石で造られているためか、空間がどことなくひんやりとしている。
通路を少し進むと、年季の入った扉が現れた。どうやら、ようやく入り口に到着したようだ。
「よしっ、入ろう!」
名残惜しいが手を離し、ジニは扉を開いた。
その先から、室内の明るい光が漏れ出てくる。
「……あらっ、珍しい。あなた方、"裏口"からお越しになられたんですかー?」
扉を開けて二人が中に入ると、司書と思わしき女性が目を丸くし、二人に声をかけてきた。
「へっ? 裏口?」
「はいー。あなた方、マンホールから通じてる通路から来ませんでした? そこ、こちら魔法図書館の一階に通じる裏口通路なんですよー」
「はっ?!?!」
静粛にすべき図書館であることも忘れ、ジニは素っ頓狂な声を出し、窓から見える景色に目を凝らす。
本当だ。地下に下りたはずなのに、窓に映るは、明らかに地上の景色。
「ほら、あちらにおっきな扉があるでしょう? あれが、正規の入り口となっておりますー」
「あ…………」
女性の言う通り、どこかの城にあってもおかしくなさそうなほど堂々とした大きな扉が、しっかりとその存在を醸し出している。
「じゃ、じゃあ……途中に出てた案内板って……?」
「ああ。あれ、ちゃんと読みました? 下にちっさく"裏口通路"って書かれているんですよー」
「…………」
ジニとマーシアは、ポカンと立ち尽くす。
「一般の人が来たりしないように、マンホールからしか来れないようになってるとか、案内板に魔法で細工してるとか、そんなことは……」
「ないです。ここ、公共機関ですよ?」
「そうすか…………」
「そうです。では私、そろそろ失礼しますね」
女性との会話が終わり、ジニはマーシアを一瞥する。
「……私の、思い違いだったようですね……」
「きっ、気にすんなよ! 冒険みたいで楽しかったしさ! レア経験出来たってことで! なっ?!」
「そ、そそそ、そうですね……」
ジニもマーシアも、互いに手を取り合ったことは恥ずかしくて口に出せず、何とかいい感じにまとめてその場を取り繕った。
「──しかし、すげぇな。当たり前だけど、本ばっか……」
ジニは眉を顰め、広大な館内を見渡す。
壁を埋め尽くすほどの書架に収められた膨大な数の蔵書。ウィノア市魔法図書館の比ではない。
館内は優美な光を放つシャンデリアや意匠の施された飾り柱も相まって、城と言っても過言ではない造形をしている。
のんびりするのに打って付けなのだろうか、読者スペースでは身なりの良い人々がそれぞれ思い思いに本を読み、寛いでいた。
「では、操作の魔法の専門書を探していきましょうか」
「うへぇい……」
ここまで来たら腹を括るしかない。
ふうっと深呼吸し、ジニは本を探すべく書架へと向かう。
事前に司書から本の所在を尋ねていたため、棚自体はすぐに見つかった。
だが、やはり棚一本当たりに占める蔵書の数が半端ではない。長いスライド梯子を駆使し、ひいひい言いながら操作の魔法に関連しそうな本を探す。
背表紙に書かれた書名を見ていくだけでも、頭が痛くなりそうだった。
「な、何とか見つけたぞ……」
数分後。ようやく書名に"操作の魔法"の名が入った本を見つけ出した。
分厚い本を一冊ずつ取り出し、梯子の下にいるマーシアに手渡していく。
「ひとまず、これくらいの冊数があれば充分そうですね」
とりあえず選んだ三冊から調べることにし、二人は机を挟み、向かい合わせに読書スペースに座った。
ジニは険しい顔で一冊の本の表紙を開く。
「ヒッ…………!?!?」
「?!」
途端、彼は青ざめた顔で息を呑み、手で口を塞ぐ。
「エラ様、どっ、どうなさいました?」
「文字が……文字が、多い…………」
「ええぇっ?! そ、それはそうですとも! 専門書なのですから!」
「しかも、載ってる絵も全っ然可愛くない……。何これ、なんでこんなリアルな絵なの……?」
「専門書だからです!!」
早速躓いているジニに、マーシアも思わず声を張り上げる。前途多難だ。
「頑張って目を通していきましょう。焦らずゆっくり、一文字ずつ言葉を刻んで。そうすれば、内容が頭に入ってきやすいですよ」
「ひゃい……」
マーシアから助言を受け、ジニはぶつぶつと小声で文字を呟き、文頭から本を読み進める。
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