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Round.2 恋愛指南書と無知な誘惑
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恋に落ちた乙女は、時として無謀な行動に出る。
特に、それが初恋であるならば——
翌朝、カミラは頬を両手で押さえたまま、指南書をめくっていた。
昨夜の夜這い作戦は見事に失敗。アシュランに手首を掴まれた瞬間が、何度も脳裏によみがえる。
掴まれた手首が、まだじんじんと熱い気がするのは気のせいかしら……
「一体どこが間違っていたのかしら……」
相変わらず、祖母の形見の指南書のページをめくる度に、微かな光がちらりと揺れる。
「第一の秘訣『男性の心を掴む日常の仕草』……これは試していませんでしたわ」
カミラの瞳が輝いた。そうだ、いきなり夜這いは無謀だった。まずは日常的なアプローチから始めるべきだったのだ。
『男性は女性の無防備で愛らしい仕草に心を奪われます。特に、服の乱れや髪の毛を直す仕草、唇を舐める動作などは効果絶大です』
「無防備で愛らしい仕草……」
カミラは鏡の前に立ち、指南書通りに練習を始めた。髪をかき上げる仕草、唇に指を当てる動作、裾を直すふり。
「これで完璧ですわ!」
*
午後、カミラはアシュランの執務室を訪れた。今日は何の変哲もない用事——図書館で借りた本を返却するついでに挨拶するだけ、という建前だった。
「アシュラン様、お忙しいところ失礼いたします」
「やあ、カミラ。どうしたんだい?」
アシュランは書類から顔を上げて微笑んだ。昨夜のことがあったせいか、少し身構えているようにも見える。
「図書館の本をお返しに参りました」
カミラはそう言いながら、指南書で学んだ通り、わざと本を落としてしまう。
「あら」
本を拾おうとして屈んだ時、ドレスの胸元が少し見えてしまう。これは指南書の第二の秘訣「計算された偶然の演出」だった。
ところが、その瞬間。
ぽわん、と小さな魔法の光がカミラの手から溢れ、本が宙に浮いてしまった。
「あ、あら?」
カミラは慌てる。感情が高ぶると、つい魔法が暴発してしまうのだ。リラリエ家の女性は皆、感情と魔法が連動しやすい。
「おっと」
アシュランは苦笑いを浮かべながら、浮いている本をそっと手に取った。
「また魔法が暴発したね」
アシュランの視線が一瞬そちらに向き、慌てて視線を逸らしたのをカミラは見逃さなかった。でも、魔法の暴発で作戦が台無しになってしまった。
「恥ずかしいですわ……いつも肝心な時に」
カミラは頬を赤らめる。カミラは一族の中でも特に魔法の制御が苦手だった。
幼い頃も、嬉しいと花を咲かせ、泣けば屋敷の明かりを全部落としてしまった。
「感情と一緒に生きている魔法ね」と祖母は微笑んでくれたが、
本人にとってはいつも恥ずかしい記憶だった。
「君の魔法は正直だからね」
アシュランは優しく微笑んだ。
「正直?」
「ああ。君の気持ちがよく分かる」
本を手渡す際、わざと手を触れさせる。これも指南書通りだった。
ところが、また小さな魔法の光がぱちぱちと弾けた。
「あ……」
カミラは慌てて手を引っ込める。またしても感情の高ぶりが魔法に現れてしまった。
「隠せないところが、君らしいね」
アシュランは苦笑いを浮かべる。カミラの魔法は彼女の感情をそのまま表すため、嘘をつくことができない。だからこそ愛おしかった。
しかし、アシュランの反応は予想と違った。彼の瞳に一瞬、熱いものが宿ったかと思うと、すぐに優しい笑顔に戻る。
「気をつけて。君は少しそそっかしいところがあるからね」
その言葉に、カミラの頬が染まった。まるで子ども扱いされているような気がして、少し悔しい。
「そ、そんなことありませんわ」
カミラは指南書の第三の秘訣「可愛らしい反抗」を実行に移した。少し頬を膨らませて見せる。
「はい、はい」
アシュランは苦笑いを浮かべながら、カミラの頭を優しく撫でた。
「!」
カミラの心臓が跳ねる。頭を撫でられるなんて、本当に子ども扱いだった。でも、なぜかとても嬉しくて、顔が熱くなる。
「あの……」
カミラは勇気を出して、指南書の第四の秘訣「効果的な上目遣い」を試してみる。
「何だい?」
「最近、アシュラン様はお忙しそうで……もう少しお話しする時間はございませんか?」
上目遣いで見つめながら、唇を軽く舐める。指南書によれば、これは「男性の理性を奪う最強の組み合わせ」だった。
アシュランの表情が一瞬変わる。優しい笑顔の奥に、何か危険なものが宿ったような気がした。
「カミラ……」
「はい」
「君は自分が何をしているか、分かっているのかい?」
アシュランの声が、いつもより低くなった。
「え?」
カミラは首を傾げた。指南書通りにやっているだけなのだが。
「その仕草……他の男性の前でもするのかい?」
アシュランの声が、いつもより低くなった。そして、彼の周りの空気が微かに重くなる。王族の魔法の気配だった。
「他の男性?」
カミラは困惑した。なぜそんなことを聞くのだろう。
「僕以外の男性の前で、そんな風に唇を舐めたり、上目遣いをしたりするのかと聞いているんだよ」
アシュランの魔法が、感情に反応して室内の温度を下げていく。彼自身は気づいていないようだが、嫉妬の感情が魔法に現れているのだ。
「そんなこと、するわけありませんわ」
カミラは慌てて首を振った。
「アシュラン様にだけですもの」
その言葉と同時に、室内の温度が元に戻る。アシュランの表情も和らいだ。
「そうか……それなら良いんだ」
「?」
カミラには、なぜアシュランがそんなことを気にするのか分からなかった。しかし、彼の表情が優しくなったのを見て、安心する。
「でも、カミラ」
アシュランは立ち上がり、カミラに近づいてきた。
「君のその仕草は、とても危険なんだよ」
「危険?」
アシュランはカミラの頬に手を伸ばした。その指先が彼女の肌に触れると、カミラは小さく息を呑む。
「君は無自覚だから余計に危険なんだ」
アシュランの親指が、カミラの唇をそっと撫でた。
「あの……」
カミラの声が震えた。これは指南書には載っていない展開だった。
「こういう風に触れられると、どんな気持ちになる?」
「どきどき、します……」
カミラは正直に答えた。
「それが答えだよ。君がその仕草をすると、僕も同じ気持ちになるんだ」
「同じ……?」
「ああ。君を抱きしめたくなる」
アシュランの声が囁くように小さくなった。
「でも、それはまだ早すぎる。君は大切すぎるから」
「大切……」
カミラは胸が温かくなるのを感じた。
「だから、その仕草は僕の前だけにしてくれるかい?他の男性にはしないと約束してくれる?」
「はい」
カミラは迷わず頷いた。
「良い子だ」
アシュランはカミラの額にキスをした。優しくて、大切にされているのが伝わってくるキスだった。
「それじゃあ、今日はこの辺りで。夕食まで時間があるだろう?」
「はい」
カミラは頬を染めながら部屋を出て行った。
*
廊下を歩きながら、カミラは胸に手を当てた。
「あんなに優しく説明してくださるなんて……」
アシュランの優しさに、カミラの心は完全に奪われていた。彼は自分の気持ちをちゃんと説明してくれたし、大切にしてくれている。
「でも、刺激的すぎるということは……効果があったということですわね」
カミラは指南書を抱きしめた。
「次はもう少し積極的に……」
*
一方、カミラを見送ったアシュランは、自室で頭を抱えていた。
「危なかった……」
今日のカミラは昨夜とは違う種類の危険さがあった。無自覚に誘惑してくる彼女に、自身を押さえ込むのに精一杯だった。
特に、あの上目遣いと唇を舐める仕草。あれは反則だった。
(あの子は本当に無自覚なのか?それとも……)
どちらにしても、カミラが他の男性の前であんな仕草をすることは絶対に許せなかった。
(君は僕だけのものだ。他の誰にもそんな顔を見せてはいけない)
アシュランの中で、静かに独占欲が燃え上がる。
彼女を誰にも渡したくない。できることなら、この城に閉じ込めて、自分だけが愛でていたい。
「でも、まだ早すぎる」
結婚するまでは、絶対に手を出してはいけない。それが彼女への愛情であり、敬意でもある。
しかし、カミラの無自覚な誘惑に、いつまで理性を保てるだろうか。
(頑張れ、アシュラン。あと三か月だ)
窓の外では、夕日が王宮を黄金色に染めている。
この攻防戦はまだ始まったばかりだった。
*
翌朝、カミラは再び指南書を開いていた。本のページが彼女の決意に反応して、温かく光っている。
「昨日の作戦は成功でしたわ」
アシュランが自分の仕草に反応していたのは明らかだった。そして、他の男性の前ではするな、と言われたということは……。
「嫉妬していらしたのかしら」
カミラの心は躍った。その時、感情の高ぶりで小さな花の魔法が宙に舞った。
「まあ、また魔法が」
カミラは慌てて魔法を消そうとしたが、嬉しさが隠しきれない。
「それなら、次は第五の秘訣『男性の独占欲を刺激する方法』を試してみましょう」
指南書のページが、まるで彼女の決意に応えるように一層暖かく光った。そして、魔法で栞が勝手にページを開いてくれる。
「ああ、また感情で魔法が暴発してますわ」
カミラは苦笑いしたが、その顔は希望に満ちていた。
「……次は、この魔法を恋愛に活かせばよろしいのですわ!」
言った瞬間、ぱちん、と光の粒が弾け、机の上に小さな花束が出現した。
「制御不能ですけれど、悪くない結果ですわね」
けれど頬は緩むばかりだった。
こうして、恋愛指南書と魔法暴発を武器にした、令嬢と王子の攻防戦は続いていく。
特に、それが初恋であるならば——
翌朝、カミラは頬を両手で押さえたまま、指南書をめくっていた。
昨夜の夜這い作戦は見事に失敗。アシュランに手首を掴まれた瞬間が、何度も脳裏によみがえる。
掴まれた手首が、まだじんじんと熱い気がするのは気のせいかしら……
「一体どこが間違っていたのかしら……」
相変わらず、祖母の形見の指南書のページをめくる度に、微かな光がちらりと揺れる。
「第一の秘訣『男性の心を掴む日常の仕草』……これは試していませんでしたわ」
カミラの瞳が輝いた。そうだ、いきなり夜這いは無謀だった。まずは日常的なアプローチから始めるべきだったのだ。
『男性は女性の無防備で愛らしい仕草に心を奪われます。特に、服の乱れや髪の毛を直す仕草、唇を舐める動作などは効果絶大です』
「無防備で愛らしい仕草……」
カミラは鏡の前に立ち、指南書通りに練習を始めた。髪をかき上げる仕草、唇に指を当てる動作、裾を直すふり。
「これで完璧ですわ!」
*
午後、カミラはアシュランの執務室を訪れた。今日は何の変哲もない用事——図書館で借りた本を返却するついでに挨拶するだけ、という建前だった。
「アシュラン様、お忙しいところ失礼いたします」
「やあ、カミラ。どうしたんだい?」
アシュランは書類から顔を上げて微笑んだ。昨夜のことがあったせいか、少し身構えているようにも見える。
「図書館の本をお返しに参りました」
カミラはそう言いながら、指南書で学んだ通り、わざと本を落としてしまう。
「あら」
本を拾おうとして屈んだ時、ドレスの胸元が少し見えてしまう。これは指南書の第二の秘訣「計算された偶然の演出」だった。
ところが、その瞬間。
ぽわん、と小さな魔法の光がカミラの手から溢れ、本が宙に浮いてしまった。
「あ、あら?」
カミラは慌てる。感情が高ぶると、つい魔法が暴発してしまうのだ。リラリエ家の女性は皆、感情と魔法が連動しやすい。
「おっと」
アシュランは苦笑いを浮かべながら、浮いている本をそっと手に取った。
「また魔法が暴発したね」
アシュランの視線が一瞬そちらに向き、慌てて視線を逸らしたのをカミラは見逃さなかった。でも、魔法の暴発で作戦が台無しになってしまった。
「恥ずかしいですわ……いつも肝心な時に」
カミラは頬を赤らめる。カミラは一族の中でも特に魔法の制御が苦手だった。
幼い頃も、嬉しいと花を咲かせ、泣けば屋敷の明かりを全部落としてしまった。
「感情と一緒に生きている魔法ね」と祖母は微笑んでくれたが、
本人にとってはいつも恥ずかしい記憶だった。
「君の魔法は正直だからね」
アシュランは優しく微笑んだ。
「正直?」
「ああ。君の気持ちがよく分かる」
本を手渡す際、わざと手を触れさせる。これも指南書通りだった。
ところが、また小さな魔法の光がぱちぱちと弾けた。
「あ……」
カミラは慌てて手を引っ込める。またしても感情の高ぶりが魔法に現れてしまった。
「隠せないところが、君らしいね」
アシュランは苦笑いを浮かべる。カミラの魔法は彼女の感情をそのまま表すため、嘘をつくことができない。だからこそ愛おしかった。
しかし、アシュランの反応は予想と違った。彼の瞳に一瞬、熱いものが宿ったかと思うと、すぐに優しい笑顔に戻る。
「気をつけて。君は少しそそっかしいところがあるからね」
その言葉に、カミラの頬が染まった。まるで子ども扱いされているような気がして、少し悔しい。
「そ、そんなことありませんわ」
カミラは指南書の第三の秘訣「可愛らしい反抗」を実行に移した。少し頬を膨らませて見せる。
「はい、はい」
アシュランは苦笑いを浮かべながら、カミラの頭を優しく撫でた。
「!」
カミラの心臓が跳ねる。頭を撫でられるなんて、本当に子ども扱いだった。でも、なぜかとても嬉しくて、顔が熱くなる。
「あの……」
カミラは勇気を出して、指南書の第四の秘訣「効果的な上目遣い」を試してみる。
「何だい?」
「最近、アシュラン様はお忙しそうで……もう少しお話しする時間はございませんか?」
上目遣いで見つめながら、唇を軽く舐める。指南書によれば、これは「男性の理性を奪う最強の組み合わせ」だった。
アシュランの表情が一瞬変わる。優しい笑顔の奥に、何か危険なものが宿ったような気がした。
「カミラ……」
「はい」
「君は自分が何をしているか、分かっているのかい?」
アシュランの声が、いつもより低くなった。
「え?」
カミラは首を傾げた。指南書通りにやっているだけなのだが。
「その仕草……他の男性の前でもするのかい?」
アシュランの声が、いつもより低くなった。そして、彼の周りの空気が微かに重くなる。王族の魔法の気配だった。
「他の男性?」
カミラは困惑した。なぜそんなことを聞くのだろう。
「僕以外の男性の前で、そんな風に唇を舐めたり、上目遣いをしたりするのかと聞いているんだよ」
アシュランの魔法が、感情に反応して室内の温度を下げていく。彼自身は気づいていないようだが、嫉妬の感情が魔法に現れているのだ。
「そんなこと、するわけありませんわ」
カミラは慌てて首を振った。
「アシュラン様にだけですもの」
その言葉と同時に、室内の温度が元に戻る。アシュランの表情も和らいだ。
「そうか……それなら良いんだ」
「?」
カミラには、なぜアシュランがそんなことを気にするのか分からなかった。しかし、彼の表情が優しくなったのを見て、安心する。
「でも、カミラ」
アシュランは立ち上がり、カミラに近づいてきた。
「君のその仕草は、とても危険なんだよ」
「危険?」
アシュランはカミラの頬に手を伸ばした。その指先が彼女の肌に触れると、カミラは小さく息を呑む。
「君は無自覚だから余計に危険なんだ」
アシュランの親指が、カミラの唇をそっと撫でた。
「あの……」
カミラの声が震えた。これは指南書には載っていない展開だった。
「こういう風に触れられると、どんな気持ちになる?」
「どきどき、します……」
カミラは正直に答えた。
「それが答えだよ。君がその仕草をすると、僕も同じ気持ちになるんだ」
「同じ……?」
「ああ。君を抱きしめたくなる」
アシュランの声が囁くように小さくなった。
「でも、それはまだ早すぎる。君は大切すぎるから」
「大切……」
カミラは胸が温かくなるのを感じた。
「だから、その仕草は僕の前だけにしてくれるかい?他の男性にはしないと約束してくれる?」
「はい」
カミラは迷わず頷いた。
「良い子だ」
アシュランはカミラの額にキスをした。優しくて、大切にされているのが伝わってくるキスだった。
「それじゃあ、今日はこの辺りで。夕食まで時間があるだろう?」
「はい」
カミラは頬を染めながら部屋を出て行った。
*
廊下を歩きながら、カミラは胸に手を当てた。
「あんなに優しく説明してくださるなんて……」
アシュランの優しさに、カミラの心は完全に奪われていた。彼は自分の気持ちをちゃんと説明してくれたし、大切にしてくれている。
「でも、刺激的すぎるということは……効果があったということですわね」
カミラは指南書を抱きしめた。
「次はもう少し積極的に……」
*
一方、カミラを見送ったアシュランは、自室で頭を抱えていた。
「危なかった……」
今日のカミラは昨夜とは違う種類の危険さがあった。無自覚に誘惑してくる彼女に、自身を押さえ込むのに精一杯だった。
特に、あの上目遣いと唇を舐める仕草。あれは反則だった。
(あの子は本当に無自覚なのか?それとも……)
どちらにしても、カミラが他の男性の前であんな仕草をすることは絶対に許せなかった。
(君は僕だけのものだ。他の誰にもそんな顔を見せてはいけない)
アシュランの中で、静かに独占欲が燃え上がる。
彼女を誰にも渡したくない。できることなら、この城に閉じ込めて、自分だけが愛でていたい。
「でも、まだ早すぎる」
結婚するまでは、絶対に手を出してはいけない。それが彼女への愛情であり、敬意でもある。
しかし、カミラの無自覚な誘惑に、いつまで理性を保てるだろうか。
(頑張れ、アシュラン。あと三か月だ)
窓の外では、夕日が王宮を黄金色に染めている。
この攻防戦はまだ始まったばかりだった。
*
翌朝、カミラは再び指南書を開いていた。本のページが彼女の決意に反応して、温かく光っている。
「昨日の作戦は成功でしたわ」
アシュランが自分の仕草に反応していたのは明らかだった。そして、他の男性の前ではするな、と言われたということは……。
「嫉妬していらしたのかしら」
カミラの心は躍った。その時、感情の高ぶりで小さな花の魔法が宙に舞った。
「まあ、また魔法が」
カミラは慌てて魔法を消そうとしたが、嬉しさが隠しきれない。
「それなら、次は第五の秘訣『男性の独占欲を刺激する方法』を試してみましょう」
指南書のページが、まるで彼女の決意に応えるように一層暖かく光った。そして、魔法で栞が勝手にページを開いてくれる。
「ああ、また感情で魔法が暴発してますわ」
カミラは苦笑いしたが、その顔は希望に満ちていた。
「……次は、この魔法を恋愛に活かせばよろしいのですわ!」
言った瞬間、ぱちん、と光の粒が弾け、机の上に小さな花束が出現した。
「制御不能ですけれど、悪くない結果ですわね」
けれど頬は緩むばかりだった。
こうして、恋愛指南書と魔法暴発を武器にした、令嬢と王子の攻防戦は続いていく。
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