上 下
15 / 137
2章:一家集団殺人事件

4話:隠された真実(ラウル)

しおりを挟む
 どのくらい経ったのだろう。かび臭いカーペットの上に全裸で転がされている。腹は紫色になるほど蹴られ、散々に嘔吐した。色んな臭いが混ざり合って酷いはずなのに、ラウルの感覚はとても遠い。
 思い浮かべるのはたった一人の人。優しくて、素直じゃなくて、案外脆い所のある人。大好きで、大好きで…………なのに、悲しませてしまった。

「おい、勝手に寝て良いと思ってんのか」
「うっ……」

 痣になった部分を足で転がされ、仰向けになった所に男が覗く。知っている顔。いや、知っていた顔だ。今ではもう、憎しみに瞳が濁って見える。

「やっとらしい顔するようになったじゃねーか、ラウルよぉ!」
「うっ! かはっ、あ…………」

 踏みつけられて、こみ上げる胃酸が喉を焼くように痛む。けれどこれじゃ、どうにもならない。痛みは強いるのに楽にはならない。その辺をこいつは分かっている。

「ウォルター、もう、やめよ……」
「あぁ?」
「何にも、ならないよぉ……」

 ライトブラウンの瞳から涙がポロポロと溢れ落ちる。痛みからじゃない、短いながらも思い出がそうさせている。
 だが目の前のウォルターはきつく吊り上がった瞳を更に吊り上げ、ラウルの頬を強かに殴りつけた。口の中に、錆臭い味が広がっていく。

「どの口が言ってんだ、お前」
「ウォルター……」
「お前が兄貴達を裏切らなきゃ、俺達はまだ皆でいられたんだよ!」

 右脇腹に新しい痣ができていく。痛みに眉を寄せながら、ウォルターは尚もラウルを蹴りつけている。

「お前がビビってチクらなければなぁ! 兄貴も! アンドリュー様も生きてたんだよ!」

 違う、そんな事はない。あのままなら、きっとすぐに破綻した。どうしたってあんな生活続けていられなかったんだ。

 僕達は、使い捨ての道具でしかなかったんだ……

 荒い息を吐いたウォルターの瞳がより歪んでいく。昔はもっと活き活きとした目をしていた。同い年なのに兄貴分で、ラウルの面倒を見てくれていたんだ。

「そういやお前、あの宰相といい仲なんだってな?」
「……え?」

 腕を掴まれ、カーペットから放置されているベッドへと投げられる。埃とカビの臭いが舞い上がって気分が悪く何度も咳き込んだ。その上に、ウォルターは馬乗りになった。

「ほら、自分で足開けよ」
「……ぃ、いや!」
「どうせ初物でもないんだろうよ!」
「嫌だ! いやぁ!」
「じゃあここにガキ一人連れてきてヤリ殺そうか!」
「!!」

 ピタリと、ラウルは動きを止めた。子供達はこの建物の中にいる。ラウルが大人しく蹴られ、殴られしている間は子供達に乱暴をしない。そういう約束だ。

「おら、足開けよ」
「……」

 震えながら、自らの膝に手をかけて股を開いた。苦しくて、泣きたくても、そうしなければいけなかった。

 後孔に指が触れて、濡らしてもいないそれが入り込む。痛くて、怖くて、気持ちが悪くてたまらない。

「案外緩んでないんだな。それともお綺麗な宰相様はお前のここは使わないのか?」

 何も言わない。言えば汚れる気がする。
 いや、こんな醜い自分があの人を想う事がもう、あの人を穢す行いだ。綺麗で、優しくて、愛してくれて、愛していて……

「いっ! あぁぁぁぁ!!」

 慣らしもしない器官へ無理矢理押し入られてラウルは悲鳴をあげた。室内に血の臭いが混じる。身を裂かれる痛みは想像を絶するものだった。

「ちっ、切れちまったか。まぁ、滑りもいいからいいか」
「いっ、うっ、あぁぁ!」

 痛い、苦しい、助けて……助けて……!

 心が裂ける。悲しくて壊れてしまいそうだ。それでも、名を呼べない。
 裏切ったんだ、あの人を。大切な人を酷い方法で悲しませてしまった。
 本当は、最初に全部を言わなければいけなかった。自分の事を全部。なのに、言えなかった。与えてくれる優しさが、向けてくれる笑顔が、注がれる愛情があまりに温かくて、幸せで、言えなかった。
 「好きだ。付き合ってくれ」と言われた時、本当は断らなければいけなかったんだ。できなかったのは、甘えだった。

 やがて体内に男の精を叩きつけられて、ラウルの瞳から輝きは失われていった。あの人と抱き合った時はとても幸せだったのに。愛情を注がれ、耳元で優しく名を呼ばれ、頭を撫でられ、キスをされて……。
 放たれたものを、いつまでも感じていたいとすら思った。けれど今は、早く全てが流れ出ればいいと願っている。傷ついた部分が僅かに痛む。

「いい事思いついた。あの宰相様を捕まえたら、そいつの前でお前を抱き殺してやる。さぞ面白い物が見れるだろうな。お前もそう思うだろ、ラウル?」
「…………」

 お願い、今すぐ殺して。あの人を傷つけないで。罪だというなら、全部この身に受けるから。お願い神様、いるならあの人を守って。僕に加護はいらないから。あの人の中の僕を、全部消して……。

 泣き声一つあげられないまま、ラウルはベッドに転がっている。楽しい思い出の全てが溢れ落ちていくような感覚を感じながら。


▼シウス

 ラウルが消えて、夜が来た。依然行方は掴めぬまま、報告だけが虚しく目の前を通り過ぎていく。

「昨日夕方に、ラウル宛の手紙が届いていた事が分かりました。送り主は聖ヨハンナ修道院。この手紙に何かしら書かれていた可能性がありますが、現物は見つかっていません。おそらくラウルが持ち去ったのだろうと思います」
「その手紙を持って来た配達人は、上東地区の者でした。話を聞いたところ、ごく普通の青年からの依頼だと。ランバートの似顔絵を見せたところ、同一人物と分かりました」

 ランバートとグリフィスの報告に、ファウストが頷く。基本の捜査だ、だが進んでいる感じがしない。気ばかりが焦り、真っ当に頭が働いていない。今できるのは報告を聞き、不要な発言をしないことだけだ。

「次に関所の記録ですが、この男らしい人物が昨年の建国祭辺りに入っているのを確認しました。その時の身分証明には『レイモンド』とあります」
「どこから来た?」
「西です」
「西か……。そうなると、身分証明も本物かは分からないな」

 ファウストが唸り、他も困ったように頷く。

 これには訳がある。西は戦火に包まれ、多くの民が命を落としたと同時に戸籍も燃えた。これにより帝国併合の折りに新たな戸籍を作る事になったのだが、自己申告に頼るしかなかった。
 ようは言ってしまった者勝ち。確認しようもない。
 この時に不正な戸籍を多数作り、身分を明かせない者に売るという闇ブローカーが一儲けした。今では改善されてきたことだが、四年前のシウス暗殺事件直後あたりはまだこの商売が残っていたはずだ。
 そうでなくても戦に巻き込まれた酷い怪我の孤児とでもなれば、新たな戸籍が発行された可能性もある。

「その男が王都を去った痕跡は?」
「ありません」
「まだ王都の中にいるか……。ラウルの目撃は?」
「それもありません」
「ラウルは暗府だ、人目につかない道も知っている。宿舎から出る所すら目撃されていないんだ。あいつは間違いなく、暗府の中でも上位なんだ」

 クラウルが悔しげに言う。だが、落ち着いたものだ。

 何所にいるんだ、ラウル。何故なにも言ってくれない。頼ってくれない。例えどんな事があろうとも受け止める。そう思って側にいたことは、伝わらなかったのか?

 焦りを隠せないシウスの前に、四年前の資料が出される。そこには四人の男の名があるばかりだ。

「似顔絵から、おそらくこの四人の中の誰かだろうとは思う」

 クラウルの説明で、当時の事を思いだす。
 頻発していた貴族や豪商の暗殺事件。その手がシウスにも伸びた。そしてそれが、ラウルとの出会いだった。

 リストには四人の名前が順番にある。スチュアート、クラーク、ウォルター、ホレス。どれも、恵まれない者達だった。
 調書を取って分かった事だが、この四人は兄弟で、近隣の農村に住んでいた。酒浸りの父と、ヒステリックに子供を殴る母親。長男のスチュアートが耐えかね、下三人を連れて家から逃げ出したのだという。そして王都で、アンドリューに出会った。

「長男スチュアートについては死亡が確認されその後埋葬もされている。次男クラークは襲撃後逃走したが、アジト近くで捕縛、裁判が行われ死罪になった。この二名についての死亡は間違いない。だが問題は、残る二名だ」

 淡々としたクラウルの報告に、ぼんやりと思いだしている。
 一斉検挙を目的とした囮作戦で実働部隊のリーダーだったスチュアートは死んだ。ラウルが討ち取ったのだ。
 その時にクラークは逃走したものの、一時間後に捕縛された。何故逃げなかったのかを最初は疑問に思ったが、簡単だった。彼は潜伏先のアジトに火を放ったんだ。全ての証拠を消すかのように。

「下の二名、ウォルターとホレスは当時アジトにいて、火災によって死亡したと思われる。だが、しっかり確認できたわけではない。当時アジトには十人がいたが、うち四名は顔や体の特徴で判別できた。が、残る六名は損傷が激しく個人を特定できなかった。身につけていた貴金属や、背格好から判断するしかなかった」
「つまり、ウォルターとホレスについては死亡が完全に確認できた訳ではないと?」

 ランバートの問いかけに、クラウルはただ頷く。

「正確にはウォルターの死亡が確認できていない。弟のホレスは地下室で、ほぼ無傷で死んでいるのが確認されている。有毒ガスだろう。ウォルターについてはドッグタグや身につけていたピアスなどから判断したが……火を放ったのがクラークならば偽装もできたはずだ」

 つまりは一択、犯人はウォルターだ。

「今の所分かっているのはこのくらいだ。引き続き似顔絵の男を追うと共に、当時のアジトやアンドリューに関連する建物なども調べる」
「クラウル様、そのアンドリュー男爵について少々伺いたい事があるのですが」

 突如ランバートが手を上げ、一枚の紙切れをシウスの前に出す。ちぎられた紙片をつなぎ合わせたそれには、ラウルの事が書かれていた。そして最後に、「十四歳でアンドリュー男爵邸の庭師見習いとして住み込む事になった」とある。

 それを見た途端、様々な最悪が頭を過ぎりシウスは立ち上がる。そして、クラウルの胸ぐらを掴み上げていた。

「どういう事だクラウル! ラウルとあの男に関わりがあるなんて、私は聞いておらぬぞ!」
「シウス落ち着け!」
「お前は何を隠している! ラウルは何を隠しているというんだ! 私には話せぬ事なのか!」
「シウス!」

 焦ったクラウルが目配せをして、ファウストがランバートを除く全員を部屋の外に出してしまう。
 ズルズルと、胸ぐらを掴んだまま力が抜けていく。何がある、何を隠している、そんなに言えない事なのか……。

「クラウル頼む……私はラウルが騎士団に入った経緯を知らぬ。半年王都を離れている間に、あの子は騎士団に入った。私には何も、知らされてはおらぬのだ……」

 バカではない、気付いている。教会では騎士になれる程の勉強は教えていない。何より剣術などの戦闘技術を教えない。一般人にそれらは必要ない。
 ならばどこで、ラウルはそれを身につけた。十四で教会を離れたあの子は空白の三年間で何をしていた。
 その答えがあの紙片だ。アンドリュー邸にいたのなら……もう、それしか……。

「……知らなくて良いと思っていたんだ。お前はそれを知らなくても想い合っている。とっくに過ぎ去った過去をほじくり返して拗れるよりは、このままでと思ったんだ」
「とっくに拗れておる。結婚をと言う度、あの子に苦しそうな顔をされて……平気であったと思うか。なのに何も語らぬ。どんなに歯がゆい思いをしたと思う」
「すまない。ラウルも悩んでいたんだ。けれど言うなら自分の口からにしたいと言われ黙っていた。もとより当時を知る俺と陛下の間の話だ。余程の事がないかぎり、明かすつもりもなかった」

 崩れそうなシウスを支えるようにしたクラウルの、意を決した表情。何度も口を開いては閉じるを繰り返している。それほどに言いづらい事なのだろうか。あの子の入団に、何が隠されているというんだ。

「いいか、心してくれ。あいつは異例の平民階級からの……しかも教会出の騎士だ。今は平民からの騎士はあいつ一人だ」
「あぁ」
「だがあいつは、騎士の試験を受けていない」
「どういう、事だ?」
「……あいつがここに居る理由は、それがあの子に下った罪状だからだ」
「…………え?」

 罪状? どういう……いや、もう分かっている。状況はもうそれだけを指している。受け入れられないのはただ一つ、分かりたくないと心が拒絶しているからだ。

 だがそれははっきりとした言葉で、嘘偽りのない瞳で、シウスへと突きつけられた。

「ラウルはアンドリューが持っていた暗殺組織の元メンバーだ。罪状は、十数件の暗殺。あいつが騎士団にいるのは五年の強制労働と更生の為だったんだ」

 突きつけられたものは、どんなにか痛いのだろう。本物の剣のほうがまだ痛まないのではないかと思えるほどだった。息が出来なくなりそうで、掴んでいたクラウルの胸ぐらも滑り落ちて、シウスは床にへたり込んだ。

「では……なんだ? あの子はずっと、罪を抱えて騎士をして……私の側にいたというのか?」
「あぁ」
「何故、そんな……」
「……あいつが真っ当だったんだよ」

 クラウルもまた、ぐったりと椅子に腰を下ろす。そして、当時の事を話し始めた。

「当時、貴族や豪商といった者を金で殺す暗殺集団がいた。暗府が追っていた案件だったが、出てくるのは子供……しかも口封じに殺されて、死体ばかりだった。闇組織かとジョシュア様にも相談したが、そっちにも正式な名乗りを上げていない部類だと言われて、思うような進展がなかった。そんな時だ、ラウルが騎士団へと出頭してきたのは」

 出頭、という言葉が更に重い。ではあの子は自らの足で、その罪を贖いにきたのか。

「ラウルの告白で、多くが分かった。黒幕がアンドリューである事。自分がその内の十数件に関与している事、元は教会の出身だった事」
「どうしてあの子は、そんな事を?」
「……仲の良かった仲間が、虫けら同然に殺されるのを見たからだ」

 こみ上げてくる感情は波のように心を浚う。どんな思いで、そこにいたのだ。
 義理堅く、優しい子だ。教会を出てすぐ、お世話になっている主家のする事に逆らえなかったのだろうか。人を殺す事の辛さを味わいながらも、他に迷惑をかけられないとでも思ったのか。どんな環境下でも得た友人を殺されて、どんなに傷ついたのだろうか。

「庭師見習いとして雇われて一年は、教養を身につけなさいと勉強をし、強くならなければと暗殺術を教えられたそうだ。あの子は素直で覚えもよく、裏を読まずに親切として全てを受け取っていた。だが筋の良いあの子を男爵が見逃すはずはなく、一年後に突如、暗殺の仕事を主にさせられたのだそうだ。罪は消えない、お前は人殺しだ。これが生家の教会に知れればどうなる。社会一般に知れればどうなる。お前も教会も社会的な地位を失う。そう言われて、脅されて、怯えながら何も言えずに過ごしたそうだ」

 淡々と、感情の起伏なく話す時のクラウルは相当に怒っている。それでも過去なのだろう。既に怒りの矛先を見失っている感じがする。

「本来ならば裁判を経て刑務所だが、ラウルは成人の少し前で、情状酌量の余地があり、また更生も可能だった。何より自首していて、国家に対する反逆の意志はなく、罪を認め反省の度合いも深かった」
「だから、強制労働措置か?」
「あぁ。加えて新たに平民からの騎士登用を始めたものの、なかなか市民からのなり手がなかった。そこであの子を第一号として、一般にアピールする事にもした」
「利用、したのだな」
「そうだ」

 なるほど、利害の一致もあってか。それなら納得だ。……なんて、情けないのだろう。

 崩れたまま、シウスはただただ自らを抱き、泣きながらラウルに謝っている。
 どれだけ苦しい思いをしたのだ。何も知らないシウスをどう思っていたんだ。憎かっただろうか。迷惑だっただろうか。勝手に惚れて、あの子に迫ったのはシウスだ。そんな身勝手を、どう思っていたのだ。

 それに、追い詰めてしまった。困った顔をしていたのに、自らの思いを押しつけるようにしてあの子を悲しませた。過去を気にしていたのなら結婚なんて気分ではなかったかもしれない。いや、そもそも交際すらも本当は嫌だったのかもしれない。
 全てを、見逃してしまった。顔に出ないから知らなくていいなんてこと、なかったんだ。笑顔の裏で、気遣いの裏で、どれほどに悩んだのだろう。いつも気にしてくれるのはシウスの事で……本当に、情けない。

「……五年、という刑期だったが」
「!」
「あいつは真面目で、よく働いてくれた。最初こそ俺が監視についたが、その必要は既にない。十分な罪の償いと更生が認められて、刑期は短くなっていたんだ」
「……どの、くらい?」
「二十歳の、誕生日まで」
「!」

 腕に爪が食い込む程に強く自らを抱きしめながら、シウスは震えた。
 図らずも、結婚しようと言ったその期限。それが、あの子の罪が許される刻限でもあったのか。

 では、結婚を躊躇ったのは? 自らの罪があったからか? それを、言えなかったからか? それとも刑期を終えると同時に、騎士団を去るつもりだったのか?

「あいつにも伝えてあった。だいぶ、悩んでいたよ」
「あの子は、私を拒んで……」
「違う。……言うタイミングを、逃してしまっていたんだ。本当は最初に言えばよかったのに、できずに今まで引きずってきたと。結婚をと言われる度、嬉しくて幸せなのに苦しくなる。言えなかった事が、幸せが壊れてしまうのではと怖くなると」
「それは……」
「だが晴れて二十歳を迎えた時、あいつの罪は許される。その時にはお前に罪を明かして、告白をしたいんだと言っていた」
「告、白?」
「……愛しています。こんな僕でも良ければ、貴方の伴侶にしてください」
「っ!」

 力が抜けた。同時に、窒息しそうだ。今すぐに抱きしめて言いたい。罪も含め、受け入れる。何を知っても愛している。側にいて欲しい。其方の気持ちを、聞かせて欲しい。

 声を上げて泣いたのはいつぶりだ。父の死すらそんな事はできなかった。けれど、何も抑えられなかった。潰れてしまいそうで、吐き出すように嗚咽が漏れた。止められない涙が落ちていって、無様でもどうしようもなかった。

 ふわりと、黒い上着が頭からかけられる。そして次には声がかかった。

「ランバート、手はあるか。すぐにでもラウルを探す。犯人がウォルターで、子供を攫っているのなら手は一つ。今頃どうなっているかも分からない。時間が惜しい」
「……黒に近いグレーな関係を使ってもいいなら」
「許す。何がいる」
「チェルルとハクインにも協力をお願いしたい。後はヒッテルスバッハの情報網を使います」
「分かった。行ってくれ」

 遮られた視界の先でランバートが出て行く音がする。そして上着越しに大きな手が頭を撫でた。

「ラウルを必ず連れ戻す。お前も、ひとしきり泣いたら立て」
「ファウ、スト……っ」
「お前とラウルには助けられている。今度は俺が、お前を支える番だ」

 黒い上着に遮られた中で、シウスはしばし泣いていた。泣いて、泣いて……枯れた頃に、立ち上がった。

「やる」
「ランバートのサポートに俺は回る」
「暗府の情報も入ってくるはずだ。必要なものを持っていく」

 上着をファウストに返し、シウスは一直線に宰相府執務室へと向かっていった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

箱入りの魔法使い

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:624pt お気に入り:11

お兄ちゃんと内緒の時間!

BL / 連載中 24h.ポイント:234pt お気に入り:59

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:60,649pt お気に入り:3,761

ファラオの寵妃

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:7

【R18】Hでショタな淫魔くん、人間界へ行く!

BL / 連載中 24h.ポイント:205pt お気に入り:73

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:363pt お気に入り:1,114

男子高校生ヒロサダの毎日極楽

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:4

スパイだけが謎解きを知っている

ミステリー / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:3

【R18】私の担当は、永遠にリア恋です!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:255pt お気に入り:376

処理中です...