【第二部投稿中】今を生きる魔法使いへ

一三三

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第一部

15話 芽吹く感情①

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 店へ向かう道中、浮かれるジニは終始しょうもない話をして、マーシアを微笑ませたり困惑させたりしていた。彼らの間を流れる空気は、非常に穏やかなものであったと願いたい。

「じゃあ、この店にするか?」
「はい!」

 二人は工房から少し離れたところにある、ネオン看板が目を引く小さなダイナーの扉を開いた。

 一列に長いカウンター席が店の大半を占めているが、タイル張りの壁際には小さなテーブル席もある。二人はそこに腰掛けた。


「で、ウォルジー。話ってのは!?」


 椅子に座るや否や、ジニはキラキラと目を輝かせ、マーシアを見つめる。
 
 マーシアの瞳も、汚れのない宝石のような輝きを放っていた。
 だが、彼女の目線はジニには向いていない。 
 マーシアは、カウンター上に張られたメニュー表に釘付けなのだ。

「まあっ! このお店、ホットドッグにハンバーガーも置いているんですね!」

 存在こそ知ってはいたものの、実家にいた頃には食べる機会に恵まれなかった料理の数々。 
 他にもミートボールスパゲッティやサンドウィッチ、フライドチキン……。大衆向けの美味しそうな料理が、ズラリとメニュー表に並んでいる。

「そりゃダイナーなんだから、それぐらいあるだろ。……あっ、もしかしてウォルジー、こういう店初めて?」
「はい、初めてなんです! うふふ、どれもこれもまだいただいたことのないお料理ばかりで、メニューを見ているだけでワクワクしてしまいます!」

 マーシアはいつになくジニに楽しそうな表情を見せる。
 正直、飲み物だけ頼んで話を聞いて、家で適当に夕飯を食べるつもりだったが、こんなにはしゃぐお嬢様を目にしてしまった以上、料理を頼まないという選択肢は考えられない。
 
「そっか。じゃあ、話の前にメシ食おっ!」
「はい!」

 マーシアは嬉しそうにニコリと返事をした。
 
(もう~、無邪気かよ……)

 ジニはふと、マーシアの表情に見惚れる。
 彼女が時折見せる、無垢で柔らかな笑顔。
 状況も相まってなのか、今日は一段と眩しく輝き、そして愛らしく思えた。


「……では、エラ様。私、ホットドッグを注文してみようかと思います」


 マーシアはしばしメニュー表と睨めっこをしていたが、結局最初に目に入ったホットドッグに惹かれたようだ。

「あはは、いいじゃん! 俺はピザにしようかな」

 早速、赤と白のストライプ模様のユニフォームを着たウェイトレスに料理を注文する。
 
「ウォルジー、食べるの好きなの?」

 先程からのマーシアの様子を見てそう感じ取ったジニは、何の気なしに彼女に尋ねた。

「はい。お料理は自分で作ることも、食べることも大好きなんです」

 マーシアは少し顔を赤らめ、頬を手で押さえる。

「そうなんだ! 俺も食べるの好き! 滅多に料理はしねぇけど!」
「ふふっ、では前者は同じですね。お食事はいつも、今日のようにお店で済ませていらっしゃるんですか?」
「うん。店で食う時もあるし、缶詰とかで済ませる時もあるかな。あ、そうだ、知ってるか? グレンハムズっていう名前の、鶏の絵が描いてあるチキンスープ缶。あれ、めっちゃ美味いぞ」

 ジニはわざと手を口元に当て、声を潜めてみせる。

「まあ、そうなんですか? 缶詰のスープは買ったことがないので、とても気になります……」

 ジニから告げられた有益情報に、マーシアは興味津々に耳を傾ける。

「食料雑貨店行けば絶対売ってるから、今度覗いてみろよ。俺な、あのスープん中に大量の生姜擦って入れて飲むの大好き!」
「しょ、生姜!? 生姜となると、とっても独特な味と香りがしますが、エラ様は問題なく召し上がれるのですか?」

 マーシアは目を丸くし、ジニに尋ねた。
 ロドエでは生姜を使用するとしたらクッキーやシロップなどを作る時くらいなもので、家庭料理ではほとんど使用しない。
 以前マーシアは生姜の入った頂き物のクッキーを食べてみたことがあるが、キツい風味やピリッとした味、何もかもが口に合わず、それ以来生姜を口にしたことは一回もなかった。
 早い話、生姜に苦手意識を持っているのだ。

「ぜーんぜん! 俺、昔っから食べ慣れてんだよね。家で作るチキンスープにも、生姜ぶち込まれてたからさ。他にも、色々な料理に生姜入れたりもしてるし!」

 ジニは得意げに人差し指を上に向ける。

「凄いです……。エラ様、生姜がお好きなんですね」
「あはは、そうかも! 生姜はな、慣れると美味いぞ。本当、チキンスープに入れんのは超お勧めだから、ぜひ今度試してみてほしい!」
「うふふ。では、今度チャレンジしてみようと思います」

 ジニの熱い語りに、マーシアは少しだけ生姜の克服に意欲を示すことが出来た。

「お待たせしましたー」

 そうこう盛り上がっているうちに、料理もやってきた。

「超いい匂いなんだけど!!」
 
 ジニが頼んだピザの上には、サラミと輪切りのピーマン、トマトにコーンが散りばめられている。 
 見た目も具材もシンプルだからこそ、仕事を終えた空腹のお腹に嬉しい刺激を与えてくれる。

「これは、パンごとナイフで切ってしまっていいのでしょうか?」

 マーシアは、刻んだ玉ねぎとピクルスたっぷりのホットドッグの食べ方が分からず、フォークとナイフを手に取り、困惑する。
 その様子を見たジニは、ふふっと小さく笑った。

「違う違う。こうやって、手で持って食べていいんだよ」

 ジニはマーシアに、ホットドッグを食べる様子をジェスチャーで伝える。
 だが、それを見たマーシアは、ますます困惑した眼差しをジニに向けた。

「かぶりついてしまっていいのですか?! は、はしたなくはありませんか?!」
「んなーーっ!! だから、いいんだって!! そういう食べ物なんだから!! ほら、俺だってピザ手で持ってかぶりついてるだろ!!」

 お嬢様という生き物は、直にかぶりつく食べ物を通ってこないのか。それとも、マーシアが無知なだけなのか。
 ジニは呆れるやら面白いやら、気が付けばまた、彼女を見て口角を上げていた。

「そ、それもそうですね……。では、そのようにして……いただきます!」
「おうっ!」

 マーシアは意を決してホットドッグの先端にかぶりつく。
 モグモグと口を動かすが、あまりにも品の良すぎる開口だったせいか、ほんの少しパンをかじれただけで、中の具材は一切口の中にはついてこなかった。

「あっはは! もっと大きく口開けねぇと、ウインナーかじれねぇぞ! ほーら、頑張れ頑張れ!」
「うぅ……中々難しいです……」

 大きく口を開いたつもりだったのだが、まだまだだったようだ。マーシアは大衆料理を食べる過酷さを思い知る。
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