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22章:安らげる場所/静かなる焦燥
2話:貴方のおかげで今がある(ゼロス)
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幸い肩の傷以外は大したものはなく、痛みも直ぐに引いた。数日休めば十分に回復するものだった。
ただ、背後の過保護キングは肩の傷を見ると眉をしかめる。今もそこに薬を塗ってもらっていた。
「あの、その顔止めて下さい。大したものではないでしょ」
「大切な者が傷ついて平然とはしていられないだろ」
確かにそうかもしれないが。思う反面、「大切な者」という言葉に反応もする。実に複雑なものだ。
「貴方には、よく出来た教え子だと言ってもらいたいのですが」
「ん?」
「俺の体見て、気付きませんか?」
ゼロスは堂々とクラウルの前に体を晒す。クラウルはそれをしばしジッと眺めていて、ふと気付いたように「あっ」と呟いた。
「俺が執拗に攻めた部分に、傷がない?」
「そういうことです」
ゼロスはニヤリと満足に笑みを浮かべた。
クラウルにつけてもらった鬼の様な訓練は無駄にならなかった。何度も何度も攻められたせいでそこへの防御と気遣いができた結果、右後方脇への傷は一つもなかった。
驚きながらもクラウルはどこか満足そうな顔をする。そして、しげしげと体中を見回した。
「全体的に傷が薄い。大きくもらったのは肩だけか」
「貴方との乱戦を想定した多方面からの攻撃。これが実を結んだ結果です」
まさにそれしか考えられない。
バロッサの事件で図らずも共闘した経験で、クラウルは直ぐにゼロスの弱点を見つけた。乱戦での対応遅れと経験不足。ゼロスは体もそれなりに大きく筋肉がある分素早い動きや柔軟性に欠けた。結果、複数から同時に仕掛けられた時の回避が苦手なのだ。
この点、他の友人達は実に立ち回りが上手い(ドゥーガルドを除く)ランバート、レイバンなどは四方に目があるのかと言うほど周囲を把握している。
遠征前にクラウルがつけてくれた訓練は、まさにこうした動きの速い相手に対する対処方と、苦手な死角からの攻撃に反応する事だった。
クラウルは少しだけ嬉しそうな顔をする。いい方法ではないが、目に見える形で結果が出たのだから。
「貴方が俺に訓練をつけてくれたおかげで、この程度で済みました。側にいなくても貴方は俺を守ってくれたんですよ」
柔らかく微笑めば、クラウルも嬉しそうにする。そっと近づいて、頭を撫でる満足そうな人を見ると恥ずかしいから止めてとは言えなかった。実際、少し嬉しいのだし。
「嫌われているのではと、いつも訓練後は不安になっていた」
「嫌いませんよ。寧ろ感謝しています」
「やりすぎたといつも反省する」
「加減、してくれるではありませんか」
やろうと思えばこの人は拳一発で相手の骨にヒビを入れるくらいはわけない。そういう力加減と角度というものを知っている。それどころか手刀で相手の内臓にダメージを与える事だってやれる。
そういう人が、目一杯加減をしているのは分かっている。傷つけないように、訓練しながらもおっかなびっくりなのだ。
ゼロスは見上げ、手を頬に添えて伸び上がる。触れるだけのキスに言葉にしない気持ちを乗せた。
「自信持っていい。俺を生かしているのはアンタだ。俺にバカな事をさせないのも、アンタがいるおかげだ。諦めないのも、アンタのおかげなんだよ」
「ゼロス……」
「俺に何かあれば、アンタは泣くだろ? それは見たくないからな」
照れ隠しのように笑い、誤魔化して離れた。らしくないことを言って顔が僅かに熱くなる。最近少し性格が変わったように思えて、調子が狂ってしまうのだ。
ふと、背中から抱きしめられる。温かさも重さも心地よい。前に回る腕に触れて、徐々に気持ちが解れて行くのを感じる。
「顔、見ないでくださいよ」
「何故だ?」
「恥ずかしいので」
「可愛いと思うが」
「俺に可愛いっていうの、クラウル様くらいですよ」
ますます顔が熱い。耳や首筋まで赤くなっているだろう自覚がある。その熱くなった耳や項にクラウルがキスをするものだから、熱の中に妙な疼きまで感じてしまう。
「あの」
「どうした?」
「……やめてください」
「気持ち良くなってきたか?」
「なりそうなので止めて下さい。明日も仕事じゃありませんか」
少しムッとして言えば離れていく。距離が出来たその隙間がほんの少し寒いなんて悔しいから言わない。
「ゼロス」
「なんですか?」
「今日は泊まって行くだろ?」
当然と言わんばかり。クラウルは自分の布団に腰を下ろし、柔らかく見つめる。その気は無かったなんて言えば悲しむのは明白な感じだ。
「セックスなしで」
「分かった」
溜息をつきながらも了承したのを確認して、ゼロスはクラウルの隣りに潜り込む。温かな体温が心地よく体に染みていった。
ただ、背後の過保護キングは肩の傷を見ると眉をしかめる。今もそこに薬を塗ってもらっていた。
「あの、その顔止めて下さい。大したものではないでしょ」
「大切な者が傷ついて平然とはしていられないだろ」
確かにそうかもしれないが。思う反面、「大切な者」という言葉に反応もする。実に複雑なものだ。
「貴方には、よく出来た教え子だと言ってもらいたいのですが」
「ん?」
「俺の体見て、気付きませんか?」
ゼロスは堂々とクラウルの前に体を晒す。クラウルはそれをしばしジッと眺めていて、ふと気付いたように「あっ」と呟いた。
「俺が執拗に攻めた部分に、傷がない?」
「そういうことです」
ゼロスはニヤリと満足に笑みを浮かべた。
クラウルにつけてもらった鬼の様な訓練は無駄にならなかった。何度も何度も攻められたせいでそこへの防御と気遣いができた結果、右後方脇への傷は一つもなかった。
驚きながらもクラウルはどこか満足そうな顔をする。そして、しげしげと体中を見回した。
「全体的に傷が薄い。大きくもらったのは肩だけか」
「貴方との乱戦を想定した多方面からの攻撃。これが実を結んだ結果です」
まさにそれしか考えられない。
バロッサの事件で図らずも共闘した経験で、クラウルは直ぐにゼロスの弱点を見つけた。乱戦での対応遅れと経験不足。ゼロスは体もそれなりに大きく筋肉がある分素早い動きや柔軟性に欠けた。結果、複数から同時に仕掛けられた時の回避が苦手なのだ。
この点、他の友人達は実に立ち回りが上手い(ドゥーガルドを除く)ランバート、レイバンなどは四方に目があるのかと言うほど周囲を把握している。
遠征前にクラウルがつけてくれた訓練は、まさにこうした動きの速い相手に対する対処方と、苦手な死角からの攻撃に反応する事だった。
クラウルは少しだけ嬉しそうな顔をする。いい方法ではないが、目に見える形で結果が出たのだから。
「貴方が俺に訓練をつけてくれたおかげで、この程度で済みました。側にいなくても貴方は俺を守ってくれたんですよ」
柔らかく微笑めば、クラウルも嬉しそうにする。そっと近づいて、頭を撫でる満足そうな人を見ると恥ずかしいから止めてとは言えなかった。実際、少し嬉しいのだし。
「嫌われているのではと、いつも訓練後は不安になっていた」
「嫌いませんよ。寧ろ感謝しています」
「やりすぎたといつも反省する」
「加減、してくれるではありませんか」
やろうと思えばこの人は拳一発で相手の骨にヒビを入れるくらいはわけない。そういう力加減と角度というものを知っている。それどころか手刀で相手の内臓にダメージを与える事だってやれる。
そういう人が、目一杯加減をしているのは分かっている。傷つけないように、訓練しながらもおっかなびっくりなのだ。
ゼロスは見上げ、手を頬に添えて伸び上がる。触れるだけのキスに言葉にしない気持ちを乗せた。
「自信持っていい。俺を生かしているのはアンタだ。俺にバカな事をさせないのも、アンタがいるおかげだ。諦めないのも、アンタのおかげなんだよ」
「ゼロス……」
「俺に何かあれば、アンタは泣くだろ? それは見たくないからな」
照れ隠しのように笑い、誤魔化して離れた。らしくないことを言って顔が僅かに熱くなる。最近少し性格が変わったように思えて、調子が狂ってしまうのだ。
ふと、背中から抱きしめられる。温かさも重さも心地よい。前に回る腕に触れて、徐々に気持ちが解れて行くのを感じる。
「顔、見ないでくださいよ」
「何故だ?」
「恥ずかしいので」
「可愛いと思うが」
「俺に可愛いっていうの、クラウル様くらいですよ」
ますます顔が熱い。耳や首筋まで赤くなっているだろう自覚がある。その熱くなった耳や項にクラウルがキスをするものだから、熱の中に妙な疼きまで感じてしまう。
「あの」
「どうした?」
「……やめてください」
「気持ち良くなってきたか?」
「なりそうなので止めて下さい。明日も仕事じゃありませんか」
少しムッとして言えば離れていく。距離が出来たその隙間がほんの少し寒いなんて悔しいから言わない。
「ゼロス」
「なんですか?」
「今日は泊まって行くだろ?」
当然と言わんばかり。クラウルは自分の布団に腰を下ろし、柔らかく見つめる。その気は無かったなんて言えば悲しむのは明白な感じだ。
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