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9章:変わり始めの夜
2話:手探り(クラウル)
ゼロスを連れてきたのは、以前にも連れてきた街中の部屋だった。さすがに暖房もつけていない室内は冷え切っている。
酒でも飲みながら。そう思っていたがこの寒い室内ではそれも考えてしまう。今から宿舎に戻ろうか。思案していると、ゼロスの方が先に動いて暖炉に火を入れた。
「さすがに冷えますね」
「あぁ」
正直に言って、勢いでここまで連れてきてしまった。だが、本当にいいのか。未だに何かを疑っている。ゼロスを疑うわけではない。おそらく、自分に魅力を感じないからこその疑いだった。
ラグに腰を下ろし、ベッドに凭れる。爆ぜる暖炉の明かりだけで、室内は暗いままだ。だがこんな寒い日は、揺らめく炎の明かりを見るだけでも温まった気になる。
隣に、ゼロスが座った。手が触れ、腕が触れるような近い距離だった。
「落ち着きますね」
「そうだな」
「屋敷で過ごした時間、俺は不謹慎ですが、嬉しかったです」
不意の言葉に視線を向ければ、ゼロスもこちらを見ていた。ジッと見つめる薄茶色の瞳が、柔らかな光を宿している。
「素の貴方に、触れている時間でした。状況的にそれどころではないし、貴方にとっては迷惑な事だったかもしれませんが」
「迷惑なんて思っていない」
「それならよかった」
ふわりと柔らかく微笑まれる。それが、鼓動を早くする。クラウルにとっても、あの時間は穏やかだった。いや、状況としては緊迫していたのだが、気持ちは楽だった。何を言うにも、振る舞うにもそのままの自分でいられたように思う。
「どうやら俺は、貴方の側が落ち着くようです」
視線が外れて、横顔が見える。でもその表情は柔らかなままだ。
「俺も、同じなんだろう」
「奇遇ですね」
「そうだな」
なんて言って、笑ってしまう。
ゼロスが体ごとこちらを向く。穏やかに、真剣に見つめる瞳はとても綺麗だ。真っ直ぐに自らの意志をぶつける、そんな真摯なものだった。
「貴方の側にいたい。面倒になったら放り投げて構わないので、いてもよろしいでしょうか?」
「俺でいいのか?」
「貴方でなければ意味が無い」
「そうだな」
クラウルもまた、ゼロスでなければ意味がない。友人とも、仲間とも、幼馴染みとも違う距離。触れるほどに近く、手を伸ばせば引き寄せる事ができる。自分らしくいられる時間を共有できる、そんな相手だ。
自然と、距離が縮んだ。ゼロスがそっと伸び上がって、唇に触れる。噛みつくような強引さのあるキスは、すぐに舌を差し込んでくる。それに、クラウルは応じた。互いを貪るように最初から激しく絡め合うキスに、熱が生じる。たまらず、クラウルは片手でゼロスの頭を引き寄せた。そしてより深くを探るように差し込む。飲み込み切れない唾液が口の端からこぼれていく。
離れた時には、少し酸欠気味だった。ゼロスの頬にも自然、赤みが増したように思う。彼は溢れたものを腕でグッと拭うと……何故か恨みがましい目で睨んできた。
「あの、お付き合いの経験はないのですよね?」
「ない」
「……遊んでらしたんですか?」
「いや?」
「……何でこんなに上手いんだ」
カッと赤みが増していくゼロスを、クラウルは察し悪く眺めている。普段は相手の心理を探る事に長けているというのに、ここではゼロスが何を言いたいのかサッパリ分からなかった。
「ゼロス?」
「キスが上手かったので、経験がない訳じゃないんだと」
視線を大幅にそらし、俯き加減に言ってくる事にクラウルはようやく理解した。そして平然と言ってのけた。
「仕事だからな」
「仕事?」
俯けていた顔が上がり、ゼロスはマジマジとクラウルを見る。クラウルはそれに、ニヤリと笑って頷いた。
「暗府は潜伏し、情報を得る事が仕事だ。つまりは」
腰を抱き寄せ、首の後ろにもう片方の手を添えて、そっと首筋に触れる。硬そうなそこは、唇で触れるとそれほど筋肉質でもなかった。軽く吸い、肌に薄く印を刻む。明日の朝には消えてしまうような、そんな証だ。
「っ」
くすぐったそうにヒクリと身を震わせたゼロスは、少し驚いたのだろう。息を飲むように喉元が上下する。
「ターゲットに近づいて、こうして落としてしまうのが一番安全な場合もある」
「!」
くつくつと笑い、耳元で囁くように言えばビクリとゼロスの体が跳ねる。そのままフッと息を吹き込めば、逞しい体が震えた。どうやら耳が弱いらしい。耳朶を柔らかく咥え、口腔で遊べば鼻にかかった息が溢れる。穴の方にも舌をねじ込めば、ブルッと震えた。
「耳が弱いのか?」
「そんな事は!」
「自覚が無かっただけだな」
なおもくつくつと笑い、クラウルは腰に添えた手を前に回し、股ぐらへと触れる。ズボン越しのそこは、軽く芯を持ち始めたようだった。
「!」
「お前が知らないだけで、案外敏感な体をしている。一つずつ、暴こうか?」
少し意地悪に言えば、睨み付ける薄茶色の瞳がある。その瞳が、僅かに濡れていた。
ゾクリと腰に甘く疼く。
自分がこういう事に興奮を感じるなんて、思ってもみなかった。何せ今まで仕事以外でこうした関係を持った事もなく、誰かに性的興奮を持つ事もなく、恋人など欲しいと思った事もなかったのだ。
今、クラウルは明確にゼロスと関係を持とうとしている。奥底からわき上がるような熱に身を任せようとしていた。
誘い込むように腕を引き、暴れない事をいいことにベッドに上げた。ゼロスは大人しく従い、それどころか自ら衣服を脱いだ。そして、誘うように片腕を伸ばし、クラウルの黒髪へと梳き入れた。
「衝動的な目もするのですね」
「いけないのか?」
「俺、色気ありませんけど」
「そのお前に欲情しているんだ。十分だろ」
クラウルもまた、衣服を脱いだ。互いに肌を触れあわせると、熱くなっているのが分かる。差し込まれる手の内側にキスをして、軽く舌を這わせる。ヒクリと腕を引くゼロスは、やはり敏感だ。
「やはりお前、敏感だ」
「そんな事はなかったはずです」
「では、教えていこう」
腕を引いたまま、クラウルの唇は首筋へと落ちた。確かめるように触れる指先を、細く伝うように使っていく。中指でツッと撫でるラインは、確かに筋肉質な部分では反応が薄い。
だが……
「んっ!」
驚いたような甘さを含む声が響く。クラウルはあえて胸は素通りした。おそらく感じるだろうと思ったから、今はいい。そのかわり指は割れた腹筋を、そして臍の辺りを撫でた。
くすぐったそうに身を捩りながらも、徐々に息が乱れていく。余裕のあった薄茶の瞳が、恐れるようにクラウルを凝視している。
「知らないだけだ、自分の体を。お前は感じやすいよ」
「そんなっ!」
言う間も、クラウルの指は動いている。太股の内側の薄い部分を撫でれば、ビクリと大きく足が跳ねて自然股を開いた。それをいいことに付根も触れて行けば、甘く切ない声が漏れていく。
決して可愛くはない男の声だ。低く掠れ、甘く響く。腰骨が痺れるように重くなる。心臓の音が加速している。確かめ、追い詰めるような行為が癖になってくる。
舌が柔らかく乳輪の辺りを撫でた。途端、ゼロスは仰け反るように熱い息を吐き体を強ばらせる。意地悪に周囲ばかりを刺激すればそこからぷっくりと持ち上がり、触れていないはずの乳首は尖り始めている。
「ここは、当然だな」
「っ! ぁ!」
羞恥からか、快楽からか。赤く染まる頬と濡れた瞳。それが、睨み付けてくる。なんとも可愛らしいじゃないか。息を殺し、声を殺し、こんなに感じやすい体をしているのに抵抗している。
もっと、恥じらう姿を見たい。その可愛くもない視線が甘く熱を帯びて蕩けていく様を見たい。声を抑える事も叶わず、求める言葉を聞きたい。プライドを挫き、足を開くように。
ゾクリと背が震える。視界が狭まる様な感覚に、クラウルは気づいて首を左右に振った。悪い癖だ、これは尋問じゃない。そう簡単に人の尊厳を踏みにじり、プライドをズタズタにするような事をしてはいけない。それが、大切にしたいと思った相手ならなおのこと。
唇を引き結んで声を殺すそこに、クラウルはキスをした。甘く優しく割り開き、口腔を弄る。熱い吐息が漏れて、やがて従うように絡まっていく。
「プライドが高いな、お前も」
「こんな……想定外」
「俺が股を開くか?」
問えばびっくりした顔をゼロスはする。少し間抜けな顔に笑った。そうするとせっかく機嫌が直ったのに、また拗ねた顔をされる。
「もう、腰が立ちません」
「では、いつでも挑戦を受けよう」
赤くなってそっぽを向くゼロスを笑い、クラウルは更に行為を進めた。
硬く尖った胸を舌で転がし、吸い付いて更に遊ぶ。同時に硬く先走りを流す強張りの先を撫でるようにする。ぬるりと滑る先走りを撫でつけると、短く喘ぐようにゼロスは息を吐き出した。
シーツを掴む手に力が入って震えている。耐えているようなその表情は、どこか踏み切れずにいる。目を瞑るその目元に、クラウルはキスをした。
「最後まではしない」
「え?」
「お前が俺なしではいられないと思うまで、猶予する」
耳元に囁き、ついでのように耳殻に噛みつき、クラウルはゼロスの強張りを口に含んだ。
「あぁ!」
硬くそそり立つ立派な象徴は、クラウルの口の中でビクビクと震えている。根元を指を輪にして扱きながら、舌を使って丁寧に促した。ゼロスの足には逃げるように力が入るが、クラウルが腰を捕まえているから簡単ではない。
「はっ、くっ……っ!」
何度も何度も絶頂をやり過ごしているのが分かった。筋が、血管が、浮き上がって脈を打っている。これでも耐えているほうだろう。人によっては数分もたない。
玉をやわやわと揉み、筋を辿るように舌でなぞり、再び深く咥える。喉の奥まで導いて上下させれば、ゼロスの腰は緩く揺れていく。もう、限界だろう。パクパクとする鈴口に舌を尖らせて潜り込ませ、クラウルは強く吸い付きながら促した。
「うっ! んぅぅぅ!」
押し殺した低い声が絶頂の快楽を吐き出す。喉奥で熱い滴りを受け止めたクラウルは、自然と嚥下した。正直仕事では嫌悪があり、それでも「仕事だから」と無理矢理納得させていたこの行為が、今はなんの違和感も嫌悪もない。
飲み下し、まだ震えている熱に柔らかく舌を這わせ、緩い力で吸い上げる。残滓まで綺麗に抜き取り拭ってから、クラウルは口を離した。
ゼロスは呆然と、赤く茹だったような顔で見つめ、睨み付けている。これにはクラウルも困って苦笑した。
「嫌だったのか?」
「手加減が気に入りません」
「覚悟もできてない奴が、強がるな」
「覚悟は!」
言いかけるゼロスの力の入らない足を割って、クラウルの指は後ろへと伸びる。引き締まって硬い敏感な器官に触れると、ゼロスはグッと目と閉じて息を詰めた。
「俺を誰だと思っている。これで、暗府の団長だ。お前のその顔は強がりでしかない。奪われて、散らされて、納得できなければ恐怖であり、傷になる。性急にする理由もないだろ」
ゼロスはなんとも言えない顔をしている。
クラウルは隣に寝転び、抱き寄せた。これだけで十分に癒やされる。昂ぶりが静まっていく。
「これ一度で、俺は貴方に屈したりはしない」
「あぁ」
「リベンジします」
「待っている」
「……貴方がよがる姿が見たい」
「お前が男気を見せるというなら、やぶさかではない」
「……」
それ以上、ゼロスは何も言わずにクラウルの胸元に鼻を押し当てて顔を隠して黙り込んだ。あまりに可愛いその反応に、クラウルは声を殺して笑う。
なんとも可愛いじゃないか。そして若い。クラウルは別に、イニシアティブなどどちらでもいい。同じ時間を過ごせるなら、挿れようが挿れられようが拘りはない。元より後ろも初物ではない。当然仕事での事だが。
可愛い年下の恋人がそこを拘るなら譲ろうと思う。捧げてくれるというなら、その健気さがまた可愛いじゃないか。
一人満足に笑い、クラウルもまた眠りに落ちた。他人と共に過ごすというのに、深く夢さえも見ないほど、安らかに。
酒でも飲みながら。そう思っていたがこの寒い室内ではそれも考えてしまう。今から宿舎に戻ろうか。思案していると、ゼロスの方が先に動いて暖炉に火を入れた。
「さすがに冷えますね」
「あぁ」
正直に言って、勢いでここまで連れてきてしまった。だが、本当にいいのか。未だに何かを疑っている。ゼロスを疑うわけではない。おそらく、自分に魅力を感じないからこその疑いだった。
ラグに腰を下ろし、ベッドに凭れる。爆ぜる暖炉の明かりだけで、室内は暗いままだ。だがこんな寒い日は、揺らめく炎の明かりを見るだけでも温まった気になる。
隣に、ゼロスが座った。手が触れ、腕が触れるような近い距離だった。
「落ち着きますね」
「そうだな」
「屋敷で過ごした時間、俺は不謹慎ですが、嬉しかったです」
不意の言葉に視線を向ければ、ゼロスもこちらを見ていた。ジッと見つめる薄茶色の瞳が、柔らかな光を宿している。
「素の貴方に、触れている時間でした。状況的にそれどころではないし、貴方にとっては迷惑な事だったかもしれませんが」
「迷惑なんて思っていない」
「それならよかった」
ふわりと柔らかく微笑まれる。それが、鼓動を早くする。クラウルにとっても、あの時間は穏やかだった。いや、状況としては緊迫していたのだが、気持ちは楽だった。何を言うにも、振る舞うにもそのままの自分でいられたように思う。
「どうやら俺は、貴方の側が落ち着くようです」
視線が外れて、横顔が見える。でもその表情は柔らかなままだ。
「俺も、同じなんだろう」
「奇遇ですね」
「そうだな」
なんて言って、笑ってしまう。
ゼロスが体ごとこちらを向く。穏やかに、真剣に見つめる瞳はとても綺麗だ。真っ直ぐに自らの意志をぶつける、そんな真摯なものだった。
「貴方の側にいたい。面倒になったら放り投げて構わないので、いてもよろしいでしょうか?」
「俺でいいのか?」
「貴方でなければ意味が無い」
「そうだな」
クラウルもまた、ゼロスでなければ意味がない。友人とも、仲間とも、幼馴染みとも違う距離。触れるほどに近く、手を伸ばせば引き寄せる事ができる。自分らしくいられる時間を共有できる、そんな相手だ。
自然と、距離が縮んだ。ゼロスがそっと伸び上がって、唇に触れる。噛みつくような強引さのあるキスは、すぐに舌を差し込んでくる。それに、クラウルは応じた。互いを貪るように最初から激しく絡め合うキスに、熱が生じる。たまらず、クラウルは片手でゼロスの頭を引き寄せた。そしてより深くを探るように差し込む。飲み込み切れない唾液が口の端からこぼれていく。
離れた時には、少し酸欠気味だった。ゼロスの頬にも自然、赤みが増したように思う。彼は溢れたものを腕でグッと拭うと……何故か恨みがましい目で睨んできた。
「あの、お付き合いの経験はないのですよね?」
「ない」
「……遊んでらしたんですか?」
「いや?」
「……何でこんなに上手いんだ」
カッと赤みが増していくゼロスを、クラウルは察し悪く眺めている。普段は相手の心理を探る事に長けているというのに、ここではゼロスが何を言いたいのかサッパリ分からなかった。
「ゼロス?」
「キスが上手かったので、経験がない訳じゃないんだと」
視線を大幅にそらし、俯き加減に言ってくる事にクラウルはようやく理解した。そして平然と言ってのけた。
「仕事だからな」
「仕事?」
俯けていた顔が上がり、ゼロスはマジマジとクラウルを見る。クラウルはそれに、ニヤリと笑って頷いた。
「暗府は潜伏し、情報を得る事が仕事だ。つまりは」
腰を抱き寄せ、首の後ろにもう片方の手を添えて、そっと首筋に触れる。硬そうなそこは、唇で触れるとそれほど筋肉質でもなかった。軽く吸い、肌に薄く印を刻む。明日の朝には消えてしまうような、そんな証だ。
「っ」
くすぐったそうにヒクリと身を震わせたゼロスは、少し驚いたのだろう。息を飲むように喉元が上下する。
「ターゲットに近づいて、こうして落としてしまうのが一番安全な場合もある」
「!」
くつくつと笑い、耳元で囁くように言えばビクリとゼロスの体が跳ねる。そのままフッと息を吹き込めば、逞しい体が震えた。どうやら耳が弱いらしい。耳朶を柔らかく咥え、口腔で遊べば鼻にかかった息が溢れる。穴の方にも舌をねじ込めば、ブルッと震えた。
「耳が弱いのか?」
「そんな事は!」
「自覚が無かっただけだな」
なおもくつくつと笑い、クラウルは腰に添えた手を前に回し、股ぐらへと触れる。ズボン越しのそこは、軽く芯を持ち始めたようだった。
「!」
「お前が知らないだけで、案外敏感な体をしている。一つずつ、暴こうか?」
少し意地悪に言えば、睨み付ける薄茶色の瞳がある。その瞳が、僅かに濡れていた。
ゾクリと腰に甘く疼く。
自分がこういう事に興奮を感じるなんて、思ってもみなかった。何せ今まで仕事以外でこうした関係を持った事もなく、誰かに性的興奮を持つ事もなく、恋人など欲しいと思った事もなかったのだ。
今、クラウルは明確にゼロスと関係を持とうとしている。奥底からわき上がるような熱に身を任せようとしていた。
誘い込むように腕を引き、暴れない事をいいことにベッドに上げた。ゼロスは大人しく従い、それどころか自ら衣服を脱いだ。そして、誘うように片腕を伸ばし、クラウルの黒髪へと梳き入れた。
「衝動的な目もするのですね」
「いけないのか?」
「俺、色気ありませんけど」
「そのお前に欲情しているんだ。十分だろ」
クラウルもまた、衣服を脱いだ。互いに肌を触れあわせると、熱くなっているのが分かる。差し込まれる手の内側にキスをして、軽く舌を這わせる。ヒクリと腕を引くゼロスは、やはり敏感だ。
「やはりお前、敏感だ」
「そんな事はなかったはずです」
「では、教えていこう」
腕を引いたまま、クラウルの唇は首筋へと落ちた。確かめるように触れる指先を、細く伝うように使っていく。中指でツッと撫でるラインは、確かに筋肉質な部分では反応が薄い。
だが……
「んっ!」
驚いたような甘さを含む声が響く。クラウルはあえて胸は素通りした。おそらく感じるだろうと思ったから、今はいい。そのかわり指は割れた腹筋を、そして臍の辺りを撫でた。
くすぐったそうに身を捩りながらも、徐々に息が乱れていく。余裕のあった薄茶の瞳が、恐れるようにクラウルを凝視している。
「知らないだけだ、自分の体を。お前は感じやすいよ」
「そんなっ!」
言う間も、クラウルの指は動いている。太股の内側の薄い部分を撫でれば、ビクリと大きく足が跳ねて自然股を開いた。それをいいことに付根も触れて行けば、甘く切ない声が漏れていく。
決して可愛くはない男の声だ。低く掠れ、甘く響く。腰骨が痺れるように重くなる。心臓の音が加速している。確かめ、追い詰めるような行為が癖になってくる。
舌が柔らかく乳輪の辺りを撫でた。途端、ゼロスは仰け反るように熱い息を吐き体を強ばらせる。意地悪に周囲ばかりを刺激すればそこからぷっくりと持ち上がり、触れていないはずの乳首は尖り始めている。
「ここは、当然だな」
「っ! ぁ!」
羞恥からか、快楽からか。赤く染まる頬と濡れた瞳。それが、睨み付けてくる。なんとも可愛らしいじゃないか。息を殺し、声を殺し、こんなに感じやすい体をしているのに抵抗している。
もっと、恥じらう姿を見たい。その可愛くもない視線が甘く熱を帯びて蕩けていく様を見たい。声を抑える事も叶わず、求める言葉を聞きたい。プライドを挫き、足を開くように。
ゾクリと背が震える。視界が狭まる様な感覚に、クラウルは気づいて首を左右に振った。悪い癖だ、これは尋問じゃない。そう簡単に人の尊厳を踏みにじり、プライドをズタズタにするような事をしてはいけない。それが、大切にしたいと思った相手ならなおのこと。
唇を引き結んで声を殺すそこに、クラウルはキスをした。甘く優しく割り開き、口腔を弄る。熱い吐息が漏れて、やがて従うように絡まっていく。
「プライドが高いな、お前も」
「こんな……想定外」
「俺が股を開くか?」
問えばびっくりした顔をゼロスはする。少し間抜けな顔に笑った。そうするとせっかく機嫌が直ったのに、また拗ねた顔をされる。
「もう、腰が立ちません」
「では、いつでも挑戦を受けよう」
赤くなってそっぽを向くゼロスを笑い、クラウルは更に行為を進めた。
硬く尖った胸を舌で転がし、吸い付いて更に遊ぶ。同時に硬く先走りを流す強張りの先を撫でるようにする。ぬるりと滑る先走りを撫でつけると、短く喘ぐようにゼロスは息を吐き出した。
シーツを掴む手に力が入って震えている。耐えているようなその表情は、どこか踏み切れずにいる。目を瞑るその目元に、クラウルはキスをした。
「最後まではしない」
「え?」
「お前が俺なしではいられないと思うまで、猶予する」
耳元に囁き、ついでのように耳殻に噛みつき、クラウルはゼロスの強張りを口に含んだ。
「あぁ!」
硬くそそり立つ立派な象徴は、クラウルの口の中でビクビクと震えている。根元を指を輪にして扱きながら、舌を使って丁寧に促した。ゼロスの足には逃げるように力が入るが、クラウルが腰を捕まえているから簡単ではない。
「はっ、くっ……っ!」
何度も何度も絶頂をやり過ごしているのが分かった。筋が、血管が、浮き上がって脈を打っている。これでも耐えているほうだろう。人によっては数分もたない。
玉をやわやわと揉み、筋を辿るように舌でなぞり、再び深く咥える。喉の奥まで導いて上下させれば、ゼロスの腰は緩く揺れていく。もう、限界だろう。パクパクとする鈴口に舌を尖らせて潜り込ませ、クラウルは強く吸い付きながら促した。
「うっ! んぅぅぅ!」
押し殺した低い声が絶頂の快楽を吐き出す。喉奥で熱い滴りを受け止めたクラウルは、自然と嚥下した。正直仕事では嫌悪があり、それでも「仕事だから」と無理矢理納得させていたこの行為が、今はなんの違和感も嫌悪もない。
飲み下し、まだ震えている熱に柔らかく舌を這わせ、緩い力で吸い上げる。残滓まで綺麗に抜き取り拭ってから、クラウルは口を離した。
ゼロスは呆然と、赤く茹だったような顔で見つめ、睨み付けている。これにはクラウルも困って苦笑した。
「嫌だったのか?」
「手加減が気に入りません」
「覚悟もできてない奴が、強がるな」
「覚悟は!」
言いかけるゼロスの力の入らない足を割って、クラウルの指は後ろへと伸びる。引き締まって硬い敏感な器官に触れると、ゼロスはグッと目と閉じて息を詰めた。
「俺を誰だと思っている。これで、暗府の団長だ。お前のその顔は強がりでしかない。奪われて、散らされて、納得できなければ恐怖であり、傷になる。性急にする理由もないだろ」
ゼロスはなんとも言えない顔をしている。
クラウルは隣に寝転び、抱き寄せた。これだけで十分に癒やされる。昂ぶりが静まっていく。
「これ一度で、俺は貴方に屈したりはしない」
「あぁ」
「リベンジします」
「待っている」
「……貴方がよがる姿が見たい」
「お前が男気を見せるというなら、やぶさかではない」
「……」
それ以上、ゼロスは何も言わずにクラウルの胸元に鼻を押し当てて顔を隠して黙り込んだ。あまりに可愛いその反応に、クラウルは声を殺して笑う。
なんとも可愛いじゃないか。そして若い。クラウルは別に、イニシアティブなどどちらでもいい。同じ時間を過ごせるなら、挿れようが挿れられようが拘りはない。元より後ろも初物ではない。当然仕事での事だが。
可愛い年下の恋人がそこを拘るなら譲ろうと思う。捧げてくれるというなら、その健気さがまた可愛いじゃないか。
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見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。